No | 117299 | |
著者(漢字) | 文,炳坤 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ムン,ビョンゴン | |
標題(和) | IL−5/IL−5R系によるB細胞の増殖・分化・維持機構について | |
標題(洋) | IL-5/IL-5R system for proliferation, differentiation and maintenance of B cells | |
報告番号 | 117299 | |
報告番号 | 甲17299 | |
学位授与日 | 2002.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第1907号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 【目的】主にTh2細胞や肥満細胞により分泌されるインターロイキン5(IL-5)は、好酸球の増殖、生存、分化を促進するとともにB細胞の増殖やIgM、IgAなどの自然抗体の産生を促進する。また、IL-5は好塩基球に作用し、炎症性メディエーターの放出を促進する。 B細胞はB-1とB-2、2つの亜集団に分類できる。表面にIgMを高レベルに発現し、B-2細胞には見られないMac-1やCD5を発現するB-1細胞は、主に腹腔や腸管にて種々の細菌やウイルス抗原との反応を通じて自然抗体を産生し、原始免疫による生体防御機構の一翼を担っている。B-1細胞の増殖および活性化は様々なサイトカインにより制御される。IL-5トランスジェニック(TG)マウスでB-1細胞が増加していること、IL-5受容体(IL-5R)α鎖欠損(5Rα-/-)マウスにおいて、腹腔内B-1細胞数の減少と細胞径の縮小、腸管粘膜リンパ固有層での粘膜局所のIgA産生細胞数の減少が顕著であることなどから、IL-5がB-1細胞の増殖や抗体産生を促進し、原始免疫、粘膜免疫における重要な制御因子の一つであることが示唆されている。しかし、IL-5によるB-1細胞の生存維持、活性化の機構、生体内とりわけ粘膜免疫活性化における意義についてはまだ不明な点が多い。 IL-5Rは、IL-5に特有なα鎖とIL-3RやGM-CSFRに共通なβc鎖より構成され、シグナル伝達にはα鎖、βc鎖、両鎖の細胞内領域が必須である。βc鎖の細胞内機能部位に関する解析は幅広く進んできたが、IL-5Rα鎖の細胞内機能部位にしては不明な点が多い。 共同研究者のTakaki、Takatsuらは、様々な変異型マウスIL-5Rα鎖をFDC-P1に移入したin vitro実験系でIL-5Rα鎖の細胞膜直下に存在するプロリン残基に富む領域(ppvp motif)が、IL-5による増殖シグナルの伝達に必須であることを明らかにした。これに対しIL-5Rα鎖に特有なC末端領域は、増殖シグナルの伝達には必須ではないものの、分化シグナルの伝達に重要な働きを持つ可能性が示された。ShiibaらはIL-5Rα鎖の細胞内領域をIL-3受容体α鎖の細胞外領域と連結したキメラ受容体をマウス慢性B白血病細胞株BCL1-P20に発現させ、IL-3反応性を調べた。このトランスフェクタントは、IL-3刺激によりIgM産生細胞へと分化するようになる。このキメラ受容体より、C末端側の領域を欠失させると抗体産生細胞への分化が誘導されなくなった。これらの研究は株化細胞を用いた研究なので、IL-5Rα鎖のC末端領域のB細胞分化における生体内での役割は不明である。 本研究は、キメラ受容体を用いて示唆された、IL-5依存性の細胞増殖と分化のシグナル伝達系がIL-5Rα鎖の異なる細胞内領域に依存している可能性について、より生理的な条件下に検討することを目的とした。また、腹腔内B-1細胞の恒常性維持におけるIL-5/IL-5R系の役割、腹腔や腸管においてIL-5を産生供給する細胞群を同定することも研究目的とした。 