No | 117369 | |
著者(漢字) | 星山,雅樹 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ホシヤマ,マサキ | |
標題(和) | 睡眠時眼球運動のフラクタル性について | |
標題(洋) | Fractal behavior of human eye movements during sleep | |
報告番号 | 117369 | |
報告番号 | 甲17369 | |
学位授与日 | 2002.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第1977号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 標準的な睡眠評価は、短い時間スケール、または長い時間スケールの構造を用いるが、両者を統合した測定方法は少ない。REM睡眠時の急速眼球運動は、脳波の低振幅パタン、抗重力筋の筋緊張低下、及び夢を伴うが、急速眼球運動の機能とそのフラクタル的特性についての解析は、十分になされていない。この研究では、脳の発達・休息及び記憶の保持に対して重要な情報を含んでいると考えらる睡眠時急速眼球運動の時間構造を明らかにするため、コンピュータを使用した眼電図からの眼球運動抽出プログラムを開発し、夜間睡眠時の急速眼球運動Burst間間隔(以下IOBI)のフラクタル解析を試み、さらにそのメカニズムを推論した。 対象は健康な睡眠を有する青年6名。 眼球運動抽出プログラムはFORTRN言語で作成し、左右の眼電位の増幅率の調節、パルス的雑音の除去、左右の電位差の算出、多項式フィルターを用いた高速変動の除去・基線ドリフトの除去、個々の眼球運動の抽出、眼球運動Burstの抽出という手順で、基線変動や雑音成分の多い眼電図からIOBIを抽出した。 IOBI積算ヒストグラムでは、べきの関係が認められ、べき指数α=1.06±0.09であった。このことは、急速眼球運動Burstの静的分布に、スケールに依存しないフラクタル的特性があることを示している。 IOBIのDetrended Fluctuation Analysis(以下DFA)においても、DFA指数α=0.71±0.06なる長期相関が認められた。このことは、急速眼球運動Burstの動的特性におけるフラクタル性を示している。IOBIの順序をランダムに並べ替えると、DFA指数αは0.52±0.03と不相関を示した。このことは、IOBIに認められた動的長期相関がデータの静的分布による影響によるものではなく、真の動的長期相関であることを示している。 上記結果から、急速眼球運動Burstを発火させるメカニズムを推論し、対数ポテンシャル場におけるrandom walk modelを構築した。対数ポテンシャル場は、 で記述され、その場では発火基線(x=0)に向かう なる引力がはたらく。ここで、 なる引力が、スケール依存しないフラクタル的特性を発生させるには、γ=1が要請される。今回のデータから、ポテンシャルパラメータはb=0.56±0.09と算出された。さらに、DFAに表現された動的長期相関を織り込むべく、長期相関メモリー効果のある神経回路網を想定し、対数ポテンシャル場にメモリー効果を導入した。 睡眠急速眼球運動時におけるcholinergic Pontine-Geniculate-Occipital(PGO)状態が、脳の発達・休息及び記憶の保持に対して重要な役割をはたすこと、及び睡眠障害のcholinergic-aminergic balance modelによる説明を考慮すると、IOBIのフラクタル的活性化様式は、短時間および長時間構造を統合した新しい睡眠の定量的指標として有用であると考えられた。また、分裂病の眼球運動固定時間にフラクタル性を認めた報告があるが、夢をみている状態の意識との共通性を考慮すると、精神疾患、心理的影響の定量化への可能性も示唆される。 | |
審査要旨 | 本研究は脳の発達・休息及び記憶の保持に対して重要な情報を含んでいると考えらる睡眠時急速眼球運動の時間構造を明らかにするため、コンピュータを使用した眼電図からの眼球運動抽出プログラムを開発し、夜間睡眠時の急速眼球運動Burst間間隔(以下IOBI)のフラクタル解析を試み、さらにそのメカニズムを推論したものであり、下記の結果を得ている。 1.FORTRAN言語で作成した眼球運動抽出プログラムにより、基線変動や雑音成分の多い眼電図から、眼球運動Burstを抽出した。 2.IOBI積算ヒストグラムの解析の結果、べきの関係を発見し、急速眼球運動Burstの静的分布に、スケールに依存しないフラクタル的特性があることを示した。 3.IOBIのDetrended Fluctuation Analysis(以下DFA)解析の結果、長期相関を発見し、急速眼球運動Burstの動的特性におけるフラクタル性を示した。 4.IOBIの順序をランダムに並べ替えたところ、DFA解析では相関を認めなかった。これにより、IOBIに認められた動的長期相関がデータの静的分布によるものではなく、真の動的長期相関であることを示した。 5.長期相関メモリー効果のある神経回路網を想定し、メモリー効果のある対数ポテンシャル場におけるrandom walk modelで、急速眼球運動Burstを発火させるメカニズムを推論した。 以上、本論文は眼電図より抽出した眼球運動Burstの解析から、睡眠時急速眼球運動Burstの静的および動的フラクタル性を明らかにした。本研究におけるIOBIのフラクタル的活性化様式は、これまで未知に等しかった、短時間及び長時間構造を統合した新しい睡眠の定量的指標の開拓に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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