学位論文要旨



No 117409
著者(漢字) 内山,聖一
著者(英字)
著者(カナ) ウチヤマ,セイイチ
標題(和) 高感度発蛍光試薬の開発を指向した蛍光量子収率(Φf)予測法
標題(洋)
報告番号 117409
報告番号 甲17409
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬第973号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 今井,一洋
 東京大学 教授 大和田,智彦
 東京大学 教授 柴崎,正勝
 東京大学 教授 長野,哲雄
 東京大学 教授 嶋田,一夫
内容要旨 要旨を表示する

【目的】

 蛍光誘導体化試薬を用いたHPLC−蛍光検出法は,感度・選択性に優れ,微量物質の定量法として繁用されている.現在までに,多くの蛍光誘導体化試薬が開発されているが,中でも試薬自身が無蛍光性である発蛍光試薬は,過剰量の試薬に由来する妨害がないことから微量分析に適している.当研究室では,蛍光団として分子サイズが小さく,長波長の励起・蛍光波長を有するベンゾフラザン骨格(Fig.1)を選択し,アミン用の発蛍光試薬4-fluoro-7-nitro-2,1,3-benzoxadiazole(NBD-F:4位置換基R4/7位置換基R7=F/NO2),チオール用のammonium 7-fluoro-2,1,3-benzoxadiazole-4-sulfonate(R4/R7=SO3-NH4+/F)などを開発してきた.しかし,さらなる発蛍光試薬の設計・開発のためには,従来その確立が困難であるとされてきた蛍光強度の予測法が必要不可欠と考えられた.以上の背景から,修士課程において4,7位置換ベンゾフラザン化合物における構造と蛍光強度の関係解明を試みた結果,これら化合物の蛍光強度は置換基の電子的効果によって決定されていることが明らかになり,置換基のHammett定数(σp)と蛍光特性を関係付けることに成功した.また,分子軌道法により算出した蛍光団の電子密度,双極子モーメントと蛍光特性の間にも同様の関係が得られ,初めて一つの骨格に対して分子構造から蛍光性の有無を予測可能とした.さらに,得られた関係に基づき従来報告のなかったアルコール用発蛍光試薬7-phenylsulfonyl-4-(2,1,3-benzoxadiazolyl)isocyanate(R4/R7=NCO/SO2Ph)の開発にも成功した.

 博士課程ではこれらの結果を踏まえ,より正確な蛍光強度予測法の確立を目的とした.もし,構造から蛍光量子収率(Φf)の大小を予測することができれば,試薬の設計の際に,誘導体のΦf値についての情報を得ることが可能となり,発蛍光試薬を用いたHPLC−蛍光検出法のさらなる高感度化に寄与できると考えた.さらに,得られた予測法に基づいて高感度発蛍光試薬の開発を試みた.

【置換基内に芳香環を有するベンゾフラザン化合物のΦf値予測法】

 上記関係を検討中,いくつかのベンゾフラザン化合物については,その蛍光性が予測困難であることがわかった.例えば,NBD-Fのグリシン誘導体であるNBD-Glyとトリプトファン誘導体であるNBD-Trpは,7位にNO2基,4位にNHCH(COOH)−基と類似の構造を持つ.そのため,ベンゾフラザン骨格の電子状態は両者でほとんど変わらないが,NBD-Glyが強い蛍光性を有するのに対し,NBD-Trpは無蛍光性であった.この知見から,ベンゾフラザン化合物には蛍光団の電子状態以外に蛍光性を決定する要因が存在すると考えられた.NBD-Trpに対し,4位置換基に含まれるインドール環を開環させると蛍光性の化合物となることから,NBD-Trpを無蛍光性にする機構はベンゾフラザン骨格とインドール環の光誘起電子移動(Photoinduced Electron Transfer : PET)に基づいていると考えた.