【方法と結果】野生型IL-5Rα鎖(WT)、細胞内C末端領域の6アミノ酸を欠失したα鎖(DC3)、およびプロリンに富む領域に変異を持つα鎖(ApvA)をB細胞で発現するTGマウスを作製し、これらのTGマウスを5Rα-/-マウスと交配して全てのB細胞が導入遺伝子由来のα鎖のみを発現するマウス(TG-5Rα-/-)を得て脾臓および腹腔内B細胞を解析した。Takatsuらはマウス脾臓B細胞の増殖反応およびIgM産生反応にて、IL-5は抗CD38抗体(CS/2)と相乗的に作用し、さらに各々の単独刺激では誘導されないIgG1が産生されることを報告している。この実験系を用いて脾臓B細胞のIL-5依存性の細胞増殖、分化反応を解析した。DC3-5Rα-/-の脾臓B細胞はWT-5Rα-/-のB細胞と同じようにCS/2とIL-5の供刺激に反応して増殖し、IgM産生細胞へと分化した。しかしDC3-5Rα-/-B細胞のIL-5依存性のIgG1の産生およびμ-γ1クラス変換の組み換え頻度は、WT-5Rα-/-B細胞の1/3程度しか起らなかった。ApvA-5Rα-/-B細胞は5Rα-/-B細胞と同様IL-5に全く反応しなかった。 5Rα-/-マウスで見られた腹腔内B-1細胞の減少や細胞径の縮小が、DC3-5Rα-/-マウスではやや回復したが、ApvA-5Rα-/-マウスでは全く回復しなかった。 これらの結果から、B細胞の増殖および分化シグナル伝達にIL-5Rα鎖細胞内領域のプロリンに富む領域が必須であること、これに対しIL-5Rα鎖に特有なC−末端領域は増殖およびIgM産生細胞への分化誘導には重要ではないが、IgG1産生細胞へのクラス変換組み換えやB-1細胞の生存維持に重要であることを明らかにした。 正常マウスにて、IL-5がB-1細胞の生存維持に関与するか調べるため、7週齢の野生マウスに抗IL-5抗体を腹腔内投与し解析した。投与後6日目に細胞数、細胞径ともに5Rα-/-マウスと同程度に減少し、正常に分化したB-1細胞の維持にIL-5/IL-5R系が重要であることが示唆された。そこで、正常細胞数存在下のB-1細胞生存におけるIL-5の役割を調べるため、野生あるいは5Rα-/-マウスより得た腹腔内細胞を野生マウスに移入する実験を行った。5Rα-/-B-1細胞は移入20日後の生存率が野生B-1細胞に比べ50%に減少した。次にB-1細胞が減少した環境下での恒常性維持のための増殖におけるIL-5の役割を調べるため、CFSE染色した腹腔内細胞を全リンパ球を欠損しているRAG2-/-マウスに移入した。野生B-1細胞数は移入20日後2倍に増加し、活発な増殖を反映してCFSE輝度の低下が顕著であった。しかし、5Rα-/-B-1細胞を移入した場合、その細胞数は1/2に減少し、CFSE輝度も保たれていた。腹腔内でIL-5をB-1細胞に供給する細胞を探すため、αβT細胞を欠失するnu/nuマウス、γδT細胞を欠失するTCRδ-/-マウス、T細胞を欠失するTCRβ-/-δ-/-マウス、肥満細胞を欠失するW/WvマウスのB-1細胞の数、細胞径を解析した。nu/nuおよびTCRδ-/-マウスではB-1細胞数が減少していたが、細胞径は正常であった。W/Wvマウスでは細胞数、細胞径ともに正常であった。これらのマウスおよびTCRβ-/-δ-/-マウスに抗IL-5抗体を腹腔内投与すると全てのマウスのB-1細胞径の縮小が見られた。T細胞あるいは肥満細胞のいずれかを欠損させてもB-1細胞の維持に必要なIL-5の供給は障害されないことから、IL-5がこれらの複数の細胞群から産生されることが示唆された。 これらの結果から、T細胞および肥満細胞など複数の細胞群から産生されるIL-5は、成熟なB-1細胞が正常数存在する定常状態における生存、B-1細胞が減少した環境下での恒常性維持のための増殖を制御するなど、B-1細胞の恒常性維持に重要であることが初めて明らかになった。 【考察】IL-5依存性細胞株化B細胞をIL-5で刺激するとJAK2/STAT5の活性化とBtkの活性化が惹起される。