No | 117593 | |
著者(漢字) | クチェラ,ヤン | |
著者(英字) | KUCERA,Jan | |
著者(カナ) | クチェラ,ヤン | |
標題(和) | リモートセンシングによる森林火災撹乱のモニタリング | |
標題(洋) | Monitoring of Forest Fire Disturbances with Remote Sensing | |
報告番号 | 117593 | |
報告番号 | 甲17593 | |
学位授与日 | 2002.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5310号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 大規模な森林火災は、地域の自然環境や社会に大きな影響を与えるばかりでなく、火災により放出される二酸化炭素などにより地球レベルでの気候変動にも大きな影響を与える。近年、ENSOや長期的な気候変動の影響により世界各地で森林火災が頻発しており、その影響を地域レベルから地球レベルまで定量的に評価することが急務となっている。 しかしながら、多くの森林火災は人里はなれた場所で発生することが多く、発生を検知し、また、その跡地の変化をモニタリングすることは容易ではない。特に、大規模な森林火災では、地上での観測が難しいことから、その発生地点の同定や消失面積の把握が難しく、さらに、その跡地がどのように変化・回復していくかを長期的にモニタリングすることは不可能に近かった。 人工衛星等からのリモートセンシングは、広い範囲の環境や災害の状況を観測する有効な手段として期待され、森林火災の発見や、その被害面積の評価に活用する試みが始められている。しかしながら、リモートセンシングにおいても、広域の森林火災を長期的にモニタリングするためには、衛星画像を長期的、定常的に取得しなければならず、さらに、得られた衛星画像データの処理に際しても、雲、霧などの影響の除去、精度の高い画像重ねあわせによる同一地点の地表面変化の評価、などの高度な技術が要素されることから、これまで特定地域の短期的なモニタリングは試みられてきたものの、広域・長期にわたるモニタリング・評価は行われてこなかった。 本研究では、東シベリアの広域な森林地帯を対象として、長期にわたる衛星データをもとに、 ・過去の森林火災地域を検出し、火災面積の定量的評価を行うこと、 ・火災跡地の植生回復状況のモニタリングを行うこと、 ・さらに、植生回復モニタリングの結果と生態系モデル(Sim-CYCLE)による植生回復シミュレーションとの比較を行うこと により、森林火災を評価し、その跡地の植生変動を評価することを目的とした。 衛星データとしては、東京大学生産技術研究所で1984年から収集・蓄積されている地球観測センサNOAA/AVHRRの全(毎日)データを利用した。AHHRRは地上の空間分解能が1kmと粗いものの、約2700kmの観測幅で同一地点を毎日2回観測できる広域観測、高頻度観測という利点を有し、地球規模・大陸規模での環境・災害観測に最も良く利用されているセンサである。本研究では、東シベリア・ハバロフスクおよびプリモリア地域を撮影した毎日のAVHRRデータを対象として、雲の除去等を行い、地表面の観測に使用できるデータのみを抽出し、同一地域の1984年-2001年にわたる時系列衛星データセットを作成した。さらに、地表面における植生の被覆状況を示す指数である植生指数(正規化植生指数:NDVI)を算出して、時系列NDVIデータセットを作成した。時系列NDVIデータセットをもとに、 ・大規模森林火災の検知とその面積の評価 ・NDVIによる植生回復状況の評価 を行うとともに、 ・衛星観測による評価とモデルによる火災跡地の回復シミュレーションとの比較 を行った。 この結果、NDVIから検知された森林火災の面積が、ロシア研究者の地上観測データ等と一致することを示し、リモートセンシングによる森林火災地域の計測への有効性を示した。また、森林火災跡地のNDVIの変化パターンから、森林火災跡地は、火災直後はNDVI値が下がるものの、次第にNDVI値が増加し、一定の期間の後には火災の施肥効果により、隣接する非火災地よりも高いNDVI値を示すことを明らかにした。また、この傾向が、これまでに観測された実測値、および生態系モデル(Sim-CYCLE)を用いたシミュレーションの結果とも一致することを示した。 本論文のオリジナリティは、 ・毎日の衛星データから、森林火災跡地の計測ならびにその跡地の長期植生回復状況を評価したこと、 ・生態系モデルを利用したシミュレーション結果との比較により、その妥当性を検証したこと にある。 本論文は、全7章から構成される。 第1章では、本研究の背景、目的について記述し、さらに、本研究における方法の概要とその新規性について記述した。 第2章では、リモートセンシング技術の概要と、その森林火災計測への応用における基本的方法論、既往研究のレビューを記述した。 第3章では、本研究で対象とする東シベリア地域の概要と、これまでの森林火災の概要を記述した。 第4章では、NOAA/AVHRRデータの処理手法について記述した。まず、原データからの雲除去アルゴリズム、画像重ね合わせのための幾何補正アルゴリズムについて述べ、時系列植生指数(NDVI)データセットを作成する手法を紹介した。また、NDVIの変化パターンから、森林火災発生地域を抽出する手法について記述した。ここでは、森林火災地域においてはNDVI値が急激に減少することから、時系列NDVIにおいて急激な変化パターンを抽出し、火災発生と判定した。この結果、対象地域において抽出された火災面積は、ロシア研究者による地上観測データ(1998年のみ)ならびに衛星データから算出された火災面積(1987年のみ)と良い一致を示した。しかしながら地上観測データならびに衛星データからの算出データともに、火災の総面積のみが報告されており、火災の空間分布は示されていないため、その一致については評価できなかった。 第5章では、抽出された火災地域について、その周辺の非火災地域とともに、火災後のNDVIの時系列パターンを抽出、比較する方法について記述した。また、この結果、火災跡地において、一定期間後にそのNDVIが非火災地域よりも高くなることを示した。これは火災による施肥効果によるものと考えられる。 第6章では、生態系モデル(Sim-CYCLE)を用いて、東シベリアにおける植生を対象に森林火災後の植生回復過程を、葉面積指数(LAI)、有効光合成放射量(fAPAR)、地上部1次生産量(NPP)を計算することによりシミュレートし、観測されたNDVIとの比較を行った。その結果、LAI、fAPAR、NPPにおいて森林火災跡地においてその値が上昇することから両者の関係が妥当であることを検証した。なお、この傾向は、シベリア北方林で観測された実測データ(リターの総量)からも裏付けられた。 第7章では、本研究の総括を行い、今後の研究の方向性について記述した。 | |
審査要旨 | 大規模な森林火災は、地域の自然環境や社会に大きな影響を与えるばかりでなく、火災により放出される二酸化炭素などにより地球レベルでの気候変動にも大きな影響を与える。近年、ENSOや長期的な気候変動の影響により世界各地で森林火災が頻発しており、その影響を地域レベルから地球レベルまで定量的に評価することが急務となっている。しかしながら、多くの森林火災は人里はなれた場所で発生することが多いため、発生を検知し、また、その跡地の変化をモニタリングすることは容易ではない。特に、大規模な森林火災では、地上での観測が難しいことから、その発生地点の同定や消失面積の把握が難しく、さらに、その跡地がどのように変化・回復していくかを長期的にモニタリングすることは不可能に近かった。 人工衛星等からのリモートセンシングは、広い範囲の環境や災害の状況を観測する有効な手段として期待され、森林火災の発見や、その被害面積の評価に活用する試みが始められている。しかしながら、リモートセンシングにおいても、広域の森林火災を長期的にモニタリングするためには、衛星画像を長期的、定常的に取得しなければならず、さらに、得られた衛星画像データの処理に際しても、雲、霧などの影響の除去、精度の高い画像重ねあわせによる同一地点の地表面変化の評価、などの高度な技術が要求されることから、これまで特定地域の短期的なモニタリングは試みられてきたものの、広域・長期にわたるモニタリング・評価は行われてこなかった。 本研究では、広大な森林地帯を対象として、長期にわたる衛星データをもとに、 ・過去の森林火災地域を検出し、火災面積の定量的評価を行うこと、 ・火災跡地の植生回復状況のモニタリングを行うこと、 ・さらに、植生回復モニタリングの結果と生態系モデル(Sim-CYCLE)による植生回復シミュレーションとの比較を行うこと により、森林火災を評価し、その跡地の植生変動を評価することを目的とした。 衛星データとしては、東京大学生産技術研究所で1984年から収集・蓄積されている地球観測センサNOAA/AVHRRの全(毎日)データを利用した。