No | 117393 | |
著者(漢字) | 腰塚,裕 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | コシヅカ,ユウ | |
標題(和) | 内軟骨性骨化関連遺伝子Cystatin10のクローニングと機能解析 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 117393 | |
報告番号 | 甲17393 | |
学位授与日 | 2002.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2001号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 骨は単に生体の支持組織として重要であるだけでなく、活発な代謝活動を営み、ミネラルの恒常性、造血部位の保持など、生命現象の維持にとっても不可欠な組織である。 骨の形成過程には、膜性骨化と内軟骨性骨化の2種類がある。膜性骨化は、頭蓋骨のように表皮に近い扁平な骨にみられる骨形成様式で、軟骨を経由することなく結合組織性の未分化間葉系細胞が直接骨芽細胞へ分化して骨が形成される。一方、内軟骨性骨化は軟骨を経由してなされる骨形成様式で、中軸骨格や四肢の生理的な骨形成、あるいは骨折治癒過程や異所性骨化などにおける病理的な骨形成などにみられる。内軟骨性骨化では、間葉系組織の中に形成された骨原基が、軟骨細胞の増殖により伸長・拡大する。軟骨細胞は増殖するにつれ肥大化して肥大軟骨細胞となる。肥大軟骨細胞は、やがてアポトーシスにより死滅し、それを中心として石灰化が生じる。その後、血管が侵入するが、それと同時に血管周囲の未分化間葉系細胞の分化により骨芽細胞が出現して、石灰化軟骨骨梁に新たな骨芽細胞性骨組織を添加する。このように最終的に、軟骨は骨に置換される。 内軟骨性骨化は軟骨細胞の増殖・分化と密接な関係にあり、多くの分子群によって緻密な機能調節をうけていると考えられる。この調節機能の異常により、骨端軟骨の早期癒合や軟骨の異形成による骨の成長障害、関節や靭帯に生じる異所性骨化、骨端線の閉鎖不全や骨折時の骨癒合不全など、様々な病態が生じる。このため内軟骨性骨化のメカニズムの解明は非常に重要であり、それを応用することで、成長障害や骨軟骨形成異常を伴う骨系統疾患、靭帯の異所性骨化により重篤な四肢麻痺を示す後縦靭帯骨化症、さらには骨折における骨形成の促進など、現在では治療が限られた様々な疾患に対する、新しい治療法の確立に道が開かれる可能性がある。 異所性骨化(内軟骨性骨化)のモデルマウスとして、ttwマウスがよく知られている。ttwマウスは、生後6-8週より全身の軟部組織に異所性骨化を生じる自然発症のモデルマウスである。常染色体劣性遺伝の遺伝形式を示し浸透率もほぼ100%であることより、連鎖解析とcandidate gene approachを用いて、原因遺伝子がnucleotide pyrophosphatase(Npps)遺伝子であることが報告された。NPPSは、ヌクレオチド三燐酸を加水分解して、強力な骨化および石灰化の抑制物質であるピロ燐酸と無機リンを産生する。ttwマウスでは、変異によるNppsの機能不全により局所のピロ燐酸濃度が低下し異所性骨化が生じたと考えられる。 今回の研究では、ttwマウスを用いて、内軟骨性骨化に関与する新規遺伝子を単離することを目的とした。まず我々は、内軟骨性骨化に影響を与える可能性のある物質としてリンとカルシウムに注目し、これらを食事によりttwマウスに負荷し、表現型へ与える影響について検討した。リンとカルシウムの含有量がそれぞれ異なる4種類の食事によりttwマウスを飼育すると、高リン食で飼育したttwマウスには、低リン食で飼育したものと比べて、より早期から異所性骨化が出現し、その骨化の程度も顕著に増強した。そこで、表現型に最も違いのみられた、高リン高カルシウム食と低リン高カルシウム食の2群に分けてttwマウスを飼育し、経時的にその耳介軟骨を採取し、耳介軟骨における発現に違いのみられる遺伝子をDifferential Display法により解析した。その結果、osteopontinと6種類の新規遺伝子を単離した。これらの遺伝子のうちで、リン負荷により耳介軟骨の発現が亢進し、全身の組織の中で軟骨でのみ特異的に発現していた遺伝子Cystatin 10(Cst10)について解析した。 Cst10は、cysteine proteinase inhibitorのひとつであるCystatin Cとアミノ酸レベルで39%のホモロジーを持ち、ttwの耳介軟骨での発現はリン負荷により著明に亢進した。発現は非常に特異的で、組織では軟骨にのみ発現がみられ、その他の組織では全くみられなかった。また、培養細胞では、骨芽細胞、軟骨細胞、線維芽細胞のうち軟骨細胞にのみ発現がみられた。内軟骨性骨化のモデルとされるマウス軟骨細胞様細胞株ATDC5は、インスリンによる分化誘導で軟骨細胞と同様の分化過程をたどり、最終的に骨化を生じる。Cst10は、インスリンによる分化誘導前のATDC5細胞には発現がみられなかったが、分化誘導すると誘導3日後に肥大軟骨細胞のマーカーとされるtype X collagen遺伝子の発現に先立ち発現し、その後分化の進行に伴ってその発現量は増加した。