IL-5Rは、IL-5に特異的に結合するα鎖とシグナル伝達分子であるβc鎖より構成されることが知られてきた。しかしTakatsuらは、α鎖の細胞内領域を欠いた変異型IL-5Rα鎖をFDC-P1に移入したin vitro実験系でIL-5依存性の増殖が見られないことからα鎖もシグナル伝達分子であることを証明した。IL-3、IL-5、GM-CSFは好酸球の産生や分化を促進するという共通の生物活性を持ち、各々固有の活性も示す。これらのサイトカインは共通のβc鎖を利用するため、各々α鎖のシグナル伝達により固有の活性を持つことも考えられる。 私は、変異型IL-5Rα鎖のみをB細胞に発現するマウスの解析により、B細胞の増殖および分化シグナル伝達にIL-5Rα鎖細胞内領域のプロリンに富む領域が必須であること、IL-5Rα鎖に特有なC−末端領域はIgG1産生細胞へのクラス変換組み換えやB-1細胞の生存維持に重要であることを明らかにした。IL-5の刺激により、α鎖のプロリンに富む領域にはJAK2が結合することをOgataらは報告しているがC−末端領域に結合するシグナル伝達分子はまだわかっていない。Geijsenらはin vitro実験系を用いてSox4との結合能を持つsynteninがIL-5Rα鎖C−末端のPhe残基と結合することを報告している。C−末端領域に結合する分子によってIgG1へのクラス変換が制御されることが考えられ、in vivoでC−末端領域に結合する分子およびその機能に関する研究が今後必要であると思われる。 B-1細胞はIL-2、IL-4、IL-5、IL-9、IL-10、IL-12、IFNγなど様々なサイトカインによりその活性化や分化は制御されていることが知られている。共同研究者のYoshida、Takatsuらは5Rα-/-マウスの作成、解析を含む様々な実験系により、IL-5がB-1細胞の発生、増殖、分化を制御し、原始免疫に深く関与することを示唆した。しかし、生体内での成熟B-1細胞におけるIL-5の役割、原始免疫におけるIL-5の作用機構など生体内B-1細胞におけるIL-5/IL-5R系ついてはまだ不明な点が多く残っている。 私は、成熟なB-1細胞におけるIL-5の役割を調べるため、抗IL-5抗体投与実験および細胞移入実験を行なった。この実験系により、成熟なB-1細胞の維持機構にもIL-5が重要な役割をしていることが明かとなった。その分子機構はまだわからないが、IL-5/IL-5Rシグナル伝達系に含まれているBtkの欠損マウスでB-1細胞が減少していることを考えるとBtkが成熟なB-1細胞の維持機構に深く関与する可能性もあり検討が必要であると思われる。また、5Rα-/-マウスではB-1細胞数の減少だけではなく細胞径の縮小も見られる。活性化された細胞径は大きくなることを考えると5Rα-/-B-1細胞は活性化が障害されている可能性があり、生体内でのIL-5依存性B-1細胞の活性化およびそれによるの原始免疫で役割について興味深い課題として残っている。 | |
審査要旨 | 本研究は、キメラ受容体を用いて示唆された、IL-5依存性の細胞増殖と分化のシグナル伝達系がIL-5Rα鎖の異なる細胞内領域に依存している可能性について、より生理的な条件下に検討すること、また腹腔内B-1細胞の恒常性維持におけるIL-5/IL-5R系の役割、腹腔や腸管においてIL-5を産生供給する細胞群を同定することを研究目的として、秘蔵B細胞および腹腔内B細胞にて、解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1)野生型IL-5Rα鎖(WT)、細胞内C末端領域の6アミノ酸を欠失したα鎖(DC3)、およびプロリンに富む領域に変異を持つα鎖(ApvA)をB細胞で発現するTGマウスを作製し、これらのTGマウスを5Rα-/-マウスと交配して全てのB細胞が導入遺伝子由来のα鎖のみを発現するマウス(TG-5Rα-/-)を得て脾臓B細胞のIL-5依存性の細胞増殖、分化反応を解析した。