AHHRRは地上の空間分解能が1kmと粗いものの、約2700kmの観測幅で同一地点を毎日2回観測できる広域観測、高頻度観測という利点を有し、地球規模・大陸規模での環境・災害観測に最も良く利用されているセンサである。本研究では、東シベリア・北東中国地域を撮影した毎日のAVHRRデータを対象として、雲の除去等を行い、地表面の観測に使用できるデータのみを抽出し、同一地域の1984年-2001年にわたる時系列衛星データセットを作成した。さらに、地表面における植生の被覆状況を示す指数である植生指数(正規化植生指数:NDVI)を算出して、時系列NDVIデータセットを作成した。時系列NDVIデータセットをもとに、 ・大規模森林火災の検知とその面積の評価 ・NDVIによる植生回復状況の評価 を行うとともに、 ・衛星観測による評価とモデルによる火災跡地の回復シミュレーションとの比較 を行った。 この結果、NDVIから検知された森林火災の面積が、ロシア研究者の地上観測データ等と一致することを示し、リモートセンシングによる森林火災地域の計測への有効性を示した。また、森林火災跡地のNDVIの変化パターンから、森林火災跡地は、火災直後はNDVI値が下がるものの、次第にNDVI値が増加し、一定の期間の後には火災の施肥効果により、隣接する非火災地よりも高いNDVI値を示すことを明らかにした。また、この傾向が、これまでに観測された実測値、および生態系モデル(Sim-CYCLE)を用いたシミュレーションの結果とも一致することを示した。 本論文では、上記の研究成果を、全7章で記述している。 第1章では、本研究の背景、目的について記述し、さらに、本研究における方法の概要とその新規性について記述した。 第2章では、リモートセンシング技術の概要と、その森林火災計測への応用における基本的方法論、既往研究のレビューを記述した。 第3章では、本研究で対象とする東シベリア・北東中国地域における植生分布や気象・環境などの概要と、当該地域におけるこれまでの森林火災の概要を記述した。 第4章では、NOAA/AVHRRデータの処理手法について記述した。まず、原データからの雲除去アルゴリズム、画像重ね合わせのための幾何補正アルゴリズムについて述べ、時系列植生指数(NDVI)データセットを作成する手法を紹介した。また、NDVIの変化パターンから、森林火災発生地域を抽出する手法について記述した。ここでは、森林火災地域においてはNDVI値が急激に減少することから、時系列NDVIにおいて急激な変化パターンを抽出し、火災発生と判定した。この結果、対象地域において抽出された火災面積は、ロシア研究者による地上観測データ(1998年のみ)ならびに衛星データから算出された火災面積(1987年のみ)と良い一致を示した。しかしながら地上観測データならびに衛星データからの算出データともに、火災の総面積のみが報告されており、火災の空間分布は示されていないため、その一致については評価できなかった。 第5章では、抽出された火災地域について、その周辺の非火災地域とともに、火災後のNDVIの時系列パターンを抽出、比較する方法について記述した。また、この結果、火災跡地において、一定期間後にそのNDVIが非火災地域よりも高くなることを示した。これは火災による施肥効果によるものと考えられる。 第6章では、.生態系モデル(Sim-CYCLE)を用いて、東シベリアにおける植生を対象に森林火災後の植生回復過程を、葉面積指数(LAI)、有効光合成放射量(fAPAR)、地上部1次生産量(NPP)を計算することによりシミュレートし、観測されたNDVIとの比較を行った。その結果、LAI、fAPAR、NPPにおいて森林火災跡地においてその値が上昇することから両者の関係が妥当であることを検証した。なお、この傾向は、シベリア北方林で観測された実測データ(リターの総量)からも裏付けられた。 第7章では、本研究の総括を行い、今後の研究の方向性について記述した。 本論文は、これまで森林火災の発生時期、分布など精度の高いデータが得られていなかった東シベリア・北東中国の広大な森林地帯を対象として、 ・広域、長期にわたる時系列衛星データから、森林火災跡地の計測ならびにその跡地の長期植生回復状況を評価したこと、 ・生態系モデルを利用したシミュレーション結果との比較により、その妥当性を検証したこと に独創性を有し、また、得られた結果は有用性に富むものと評価できる。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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