学位論文要旨



No 117328
著者(漢字) 大塚,基之
著者(英字)
著者(カナ) オオツカ,モトユキ
標題(和) C型肝炎ウイルスコア蛋白によるp53機能の増強とその機序
標題(洋)
報告番号 117328
報告番号 甲17328
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1936号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 野本,明男
 東京大学 教授 児玉,龍彦
 東京大学 助教授 小池,和彦
 東京大学 助教授 渡邊,聡明
 東京大学 講師 丸山,稔之
内容要旨 要旨を表示する

 [研究の背景および目的]

 C型肝炎ウイルス(Hepatitis C Virus, HCV)は、慢性肝炎・肝硬変・肝臓癌の主要な病原因子と考えられている。HCVからは、3個の構造蛋白質(core,E1,E2)と6個の非構造蛋白質(NS2,3,4A,4B,5A,5B)が、3,010アミノ酸から成る前駆体より産生される。HCVは実験に用いうる感染培養系が存在しないこともあり、慢性感染に伴う病態の分子生物学的機構は十分解明されているとはいいがたい。従って当面はこれらウイルス蛋白質の機能解析を通して、感染によって起きる細胞の生物学的な変化を明らかにすることが重要と考えられる。

 いっぽう、代表的な癌抑制遺伝子として知られるp53は、細胞のDNA障害など各種ストレスを契機に活性化すると、主に転写因子として作用しCDK Inhibitorであるp21や、Bcl familyのBaxやNoxa等様々な遺伝子の転写を誘導し、細胞周期の停止やapoptosisを導くことが知られている。

 今回の研究に先立ち、HCV感染が細胞に及ぼす影響を明らかにするため、我々はHCVが産生するE1,E2,p7を除くすべての蛋白質をおのおの細胞内で発現させ主要な細胞内シグナル伝達系への影響を検討し、core蛋白質がNF-κB,AP-1,SRE関連経路を活性化することをみいだした。

 しかしながら、HCVの産生する各蛋白質がp53機能にどのような影響を与えるのか、さらにはその機序について、詳細に検討したものは現在までほとんど認められない。そこで今回の研究では、HCVの各蛋白質が感染細胞のp53機能にどのような影響を及ぼすのか、とくに主要なp53の下流遺伝子であるp21の転写調節に与える影響を検討し、さらにその機序についての解析を行った。

 [方法]

 HCV1b型のcore,NS2,NS3,NS4A,NS4B,NS5A,NS5Bの各領域をPCR法にて増幅、CAGプロモーターを持つプラスミドpCXN2にクローニングした。Core蛋白質についてはHAタグを付加したC端欠失体あるいはN端欠失体も作製した。同様にp53発現ベクターあるいはGAL4 DNA結合ドメイン(GAL4 BD)とp53、VP16またはcore蛋白質との融合蛋白質発現プラスミドも構築した。基本転写因子群の構成要素である、TBP,TAF18,20,28,32,70の各発現ベクターも同様にpCXN2あるいはpCXN2-HAベクターにクローニングした。

 p21プロモーターに与える影響を検討するため、p21のプロモーター領域をルシフェラーゼ遺伝子の上流に持つレポータープラスミドを用いた。確認のためp53結合配列を人工的に複数個つないだ配列をもつレポーターも使用した。GAL4 BD関連の活性化測定には、ルシフェラーゼ遺伝子上流にGAL4-UASをもつもの(pFR-luc)を用いた。

 HepG2、SAOS2をはじめとする細胞にレポーターとHCV各蛋白質発現プラスミドをトランスフェクションしルシフェラーゼアッセイを行った。p53が欠損している細胞を用いる場合は必要に応じp53発現ベクターもトランスフェクションした。すべてのルシフェラーゼアッセイは親ベクターのみの場合に対する相対活性をもとめ有意差を検定した。

 p53あるいはp21の蛋白質発現量はウェスタンブロットにて検出した。

 Core蛋白質がp53機能を増強することが判明したため、core蛋白質存在下におけるp53のDNA結合能の変化をゲルシフトアッセイにて検討した。また、pFR-Luc、GAL4 BD-p53融合蛋白質発現プラスミドを用いたルシフェラーゼアッセイでp53の転写活性化能にcore蛋白質が与える影響を検討した。