 そこで,まずどのような芳香環が蛍光団のΦf値に影響を与えるかを調べるため,蛍光性化合物NBD-NHMe(R4/R7=NHMe/NO2)の溶液に対して芳香族化合物を添加し,吸収・蛍光スペクトルを測定した.その結果,最大吸収波長,モル吸光係数および最大蛍光波長は変化しなかったものの,添加する芳香族化合物によってはNBD-NHMeの消光現象が確認された.Stern-Volmer式により各芳香族化合物の消光能を表すK値を算出し,芳香環の電子密度を表すHOMO,LUMOエネルギーと比較したところ,HOMOエネルギーの大きい化合物もしくはLUMOエネルギーの小さい芳香族化合物ほどK値が大きくなり(Table 1),この消光が添加した芳香族化合物と励起状態にあるNBD-NHMeの分子間電子移動に由来することが確認された.次に,NBD-NHMeの4位置換基末端に芳香環を有する誘導体(R4/R7=NHCH2-C6H4-p-R/NO2)を合成し,その吸収・蛍光スペクトルを測定したところ,最大吸収波長,モル吸光係数および最大蛍光波長はNBD-NHMeとほとんど変わらなかった.一方,添加実験において,K値の大きい芳香族化合物に対応する芳香環を置換基内に有する化合物ほどΦf値が低下していた(Table 1).以上より,置換基内に芳香環を有するベンゾフラザン化合物のΦf値においてはPETによる影響があることが明らかとなり,Φf値の大小は,添加実験によるK値の算出や,分子軌道計算によるHOMO,LUMOエネルギーの算出によって予測可能となった.

【種々の置換基を有するベンゾフラザン化合物のΦf値予測法】

 σp値と蛍光性の関係から,ベンゾフラザン化合物のΦf値は蛍光団の電子状態によって決定づけられていると考えられるため,まず,4位置換化合物におけるΦf値と分子軌道法によって得られる蛍光団のエネルギー準位の関係についてその解明を試みた.11種化合物(R4=H,NMe2,NH2,SMe,SPh,NHAc,OMe,SO2Me,F,SO2Ph,NO2)を合成し,その吸収・蛍光スペクトルをシクロヘキサン(CH)中にて測定した.また,最適なエネルギー準位の計算法はCH中におけるS0-S1遷移エネルギーと分子軌道法により得られたS0-S1遷移エネルギーを比較することにより選択した.その結果,構造最適化およびエネルギー準位計算に,半経験的分子軌道法PM3法およびPM3-CAS-CI(CI=5)法を用いると,実測と計算のS0-S1遷移エネルギーの間に良好な比例関係が得られた(相関係数r=0.949).そこで,この計算方法によって得られたエネルギー準位とCH中のΦf値を比較したところ,T2状態とS1状態のエネルギー差ΔE(T2-S1)とΦf値の間に良好な関係が得られ(Fig.2),大きいΔE(T2-S1)値を与える化合物ほどΦf値が大きくなることが判明した.一方,5位置換化合物については光分解実験,熱レンズ測定,過渡吸収スペクトル測定から,S2状態とS1状態が離れている化合物ほど励起状態からの光分解が起こりにくくなることが判明し,ΔE(S2-S1)値とΦf値の間に良好な関係が得られた(Fig.3).同様に4,7位置換化合物に対してもΔE(T2-S1)およびΔE(S2-S1)値が大きいほど,Φf値が大きくなるという関係が得られ,ベンゾフラザン化合物のΦf値の大小は,半経験的分子軌道法により,予測可能であることが明らかとなった.

