学位論文要旨



No 117586
著者(漢字) アフニマル
著者(英字) AFNIMAR
著者(カナ) アフニマル
標題(和) 屈折法・重力データ同時インバージョンによる三次元盆地構造の研究
標題(洋) Joint Inversion of Refraction and Gravity Data for 3-D Basin Structures
報告番号 117586
報告番号 甲17586
学位授与日 2002.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第4250号
研究科 理学系研究科
専攻 地球惑星科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大久保,修平
 東京大学 教授 平田,直
 東京大学 教授 ゲラー,ロバート
 東京大学 教授 岩崎,貴哉
 東京大学 助教授 纐纈,一起
内容要旨 要旨を表示する

 盆地構造は地震による強震動に強い影響を与えることが知られている。盆地構造はエッジ波の生成のような地震波伝播中の複雑さを引き起こすことがある。また、低周波領域では表面波が盆地の中で支配的になるが、そうした表面波の特性も盆地構造によってコントロールされる。したがって、物理探査だけでなく強震動地震学の視点から見ても、盆地構造を詳細にイメージすることは非常に重要な意味を持っている。

 屈折法地震探査の走時データが、盆地構造を詳細にイメージし得る能力を持っていることは、すでに示されてきているが、こうしたデータのインバージョンでは時々解像度が悪くなることが起こる。たとえば複雑な盆地構造のある領域では,不規則な観測点配置や波線のシャドウゾーンなどにより、波線のカバーする範囲が小さくなってしまう。重力探査は稠密かつ均質に行うことができるので、こうした問題を解決するために我々は、屈折法のデータと重力データの同時インバージョンを提案したい。

 盆地構造をまずいくつかの境界面と、一定な堆積層のスローネス(地震波速度の逆数)および水平方向に不均質な基盤のスローネスでモデル化した。この境界面と基盤スローネスは,一群の節点とそれらの間のラグランジュ補間で表現される。また、重力計算に必要な密度は、実験式を通じてこれらスローネスと関係づけられる。解における人工的な振動および非一意性を回避するため、モデル正規化の拘束条件も導入した。以上の定式化の妥当性は、谷状盆地に対する偽似乱数雑音を含んだ合成データを用いて確認された。

 インバージョンにおける重要な課題のひとつは、屈折波の正確な走時計算である。我々はいくつかの新しいスキームの導入することにより、有限差分法による走時計算に改良を加えた。これらのスキームにより、急勾配の境界面におけるmultipathingの問題に由来した数値的な不安定を克服することができた。

 以上の提案した手法を、均質の堆積層を仮定しながら、日本の大阪盆地およびその周辺で得られた実際のデータヘ成功裡に適用することができた。大阪湾の地下のデータの不足によって引き起こされる解の不安定を避けるため、大阪湾下の境界面の深さは反射法断面の解釈深度に拘束するようにした。得られた結果は、この地域での地質学的状況とよく合致している。

 最後に、日本最大の堆積盆地である関東平野のデータに、ここで提案した手法を適用した。堆積層内に2つの境界面と、水平方向に不均質な基盤スローネスを仮定した。同時インバージョンの結果では,走時データだけを用いたインバージョンの結果より、さらに詳細なイメージを再現することができた。基盤スローネスの分布は、この地域の地質学的解釈とよく合致する。さらに我々はこの結果を用いて、関東平野で強震動シミュレーションを行った。このシミュレーションで得られた計算波形は、観測記録を十分よく再現することができた。

審査要旨 要旨を表示する

 盆地構造は地震による揺れに大きな影響を与えるので、三次元的な盆地構造の解明は地殻構造分野の主要なテーマの一つであるだけでなく、強震動地震学にとっても重要な研究対象となっている。しかし、堆積盆地では都市が発達しているなどの制約により、屈折法などの地震探査手法を稠密に適用することは事実上困難になっている。本論文は屈折法探査だけでなく重力探査を組み合わせることによりこの課題に取り組み、さらに得られた手法を関東平野や大阪平野などの実際の盆地構造に適用を行ったものである。

