学位論文要旨



No 117536
著者(漢字) 徐,中明
著者(英字)
著者(カナ) ジョ,チュウメイ
標題(和) セミアクティブサスペンションによる大型車の乗り心地向上に関する研究
標題(洋)
報告番号 117536
報告番号 甲17536
学位授与日 2002.07.18
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5302号
研究科 工学系研究科
専攻 産業機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 藤岡,健彦
 東京大学 教授 藤田,隆史
 東京大学 教授 須田,義大
 東京大学 教授 鎌田,実
 東京大学 助教授 金子,成彦
内容要旨 要旨を表示する

 高速道路の発展に伴い、大型車の保有量が増加してきている。ドライバの生活場としてのキャブの居住性、快適性のニーズが高まっている。乗用車の振動乗り心地の改善にともなって、大型トラックの振動乗り心地の改善も必要になってきている、トラクタ・セミトレーラの場合には、トラクタ側ホイールベースが短いなど厳しい条件に加えて、連接構造による振動がさらに付加される。長距離、長時間運行を行なう大型車にとって、ドライバの疲労軽減、快適性確保の意味から乗り心地は重要である。制御式サスペンションは大型車乗り心地向上の有効な手段と考えられる。セミアクティブ制御は制御のためのパワーが不要で装置も簡単になり、フルアクティブ制御より安全性や信頼性やメンテナンス性などもよく、現状車両への変更も容易できる。本論文では、このような背景のもとで、キャブサスペンションのダンパを制御することにより、大型車の乗り心地がどの程度向上するかを、不整路面を想定した走行シミュレーションにより解析している。

 本論文は本文6章と付録2章より構成されている。

 第1章は「序論」と題し、研究の背景や目的について述べている。

 第2章では「大型トラックのモデリング」と題し、大型車の質点系によるモデルを述べている。まず、キャブ、エンジン、フレームと積荷を一緒にしたもの、前後ばね下の5質点系で構成された単車トラック8自由度モデルをモデリングした。次にトラックフレームのビーミングを考慮し、一般的な梁の弾性横振動の理論より導いたビーミングの運動方程式を各質点の剛体振動と組み合わせることにより、大型単車トラックフレームのビーミングを考慮した15自由度モデルを構築した。ついで、キャブ、トラクタシャシ、トラクタ前後ばね下、セミトレーラ及びトレーラのばね下の6質点で構成されたトラクタ・セミトレーラ9自由度振動モデルを作成した。最後に、使用するパラメータをメーカの設計値をもとに計算し、パラメータの妥当性を確認した。

 第3章では「加速度ダンパの提案及びカーノップダンパとの比較」と題し、新しいダンパ制御則として加速度ダンパを提案している。まず、従来よく使用されていた理想的なスカイフックダンパを制御モデルとするカーノップ(Karnopp)ダンパセミアクティブ制御に対して、加速度フィードバックアクティブを制御モデルとする加速度ダンパセミアクティブ制御則を提案した。加速度ダンパが従来のカーノップダンパ制御と比べて同等の制御効果があることを2自由度モデルにおけるシミュレーションより確認した。加速度ダンパは、センサの誤差やノイズなどに対するロバスト性がよいことを理論的に証明したうえ、単車前輪2自由度モデルと単車8自由度モデルにおけるばね上とばね下の相対速度に誤差があるときのシミュレーションにより確認した。

 第4章では「大型単車トラックのセミアクティブモデルにおけるシミュレーション」と題し、提案した加速度ダンパを制御方式として適用し、セミアクティブサスペンションによる単車トラックの乗り心地シミュレーションを行ない、乗り心地の改善効果を確認している。実現の容易性及び故障したときの安全性を考慮に入れて、キャブサスペンションにダンパ制御することにより、フレームのビーミングを考慮した単車トラック15自由度モデルにおけるシミュレーション結果、シート座面上の上下振動の乗り心地レベルは117.8dBから116.5dBとなり、1.3dB改善された。また、車速が100[km/h]、60[km/h]及び40[km/h]1のとき同じ路面で走行シミュレーションした結果、ダンパ制御の有効性が確認できた。