【高感度カルボン酸用発蛍光誘導体化試薬の開発】

 ΔE(T2-S1)およびΔE(S2-S1)値が大きい化合物ほどΦf値が大きいという関係を利用して,既存の試薬に対して高感度化が可能であるカルボン酸用発蛍光試薬の開発を行った.まず,カルボン酸との反応部位として4位置換基にSH基を選択した.次に,σp値と蛍光性の関係を用いることにより,σp値が-0.27〜0.03である置換基,すなわちOMe(σp=-0.27),Me(-0.17),SMe(0.00),NHAc(0.00)基などを7位として選択した際に,発蛍光試薬となることがわかった.そこで,これら4種の酢酸誘導体について分子軌道計算を行ったところ,ΔE(T2-S1)値は,7位置換基によってSMe(0.989 eV)>NHAc(0.557)>OMe(0.399)>Me(0.106),ΔE(S2-S1)値はSMe(0.990 eV)>OMe(0.952)>NHAc(0.911)>Me(0.743)となり,7位にSMe基を有する誘導体のΦf値が最も大きいと予測された.以上より4-mercapto-7-methylthio-2,1,3-benz-oxadiazole(MTBD-SH : R4/R7=SH/SMe)を最も高感度な発蛍光試薬として設計した.MTBD-SHは2,6-difluoroanilineより5工程で合成し,さらに酢酸との誘導体としてMTBD-SAc(R4/R7=SAc/SMe)を得た.MTBD-SH,MTBD-SAcの吸収,蛍光スペクトルを測定したところ,予測通りMTBD-SHは無蛍光性であり,MTBD-SAcは強い蛍光性であった(Table 2).また,MTBD-SAcのΦf値は比較のために合成した化合物AABD-SAc(R4/R7=SAc/NHAc)のΦf値の2〜5倍でありΔE(T2-S1),ΔE(S2-S1)値による予測法の正確性が立証された.MTBD-SHとカルボン酸の誘導体化反応は,縮合剤の存在下,室温1分以内に完結した.実際に,5種類の脂肪酸をMTBD-SHによって誘導体化し,逆相HPLCによって分離分析を行った結果,各誘導体のみが良好に検出され(Fig.4),それらの検出限界は2.4-5.0fmol(S/N=3)であった.以上より,MTBD-SHが高感度かつ高反応性のカルボン酸用発蛍光試薬であることが確認された.

【まとめ】

 本研究では,ベンゾフラザン化合物のΦf値に影響を与える要因,すなわち置換基に含まれる芳香環と蛍光団の間で起こるPET,およびベンゾフラザン骨格に直接結合する置換基により決定する蛍光団のエネルギー準位について検討を行い,ベンゾフラザン化合物のΦf値に対する予測法を得ることに成功した.本研究の結果は,簡潔で一般性がある上に,分子レベルで起きている現象に基づいているため,物理化学的見地から大変意義深いといえる.また開発した試薬MTBD-SHは,従来の試行錯誤による方法では設計することが難しいと考えられ,構造とΦf値の関係が,新しい蛍光試薬の開発に大きく役立つことを示した.Φf値の予測法は,他の蛍光団に対しても同様の手法で導くことが可能であると考えられ,本研究の結果が,実用性の高い発蛍光試薬の開発分野における指針となることを期待している.

Fig.1 ベンゾフラザン骨格

Table 1 ベンゾフラザン環と他の芳香環による分子間消光と分子内消光

Fig.2 4位置換化合物におけるΔE(T2-S1)とΦfの関係

Fig.3 5位置換化合物におけるΔE(S2-S1)とΦfの関係:構造最適化にはAM1

(EXCITED)法,エネルギー準位計算にはAM1-CAS-CI(CI=6)法を使用

Fig.4 5種カルボン酸誘導体の分離検出

(1)n-caprylic,(2)n-capric,(3)lauric,(4)myristic,(5)palmitic acids各10 pmol ex.391,em.519nm

Table 2 MTBD-SHおよびMTBD-SAcの吸収・蛍光特性

審査要旨 要旨を表示する

 試薬自身が無蛍光性である発蛍光試薬は,過剰量の試薬由来の妨害がないことから,HPLC−蛍光検出法のみならず広く自然科学分野で用いられている。この中で,蛍光団として分子サイズが小さく,長波長の励起・蛍光波長を有するベンゾフラザン骨格は前任者により選択され,アミン用の発蛍光試薬4-fluoro-7-nitro-2,1,3-benzoxadiazole(NBD-F),チオール用のammonium 7-fluoro-2,1,3-benzoxadiazole-4-sulfonate(SBD-F)などが開発されている.しかし,これらは試行錯誤的に開発されてきたものである。そこで筆者は,さらなる発蛍光試薬の設計・開発のためには,蛍光量子収率(Φf)の予測法が必要不可欠と考えた.ベンゾフラザン化合物の構造と蛍光特性の関係を,置換基のHammett定数(σp)を用いた経験的方法および分子軌道計算による理論的方法により解析し,化合物の構造から蛍光量子収率を予測する方法を開発した。また,このようにして得た予測法に基づいて高感度発蛍光試薬を開発した.

1.置換基内に芳香環を有するベンゾフラザン化合物のΦf値予測法

 NBD-Fのグリシン誘導体であるNBD-Glyとトリプトファン誘導体であるNBD-Trpは,前者が強い蛍光性を有するのに対し,後者は無蛍光性であった.両者は7位にNO2基,4位にNHCH(COOH)−基と類似の構造を持つため,ベンゾフラザン骨格の電子状態は両者でほとんど変わらない.従って,ベンゾフラザン化合物には蛍光団の電子状態以外に蛍光性を決定する要因が存在すると考えられた.NBD-Trpに対し,4位置換基に含まれるインドール環を開環させると蛍光性の化合物となることから,NBD-Trpを無蛍光性にする機構はベンゾフラザン骨格とインドール環の光誘起電子移動(Photoinduced Electron Transfer : PET)に基づいていると考えた.

 そこで,まずどのような芳香環が蛍光団のΦf値に影響を与えるかを調べるため,蛍光性ベンゾフラザン化合物の溶液に対して芳香族化合物を添加し,吸収・蛍光スペクトルを測定した.その結果,最大吸収波長,モル吸光係数および最大蛍光波長は変化しなかったが,添加する芳香族化合物によっては消光現象が確認された.Stern-Volmer式により各芳香族化合物の消光能を表すK値を算出し,芳香環の電子密度を表すHOMO,LUMOエネルギーと比較したところ,HOMOエネルギーの大きい化合物もしくはLUMOエネルギーの小さい芳香族化合物ほどK値が大きくなり,この消光が添加した芳香族化合物と励起状態にある蛍光性ベンゾフラザン化合物の分子間電子移動に由来することが確認された.この知見をもとに,蛍光性ベンゾフラザン化合物の置換基末端に芳香環を有する誘導体を合成し,その吸収・蛍光スペクトルを測定したところ,最大吸収波長,モル吸光係数および最大蛍光波長はほとんど変わらなかった.一方,添加実験において,K値の大きい芳香族化合物に対応する芳香環を置換基内に有する化合物ほどΦf値が低下していた.以上より,置換基内に芳香環を有するベンゾフラザン化合物のΦf値においてはPETによる影響があることが明らかとなり,Φf値の大小は,添加実験によるK値の算出や,分子軌道計算によるHOMO,LUMOエネルギーの算出によって予測可能であることを明らかにした.

2.種々の置換基を有するベンゾフラザン化合物のΦf値予測法

 σp値と蛍光性の関係から,ベンゾフラザン化合物のΦf値は蛍光団の電子状態によって決定づけられていると考えられるため,まず,4位置換化合物におけるΦf値と分子軌道法によって得られる蛍光団のエネルギー準位の関係についてその解明を試みた.11種化合物を合成し,その吸収・蛍光スペクトルをシクロヘキサン(CH)中にて測定した.また,最適なエネルギー準位の計算法はCH中におけるS0-S1遷移エネルギーと分子軌道法により得られたS0-S1遷移エネルギーを比較することにより選択した.その結果,構造最適化およびエネルギー準位計算に,半経験的分子軌道法PM3法およびPM3-CAS-CI(CI=5)法を用いると,実測と計算のS0-S1遷移エネルギーの間に良好な比例関係が得られた(相関係数r=0.949).そこで,この計算方法によって得られたエネルギー準位とCH中のΦf値を比較したところ,T2状態とS1状態のエネルギー差ΔE(T2-S1)とΦf値の間に良好な関係が得られ,大きいΔE(T2-S1)値を与える化合物ほどΦf値が大きくなることが判明した.

一方,5位置換化合物については光分解実験,熱レンズ測定,過渡吸収スペクトル測定から,S2状態とS1状態が離れている化合物ほど励起状態からの光分解が起こりにくくなることが判明し,ΔE(S2-S1)値とΦf値の間に良好な関係が得られた.同様に4,7位置換化合物に対してもΔE(T2-S1)およびΔE(S2-S1)値が大きいほど,Φf値が大きくなるという関係が得られ,ベンゾフラザン化合物のΦf値の大小は,半経験的分子軌道法により,予測可能であることが明らかとなった.

3.高感度カルボン酸用発蛍光誘導体化試薬の開発

 ΔE(T2-S1)およびΔE(S2-S1)値が大きい化合物ほどΦf値が大きいという関係を利用して,既存の試薬よりも高感度化が可能であるカルボン酸用発蛍光試薬の開発を行った.まず,カルボン酸との反応部位として4位置換基にSH基を選択した.次に,先に得られたσp値と蛍光性の関係を用いることにより,σp値が-0.27〜0.03である置換基,すなわちOMe(σp=-0.27),Me(-0.17),SMe(0.00),NHAc(0.00)基などを7位として選択した際に,発蛍光試薬となることが予測された.そこで,これら4種の酢酸誘導体について分子軌道計算を行ったところ,ΔE(T2-S1)値は,7位置換基によってSMe(0.989eV)>NHAc(0.557)>OMe(0.399)>Me(0.106),ΔE(S2-S1)値はSMe(0.990 eV)>OMe(0.952)>NHAc(0.911)>Me(0.743)となり,7位にSMe基を有する誘導体のΦf値が最も大きいと結論づけられた.以上より4-mercapto-7-methylthio-2,1,3-benzoxadiazole(MTBD-SH : R4/R7=SH/SMe)を最も高感度な発蛍光試薬として設計した.MTBD-SHは2,6-difluoroanilineより5工程で合成し,さらに酢酸との誘導体としてMTBD-SAc(R4/R7=SAc/SMe)を得た.MTBD-SH,MTBD-SAcの吸収,蛍光スペクトルを測定したところ,予測通りMTBD-SHは無蛍光性であり,MTBD-SAcは強い蛍光性であった.MTBD-SHとカルボン酸の誘導体化反応は,縮合剤の存在下,室温1分以内に完結した.実際に,5種類の脂肪酸をMTBD-SHによって誘導体化し,逆相HPLCによって分離分析を行った結果,各誘導体のみが顕著なピークとして検出され,それらの検出限界は2.4−5.0fmol(S/N=3)であった.以上より,MTBD-SHが高感度かつ高反応性のカルボン酸用発蛍光試薬であることが確認された.

 以上のように,本研究では,ベンゾフラザン化合物のΦf値に影響を与える要因として置換基に含まれる芳香環と蛍光団の間で起こるPET,およびベンゾフラザン骨格に直接結合する置換基により決定する蛍光団のエネルギー準位について検討を行い,ベンゾフラザン化合物のΦf値に対する予測法を得ることに成功した.またこの予測法に基付き開発した試薬MTBD-SHは,従来の試行錯誤による方法では設計することが難しいと考えられ,構造とΦf値の関係が,新しい蛍光試薬の開発に大きく役立つことを示した.Φf値の予測法は,他の蛍光団に対しても同様の手法で導くことが可能であると考えられ,本研究の結果は,実用性の高い発蛍光試薬の開発分野における指針となることが期待され,博士(薬学)の学位論文として十分な価値があるものと認めた.

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