 本論文は「Joint Inversion of Refraction and Gravity Data for 3-D Basin Structures(屈折法・重力データ同時インバージョンによる三次元盆地構造の研究)」と題し、全7章で以下のように構成されている。

 第1章では全体的な導入部として、三次元地下構造探査におけるインバージョン解析を歴史的に概観し、これまで主に用いられてきた屈折法地震探査の問題点を屈折波伝播の物理的制約、及び人工震源を用いることなどによる経済的制約の面から述べている。そして、これら問題点を克服する方法として、大規模な探査実験を要しない重力探査のデータの導入と、屈折法データと併せた同時インバーションを行う手法の可能性を示唆し、この手法を関東平野や大阪平野の三次元盆地構造に適用するという本論文の目的と方向性が示されている。

 その後まず第2章では、同時インバージョンの前提となる地下構造モデルを示し、成層構造及びその層境界面と層内物理定数に対するラグランジュ補間を提案している。このモデルにおける屈折波走時及び重力異常を理論的に計算する方法を定式化し、さらに得られた理論値を観測された値にマッチングさせるインバージョンの定式化が示されている。その中でも、こうした地下構造モデルでは屈折波の走時計算が従来の手法では困難になる可能性が高かったが、アイコナル方程式の差分解法に新たな演算子を定義することで解決をはかっている。

 続いて第3章では、第2章で述べられた手法の検証が行われている。盆地構造を仮定して屈折波走時と重力異常を理論的に計算し、その結果に乱数誤差を加えたものを合成された観測データとする。これに対して同時インバージョン、及び屈折波走時あるいは重力異常それぞれ単独のインバージョンを行い、それらの結果が相互に比較されている。屈折波走時単独のインバージョンでは波線がほとんど通らない盆地底部全体の復元が悪く、重力異常単独のインバージョンでは盆地の最深部が復元されない。これらに対して同時インバージョンでは、仮定された盆地構造がほぼ正しい形で復元された。

 提案された手法は第4章で実際のデータに適用されている。大阪平野及びその周辺で得られた屈折波走時と重力異常のデータを用いて同時インバーションを行った。実データに適用するにあたり、重要度の高い部分では細かい補間を行い、反射法探査結果や基盤露頭域の地形などが事前情報として導入された。その結果、得られた盆地構造モデルはこの地域の地質構造をよく反映したものになっており、たとえば復元された境界面の急峻部は既知の活断層によく一致している。

 続く第5章では関東平野で同時インバージョンが行われた。この地域は比較的豊富なデータがあるため、現実的な複数境界面が想定され、それらの形状がインバージョンにより決定された。また、地質学的に予想されていた基盤速度(密度)の地域差に基づき、その分布も同時に決定されている。得られた結果は大局的に既存のモデルに一致しており、その上でより詳細な境界面形状や速度分布が復元されている。新たに盆地の最深点が従来より北側に見い出され、南西部の基盤深度は深くなった。

 この三次元盆地構造モデルを元に、第6章では1998年5月の伊豆半島東方沖地震による地震動が差分法によりシミュレーションされている。関東平野内の強震観測点でシミュレーションされた地震動の理論波形と、そこでの実際の観測波形が比較され、盆地構造モデルの妥当性が検証された。

 最後に第7章では、本論文で得られた三次元盆地構造の解析手法と、それを関東平野や大阪平野へ適用した結果がまとめられている。

 以上のように本論文は堆積盆地の三次元構造解析において、地震探査データと重力探査データの併合処理という見地から新しい解析手法を提案し、合成データ・実データの両面からその妥当性を検証した。また、関東平野・大阪平野における実データの解析では、従来にない詳細な境界面形状や基盤速度分布を明らかにし、正確な盆地最深点を見い出すなど、地球惑星科学にもたらす意義は大きい。

 なお、本論文第2-4章は纐纈一起氏と中川康一氏との共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析及び検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

 したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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