学位論文要旨



No 117364
著者(漢字) 土屋,富士子
著者(英字)
著者(カナ) ツチヤ,フジコ
標題(和) エストロゲン応答遺伝子EBAG9のクローニングと解析
標題(洋) Molecular cloning and characterization of mouse EBAG9, a homolog of a human cancer associated surface antigen RCAS1 : expression and regulation by estrogen
報告番号 117364
報告番号 甲17364
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1972号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 五十嵐,隆
 東京大学 助教授 福岡,秀興
 東京大学 助教授 門脇,孝
 東京大学 助教授 上妻,志郎
 東京大学 講師 高見沢,勝
内容要旨 要旨を表示する

我々は以前,エストロゲン応答遺伝子であるEBAG9(estrogen receptor-binding fragment associated gene 9)を同定した。その後EBAG9は、RCAS1(receptor-binding cancer antigen expressed on SiSo cells)として、活性化されたT細胞などの細胞のアポトーシスや細胞増殖を抑制する働きのある因子として報告された。今回我々は、EBAG9の機能を解析するために、マウスのEBAG9のcDNAとゲノムの両方を同定した。マウスのEBAG9のゲノムは約30kbの長さであり、7つのエクソンより構成されていた。マウスのEBAG9の蛋白には、そのアミノ酸配列により、膜を通過する膜貫通領域と蛋白間の結合に関与すると考えられているコイルドコイルドメインが存在することが予想された。ヒトとマウスにおけるEBAG9のアミノ酸レベルの相同性は98%であり、両種間で保存されていた。マウスの各臓器を用いてノザンブロットとウエスタンブロットを行い、RNAレベルとアミノ酸レベルでのEBAG9の発現を調べた。心臓、脳、膵臓、肝臓、腎臓、精巣や発育中の胎児などで、EBAG9が発現していた。また、エストロゲンの標的臓器である子宮において、EBAG9は17β-estradiolによって発現の増加を認めた。生物化学的なEBAG9の働きを調べるためにEBAG9の合成蛋白とともにNIH3T3細胞を培養したところ、細胞増殖抑制作用を示した。これらの結果より、EBAG9は細胞増殖抑制作用を持つエストロゲン応答遺伝子であることが判明した。

審査要旨 要旨を表示する

 妊娠、分娩などに伴う子宮および乳房の発達や癌化、骨代謝、心血管系の機能調節,細胞のアポトーシスなど、エストロゲンの体内でのさまざまな作用を持つことが知られている。これらの作用機序の発現機構を解明する目的にクローニングされたエストロゲン応答遺伝子であり、かつヒトにおいて癌細胞に強く発現しており,癌の浸潤に関係していると示唆されるEBAG9の機能解析のため、マウスのEBAG9のゲノムとcDNAのクローニングを行い、その構造を同定した。また、マウスでの各臓器での発現やエストロゲン応答性、細胞の増殖に対する作用を示した。

 以下に研究結果の要点を示す。

1.マウスのEBAG9のcDNAは1454bpで、ORFは642bp、213アミノ酸より構成されていた。蛋白には、そのアミノ酸配列により、膜を通過する膜貫通領域と蛋白間の結合に関与すると考えられているコイルドコイルドメインが存在することが予想された。ヒトとマウスにおけるEBAG9のアミノ酸レベルの相同性は98%であり、両種間で保存されていることが示された。

2.マウスのEBAG9のゲノムは約30kbの長さであり、7つのエクソンより構成されていた。そのうち、膜貫通領域はexon2に、コイルドコイルドメインはexon7に存在していたことが示された。

3.同定されたEBAG9のアミノ酸配列を用いてEBAG9蛋白を合成し、ウサギに免疫してポリクローナル抗体を作成した。精製した抗体がヒトとマウス両方のEBAG9を認識することを確認した。

4.マウスの各臓器を用いてノザンブロットとウエスタンブロットを行い、RNAレベルとアミノ酸レベルでのEBAG9の発現を調べた。RNAレベルでは心臓、肝臓、精巣で、アミノ酸レベルでは脳、膵臟、肝臓、肺、腎臓、精巣や発育中の胎児などで、EBAG9が強く発現していることを示した。

5.卵巣切除後2週間のマウスに17β-estradiolを投与し、マウス子宮でのエストロゲンによるEBAG9の発現の増加をウエスタンブロット法とin situ hybridizationによって示した。

6.生物化学的なEBAG9の働きを調べるためにEBAG9の合成蛋白とともにNIH3T3細胞を培養したところ、細胞増殖抑制作用を示した。

 以上,本研究において,実験に必須であるマウスのEBAG9のゲノムとcDNAのクローニングを行い,ヒトとマウスのEBAG9を認識し得るポリクローナル抗体を作成した,また、EBAG9はある種の細胞において増殖抑制作用を持つエストロゲン応答遺伝子であることが判明した。本論文はエストロゲンの体内での作用機序、特にエストロゲンと細胞増殖抑制や癌化の解明に重要な貢献をなすと考えられ,学位の授与に値するものと考えられる.

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