No | 117383 | |
著者(漢字) | 井上,真也 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イノウエ,シンヤ | |
標題(和) | 血管内ステント留置後再狭窄の発生メカニズム : ウサギ頸動脈再障害モデルを用いた実験病理学的検討 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 117383 | |
報告番号 | 甲17383 | |
学位授与日 | 2002.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第1991号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 背景: 近年、狭窄性動脈病変の治療法としてPTA(Percutaneous transluminal angioplasty)、ステント留置術などの経皮的血管形成術の進歩は著しい。特に血管内ステント留置術は、PTAの短所であるnegative remodelingやelastic recoil発生の心配が少ないため、年々その適応が拡大されつつある。しかし、ステント治療においても未だステント内再狭窄発生の問題は解決されておらず、いかにこの現象をコントロールするかが今後の焦点となっている。 血管内ステント留置後におこるステント内再狭窄の病巣形成において、内膜肥厚が重要な役割を果たしていると考えられているが、その発生メカニズムは未だ十分に解明されていない。動物を使った血管バルーン障害モデルでの検討では、内膜肥厚進展の重要な因子として、1.細胞増殖、2.細胞遊走、3.細胞外マトリックスの蓄積が挙げられている。しかし、血管障害モデルから得られた知見をステント内再狭窄の発生過程にそのままあてはめるのは不適当である。その最も重要な理由は、従来の血管障害モデルによって障害される動脈とステントが留置される動脈とは異なるためである。最も用いられているラット頸動脈のバルーン障害モデルではバルーンにより一層の内皮細胞はすべて剥離されてしまうため障害を受ける主な部位は中膜平滑筋細胞である。これに対し臨床上ステントを挿入する動脈は一般的に既に内膜肥厚巣が存在する病変血管であり、ステント挿入によって障害される部位は内膜細胞である。過去の研究でも中膜平滑筋細胞にはない内膜細胞固有の様々な性質が示されているので、障害に対する反応も内膜細胞は中膜細胞と違った性質を示す可能性がある。また、ステント留置と従来の血管障害モデルとのもう一つの違いはステント自体が血管壁に何らかの反応を起こす可能性がある点である。手術標本や動物での病理学的研究で留置したステント周囲に炎症細胞浸潤が認められている。炎症細胞がバルーン障害モデルには見られなかった反応を惹起する可能性がある。 そこで、本研究では、臨床における病変血管に近似させた実験モデルとして、予め内膜肥厚巣を誘導したウサギ頸動脈を用いてそこにステントを留置して血管壁の反応を検討した。 方法と結果 ウサギ総頚動脈を2F Fogarty catheterで障害し、28日後同部位に3mm径のPalmaz-Schatz stentを留置したものをステント留置群とし、3mm径のcoronary dilation catheterを用い血管拡張を行ったものをバルーン拡張群として、この2群について比較した。障害後28日目の血管をコントロールとし、ステント留置・バルーン障害後2,7,14,28日目の血管について検討した。病理組織学的検討で内膜はステント留置後とバルーン拡張後ともにコントロールに比較し有意に肥厚したが、両群間には有意な肥厚面積の差は見られなかった。ステント留置後の内膜細胞数はバルーン拡張後に比べ7日目以降で有意に多く認められた。増殖中の細胞を5-bromo-2'-deoxyuridine (BrdU)を用いて認識し、免疫染色を行った。ステント留置後では増殖している内膜細胞は内膜の内腔面で主に認められ、それは28日目まで持続して認められた。一方、バルーン拡張後では増殖内膜細胞がコントロールに対し有意に多く認められたのは2日目のみであった。ステント留置後のBrdU index(陽性細胞率)はバルーン拡張後に比較し、7日目から28日目まで有意に高値を示していた。マクロファージは抗マクロファージ抗体(RAM11)を用いて認識した。大量のマクロファージがステント支柱間の内膜内に帯状に認められ、マクロファージindexは28日目まで徐々に増加しバルーン留置群と比較してどの時点でも有意に高く認められた。 走査型電子顕微鏡所見では、ステント留置後の血管内腔面に炎症細胞の浸潤が14日目まで認められた。透過型電子顕微鏡を用いた細胞外マトリックスの検討では、ステント留置後の内膜においてプロテオグリカンがバルーン群とコントロールに比べ多量に出現していた。一方、他のマトリックス成分はステント留置後もバルーン拡張後も変化は見られなかった。 またzymogramを用いたプロテアーゼ活性の分析では、urokinase plasminogen activator (UPA)活性の延長とmatrix metalloproteinase (MMP) -9の活性の延長がステント留置後の血管に認められた。 結論 本研究でのステント留置群とバルーン拡張群との相違として、ステント留置後の血管はバルーン拡張後に比べ内膜細胞増殖能が遷延している点が挙げられる。このことからステント留置後の内膜細胞増殖能の増加がバルーン拡張後に比べステント内再狭窄に重要な役割を果たしていると考えられる。 もう一つの重要な所見はステント留置後の炎症反応である。内膜へのマクロファージの浸潤がステント留置後に有意に見られたが、その局在は内膜細胞増殖が見られる部位とは異なっていた。さらにステント留置後の内膜細胞増殖能は2日目が最大で以後徐々に減少しているがマクロファージの浸潤は徐々に増加しており、内膜細胞増殖とマクロファージ浸潤の経時的変化の相違も認められた。この相違によりステント留置後ではマクロファージは内膜細胞増殖に関与していないと考えられる。しかし、マクロファージはステント留置後の細胞遊走や細胞外マトリックスの蓄積に関与している可能性が考えられる。動脈壁内の細胞遊走はいくつかのプロテアーゼの活性化に関係しているといわれている。マクロファージは様々なプロテアーゼを分泌することがわかっている。本研究でもステント留置後にMMP-9とUPA活性の延長が認められたことからステント留置後では細胞の遊走もステント内再狭窄に重要な役割を果たすと考えられ、その細胞の遊走はマクロファージの浸潤が関与している可能性が考えられる。次にステント留置後の細胞外マトリックスについては、著明に増加しているプロテオグリカンが重要な役割を果たしていると考えられた。In vivoの研究でマクロファージが他の細胞のプロテオグリカン分泌を促進し、さらにマクロファージ自体がプロテオグリカンを分泌することも示されている。マクロファージの浸潤はプロテオグリカンの集積と関連付けられると考えられる。 これらの所見はステント留置後に特異なものであり、ステント留置後再狭窄の原因究明の手がかりになると考える。 | |
審査要旨 | 本研究は血管内ステント内再狭窄の発生メカニズムを明らかにするため、ウサギ頸動脈再障害モデルを作製し、そこにステント留置を行い病理学的に検討したものであり、下記の結果を得ている。 ウサギ総頚動脈を2F Fogarty catheterで障害し再障害モデルを作製し、28日後同部位に3mm径のPalmaz-Schatz stentを留置したものをステント留置群とし、3mm径のcoronary dilation catheterを用い血管拡張を行ったものをバルーン拡張群として、この2群について比較した。障害後28日目の血管をコントロールとし、ステント留置・バルーン障害後2,7,14,28日目の血管について検討した。 1.ステント留置後では増殖している内膜細胞は内膜の内腔面で主に認められ、それは28日目まで持続して認められた。一方、バルーン拡張後では増殖内膜細胞がコントロールに対し有意に多く認められたのは2日目のみであった。ステント留置後の増殖細胞陽性率はバルーン拡張後に比較し、7日目から28日目まで有意に高値を示していた。 2.走査型電子顕微鏡所見では、ステント留置後の血管内腔面に炎症細胞の浸潤が14日目まで認められた。 ステント留置群とバルーン拡張群との相違として、ステント留置後の血管はバルーン拡張後に比べ内膜細胞増殖能が遷延している事が示された。また、増殖している内膜細胞が内腔面で主に認められることから、増殖因子を内腔面に求めることができ、炎症細胞からの何らかの因子が増殖を引き起こしている可能性があると考えられた。 3.大量のマクロファージがステント支柱間の内膜内に帯状に認められ、マクロファージindexは28日目まで徐々に増加しバルーン留置群と比較してどの時点でも有意に高く認められた。 4.zymogramを用いたプロテアーゼ活性を分析では、urokinase plasminogen activator(UPA)活性の延長とmatrix metalloproteinase(MMP)-9の活性の延長がステント留置後の血管に認められた。 ステント留置後にMMP-9とUPA活性の延長が認められたことからステント留置後では細胞の遊走もステント内再狭窄に重要な役割を果たすと考えられ、その細胞の遊走はマクロファージの浸潤が関与している可能性が考えられた。 5.透過型電子顕微鏡を用いた細胞外マトリックスの検討では、ステント留置後の内膜においてプロテオグリカンがバルーン群とコントロールに比べ多量に出現していた。一方、他のマトリックス成分はステント留置後もバルーン拡張後も変化は見られなかった。 ステント留置後の細胞外マトリックスについては、著明に増加しているプロテオグリカンが重要な役割を果たしていると考えられた。 以上、本論文はステント留置後の特異な病理学的所見を提示したものであり、ステント留置後再狭窄の原因究明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |