No | 117389 | |
著者(漢字) | チン カオ ミン | |
著者(英字) | TRINH CAO MINH | |
著者(カナ) | チン カオ ミン | |
標題(和) | 虚血再灌流障害が皮弁微小循環に及ぼす影響に関する研究 : 新しい実験モデルの開発と温熱治療の応用 | |
標題(洋) | EFFECTS OF ISCHEMIA-REPERFUSION INJURY ON FLAP MICROCIRCULATION : Development of New Experimental Models and Application of Hyperthermic Preconditioning | |
報告番号 | 117389 | |
報告番号 | 甲17389 | |
学位授与日 | 2002.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第1997号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 第一章:皮弁の虚血再灌流障害研究に有用な新しい実験的皮弁dorsal bipedicle island flapを開発した。マウス背部皮膚の血管解剖を詳細に検討した。120匹のマウスにおいて6種類の走行形態に分類されたが、そのうちの1パターンが圧倒的に高い頻度(92.5%)で観察された。このパターンでは背部皮膚は頭側の外側胸壁動脈(lateral thoracic artery : LTA)と尾側の深腸骨回旋動脈(deep circumflex iliac artery : DCIA)から分岐する血管網で養われる。それぞれの血管領域は互いに吻合していた。この血管解剖の所見に基づいて、両側DCIAを茎としてマウス背部全体(30-40gマウスで4x4cm)にbipedicle island flapを作成した。この皮弁を挙上してそのまま縫着すると生着率は95.8±4.6%であった。茎のDCIAを一定時間クランプした後解除することで虚血再灌流障害の有用な実験モデルになることを確認した。8時間の虚血後再灌流で皮弁の生着率は42.9±26.4%であった。 第二章:前章の皮弁モデルを利用して、更に微小循環レベルの研究を可能とする新しい実験モデルchamber-implanted bipedicle island skin flapを考案した。マウスの背部に手術操作を加えることのできる小型のskinfold chamberを試作した。新型chamberを装着したマウス背部皮膚にdorsal bipedicle island flapを作成する。生体顕微鏡システムで皮弁の微小循環を可視化することができる。 この新しい実験モデルによって皮弁が虚血再灌流障害に曝された後の微小循環変化を長期間観察可能となった。特に最終的に微小循環血流が再開する領域(生存)と再開しない領域(壊死)の両方を作り出して、その境界が明瞭になっていく過程を追跡することができた。再灌流の当初chamberの遠位部に血流が再開しない(no reflow)部分が生じ、時に出血をみる。再灌流3-5日目にはno reflow部位の大部分の血管像は消失し、再開部分の血管は拡張する。この時期に壊死と生存の境界が徐々に明瞭になってくる。その際に境界領域では種々程度の血管新生が起こる。本モデルはin vivoで血管新生を誘発できる実験モデルとみることもでき、血管新生メカニズム解明にも有用である。壊死−生存が明瞭化する時期は再灌流後3.1±0.7日であった。 第3章:虚血再灌流に先立って予め温熱刺激(hyperthermic preconditioning)を加えておくと障害に対して耐性ができることが知られている。この温熱療法が皮弁の虚血再灌流障害に対して防御効果を持つかをdorsal bipedicle island flapを使って検討した。75匹のマウスを5群に分けた。第1、2、3および4群のマウスに対して温熱刺激()を与えた後、それぞれ6時間、24時間、48時間、72時間の期間をおいてbipedicle island flapを挙上した。8時間の虚血後再灌流を行った。第5群は温熱刺激なしで虚血後再灌流のみの対象群とした。第1群(6時間)および第3群(48時間)において皮弁生着面積の有意な増加を得た。第2群(24時間)と第4群(72時間)では皮弁生着面積の有意な増加は見られなかった。温熱療法が皮弁の虚血再灌流障害に対して防御効果を有することが確認され、温熱刺激から虚血再灌流までの時間が重要であることが示された。 以上、皮弁の虚血再灌流障害を研究するために有用な2つの実験モデルを開発し、障害に対する温熱療法の効果を検証した。 | |
審査要旨 | 本研究は虚血再灌流障害が皮弁に及ぼす影響を明らかにするため、マウスにおける新しい実験モデルを開発し、その微小循環応答を検討した。また温熱治療の虚血再灌流障害に対する防御効果につき検証し、下記の結果を得ている。 1.皮弁の虚血再灌流障害研究に有用な新しい実験的皮弁dorsal bipedicle island flapを開発した。マウス背部皮膚の詳細な血管解剖に基づき深腸骨回旋動脈(deep circumflex iliac artery : DCIA)を茎とするbipedicle island flapを開発した。茎のDCIAを一定時間クランプした後解除することで虚血再灌流障害の有用な実験モデルになることを確認した。8時間の虚血後再灌流で皮弁の生着率は42.9±26.4%であった。 2.前項の皮弁モデルを利用して、更に微小循環レベルの研究を可能とする新しい実験モデルchamber-implanted bipedicle island skin flapを考案した。 この新しい実験モデルによって皮弁が虚血再灌流障害に曝された後の微小循環変化を長期間観察可能となった。特に最終的に微小循環血流が再開する領域(生存)と再開しない領域(壊死)の両方を作り出して、その境界が明瞭になっていく過程を追跡することができた。境界領域では種々程度の血管新生が起こる。本モデルはin vivoで血管新生を誘発できる実験モデルとみることもでき、血管新生メカニズム解明にも有用である。壊死−生存が明瞭化する時期は再灌流後3.1±0.7日であった。 3.虚血再灌流に先立って予め温熱刺激(hyperthermic preconditioning)を加えておくと障害に対して耐性ができることが知られている。この温熱療法が皮弁の虚血再灌流障害に対して防御効果を持つかをdorsal bipedicle island flapを使って検討した。温熱療法が皮弁の虚血再灌流障害に対して防御効果を有することが確認され、温熱刺激から虚血再灌流までの時間が重要であることが示された。 以上、皮弁の虚血再灌流障害を研究するために有用な2つの実験モデルを開発し、障害に対する温熱療法の効果を検証した。本研究は形成再建外科においてしばしば問題となる虚血再灌流障害研究に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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