ApvA-5Rα-/-のB細胞ではIL-5依存性の増殖およびIgM、IgG1の産生とも全くみられないこと、DC3-5Rα-/-のB細胞では増殖、IgM産生はおこるものの、IgG1産生量が著しく低下していることから、B細胞の増殖および分化シグナル伝達にIL-5Rα鎖細胞内領域のプロリンに富む領域が必須であること、これに対しIL-5Rα鎖に特有なC−末端領域の一部であるDC3部位は増殖およびIgM産生細胞への分化誘導には重要ではないが、IgG1産生細胞へのクラス変換組み換えに重要であることが示された。 2)IL-3RαとGM-CSFRαには、DC3部位を含む細胞内C−末端領域が存在しない。WTマウスの脾臓B細胞をanti-CD38とIL-3あるいはGM-CSFで刺激すると、増殖反応は観察されたが、抗体産生反応は誘導されなかった。この結果から、IL-5Rα鎖に特有なC−末端領域は増殖signalの伝達には必須ではないものの分化signal誘導には必須であることが示唆された。またこのC末端領域を持っていないIL-3RαとGM-CSFRαの場合、IL-5Rαと機能的な差があることが今回新たに示唆された。 3)正常マウスにて、IL-5がB-1細胞の生存維持に関与するか調べるため、7週齢の野生マウスに抗IL-5抗体を腹腔内投与し解析した。投与後6日目に細胞数、細胞径ともに5Rα-/-マウスと同程度に減少し、正常に分化したB-1細胞の維持にIL-5/IL-5R系が重要であることが示唆された。そこで、正常細胞数存在下のB-1細胞生存におけるIL-5の役割を調べるため、野生あるいは5Rα-/-マウスより得た腹腔内細胞を野生マウスに移入する実験を行った。5Rα-/-B-1細胞は移入20日後の生存率が野生B-1細胞に比べ50%に減少した。次にB-1細胞が減少した環境下での恒常性維持のための増殖におけるIL-5の役割を調べるため、CFSE染色した腹腔内細胞を全リンパ球を欠損しているRAG2-/-マウスに移入した。野生B-1細胞数は移入20日後2倍に増加し、活発な増殖を反映してCFSE輝度の低下が顕著であった。しかし、5Rα-/-B-1細胞を移入した場合、その細胞数は1/2に減少し、CFSE輝度も保たれていた。これらの結果から、IL-5は成熟なB-1細胞が正常数存在する定常状態における生存、B-1細胞が減少した環境下での恒常性維持のための増殖を制御するなど、B-1細胞の恒常性維持に重要であることが初めて明らかになった。 4)腹腔内でIL-5をB-1細胞に供給する細胞を探すため、αβT細胞を欠失するnu/nuマウス、γδT細胞を欠失するTCRδ-/-マウス、T細胞を欠失するTCRβ-/-δ-/-マウス、肥満細胞を欠失するW/WvマウスのB-1細胞の数、細胞径を解析した。nu/nuおよびTCRδ-/-マウスではB-1細胞数が減少していたが、細胞径は正常であった。W/Wvマウスでは細胞数、細胞径ともに正常であった。これらのマウスおよびTCRβ-/-δ-/-マウスに抗IL-5抗体を腹腔内投与すると全てのマウスのB-1細胞径の縮小が見られた。T細胞あるいは肥満細胞のいずれかを欠損させてもB-1細胞の維持に必要なIL-5の供給は障害されないことから、IL-5がこれらの複数の細胞群から産生されることが示唆された。 以上、本論文は秘蔵B細胞および腹腔内B細胞にての解析から、IL-5/IL-5R系によるB細胞の増殖、分化および維持機構について明らかにした。本研究は、未だ明らかにされていないIL-5によるB細胞の生体内免疫活性化における意義の解明に重要な貢献をもたらすと思われ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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