学位論文要旨



No 117297
著者(漢字) 佐藤,浩二郎
著者(英字)
著者(カナ) サトウ,コウジロウ
標題(和) 免疫系細胞の活性化と分化におけるIRFファミリー転写因子の役割の解析 : リガンド/レセプターの制御を中心に
標題(洋)
報告番号 117297
報告番号 甲17297
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1905号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高津,聖志
 東京大学 教授 山本,一彦
 東京大学 教授 岩本,愛吉
 東京大学 助教授 森,庸厚
 東京大学 助教授 高木,智
内容要旨 要旨を表示する

 TNF-related apoptosis-inducing ligand(TRAIL)は、TNFファミリーリガンドに属する分子であり、多くの種類の腫瘍細胞にアポトーシスを誘導できることが知られている。近年、TRAILがのインターフェロン(IFN)により誘導されるという報告がいくつかなされたが、そのメカニズム及び、TRAILの生理的な役割については明らかではなかった。

 まず、I型IFNの強力な誘導物質であるpoly I-Cをマウスに腹腔内投与することによりNK細胞及びT細胞表面にTRAILが誘導されることを見出し、実際にTRAIL依存性のナチュラルキラー活性を証明した。またこの誘導が、I型IFN受容体欠損マウスや、I型IFNのシグナル伝達に重要な転写因子複合体interferon stimulated gene factor 3(ISGF3)の構成因子であるIRF-9の欠損マウスでは認められないことを示した。

 予想通り、この誘導はmRNAレベルで制御されており、マウスのTRAILプ口モーターをクローニングしたところ、ISGF3が結合する配列であるinterferon stimulated response element(ISRE)が存在することを見出した。この領域を用いたゲルシフトアッセイ及びルシフェレースアッセイより、実際にISGF3がISREに特異的に結合すること、及びこのプロモーターがI型IFNに反応するためにはIRF-9が必須であることが明らかになった。

 次に、I型IFNはウイルス感染時に誘導されるサイトカインであるため、ウイルス感染におけるTRAILの役割を検討した。TRAIL強制発現細胞をエフェクター、マウス胎児線維芽細胞をターゲットとしたクロムリリースアッセイを行い、ウイルス(encephalomyocarditis virus:EMCV)に感染したターゲットはTRAIL依存性に傷害されることを見出した。また、in vivoにおけるEMCV感染実験を行い、抗TRAIL抗体を投与したマウスは生存期間が有意に短いことを示した。実際第3病日における心臓のウイルス力価を調べると、抗TRAIL抗体を投与したマウスではウイルス力価が対照群の約10倍に増えていた。抗アシアロGM1抗体を投与して生体内のNK細胞を消失させたマウスでも、対照群の約10倍のウイルス力価を示したが、抗アシアロGM1抗体と抗TRAIL抗体を併用した場合には、相加的な効果が認められず、このことからNK細胞上のTRAILがEMCV感染に対する防御に働いていることが示唆された。一方、パーフォリン欠損マウスや、T細胞を除去したマウスを用いた実験により、第3病日におけるEMCVに対する生体防御にはT細胞や、パーフォリンは関与していないことが示唆された。

 I型IFNがNK細胞を活性化し、NK細胞の抗ウイルス作用を増強することは古くから知られてきたが、そのメカニズムに関しては殆ど知られていなかった。本研究によって、I型IFNが転写因子複合体ISGF3を介してNK細胞上にTRAILを誘導すること、またNK細胞上のTRAILが実際に抗ウイルス活性を発揮する可能性が示された。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は、TNFファミリーリガンドに属するTNF-related apoptosis-inducing ligand(TRAIL)の、I型インターフェロン(IFN)による誘導メカニズムと、その誘導の生理的な役割を検討したものであり、下記の結果を得ている。

1.I型IFNの強力な誘導物質であるpoly I-Cをマウスに腹腔内投与することにより、マウスのNK細胞及びT細胞の表面に、TRAILが誘導された。特にNK細胞においては、poly I-Cを投与しない場合にはTRAIL依存性の細胞傷害活性が認められないが、投与した場合にはTRAIL依存性の細胞傷害活性が認められた。一方、パーフォリン依存性の細胞傷害活性は、poly I-C非投与群においても検出された。

2.in vitroでも、I型IFNを加えて培養した場合には用量依存性にNK細胞上にTRAILが誘導された。

3.I型IFN受容体の欠損マウス及び、I型IFNのシグナル伝達に重要な転写因子であるIRF-9の欠損マウスではpoly I-C刺激に対するTRAILの誘導が認められなかった。またこの誘導は、mRNAレベルで制御されていることをRT-PCR法によって確認した。

4.上記のメカニズムを明らかにするためにマウスTRAILのプロモーター部位をクローニングした。すると転写開始点より約50bp上流に、IRF-9が転写因子複合体interferon stimulated gene factor 3(ISGF3)の形で結合する際に重要な配列であるinterferon stimulated response element(ISRE)が存在することが判明した。この部位に確かにISGF3が結合することをゲルシフトアッセイによって確認した。また、このプロモーター部位を用いたルシフェレース・アッセイによって、このプロモーターが確かにI型IFNによって正に制御されていること、及びこの制御がIRF-9の欠損細胞では認められないことを確認した。

即ち、I型IFNの刺激によって転写因子複合体ISGF3が形成され、ISGF3がTRAILプ口モーター上のISRE配列に結合することがTRAILの誘導のメカニズムであると考えられた。

5.TRAILは主として腫瘍細胞に対して細胞傷害性を発揮するとされているが、マウス胎児線維芽細胞をターゲットとし、TRAIL強制発現細胞をエフェクターに用いたクロムリリースアッセイにおいて、ターゲットがウイルス(encephalomyocarditis virus, EMCV)に感染している場合にはTRAIL依存性に細胞傷害を受けることを示した。

6.マウスのEMCV感染実験において、抗TRAIL抗体を投与したマウスでは対照群に比べて生存期間が有意に短縮していた。また、第3病日における心臓でのウイルス力価を調べると、抗TRAIL抗体投与群では対照群の約10倍のウイルス力価を示した。抗アシアロGM1抗体を投与して生体内のNK細胞を消失させたマウスでも、対照群の約10倍のウイルス力価を示したが、抗アシアロGM1抗体と抗TRAIL抗体を併用した場合には、相加的な効果が認められず、このことからNK細胞上のTRAILがEMCV感染に対する防御に働いていることが示唆された。一方、パーフォリン欠損マウスや、T細胞を除去したマウスを用いた実験により、第3病日におけるEMCVに対する生体防御にはT細胞や、パーフォリンは関与していないことが示唆された。

 以上、本論文は、TRAILがI型IFNにより誘導されるメカニズムを明らかにし、その生理的な役割について、NK細胞によるウイルス感染時の生体防御に寄与している可能性を示したものであり、従来言われてきた抗腫瘍作用とは異なる新たな側面からTRAILの機能を解析している。I型IFNがNK細胞を活性化し、抗ウイルス作用を増強することは古くから知られてきたが、そのメカニズムに関しては殆ど知られていなかった。本研究はその分子メカニズムの一端に迫るものであり、学位の授与に値すると考えられる。

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