 さらに、core蛋白質がp53蛋白質と相互作用するか否かを、GST-p53蛋白質を作製し検討をおこなった。

 さらにそのうえで、core蛋白質と基本転写因子群との相互作用の有無を免疫沈降法あるいはリコンビナント蛋白質との結合実験で検討した。

 [結果]

 HCVの各蛋白質がp53機能に与える影響を調べるため、まずp53欠損細胞であるSAOS-2細胞に、一定量のp53発現プラスミドと、主なp53標的遺伝子であるp21のプロモーターをもつレポータープラスミドを、7種のHCV各蛋白質を発現するプラスミドそれぞれと共発現させ、ルシフェラーゼアッセイを行った。その結果、core蛋白質を発現した場合にのみ、5.4±0.7(mean±S.D.)倍のp21プロモーターの活性増強を認めた。この効果はHepG2細胞における内在性のp53に対しても同様に認められ、またcore蛋白質の発現量依存的であった。この効果はp53欠損細胞ではp53を発現しないと認められず、かつcore蛋白質はp53結合配列のみをつないだレポーターも活性化したことからp53依存的と考えられた。実際にcore蛋白質を発現するとp53の蛋白質量は変化しないものの、p21蛋白質量はcore蛋白質の発現量依存性に増加した。

 つぎにp21プロモーター活性化に関わるcore蛋白質の領域を検討したところ、core蛋白質のN端62アミノ酸欠失ではその効果が消失した。

 次にcore蛋白質のp53活性化機構を検討した。Core蛋白質の発現によってEMSA上p53のDNA結合能は約1.7倍増強した。さらに、core蛋白質はGal4BD-p53による転写も増強し、p53の転写活性化能そのものも増強することが示唆された。

 さらにこの機序を調べるため、core蛋白質とp53蛋白質の結合の有無をみた。その結果core蛋白質はp53、特に大きくp53のC端側と結合した。core蛋白質自身には転写活性化能は認められなかったが、基本転写因子群とcore蛋白質との相互作用を免疫沈降及びin vitroの結合実験でみたところ、core蛋白質はTAF28と結合した。

 [考察]

 p53とウイルス蛋白質に関しては、たとえばEBVのNA2蛋白質やadenovirus E1Aなどいくつかのウイルス蛋白質がp53機能を増強すると報告されている。しかしこれらの蛋白質の多くはウイルス複製に関わる非構造蛋白質であり、さまざまなウイルス性あるいは細胞性遺伝子の転写活性化因子として働いており、p53機能の増強のメカニズムの多くはp53の産生増加によって説明されている。しかしながら、今回の研究では構造蛋白質であるcore蛋白質がp53の蛋白量はふやさずに、その機能を活性化することを示した。このcore蛋白質によるp53の機能増強作用は、core蛋白質がp53のDNA結合能を増しp53の転写活性化能そのものも増強するという2つの機序でおきると考えられた。今回の検討で、core蛋白質はp53のC端側に結合する結果を得たが、この部分にはp53自身のDNA結合能を負に制御している領域を含んでいる。p53の活性化において14-3-3蛋白質がこの制御領域に結合し、結果としてp53のDNA結合能を増加させることが報告されていることから、core蛋白質も同様にp53と結合することでそのDNA結合能を高めている可能性がある。また、core蛋白質自身には転写活性化能は認められなかったがcore蛋白質は基本転写因子群の構成要素のひとつであるTAF28とも結合した。このことから、core蛋白質はp53と結合すると、そこにTAF28をリクルートする結果、TBPなど他の基本転写因子との複合体をつくりやすくし、全体としてp53の転写活性化能をあげるco-activatorとして作用している可能性も考えられる。

 p53など転写因子は主に核内に存在するが、core蛋白質はN端に核移行シグナルをもち、実際core蛋白質は細胞質に主に存在するが一部は核にも認められる。今回の検討でN端を欠いたcore蛋白質には、p53機能の増強作用は認められなかったことから、N端を欠損したcore蛋白質は核移行ができず、その結果p53機能増強作用が失われた可能性も考えられた。今後はcore蛋白質の発現によるp53のリン酸化などの修飾がおきている可能性も検討する必要があるものと思われる。

 今回の研究中に、Luらが我々と同様にcore蛋白質がp53機能を増強するという報告をしたが、そのメカニズムは不明であった。今回我々はcore蛋白質によるp53機能増強作用を示すだけでなく、考えられる作用機序も明らかにしたが、その際に、core蛋白質が基本転写因子群の構成要素のひとつであるTAF28と結合することも見い出した。Core蛋白質はこれまでにも様々な遺伝子のプロモーターを活性化することが報告されているが、そのメカニズムについてはほとんどが不明のままである。今回示したcore蛋白質とTAF28との結合は、core蛋白質によるさまざまな遺伝子プロモーター活性に与える影響の一般的なメカニズムを解明する手がかりになるかもしれない。

 我々はこれまでにcore蛋白質による主に細胞増殖や抗アポトーシスに関わる情報伝達系の活性化作用を明らかにしてきたが、core蛋白質はいわばこれと対峙する作用をもつp53機能をも活性化することで、感染細胞に微妙なバランスをもたらしているとも考えられる。

 今後このようなウイルスおよび細胞の分子ひとつひとつの相互作用と機能の検討とを積み重ねていくことでC型ウイルス肝炎の病態生理の全貌を明らかにできるものと考える。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究はC型肝炎ウイルス(HCV)の産生する蛋白が、p53の機能に与える影響を検討し、コア蛋白質によるp53の機能増強とその機序について解析を行ったものであり、下記の結果を得ている。

1.一過性にC型肝炎ウイルスの各蛋白質を培養細胞内に発現させる系を用い、p53の結合配列を持つレポータープラスミドを使用したルシフェラーゼアッセイを行った。その結果、調べたHCV蛋白質のなかでコア蛋白質のみがp53の機能を活性化した。実際に、p53の標的遺伝子であるp21の蛋白質発現量もコア蛋白質存在下では増加していた。

2.コア蛋白質は、ゲルシフトアッセイにてp53のDNA結合能を増強した。さらに、酵母のGAL4-UASを用いたp53の転写活性化能の変化をレポーターアッセイで検討すると、コア蛋白質にはp53の転写活性化能増強作用もあることが示された。

3.コア蛋白質はp53のC端側と結合した。更に、基本転写因子の構成ユニットであるTAF28とも結合した。

 以上、本論文はC型肝炎ウイルス蛋白質が、p53機能に与える影響について検討し、コア蛋白質がp53蛋白質およびTAF28と結合し、p53のDNA結合能と転写活性化能を増強することでp53機能を高める新たな作用を明らかにしたことから、学位の授与に値すると考えられる。

尚、審査会時点から、論文の内容中、以下の点が改訂された。

1.「容量依存性」、「責任領域」、「蛋白」など審査の際に指摘された言葉の使い方の誤りについて訂正した。

2.コア蛋白質の核内移行部位の欠質変異体が、p53の機能を増強しない点については、核移行が無くなるためにp53の機能を増強しなくなるのであろうとする旨、discussionの項で強調すると共に、「細胞質における間接的なはたらきも有るかも知れない」という旨の記載を削除した。

3.FigureとFigure legendを同じページにおさまるように記載しなおした。

4.コア蛋白質とp53との「直接結合」の「直接」を削除した。

5.統計処理について、「コントロールの値は1±0とした」という記載を追加した。

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