学位論文要旨



No 117588
著者(漢字) ワヒュー,スリグトモ
著者(英字) Wahyu,Srigutomo
著者(カナ) ワヒュー,スリグトモ
標題(和) TDEM法による雲仙火山の比抵抗構造とそれによって推定されるマグマ揮発性成分と地下水の相互作用
標題(洋) Resistivity structure of Unzen Volcano from time domain electromagnetic (TDEM) data and its implication to volatile-groundwater interaction process.
報告番号 117588
報告番号 甲17588
学位授与日 2002.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第4252号
研究科 理学系研究科
専攻 地球惑星科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 渡辺,秀文
 東京大学 教授 中田,節也
 東京大学 教授 歌田,久司
 東京大学 教授 浜野,洋三
 東京大学 助教授 鍵山,恒臣
内容要旨 要旨を表示する

 火山活動,特にマグマや地熱流体の動きを捉える上で,電磁気観測は有力な研究手法となる.高温の溶融したマグマや火山ガスを多く含む熱水の電気伝導度は通常の岩石の数10倍から数1000倍となるからである.本研究では,研究対象とした雲仙火山周辺の電磁気ノイズがきわめて高いことから,人工的に電流を流し,瞬断した後に生じる誘導磁場の時間変動を利用するTDEM法により火山の地下構造を調査した.本研究の第1の課題は,雲仙火山のマグマ供給系のモデルを明らかにすること,第2の課題は,マグマから発散される揮発性成分がどのように普賢岳周辺に広がっているかを電磁気学的手法で明らかにすることである.2001年,2002年に雲仙火山の東部において,時間領域電磁気探査(TDEM)を行い,良質のデータを得た.解析は,1次元のモデルを作成後,3次元のモデルの検討をおこなった,その結果以下のことが明らかとなった.

 雲仙火山の比抵抗構造の特徴として,雲仙地溝の地下およそ4.5km以深に島原半島を東西に横切るように1Ωm程度の低比抵抗域が存在していることが確認された.この低比抵抗域は,南北方向に幅約3.4km,深さ方向に7.5km程度の大きさを持つ.また,眉山の地下浅部にも低比抵抗域が存在することがわかった.また,島原半島の広い範囲で,地下約100mから海抜下約2.5kmまで低比抵抗層(10ないし数Ω・m)が存在することが明らかとなった.この結果は,地下水を多く含む層が広がっていることを示している.また,電気伝導度の鉛直方向の積分であるコンダクタンスを計算し,その分布を調べると,コンダクタンスの高い領域が島原半島西部の猿葉山,飯岳付近から東に伸び,その延長上に普賢岳が位置していること,島原半島東部の眉山においてもコンダクタンスが高くなっていることが明らかとなった.

 これらの結果から,雲仙火山のマグマ供給系に関しては,1989年から1995年にかけての普賢岳の火山活動の際に観測された地震活動の移動や地殻変動から提唱されている「島原半島西部から普賢岳にいたるマグマ供給路」とは別に島原半島東部にもマグマ活動が存在することを示唆している.このことは,島原半島東部に地震波の低速度域が存在していること,ヘリウム同位体比が島原半島西部および中部の温泉よりも島原半島東部の温泉で高い値を示すこと,眉山周辺にマグマ起源の炭酸ガスの噴出源が多く点在していることなどと整合的である.

 マグマの揮発性成分の脱ガスに関しては,普賢岳を横切る電気伝導度の東西断面を見ると,普賢岳の直下で電気伝導度の高い領域が浅くなっていることがわかる.しかし,コンダクタンスの分布を見ると,普賢岳よりも,島原半島西部の猿葉山,飯岳付近から普賢岳にいたる東西の領域で高くなっている.島原半島では,半島西部を震源域とする群発地震が過去にも繰り返し発生しており,これらの結果は,マグマからの脱ガスが普賢岳直下だけで起きているのではなく,島原半島西部から普賢岳にむかってマグマが移動する際に分離したマグマが浅部の帯水層に繰り返し注入され,周辺の比抵抗を低くしたことによると考えられる.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は4章からなり,第1章は,火山活動,特にマグマや地熱流体の動きを捉える上で,電磁気観測の有用性について述べられている.第2章は,本論文で使用した観測・解析手法であるtime domain electromagnetic(TDEM)法の概略をまとめ,火山研究においてどのように本手法を適用するかを記述している.第3章は,TDEM法による観測や解析の具体的な手法について記している.第4章は本論文の最も重要な部分であり,雲仙火山において観測・解析をおこなった結果を詳細に示している.そのうち4.1節では,雲仙火山においてTDEM法探査を行うにあたっての火山学的課題を設定しており,特に,雲仙火山のマグマ供給系の構造に従来2つの説があるが,本研究により制約条件を提示できること,マグマ中の揮発性成分の脱ガスに関して脱ガスの事実を示唆する証拠を提示できる可能性があることを述べている.4.2節では具体的な観測方法を記載し,4.3節では1次元解析によって明らかになった雲仙火山の電気伝導度構造の特徴を示し,雲仙普賢岳をはじめとする複数の領域において電気伝導度が高くなっていることを明らかにしている.4.4節では3次元解析の結果を示しており,雲仙火山の地下約5km以深に東西に帯状にのびる高電気伝導度領域が存在することを明らかにしている.4.5節は本論文の最も重要な部分であり,これらの解析によって明らかになった電気伝導度構造から2つの結論を見出している.第1は,雲仙火山のマグマ供給系に関するもので,雲仙火山の地下約5km以深に,東西に伸びるマグマ供給源が存在すると結論している.第2は,マグマからの脱ガスに関するもので,島原半島西部の深部から雲仙火山の山頂(普賢岳)に向けてマグマが上昇してくる途中段階でマグマ中の揮発性成分が脱ガスし,浅部の帯水層中に繰り返し注入されることによって,高い電気伝導度領域が形成される原因となっていると結論付けている.

 本論文は,電磁気構造探査によって得られる電気伝導度分布の情報から,マグマ供給系の構造やマグマから発散される揮発性成分について定量的に議論を行い,火山活動機構の解明に対して一定の制約条件を与える新たな手法を提示した点で評価できる.

 なお,本論文第4章は,鍵山恒臣との共同研究であるが,論文提出者が主体となって解析および検証を行なったもので,論文提出者の寄与が十分であると判断する.

 したがって,博士(理学)の学位を授与できると認める.

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