No | 117547 | |
著者(漢字) | 大久保,貴生 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | オオクボ,タカオ | |
標題(和) | 肝阻血再潅流におけるNGFI-B系遺伝子の発現 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 117547 | |
報告番号 | 甲17547 | |
学位授与日 | 2002.09.04 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2040号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 外科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1.背景と目的 ステロイド、レチノイン酸、甲状腺ホルモン及びビタミンDの脂溶性ホルモンは細胞膜を透過し特異的核受容体に結合し、この複合体が転写調節因子として標的遺伝子の発現を調節する。1985年以降多くの核受容体の構造が決定され、これらが特徴的な構造を持つことがわかった。これらの特徴的ドメイン構造をもつ蛋白群を核受容体スーパーファミリー(nuclear receptor superfamily)と総称している。このうちリガンドが不明なものはオーファン受容体(orphan receptor)と呼ばれている。Nerve growth factor-induced gene B(NGFI-B)、Nur-related factor 1(Nurrl)及びneuron-derived orphan receptor 1(NOR-1)は核受容体スーパーファミリーに属するオーファン受容体である。これらの分子は神経細胞に特異的な機能を持つと考えられていた。NGFI-Bサブファミリーの神経系での役割に注目している研究も散見される。一般的にNGFI-Bサブファミリーに属する遺伝子は神経の分化、発生及びアポトーシスに重要な働きをしていると考えられている。一方でNGFI-Bサブファミリーの遺伝子の一つであるNur-related factor 1(Nurrl)は肝切除後の肝再生との関与が示唆されている。Nurrlは実際には肝再生の過程で発現するのではなく、肝阻血再潅流障害に伴って発現している可能性があるのではないかと仮説を立て、これを検証した。 2.材料と方法 阻血再灌流障害のモデルとしてラットを用い門脈左枝および肝動脈左枝を60分間クランプし肝阻血を行い、再潅流を行った。NGFI-Bサブファミリー遺伝子の発現を阻血再灌流障害のモデルのラットの肝臓でreverse transcriptional-polymerase chain reaction(RT-PCR)を用い検討した。このラットの肝臓においてNGFI-B遺伝子発現の局在性を確認するためにin situ hybridizationを行い検討した。NGFI-Bサブファミリーのプロモーター領域にcyclic adenosine-5'-diphosphate response element(CRE)が存在することからphospho-Ser-133-specific cyclic adenosine-5'-diphosphate response element binding protein(pCREB)の発現とNGFI-Bサブファミリーとの結合をWesternblot法及びgel shift assayを用いて検討した。プリングル法による肝阻血下に行われた肝切除術の阻血前の検体と肝切除後の標本より得られたヒトの肝臓においてもNGFI-Bサブファミリー遺伝子の発現を検討した。 3.結果 阻血再灌流障害のモデルのラット肝臓においてNGFI-Bサブファミリーの遺伝子は肝阻血再潅流後30分鱗現が認められた。一般的にシク・ヘキシミドは蛋白合成を阻害し、ラットの肝臓においてアポトーシスを引き起こすといわれている。前述のNurr1の検討ではシクロヘキシミドを投与しているため、この効果について検証した。NGFI-Bサブファミリーの遺伝子の発現量はシクロヘキシミドによって増大した。またIn situ hybridizationにてNGFI-B遺伝子の発現部位を検討したところ、肝阻血再潅流30分後の検体にてNGFI-B mRNAが主に中心静脈周囲の肝細胞に認められた。NGFI-Bサブファミリーの遺伝子の発現にCREBとCREを介した経路の関与が認められるかを検証した。CREBとCREの結合によってCREを含む遺伝子の発現が引き起こされ、さらにCREBの転写活性はSer133のリン酸化により規制されている。シクロヘキシミド投与群の阻血再灌流障害のモデルのラット肝臓で再潅流後15分からCREB Ser133リン酸化は認められ、再潅流後30分で最高値となった。さらにこのリン酸化は再潅流後60分まで続いた。human NOR-1遺伝子のプロモーター領域よりCREB binding siteを持つdouble strand DNA probe(cgtcccaTGGCGTCAcatTGACGTCTcgcattccagg)を用いたgel shift assayにて肝細胞核抽出物はタンバクーヌクレオチド複合体を形成し、電気泳動にて2つの異なるバンドを形成した。Competition analysisにおいて、20倍濃度のオリゴヌクレオチドにより複合体形成は阻害された。これにより肝臓においてCREBがNOR-1と結合することを明らかにした。手術標本から得られたヒトの検体ではNGFI-Bサブファミリー遺伝子が阻血前より阻血後に上昇した。NGFI-B遺伝子発現レベルはNOH遺伝子の約100倍、そしてNurr1遺伝子の約10倍の強さを認めた。 4.検討 本研究においてラット及びヒトにおいて、NGFI-B、NOR-1及びNurr1の遺伝子発現を肝阻血再還流障害において検討した。NGFI-BmRNA発現は、中心静脈周囲の肝細胞に認められ、温阻血障害により中心静脈周囲の肝細胞が最も傷害されるという報告を考慮するとNGFI-BmRNA発現は虚血性障害によって誘発されたことが示唆される。