 第5章では、「トラクタ・セミトレーラのセミアクティブモデルにおけるシミュレーション」と題し、トラクタ・セミトレーラのキャブサスペンションの制御に提案した加速度ダンパを適用した。キャブのピッチング振動が単車トラックや乗用車に比べて大きいこの車種の特性を考慮し、キャブピッチングを考慮した加速度ダンパを展開した。キャブピッチングを考慮した加速度ダンパを用い、トラクタ・セミトレーラの乗り心地シミュレーションの結果、キャブサスペンションにおけるキャブピッチングを考慮した加速度ダンパ制御により、キャブサスペンションのストロークを同じレベルに保ったまま、キャブ重心の上下振動はやや改善(0.5dB)、キャブのピッチング振動は大きく改善(2.3のピークで76%に)できることを示した。また、車速が100[km/h]、60[km/h]及びキャブ質量が増加のとき同じ路面で走行シミュレーションした結果、ダンパ制御の有効性が確認できた。

 第6章は「結論」と題し、本論文の成果を総括するとともに今後の課題について述べている。主な結論は下記の通りである。

(1)従来よく使用されていたスカイフックダンパを制御モデルとするカーノップダンパに対して、加速度フィードバックを制御モデルとする加速度ダンパを提案した。

(2)提案した加速度ダンパはカーノップダンパと比べて同等の制御効果があり、センサの誤差やノイズに対するロバスト性がより優れていることを示した。

(3)単車トラックキャブサスペンションに提案した加速度ダンパを適用した。シミュレーションの結果、乗り心地を13.9%向上できることを示した。また、車速が100[km/h]、60[km/h]及び40[km/h]のとき同じ路面で走行シミュレーションした結果、ダンパ制御の有効性が確認できた。

(4)トラクタ・セミトレーラのキャブサスペンションの制御に提案した加速度ダンパを適用した。キャブのピッチング振動が単車トラックや乗用車に比べて大きいこの車種の特性を考慮し、加速度ダンパを展開した。この方法により、キャブサスペンションのストロークを同じレベルに保ったまま、キャブ重心の上下振動をやや改善(0.5dB)し、ピッチング振動を大きく改善(2.3Hzピークのところで76%に)できることを示した。

 さらに、付録第1章では「乗り心地の評価」と題し、振動乗り心地評価について概説している。まず、振動に対する人間の感覚及び乗り心地に影響する要因を示した。ついで、IS02631人体全身振動評価国際規格を紹介し、自動車乗り心地の評価を説明した。最後に走行シミュレーションのための路面不整のランダム乱数入力データを作成した。

 付録第2章では「大型トラックのパッシブモデルにおける振動解析」と題し、大型トラックの振動特性、キャブの振動乗り心地に対して、単車トラック及びトラクタ・セミトレーラのキャブサスペンションパラメータの影響を検討している。本章では、ショックアブソーバの平均減衰係数を使う影響を単車前輪2自由度モデルとトラクタ・セミトレーラ9自由度モデルでシミュレーションの結果、平均減衰係数を使うと、ばね上の変位とサスペンションのストロークがダンパの縮む値及び伸びる値を使った結果よりプラス方向に少し移動し、ばね上の加速度ランダム応答がダンパの縮む値及び伸びる値を使った結果よりプラス方向に少し移動し、差が非常に小さく(トラクタ・セミトレーラ9自由度モデルの場合は差が見られない)、同じ周波数特性を持っていることを示している。乗り心地の観点から、キャブサスペンションのばね定数が小さいほうがよいが、サスペンションのストローク制限及びトラックの他性能(操縦性、安定性など)と矛盾するため、充分に小さくすることは困難である。減衰係数のほうでは共振のピーク及びピッチング振動を抑えるためには大きい方が望ましく、上下振動乗り心地に対しては小さいほうが望ましいという二律背反の関係があることが示されている。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、「セミアクティブサスペンションによる大型車の乗り心地向上に関する研究」と題し、本文6章と付録2章からなっている。

 高速道路の発展に伴い、大型車の保有量が増加してきている。ドライバの生活場としてのキャブの居住性、快適性のニーズが高まっている。乗用車の振動乗り心地の改善にともなって、大型トラックの振動乗り心地の改善も必要になってきている。トラクタ・セミトレーラの場合には、トラクタ側ホイールベースが短いなどに加えて、連接構造による振動がさらに付加される。長距離、長時間運行を行なう大型車にとって、ドライバの疲労軽減、快適性確保の意味から乗り心地は重要である。制御式サスペンションは大型車乗り心地向上の有効な手段と考えられる、セミアクティブ制御は制御のためのパワーが不要で装置も簡単になり、フルアクティブ制御より安全性や信頼性やメンテナンス性などもよく、現状車両への変更も容易できる。本論文では、このような背景のもとで、キャブサスペンションのダンパを制御することにより、大型車の乗り心地がどの程度向上するかを、不整路面を想定した走行シミュレーションにより解析している。

 第1章は「序論」と題し、研究の背景や目的について述べている。

 第2章では「大型トラックのモデリング」と題し、大型車の質点系によるモデルを述べている。単車トラック8自由度モデルをモデリングした後、トラックフレームのビーミングを考慮し、一般的な梁の弾性横振動の理論より導いたビーミングの運動方程式を各質点の剛体振動と組み合わせることにより、大型単車トラックフレームのビーミングを考慮した15自由度モデルを構築した。ついで、トラクタ・セミトレーラ9自由度振動モデルを作成した。最後に、使用するパラメータをメーカの設計値をもとに計算し、パラメータの妥当性を確認した。

 第3章では「加速度ダンパの提案及びカーノップダンパとの比較」と題し、新しいダンパ制御則として加速度ダンパを提案している。まず、従来よく使用されていたスカイフックダンパを制御モデルとするカーノップ(Karnopp)ダンパセミアクティブ制御に対して、加速度フィードバックアクティブを制御モデルとする加速度ダンパセミアクティブ制御則を提案した。提案した加速度ダンパが従来のカーノップダンパ制御と比べて同等の制御効果があることを2自由度モデルにおけるシミュレーションより確認した。提案した加速度ダンパはセンサの誤差やノイズなどに対するロバスト性がよいことを感度解析で証明したうえに、単車前輪2自由度モデルと単車8自由度モデルにおけるばね上とばね下の相対速度に誤差があるときのシミュレーションにより確認した。

 第4章では「大型単車トラックのセミアクティブモデルにおけるシミュレーション」と題し、提案した加速度ダンパを制御方式として適用し、セミアクティブサスペンションによる単車トラックの乗り心地シミュレーションを行ない、乗り心地の改善効果を確認している。キャブサスペンションにダンパ制御を適用し、フレームのビーミングを考慮した単車トラック15自由度モデルにおけるシミュレーションの結果、シート座面上の上下振動の乗り心地レベルは117.8dBから116.5dBとなり、1.3dB改善された。

 第5章では、「トラクタ・セミトレーラのセミアクティブモデルにおけるシミュレーション」と題し、トラクタ・セミトレーラのキャブサスペンションの制御に加速度ダンパを適用した。キャブのピッチング振動が単車トラックや乗用車に比べて大きいこの車種の特性を考慮し、キャブピッチングを考慮した加速度ダンパの制御則を展開した。キャブピッチングを考慮した加速度ダンパを用い、トラクタ・セミトレーラの乗り心地シミュレーションを行なった結果、キャブサスペンションにおけるキャブピッチングを考慮した加速度ダンパ制御により、キャブサスペンションのストロークを同じレベルに保ったまま、キャブ重心の上下振動はやや改善(0.5dB)、キャブのピッチング振動は大きく改善(2.3Hzのピークで76%に)できることを示した。

 第6章は「結論」であり、本論文で得られた結果を纏めている。

 以上を要約すると、本論文では従来よく使用されていたスカイフックダンパを制御モデルとするカーノップダンパに対して、加速度フィードバックを制御モデルとする加速度ダンパを提案した。提案した加速度ダンパはカーノップダンパと比べて同等の制御効果があり、センサの誤差やノイズに対するロバスト性がより優れていることを示した。提案した加速度ダンパを単車トラックとトラクタ・セミトレーラヘ適用した。トラクタ・セミトレーラで問題となっているピッチング振動を、ピッチング振動を考慮した加速度ダンパ制御則を展開することによりトラクタ・セミトレーラの乗り心地向上できることを示した。以上の結果は産業機械工学及び車両工学の発展に寄与するところが少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク