学位論文要旨



No 117556
著者(漢字) 岡野,浩行
著者(英字)
著者(カナ) オカノ,ヒロユキ
標題(和) 出芽酵母の接合過程におけるカルモデュリンの機能
標題(洋) The role of calmodulin during mating in Saccharomyces cerevisiae
報告番号 117556
報告番号 甲17556
学位授与日 2002.09.17
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第4244号
研究科 理学系研究科
専攻 生物科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大矢,禎一
 東京大学 教授 長田,敏行
 東京大学 助教授 菊池,淑子
 東京大学 助教授 野崎,久義
 東京大学 助教授 園池,公毅
内容要旨 要旨を表示する

序論

 有性生殖を行なうすべての生物は、両親由来の二種の配偶子が融合し、接合子を生じることで発生を開始する。この接合子形成の過程において、Ca2+シグナルが重要な役割を果たすことがいくつかの生物において報告されている。例えばウニ、ヒトデ、マウス等の卵の受精においては、精子の侵入箇所からCa2+波が生じる。出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeはaとαと呼ばれる二つの性を持ち、富栄養条件下で接合と呼ばれる過程によって、細胞および核を融合させて接合子を生じる。この過程で細胞外からのCa2+の流入が起こることが知られており、この流入は接合子の生存率の維持に重要であることが示されている。

 カルモデュリン(CaM)はすべての真核細胞に存在するCa2+結合タンパク質であり、in vitroで30種類以上のタンパク質と結合することから、細胞内の様々なプロセスに関与すると考えられている。出芽酵母においてはCaMが実際に細胞増殖、イオンホメオスタシス、エンドサイトーシスなどの複数の細胞機能に必要であることが示されている。このうち細胞増殖においては、CaMが複数の機能を持ち、それらの機能が遺伝学的に分離可能であることが、大矢とBotsteinにより示されている。彼らはCaMのターゲットとの結合に重要であると考えられるフェニルアラニン残基を系統的にアラニン残基に置換したCaM変異株を多数作製し、そのうち温度感受性を示す変異株が4つの遺伝子内相補性グループに分類されることから、各グループのCaM変異はそれぞれ異なる必須標的タンパク質との結合に特異的に欠損を持つとの仮説を提唱した。この遺伝子内相補を利用したCaMの多重機能の分離は、後にエンドサイトーシスにおけるCaM機能の解析に応用されている。

 私は博士過程において、出芽酵母の接合過程におけるCa2+シグナルの重要性とCa2+シグナル伝達系におけるCaMの中心的な役割に着目し、接合過程におけるCaM機能の解析を行なった。アプローチとしては、まず細胞増殖やエンドサイトーシスにおける多重機能の分離に用いられた多数のCaM変異が、実際に標的タンパク質との結合および活性化に特異的な欠損を与えるか否かを生化学的に検証した。次に接合欠損を示すCaM変異を同定し、それらを遺伝子内接合相補という現象(後述)を用いて分類し、各分類群の表現型を解析することで、CaMの接合過程における多重機能の分離を試みた。さらに遺伝子内接合相補および遺伝子内相補のメカニズムについて解析を行ない、同じ標的タンパク質との結合に欠損を与えるCaM変異間においてもこれらの現象が観察されることを明らかにした。

結果と考察

1.CaM変異が標的酵素との結合および活性化に与える影響

 CaM機能の解析において多数のCaM変異株を用いることの最大の利点は、各CaM変異が複数の標的タンパク質との結合や活性化にさまざまな程度の欠損を与えることが期待できる点である。しかしながらこの点についての生化学的な証拠は得られていない。そこで二種の標的酵素、カルシニューリンとCaM依存性プロテインキナーゼ(CaMK)について、CaM変異が標的酵素との結合および活性化に特異的に欠損を与えるか否かを検討した。その結果、カルシニューリンあるいはCaMKの最大速度のみを低下させるCaM変異や、カルシニューリンとCaMKの両方の最大速度を低下させるCaM変異が存在することがわかった(表1)。したがって各CaM変異は標的酵素の活性化にアリル特異的かつ標的酵素特異的に欠損を与えることが示され、CaM機能の解析において多数のCaM変異株を用いるアプローチの有効性に生化学的基盤が与えられた。

2.接合過程におけるCaMの機能

 接合過程におけるCaM機能を調べるために、21個のCaM変異株について34℃における同一変異株同士での接合能を測定した。その結果cmd1-228、cmd1-233、cmd1-234、cmd1-235、cmd1-239、cmd1-240、cmd1-242、cmd1-250、cmd1-251、cmd1-252の計10個の変異株が野生株の20%以下という著しい接合効率の低下を示した(図1)。このうちcmd1-233を除く9個のCaM変異株は野生株との接合には大きな欠損を示さなかった。このように同一変異株同士では接合できないが、野生株とは接合できる変異株をbilateral変異株と呼ぶ。そこで次にこれら9個のbilateral変異株について異なるアリル間での接合を調べた結果、cmd1-228とcmd1-239、cmd1-228とcmd1-250の間で著しい接合効率の回復が見られた(図2)。このような異なるアリル間での接合効率の回復を、ヘテロ二倍体で観察される遺伝子内相補と区別して、「遺伝子内接合相補」と名付けた。したがってbilateral CaM変異株はcmd1-228の属するグループとcmd1-239、cmd1-250の属するグループの二つの遺伝子内接合相補性グループに分類されることになる。次に各グループに属するCaM変異株cmd1-228およびcmd1-239が接合過程のどのステップに欠損を持つかを調べたところ、両者ともに接合子の形成、細胞膜の融合は正常であったが、核融合に欠損を示すことがわかった(図3)。

 cmd1-228とcmd1-239の示す核融合の欠損がどの標的タンパク質の機能欠損によるものかを調べるため、5個の標的タンパク質の変異株について、34℃での核融合能を調べた。その結果nuf1変異株のみが核融合に欠損を示すことがわかった(図4)。そこで次にcmd1-228とcmd1-239の核融合の欠損が、Nuf1pとの結合欠損により生じる可能性について検討した。まず最初に各CaM変異がNuf1pとの結合に与える影響について調べるために、免疫沈降法によりいくつかのCaM変異株におけるCaMとNuf1pの複合体形成を調べた。その結果、cmd1-228とcmd1-239において最も著しいNuf1pとの複合体形成欠損がみられた(図5)。次にこのcmd1-228とcmd1-239におけるNuf1pとの複合体形成欠損が、接合欠損を引き起こす原因かどうかについて検討した。NUF1優性変異であるNUF1-407はCaM結合部位を欠失しており、CaM非依存的に機能することが知られている。もしcmd1-228とcmd1-239の接合欠損がNuf1pとの結合低下によるものならば、Nuf1-407pの発現によってCaMのNuf1pへの結合の必要性がバイパスされ、接合欠損が抑圧されることが予想される。そこでNUF1-407を1コピー導入してcmd1-228とcmd1-239の接合欠損の抑圧の有無を調べたところ、予想通り接合欠損の抑圧がみられた(図6)。以上の結果から、cmd1-228およびcmd1-239の接合欠損はNuf1pとの結合能の低下より生じることが明らかになり、この結合能の低下が核融合の欠損を引き起こすことが示唆された(図7)。

3.遺伝子内相補の新たなメカニズム

 接合欠損変異株であるcmd1-228とcmd1-239は共に細胞増殖に関して温度感受性を示し、温度感受性増殖についての4つの遺伝子内相補性グループのうちの異なるグループに分類される。このcmd1-228とcmd1-239の温度感受性増殖が接合欠損と同様にNUF1-407によって抑圧されるか否かを調べたところ、両者ともに温度感受性の抑圧がみられた(図8)。一方、他の二つの遺伝子内相補性グループに属するcmd1-226とcmd1-231の温度感受性はNUF1-407によって抑圧されなかった。したがってcmd1-228およびcmd1-239の増殖に関する温度感受性はNuf1pとの結合能の低下によるものであることが示された。次にcmd1-228とcmd1-239が共にNuf1pとの結合に欠損を示すにも関わらず、遺伝子内相補を示す原因を調べるため、各CaM変異のホモ二倍体とcmd1-228とcmd1-239のヘテロ2倍体について免疫沈降実験を行なった。その結果、半数体の場合と同様に、複合体形成能はcmd1-228/cmd1-228とcmd1-239/cmd1-239において最も著しく低下していた(図9)。一方cmd1-228/cmd1-239においては複合体形成の回復が見られた。したがってcmd1-228とcmd1-239の間で見られる遺伝子内相補は、各変異CaM単独ではNuf1pと結合できないにも関わらず、両変異CaMが共存すると結合が回復するという新たなメカニズムによって生じることが示唆された。

まとめ

1)フェニルアラニン残基をアラニン残基に置換した8種のCaM変異が、カルシニューリンとCaMKとの結合および活性化に、アリル特異的かつ標的酵素特異的に欠損を与えることを示した。

2)接合欠損を示すCaM変異株は二つの遺伝子内接合相補性グループに分類され、各グループに属するcmd1-228およびcmd1-239の接合欠損および核融合の欠損は、Nuf1pとの結合能の低下により生じることが明らかになった。

3)cmd1-228とcmd1-239の間で見られる遺伝子内相補は、両変異CaMが共存すると結合が回復するという新たなメカニズムによって生じることを示した。

表1変異CaM CaMKの活性化のミカエリス定数と最大速度。

てはリン酸化カゼイン、CaMKについてはケンプトアミドを基質として用い、様々なCaM濃度における酵素活性を測定した。KCaMはミカエリス定数で、酵素活性が最大速度の半分を示す時のCaM濃度、Vmaxは最大速度で、野生型CaM(Cmd1p)の最大速度を100%として表してある。測定に用いたCaM濃度の範囲において、酵素活性が低すぎるためにミカエリス曲線を回帰できなかったもの(N. D.)については、結合能が著しく低下していることを表面プラズモン共鳴を用いた定量的結合アッセイによって確かめている(岡野、修士論文)。

図1cmd1変異株の同一変異株同士での接合効率。

各変異株のMATaおよびMATα細胞を混合し、完全寒天培地上で34℃で3時間接合させた。二倍体細胞のみが増殖可能な寒天培地上のコロニー数を、半数体細胞と二倍体細胞の両方が増殖可能な寒天培地上のコロニー数で割ったものを接合効率として計算した。図では野生株同士での接合効率を100%とした相対接合効率で示してある。

図2接合欠損を示すcmd1変異株間での接合効率。

完全寒天培地上で34℃で3時間接合させ、接合効率を測定した。図では野生株同士での接合効率を100%とした相対接合効率で示してある。

図3cmd1-228とcmd1-239の核融合能。

完全寒天培地上で34℃で1.5時間接合させた細胞を、エタノール固定後にDAPI染色し、核融合の有無を観察した。A、核融合した接合子と核融合していない接合子。B、芽を持たないまたは小さな芽を持つ接合子のうちの核融合していないものの割合。

図4標的タンパク質の変異体の核融合能。

完全寒天培地上で34℃で1.5時間接合させた細胞を、エタノール固定後にDAPI染色し、芽を持たないまたは小さな芽を持つ接合子について核融合の有無を調べた。

図5cmd1変異株におけるCaMとNuf1pの複合体形成。

25℃で対数増殖期まで培養後、37℃でさらに2時間培養した細胞の抽出液を抗CaM血清で免疫沈降し、上清(S)と沈降物(P)を抗Nuf1p抗体および抗CaM血清でイムノブロットした。

図6NUF1-407によるcmd1-228とcmd1-239の接合欠損の抑圧。

完全寒天培地上で34℃で3時間接合させ、接合効率を測定した。[NUF1]の+や407は、MATa株のAUR1部位にNUF1またはNUF1-407が挿入されていることを示す。図ではWTxWT[+]の接合効率を100%とした相対接合効率で示してある。

図7接合過程におけるCaMの機能

図8NUF1-407によるcmd1変異株の温度感受性の抑圧。

各変異株にNUF1またはNUF1-407を低コピープラスミドで導入し、許容温度(25℃)または制限温度(37℃)下での完全寒天培地上での増殖を調べた。

図9cmd1二倍体変異株におけるCaMとNuf1pの複合体形成。

25℃で対数増殖期まで培養後、37℃でさらに2時間培養した細胞の抽出液を抗CaM血清で免疫沈降し、上清(S)と沈降物(P)を抗Nuf1p抗体および抗CaM血清でイムノブロットした。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は3章からなり、第一章はカルモデュリン変異が標的酵素との結合および活性化に与える影響、第二章は接合過程におけるカルモデュリンの機能、第三章では、遺伝子内相補の新たなメカニズムを解析した。

 カルモデュリン(CaM)はすべての真核細胞に存在するCa2+結合タンパク質であり、in vitroで30種類以上のタンパク質と結合することから、細胞内の様々なプロセスに関与すると考えられている。出芽酵母においてはCaMが実際に細胞増殖、イオンホメオスタシス、エンドサイトーシスなどの複数の細胞機能に必要であることが示されている。このうち細胞増殖においては、CaMが複数の機能を持ち、それらの機能が遺伝学的に分離可能であることが、大矢とBotsteinにより示されている。彼らはCaMのターゲットとの結合に重要であると考えられるフェニルアラニン残基を系統的にアラニン残基に置換したCaM変異株を多数作製し、そのうち温度感受性を示す変異株が4つの遺伝子内相補性グループに分類されることから、各グループのCaM変異はそれぞれ異なる必須標的タンパク質との結合に特異的に欠損を持つとの仮説を提唱した。この遺伝子内相補を利用したCaMの多重機能の分離は、後にエンドサイトーシスにおけるCaM機能の解析に応用されている。CaM機能の解析において多数のCaM変異株を用いることの最大の利点は、各CaM変異が複数の標的タンパク質との結合や活性化にさまざまな程度の欠損を与えることが期待できる点である。しかしながらこの点についての生化学的な証拠は得られていなかった。そこで、まず第一章では、二種の標的酵素、カルシニューリンとCaM依存性プロテインキナーゼ(CaMK)について、CaM変異が標的酵素との結合および活性化に特異的に欠損を与えるか否かを検討した。その結果、カルシニューリンあるいはCaMKの最大速度のみを低下させるCaM変異や、カルシニューリンとCaMKの両方の最大速度を低下させるCaM変異が存在することがわかった。したがって各CaM変異は標的酵素の活性化にアリル特異的かつ標的酵素特異的に欠損を与えることが示され、CaM機能の解析において多数のCaM変異株を用いるアプローチの有効性に生化学的基盤が与えられた。

 有性生殖を行なうすべての生物は、両親由来の二種の配偶子が融合し、接合子を生じることで発生を開始する。この接合子形成の過程において、Ca2+シグナルが重要な役割を果たすことがいくつかの生物において報告されている。例えばウニ、ヒトデ、マウス等の卵の受精においては、精子の侵入箇所からCa2+波が生じる。出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeはaとαと呼ばれる二つの性を持ち、富栄養条件下で接合と呼ばれる過程によって、細胞および核を融合させて接合子を生じる。この過程で細胞外からのCa2+の流入が起こることが知られており、この流入は接合子の生存率の維持に重要であることが示されている。そこで第2章では、接合過程におけるCaM機能を調べるために、21個のCaM変異株について34℃における同一変異株同士での接合能を測定した。その結果cmd1-228、cmd1-233、cmd1-234、cmd1-235、cmd1-239、cmd1-240、cmd1-242、cmd1-250、cmd1-251、cmd1-252の計10個の変異株が野生株の20%以下という著しい接合効率の低下を示した。このうちcmd1-233を除く9個のCaM変異株は野生株との接合には大きな欠損を示さなかった。このように同一変異株同士では接合できないが、野生株とは接合できる変異株をbilateral変異株と呼ぶ。そこで次にこれら9個のbilateral変異株について異なるアリル間での接合を調べた結果、cmd1-228とcmd1-239、cmd1-228とcmd1-250の間で著しい接合効率の回復が見られた。このような異なるアリル間での接合効率の回復を、ヘテロ二倍体で観察される遺伝子内相補と区別して、「遺伝子内接合相補」と名付けた。したがってbilateral CaM変異株はcmd1-228の属するグループとcmd1-239、cmd1-250の属するグループの二つの遺伝子内接合相補性グループに分類されることになる。次に各グループに属するCaM変異株cmd1-228およびcmd1-239が接合過程のどのステップに欠損を持つかを調べたところ、両者ともに接合子の形成、細胞膜の融合は正常であったが、核融合に欠損を示すことがわかった。cmd1-228とcmd1-239の示す核融合の欠損がどの標的タンパク質の機能欠損によるものかを調べるため、5個の標的タンパク質の変異株について、34℃での核融合能を調べた。その結果nuf1変異株のみが核融合に欠損を示すことがわかった。そこで次にcmd1-228とcmd1-239の核融合の欠損が、Nuf1pとの結合欠損により生じる可能性について検討した。まず最初に各CaM変異がNuf1pとの結合に与える影響について調べるために、免疫沈降法によりいくつかのCaM変異株におけるCaMとNuf1pの複合体形成を調べた。その結果、cmd1-228とcmd1-239において最も著しいNuf1pとの複合体形成欠損がみられた。次にこのcmd1-228とcmd1-239におけるNuf1pとの複合体形成欠損が、接合欠損を引き起こす原因かどうかについて検討した。NUF1優性変異であるNUF1-407はCaM結合部位を欠失しており、CaM非依存的に機能することが知られている。もしcmd1-228とcmd1-239の接合欠損がNuf1pとの結合低下によるものならば、Nuf1-407pの発現によってCaMのNuf1pへの結合の必要性がバイパスされ、接合欠損が抑圧されることが予想される。そこでNUF1-407を1コピー導入してcmd1-228とcmd1-239の接合欠損の抑圧の有無を調べたところ、予想通り接合欠損の抑圧がみられた。以上の結果から、cmd1-228およびcmd1-239の接合欠損はNuf1Pとの結合能の低下より生じることが明らかになり、この結合能の低下が核融合の欠損を引き起こすことが示唆された。

 接合欠損変異株であるcmd1-228とcmd1-239は共に細胞増殖に関して温度感受性を示し、温度感受性増殖についての4つの遺伝子内相補性グループのうちの異なるグループに分類される。このcmd1-228とcmd1-239の温度感受性増殖が接合欠損と同様にNUF1-407によって抑圧されるか否かを調べたところ、両者ともに温度感受性の抑圧がみられた。一方、他の二つの遺伝子内相補性グループに属するcmd1-226とcmd1-231の温度感受性はNUF1-407によって抑圧されなかった。したがってcmd1-228およびcmd1-239の増殖に関する温度感受性はNuf1pとの結合能の低下によるものであることが示された。そこで、第3章では、cmd1-228とcmd1-239が共にNuf1pとの結合に欠損を示すにも関わらず、遺伝子内相補を示す原因を調べるため、各CaM変異のホモ二倍体とcmd1-228とcmd1-239のヘテロ2倍体について免疫沈降実験を行なった。その結果、半数体の場合と同様に、複合体形成能はcmd1-228/cmd1-228とcmd1-239/cmd1-239において最も著しく低下していた。一方cmd1-228/cmd1-239においては複合体形成の回復が見られた。したがってcmd1-228とcmd1-239の間で見られる遺伝子内相補は、各変異CaM単独ではNuf1pと結合できないにも関わらず、両変異CaMが共存すると結合が回復するという新たなメカニズムによって生じることが示唆された。

 なお、本論文第1章は、Martha Cyert、大矢禎一と共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析及び検証を行なったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

 よって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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