また、本実験ではこれらの遺伝子が再還流後早期に一過性に発現していることを示した。この発現パターンはimmediate-early geneに特徴的であり、他の生物学的な系においても、しばしば認められるものである。 NGFI-Bサブファミリーのプロモーター領域にCREB結合領域が認められていることから、CREBとCREを介した経路が細胞死の過程でNOR-1遺伝子の早期一過性発現に重要であることが示唆されている。今回の検討でもCREBとCREを介した経路の関与が認められるかを検証した。CREBとCREの結合によってCREを含む遺伝子の発現が引き起こされ、さらにCREBの転写活性はSer133のリン酸化により規制されている。抗リン酸化CREB抗体を用いたWestern blot法による解析では、阻血再灌流障害のモデルのラット肝臓では、CREBSer133リン酸化は再潅流後15分から認められ、最高値が再潅流後30分で認めることを示した。gel shift assayでは実際にNOR-1遺伝子のプロモーター領域に結合するCREBを示した。immediate-early geneの肝阻血再潅流における役割は未だ明らかではないが、CREBとCREを介した経路が肝阻血再潅流におけるNGFI-Bサブファミリー遺伝子の早期一過性発現に関与する可能性が示唆される。 5.結論 ヒト及びラットの肝臓における阻血再潅流障害でNGFI-Bサブファミリー遺伝子の早期一過性発現が認められた。CREBとCREを介した経路が肝阻血再潅流におけるNGFI-Bサブファミリー遺伝子の早期一過性発現に重要であることを示唆した。 | |
審査要旨 | 本研究はNerve growth factor-induced geneB(NGFI-B)、Nur-related factor 1(Nurr1)及びneuron-derived orphan receptor 1(NOR-1)によるNGFI-Bサブファミリー遺伝子発現を肝阻血再還流障害の潜在的決定要素として,ラット肝阻血再灌流モデル及び手術検体から得られたヒト肝臓を用い、検討したものであり、下記の結果を得ている。 1.ラット肝阻血再灌流モデル用いたreverse transcriptional-polymerase chain reaction(RT-PCR)による解析の結果、NGFI-BサブファミリーmRNA発現量が阻血再潅流後30分で一過性の発現をすることが示された。NGFI-BサブファミリーmRNAの発現量はintemal standard RNAを用いた定量RT-PCRにて定量され経時的変化のあることが示され、NGFI-Bサブファミリーの各メンバーは異なったレベルの発現をすることが示された。 2.肝臓にアポトーシスを誘導し、immediate-early geneの発現を増強するとされるシクロヘキシミドを投与したラット肝阻血再灌流モデルを用いた検討の結果、シクロヘキシミド投与のみでもNGFI-BサブファミリーmRNA発現が認め、アポトーシスを起こす過程において、NBFI-Bサブファミリーが発現することが示された。RT-PCRによる検討を行ったところ、NGFI-BサブファミリーmRNAの発現はシクロヘキシミド投与により増強しており、NGFI-Bサブファミリーがimmediate-early geneの特徴を持つことが示された。 3.FITC標識アンチセンスNGFI-Bプローブを用いた1ηs1加hybridizationをシャム手術を施行したラットの肝臓とシクロヘキシミド投与した肝阻血再潅流後30分のラット肝臓に行ったところ、シクロヘキシミド投与したラット肝阻血再潅流30分後の検体にてNGFI-B mRNAが中心静脈周囲の肝細胞に主に発現していることが示された。 4.NGFI-Bファミリーのプロモーター領域にCREB(cyclic adenosine-5'-diphosphate response element binding protein)結合領域が認められていることと、NGF1-Bサブファミリー遺伝子の発現にCREBとCRE(cyclicadenosine-5'-diphosphate response element)を介した経路が関与しているとされていることより、活性型CREBであるpCREB(phospho-Ser-133-specific cyclica(ienosine-5'-diphosphate response element binding protein)の発現を抗pCREB抗体によるWestern blot法を用いて、解析したところ、ラット肝阻血再潅流後15分から60分に一過性のpCREBの発現が示された。NOR-1遺伝子のプロモーター領域より設計された2つのCREB binding siteを持つdouble strand DNA probeを用い、ラット肝細胞培養株より調整された核抽出液中で、gelshift assayを行ったところ、NOR-1遺伝子のプロモーター領域に結合するCREBが示された。したがってCREBとCREを介した経路が肝阻血再潅流におけるNGFI-Bファミリー遺伝子の早期一過性発現に関与すると考えられた。 5.インフォームドコンセントを得たうえで、肝切除によって得られた阻血前および阻血後のヒトの検体を用いて、RT-PCRを行ったところ、NGFI-Bサブファミリー遺伝子が阻血前より阻血後に上昇することが示された。定量RT-PCRによる検討では、NGFI-Bサブファミリーの各メンバーは異なったレベルの発現をすることが示された。 以上、本論文はRT-PCRによる検討からヒト及びラットの肝臓における阻血再潅流障害でNGFI-Bサブファミリー遺伝子の早期一過性発現を明らかにし、このNGFI-Bサブファミリー遺伝子の発現にはCREBとCREを介した経路が関与することを示唆した。本研究ではこれまで神経の分化、発生およびアポトーシスに重要な働きをしていると考えらていたNGFI-Bサブファミリー遺伝子を肝阻血再灌流障害にて検討したところは独創的であり、いまだ十分解明されたとはいえないNGFI-Bサブファミリー遺伝子の役割及び、肝阻血再灌流障害の機序に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |