学位論文要旨



No 117388
著者(漢字) 河合,順介
著者(英字)
著者(カナ) カワイ,ジュンスケ
標題(和) アドレノメデュリンの血管系に対する影響の検討
標題(洋)
報告番号 117388
報告番号 甲17388
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1996号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大内,尉義
 東京大学 教授 高本,眞一
 東京大学 助教授 岡崎,具樹
 東京大学 講師 平田,恭信
 東京大学 講師 森山,信男
内容要旨 要旨を表示する

【背景】アドレノメデュリン(AM)は長時間持続する強い血管拡張作用を持つペプチドで、副腎のみならず全身の血管で多量に発現・分泌されており、現時点では、循環調節ホルモンだと考えられている。AMは動脈硬化巣において強く発現していることからその進展に重要な役割を果たしていることが推測される。しかし、AMの動脈硬化に対する作用に関しては矛盾した報告があり、不明の点も少なくない。

 また、最近、動脈硬化進展における活性酸素種(ROS)の役割が注目されている。すなわちROSは動脈硬化血管における炎症の惹起因子で、動脈硬化進展に重要な役割を果たしていると考えられている。炎症反応における酵素の1つであるNADH/NADPH oxidaseが動脈硬化血管におけるROSの産生に重要な役割を果たすことが知られている。ここでAMはROSを抑制することが知られており、このため動脈硬化進展に対しても防御的に働く可能性がある。

 これらの背景より、AM+/−マウスに対して局所的な動脈硬化モデルである大腿動脈カフ被包モデルを作成し、AMの抗動脈硬化作用を調べるとともに、酸化ストレスならびにその発生源としてのNADH/NADPH oxidaseの関与について検討した。

【方法】 AM+/−マウスとAM+/−マウスに対し、大腿動脈カフ被包モデル2週間後における内膜増殖の程度を内膜/中膜(I/M)比の測定を行い比較検討した。さらにAM+/−マウスにおける変化がAM低下にもとづくものか否かを確認する目的で、カフ被包部のAM発現を免疫染色を行って比較するとともに、アデノウィルスを用い、AMを局所的な過剰発現による内膜肥厚への影響を調べた。また、coelenterazineの化学発光を用いて酸化ストレスの程度を比較した。酸化ストレスの関与を調べる目的でスーパーオキサイドデスムターゼ(SOD)類似物質TMPOLのカフモデルによる内膜増殖への影響を調べた。さらにNADH/NADPH oxidaseの関与を調べる目的でそのsubcomponentであるp67 phoxの免疫染色を行った。

【結果】

1.大腿動脈カフ被包処置により内膜増殖を来したがその程度はAM+/+マウスに比べてAM+/−マウスで著明であった。

2.大腿動脈カフ被包部位のAM発現を調べたところAM+/+マウスに比べてAM+/−マウスで低下していた。

3.大腿動脈カフ被包部位にAMを過剰発現させると、内膜増殖は抑制されたがその抑制の程度はAM+/+マウスに比べてAM+/−マウスで著明であり、AM過剰発現後の大腿動脈カフ被包処置による内膜増殖は両方のマウスで同程度であった。

4.大腿動脈カフ被包血管における活性酸素の産生を測定するとAM+/+マウスに比べてAM+/−マウスの方が著明であった。

5.AM+/+マウスマウスにおける大腿動脈カフ被包血管における活性酸素産生の亢進はex vivoの系でAM添加により濃度依存性の抑制を受けた。

6.SOD類似TEMPOL投与により大腿動脈カフ被包血管における活性酸素産生は抑制されたが、その程度はAM+/+マウスに比べてAM+/−マウスで著明であった。

7.SOD類似TEMPOL投与におり大腿動脈カフ被包処置による内膜増殖は抑制されたが、その抑制の程度はAM+/+マウスに比べてAM+/−マウスで著明であり、TEMPOL投与後の大腿動脈カフ被包処置による内膜増殖は同程度となった。