マウスの成長板の免疫組織染色では、増殖細胞層から肥大軟骨細胞層に染色性が認められたが、静止軟骨細胞層には認められなかった。Cst10の細胞内の局在を解析するために、Cst10をCOS7細胞に強制発現させてlysosomeとの2重免疫染色を行ったところ、Cst10はlysosomeと同一部位に局在することが明らかとなった。Cst10の内軟骨性骨化に対する機能を解析するために、Cst10をATDC5細胞に導入・高発現させた細胞株と、ベクターのみ導入した対照細胞株をそれぞれ数クローンずつ樹立し、両群の分化過程を比較検討した。Cst10導入細胞では、II型コラーゲンの発現と軟骨基質を染めるAlcian blueの染色性は対照細胞株と同程度であったが、X型コラーゲンの発現がより早い時期から見られ、Alizarin redの染色性は著明に亢進し、石灰化が亢進していた。これらから、Cst10がATDC5細胞に対して、肥大軟骨細胞への分化促進機能を有することが明らかとなった。また、より発現の強いCst10導入細胞クローンでは、分化誘導後1週後からtrypan blue陽性の浮遊細胞が多数出現したため、浮遊細胞とアポトーシスの関連について解析した。Cst10導入細胞クローンではヘキスト33342で染色により核の断片化がみられ、PIラベル後のフローサイトメトリーにおいてsub-G1 populationが著明に増加しており、初期のアポトーシスの特徴であるAnnexin V染色による細胞膜リン脂質の非対称性の喪失が認められたが、対照細胞株では認められなかった。また、Cst10導入細胞クローンでのみcaspase 3, 8, 9の活性が亢進していたが、その中でもミトコンドリアを介するアポトーシスと関係の深いcaspase 3, 9が著明に亢進していた。これらから、Cst10を強制発現させると、ATDC5細胞にミトコンドリアを介するアポトーシスが生じることが明らかとなった。 今回の研究で、我々が単離した軟骨特異的な新規遺伝子Cst10は軟骨細胞の後期分化とアポトーシスに関与し、内軟骨性骨化に重要な役割をはたしている可能性が高いと考えられ、さらなる研究により、内軟骨性骨化さらには軟骨細胞の分化のメカニズムを明らかにできる可能性がある。 | |
審査要旨 | 本研究は異所性骨化に関与する新規遺伝子を単離し、その機能を解析するために、異所性骨化を生じるマウスのttw(tip toe walking)を用いたDifferential display法により耳介軟骨に発現している遺伝子の解析を試みたものであり、以下の結果を得ている。 1.ttwを様々な種類の食事で飼育した結果、高リン食で飼育したものでは低リン食で飼育したものに比べて、より早期から異所性骨化が出現し、骨化の程度も顕著に増強した。表現型に最も違いのみられた、高リン高カルシウム食と低リン高カルシウム食により飼育したttwの耳介軟骨における発現に違いのみられる遺伝子を、Differential Display法により解析した。その結果、軟骨特異的な新規遺伝子Cystatin 10(Cst10)を単離した。 2.Cst10のttwの耳介軟骨での発現はリン負荷により著明に亢進した。発現は特異的で、組織では軟骨にのみ発現がみられ、その他の組織では全くみられなかった。また、培養細胞でも、骨芽細胞、軟骨細胞、線維芽細胞のうち軟骨細胞にのみ発現がみられた。軟骨細胞と同様の分化過程をたどるマウス軟骨細胞様細胞株ATDC5では、Cst10は分化誘導前には発現がみられなかったが、分化誘導後に肥大軟骨細胞のマーカーのtype X collagen遺伝子の発現に先立ち発現し、その後分化の進行に伴ってその発現量は増加した。マウスの成長板の免疫組織染色では、増殖細胞層から肥大軟骨細胞層に染色性が認められたが、静止軟骨細胞層には認められなかった。また、細胞内の局在を解析すると、Cst10はlysosomeと同一部位に局在していた。 3.Cst10をATDC5細胞に導入・高発現させた細胞株と、ベクターのみ導入した対照細胞株を樹立し、両群の分化過程を比較検討した。Cst10導入細胞では、II型コラーゲンの発現と軟骨基質を染めるAlcian blueの染色性は対照細胞株と同程度であったが、X型コラーゲンの発現がより早い時期から見られ、Alizarin redの染色性は著明に亢進し、石灰化が亢進しており、Cst10がATDC5細胞に対して、肥大軟骨細胞への分化促進機能を有することが示された。 4.また、Cst10導入細胞クローンでは、アポトーシスが生じ、ミトコンドリアを介するアポトーシスと関係の深いcaspase 3, 9が著明に亢進していた。これより、Cst10を強制発現させると、ATDC5細胞にミトコンドリアを介するアポトーシスが生じることが示された。 以上、本論文は異所性骨化を生じるマウスttwの耳介軟骨に発現している遺伝子の解析から、軟骨特異的な新規遺伝子Cst10を単離し、Cst10が軟骨細胞の後期分化とアポトーシスに関与していることを明らかにした。本研究はこれまで多くが不明であった、内軟骨性骨化のメカニズムの解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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