No | 117334 | |
著者(漢字) | 中島,啓喜 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ナカジマ,ヒロヨシ | |
標題(和) | 活性酸素消去酵素のレシチン化による心筋細胞内移行と低酸素障害に対する心筋保護効果の検討 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 117334 | |
報告番号 | 甲17334 | |
学位授与日 | 2002.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第1942号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 要旨 近年の研究により、持続性低酸素状態がReactive Oxygen Speciesの産生を来たし、その結果細胞のアポトーシスを誘導することが明らかにされつつある。ヒト銅、亜鉛活性酸素消去酵素(recombinant human Copper, Zinc-Superoxide Dismutase (rhSOD))にレシチン誘導体を共有結合させ作製したレシチン化SODが高い細胞膜親和性、長い薬理学的半減期を有し、従来の非修飾型活性酸素消去酵素に比してより高い生物学的利用能を呈すことが示されている。本研究の目的は、レシチン化SODが培養心筋細胞において低酸素障害に対し保護的な役割を有するかを検討することである。ラット培養心筋細胞をレシチン化SOD (100U/ml)、非修飾型SOD (100U/ml)、あるいは媒介物と共に低酸素分圧下で72時間まで培養を続けた。レシチン化SOD群でSODが細胞内に運搬されたことがウエスタン・ブロット法および共焦点レーザー走査顕微鏡法により検証された。レシチン化SODの投与により、心筋細胞において低酸素障害が抑制されたことを、trypan blue除外法および培養液LDH定量で確認した。レシチン化SODは低酸素で誘導されるDNA断片化に対する抑制効果も有し、レシチン化SODによる細胞生存率の改善は抗アポトーシス効果を介すると思われた。要約すると、レシチン化により培養心筋細胞内にrhSODを運搬することが可能になり、これにより遷延性低酸素障害による培養心筋細胞の致死率を減ずることができた。 | |
審査要旨 | 本研究は、ヒト・リコンビナント活性酸素消去酵素(rhSOD)をレシチン誘導体で修飾すること(レシチン化SOD)により、ラット培養心筋細胞内にSODを運搬することを可能にしたことを示した。同時に、レシチン化SODにて低酸素誘導の細胞障害が軽減されることを示し、さらに、レシチン化SODの抗アポトーシス効果を示唆している。 本研究で得られた、主な結果は以下の通りである。 1.レシチン化SODを作製し、そのSODの細胞移行を検証する目的で、ウエスタン・ブロッティングおよびSOD activity gel assayを施行した。その結果、レシチン化SODが細胞に取りこまれ、酵素活性も維持することを証明した。さらに、レシチン化SOD処理培養心筋細胞に対して、抗SOD抗体を使用した免疫細胞化学染色を施し、共焦点レーザー走査顕微鏡法を行った。共焦点レーザー走査顕微鏡法では、光学的断層分析が可能となるため、外から加えた外因性SODの細胞内移行を検証可能である。その結果、細胞内へのSODの運搬が確実であることを証明した。 2.レシチン化SODの細胞内分布に関する検討をした。活性酸素の産生部位としてミトコンドリアは重要な細胞内小器官であるが、細胞のミトコンドリア分画に対するウエスタン・ブロッティングでミトコンドリアに豊富なSODが認められた。上述の共焦点レーザー走査顕微鏡法でも、SODは顆粒状に細胞全体に広く認められ形態的にもミトコンドリアにSODが移行したことが示唆された。 3.次に、レシチン化SODの低酸素誘導細胞死に関する保護効果に関して検討した。細胞死に関しては、trypan blue除外法で、生化学マーカーとしてLDHを指標として定量し、双方の実験でレシチン化SODの低酸素障害に対する保護効果を示した。 4.レシチン化SODの低酸素障害に対する保護効果の機序の解析するため、抗アポトーシス効果を検討した。レシチン化SODの処理により、低酸素にて誘導される細胞核の断片化の減少、DNAラダーの減弱が示された。心筋虚血時にアポトーシス調節タンパクであるBcl-2、Baxが関与するかを検討し、レシチン化SODにより抗アポトーシス効果を持つBcl-2が細胞内で保持されることを示した。 上記のように、本論文はラット培養心筋細胞において、外因性のSODをレシチン化することにより細胞内移行を可能にし、さらに、細胞内移行したSODが低酸素障害による心筋細胞障害を軽減することを検証した。Drug delivery systemとしてのレシチン化が、培養心筋細胞に対して有効であることを証明し、今後多岐の分野での応用が期待される。以上より、本研究は学位授与に値すると考えられる。 | |
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