8.大腿動脈カフ被包血管においては特に内皮と外膜でp67 Phoxの発現亢進を認めたが、その程度はAM+/+マウスに比べてAM+/−マウスで著明であった。

【考察】本研究においては、大腿動脈カフ刺激によりAM+/−マウスではAM+/+マウスよりも著明な内膜肥厚を認め、しかもカフ刺激部におけるAMの発現はAM+/+マウスで低下しており、局所的ににAMを過剰発現させることにより、内膜肥厚は著明に抑制された。したがって、内因性のAMは動脈硬化形成刺激に対して保護的に作用することが示唆された。さらにカフ被包部における活性酸素の発生はAM+/−マウスで有意に高く、AM+/−マウスで認められる動脈硬化形成促進は酸化ストレス亢進を伴うことが明らかになった。さらにex vivoの系においてAMの投与で酸化ストレスは濃度依存性に減少を示し、AMが直接的に酸化ストレスを抑制することが示唆された。加えて、SOD類似物質であるTEMPOLを投与するとAM+/−マウスでは内膜肥厚の抑制に伴い、活性酸素の減少を認め、酸化ストレス亢進がAM不足による動脈硬化形成促進に重要な働きをしている可能性が考えられた。さらに活性酸素種の発生源の1つとして知られるNADH/NADPH oxidaseのsubcomponentの1つであるp67 phoxの発現がAM+/−マウスにおいて亢進しており、この酸化ストレス亢進にはNADH/NADPH oxidaseが関与していることが推測された。

【結論】

 AMは酸化ストレスの抑制を介して血管内膜増殖を抑制し、動脈硬化に対して防御的に作用する可能性が示唆された。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究はアドレノメデュリン(AM)遺伝子ノックアウトマウスにおけるカフ被包モデルおよびアデノウィルスベクターによるAMの過剰発現等を用い血管作動性物質アドレノメデュリンの抗酸化作用およびこれを介しての抗動脈硬化作用の解析を試みたものであり下記の結果を得ている。

1.大腿動脈カフ被包処置により内膜増殖を来したがその程度はAM+/+マウスに比べてAM+/−マウスで著明であった。

2.大腿動脈カフ被包部位のAM発現を調べたところAM+/+マウスに比べてAM+/−マウスで低下していた。

3.大腿動脈カフ被包部位にAMを過剰発現させると、内膜増殖は抑制されたがその抑制の程度はAM+/+マウスに比べてAM+/−マウスで著明であり、AM過剰発現後の大腿動脈カフ被包処置による内膜増殖は両方のマウスで同程度であった。

4.大腿動脈カフ被包血管における活性酸素の産生を測定するとAM+/+マウスに比べてAM+/−マウスの方が著明であった。

5.AM+/+マウスマウスにおける大腿動脈カフ被包血管における活性酸素産生の亢進はex vivoの系でAM添加により濃度依存性の抑制を受けた。

6.スーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)類似物質TEMPOLの投与により大腿動脈カフ被包血管における活性酸素産生は抑制されたが、その程度はAM+/+マウスに比べてAM+/−マウスで著明であった。

7.SOD類似TEMPOL投与におり大腿動脈カフ被包処置による内膜増殖は抑制されたが、その抑制の程度はAM+/+マウスに比べてAM+/−マウスで著明であり、TEMPOL投与後の大腿動脈カフ被包処置による内膜増殖は同程度となった。

8.大腿動脈カフ被包血管においては特に内皮と外膜でp67 phoxの発現亢進を認めたが、その程度はAM+/+マウスに比べてAM+/−マウスで著明であった。

 以上、本論文はマウス大腿動脈カフモデルにおける組織学的変化および化学発光による酸化ストレスの測定などから、これまで未知に等しかった血管平滑筋細胞におけるアドレノメデュリンの抗酸化作用およびこれを介しての抗動脈硬化作用の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に価するものと考えられる。

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