No | 117385 | |
著者(漢字) | 帆足,俊彦 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ホアシ,トシヒコ | |
標題(和) | 悪性黒色腫の増殖、血行性転移に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 117385 | |
報告番号 | 甲17385 | |
学位授与日 | 2002.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第1993号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 悪性黒色腫はメラノサイト由来の悪性腫瘍で、水平増殖期(RGP; radial growth phase)、垂直増殖期(VGP; vertical growth phase)、転移期(metastatic phase)と段階的に進行していく性質を有する。特にRGP(-)悪性黒色腫は進行が早い。Matrix metalloproteinase (MMP)は亜鉛要求性酵素の1つで、結合織を分解する。さらにMMPに対して活性を阻害する、tissue inhibitor of metalloproteinase (TIMP)が同定されている。腫瘍の浸潤能に関してMMPは寄与し、TIMPは阻害するとされ、悪性黒色腫との関連でも種々の報告がなされている。しかしこれまで悪性黒色腫の同一患者での原発巣と転移巣のMMPやTIMPの発現を比較検討した報告はみられない。著者は8組の典型的悪性黒色腫(原発巣と転移巣)についてMMP-1、MMP-2、MMP-7、MMP-9、TIMP-1、TIMP-2発現の変化を免疫組織学的に検討した。さらに3例のamelanotic malignant melanoma (AMM)、5例のdesmoplastic malignant melanoma (DMM)についても検討した。その結果、悪性黒色腫の転移に伴い、MMP-1、MMP-2、MMP-7、TIMP-1発現の増強が見られ、MMP-9発現の減弱が見られた。特に早期転移例では原発巣、転移巣共にTIMP-1発現が見られた。AMMでは早期転移性典型的悪性黒色腫と同様のMMP、TIMP発現がみられ、DMMでは早期転移を起こしたRGP(-)悪性黒色腫と同様のMMP、TIMP発現が見られた。例外的にDMMの紡錐形腫瘍細胞で強いMMP-9発現が見られた。 著者は種々の段階の悪性黒色腫培養細胞8株(原発巣由来KHm-4、PM-WK、再発巣由来RPM-EP, RPM-MC,リンパ節転移巣由来MM-AN、MM-BP、MM-RU、内蔵転移巣由来MM-LH)を用いてTIMP-1、TIMP-2 mRNAおよび蛋白の発現をRT-PCR法、Western blot法、ELISA法にて検討した。全例においてTIMP-1、TIMP-2 mRNAおよび蛋白の発現がみられたが、原発巣由来PM-WKにおいてはTIMP-1 mRNA、蛋白いずれの発現もみられなかった。悪性黒色腫培養細胞のTIMP-1産生量と細胞移動度が高い相関を示した。さらに外因性TIMP-1、TIMP-2に対する細胞増殖反応を検討した。TIMP-1は原発巣由来KHm-4、PM-WK、再発巣由来RPM-EP、RPM-MCに対し細胞増殖活性を有し、TIMP-2は再発巣由来RPM-EP、RPM-MC、内蔵転移巣由来MM-LHに対し細胞増殖活性を有することが示された。次に悪性黒色腫培養細胞に対しtransforming growth factor (TGF)-β1、interleukin (IL)-6、oncostatin M (OSM)で刺激を加え、TIMP-1、TIMP-2産生量の変化を観察した。TGF-β1はMM-LHのTIMP-1、TIMP-2産生を促進し、PM-WKのTIMP-2産生を促進した。IL-6はRPM-EP、MM-AN、MM-BPのTIMP-1産生を促進し、MM-BPのTIMP-2産生を促進した。OSMはMM-AN、MM-BPのTIMP-1産生を促進した。 癌の血行性転移はいくつかの段階にわけて考えられているが、特に血管内皮への接着に注目した。血管内皮にはE-selectin、P-selectinという細胞接着能をもつ接着分子が発現している。近年悪性黒色腫以外の癌でE-selectin、P-selectinのligandが腫瘍細胞に発現し、転移に寄与しているする報告が見られる。著者はP-selectinのligandの1つであるP-selectin glycoprotein ligand-1 (PSGL-1)に着目し、悪性黒色腫組織8組の悪性黒色腫組織(原発巣と転移巣。血行性、リンパ行性ともに含む)についてPSGL-1の発現を検討した。悪性黒色腫培養細胞10株(前述の8株に加えて原発巣由来WM-115、リンパ節転移巣由来WM-266-4)を用いてPSGL-1 mRNAおよび蛋白の発現をRT-PCR法、Western blot法にて検討した。全例でPSGL-1 mRNAの発現がみられた。RPM-EP、MM-BP、MM-RU、MM-LHではPSGL-1蛋白の発現が認められた。免疫組織学的染色では悪性黒色腫の肝転移、肺転移に伴いPSGL-1発現が増強していた。また、RGP(-)悪性黒色腫では原発巣で既にPSGL-1発現が認められた。 以上のことからTIMPは悪性黒色腫に対し増殖活性を持つが、細胞により異なった増殖活性を有するといえる。TIMPはMMP阻害剤として悪性黒色腫の浸潤能を低下させることができる。しかしTIMPは細胞によっては増殖活性をもつのでTIMPと異なったメカニズムでMMPを阻害しないと逆に増殖を促進させてしまう。早期に転移の見られた悪性黒色腫、またRGP(-)悪性黒色腫でTIMP-1の強い発現がみられた。TIMP-1をマーカーとして早期転移の有無をある程度予測できると考えられる。転移性悪性黒色腫培養細胞、血行性による転移が疑われた悪性黒色腫転移巣でPSGL-1の発現がみられた。臨床的にはTIMP-1を早期転移のマーカー、PSGL-1を血行性転移ハイリスクのマーカーとして使うことが可能と思われる。 | |
審査要旨 | 本研究は悪性黒色腫の増殖と進展のメカニズムをマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)とその阻害因子であるTIMPとの関連で検討を行っている。また、癌の血行性転移機構において重要な接着分子と推定されるP-selectinのligand(PSGL-1)に注目し、その発現を検討している。悪性黒色腫培養細胞、および切除検体を用いて、以下の結果を得た。 第一に、同一症例の原発巣と転移巣とで、これらのタンパク発現を免疫組織学的に比較検討し、MMP-1, -2, -7,TIMP-1の転移巣での発現の増強を観察し、一方MMP-9の発現の減弱を認めた。 第二に、線維形成性悪性黒色腫においてMMP-9の強発現を認めた。 第三に、TIMPの悪性黒色腫の増殖への影響を試験管内で調べ、さまざまな悪性黒色腫培養細胞株において増殖刺激や抑制作用を示すことを明らかにした。また、これら悪性黒色腫培養細胞株自身がTIMPを発現・産生すること、TGF-β1, IL-6, oncostatin Mが細胞株により有意な産生刺激作用を示すことも明らかにした。 第四に、PSGL-1の発現を検討した。まず、悪性黒色腫培養細胞株においてRT-PCRとWestern blot法で、前者では全株に、後者では転移巣由来悪性黒色腫培養細胞に発現していることを見出した。ついで、症例の原発巣と転移巣でタンパク発現を免疫組織学的に調べた。血行転移と思われる3例のうち2例で原発巣陰性、転移巣陽性であった。 以上、悪性黒色腫の増殖と血行転移に関する詳細な検討である。細胞株のみならず、実際の症例について検討している点も評価できる。そして臨床的にTIMP-1を早期転移のマーカー、PSGL-1を血行性転移ハイリスクのマーカーとなる可能性を示唆している。したがって、学位授与に値する業績と思われる。 | |
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