学位論文要旨



No 117596
著者(漢字) アーメッド,サイド モハメッド アーメド
著者(英字) Ahmed,Sayed Mohamed Ahmed
著者(カナ) アーメッド,サイド モハメッド アーメド
標題(和) 非線型振動流のもとでの異粒径底質のシートフロー輸送機構
標題(洋) SHEETFLOW TRANSPORT MECHANISM OF HETEROGENEOUS SEDIMENTS UNDER NONLINEAR OSCILLATORY FLOWS
報告番号 117596
報告番号 甲17596
学位授与日 2002.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5313号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 佐藤,愼司
 東京大学 教授 渡辺,晃
 東京大学 教授 磯部,雅彦
 東京大学 教授 小池,俊雄
 東京大学 助教授 佐々木,淳
内容要旨 要旨を表示する

 現地海岸では砕波帯内で短期的な地形変化を引き起こすシートフロー形式の砂移動が重要となる.シートフロー条件は主として高波浪時に発生し,底面流速振幅が大きくなるため,砂漣が消滅し底面上で極めて高濃度の移動砂層が形成される.現地海岸ではさらに,岸沖方向に底質の粒径が変化することが観察されており,底質粒径の違いを考慮したモデルの開発が必要である.本研究では,非対称シートフロー振動流のもとでの異粒径底質の移動モデルを構築した.この分野では,その移動機構を十分に理解しないままモデル化が進められてきた.Ribberink et al. (2000)やMcLean et al. (2001)では,シートフロー移動層を観察する試みも実施されている.しかしながら,これらの観察手法のほとんどは流れを乱すものであるため,高密度の移動砂層であるシートフローの動力学機構を正しく理解するには適さない.そこで,本研究ではまず,流れを乱さない計測手法を開発し,その実験に基づいて漂砂量をモデル化することにした.本研究は,移動砂層の計測実験に関する前半部分と漂砂量モデルの構築に関する後半部分とから成る.

 前半部分では,移動機構を計測することを目的として改良PIV法を開発した.改良PIV手法では,相互相関手法に比べて優れていることが確認された自乗誤差最小化手法が採用された.また,砂面に代表される固定境界の影響を,不動領域を相関解析から排除することで考慮し,底面近傍でも精度の高い流速・濃度推定手法を開発することに成功した.PIV手法の妥当性は,砂漣上の振動流境界層内の流速場を計測し,これをレーザ・ドップラ流速計による計測結果と比較することにより検証した.さらに,シートフロー条件でもPIV手法を適用し,他の手法による計測結果と比較することにより,同手法の適用性を確認した.

 これらの比較に基づき,静水中における砂粒子の沈降現象への適用を経て,シートフロー移動砂層内の濃度と流速の計測を実施した.実験は,任意波形振動流装置を用いて,高速ビデオカメラにより行った.実験では,移動砂層内の流速や移動砂層厚さの変化との位相関係などが詳細に計測された.移動砂層厚さは振動流の水粒子振幅と底質粒径およびシールズ数と相関があることが見出された.計測された流速と濃度を掛け合わせて浮遊砂フラックスを推定することにより,非対称振動流シートフローにおける正味の砂移動量を評価した.濃度は,輝度から換算する関係式を導いて推定した.1周期にわたる浮遊砂フラックスを積分することにより,正味の砂移動量を評価し,これを別途装置内の砂の質量変化から評価した輸送量と評価することにより,PIV手法による漂砂量計測の妥当性を検討した.その結果,改良PIV手法により推定した砂移動量は,直接計測による漂砂量と良好に一致し,改良PIV手法の漂砂量計測への適用性が証明された.

 後半部分ではまず,振動流シートフローの発生条件について,混合粒径底質条件のデータを整理し,シートフロー発生限界式を提案した.限界式のための代表パラメタを感度分析により決定した後で,既存のものを含むさまざまな限界式の適用性を検討した.そして,2粒径および3粒径底質を用いた移動床実験を実施し,正味の漂砂量を計測した.実験データを既存の漂砂量モデルと比較した結果,特に沖向き漂砂量の予測において,既存モデルはいずれも誤差が大きくなることがわかった.沖向き漂砂量の評価は,海岸侵食の評価にもつながるため,その評価が特に重要である.そこで,新しい漂砂量モデルを開発し,同モデルによる漂砂量の評価が十分な精度を持つものであることを確認した.さらに,混合粒径底質に対して漂砂量を評価するための代表粒径の選択法を検討し,総漂砂量の評価に提案したモデルが利用できることを示した.粒径別漂砂量についても,既存の2つのモデルと新しいモデルについて本研究の実験データを用いてその適用性を検討し,PIV計測に基づいてモデル化した粒子の遮蔽と露出の効果を含む新モデルの適用性が高いことを確かめた.

 このように本研究では,計測が困難な混合粒径底質のシートフロー漂砂現象について,画像解析に基づく独創的な非接触の計測手法を開発し,これと異粒径底質の漂砂量測定実験とを組み合わせることにより,シートフローの発生,混合粒径底質の総輸送量,粒径別漂砂量,のそれぞれに対して精度の高いモデルを提案することに成功した.これらのモデルは現地海岸条件でも適用可能なものであり,広い適用範囲を持つものであるため,実用性が高い.

審査要旨 要旨を表示する

 現地海岸では砕波帯内で短期的な地形変化を引き起こすシートフロー形式の砂移動が重要となる.シートフロー条件は主として高波浪時に発生し,底面流速振幅が大きくなるため,砂漣が消滅し底面上で極めて高濃度の移動砂層が形成される.現地海岸ではさらに,岸沖方向に底質の粒径が変化することが観察されており,底質粒径の違いを考慮したモデルの開発が必要である.本論文では,非対称シートフロー振動流のもとでの異粒径底質の移動モデルが構築されている.この分野では,その移動機構を十分に理解しないままモデル化が進められてきた.Ribberink et al. (2000)やMcLean et al. (2001)では,シートフロー移動層を観察する試みも実施されている.しかしながら,これらの観察手法のほとんどは流れを乱すものであるため,高密度の移動砂層であるシートフローの動力学機構を正しく理解するには適さない.本論文ではまず,流れを乱さない計測手法を開発し,その実験に基づいて漂砂量をモデル化することに成功している.本論文は,移動砂層の計測実験に関する前半部分(第1編)と漂砂量モデルの構築に関する後半部分(第2編)とから成る.

 論文の第1章で問題の所在と工学的な意義・研究の目的が述べられた後,第1編では,移動機構を計測することを目的として改良PIV法が開発された.第2章から第4章で,開発された手法とその適用性が検討されている.改良PIV手法では,相互相関手法に比べて優れていることが確認された自乗誤差最小化手法が採用された.また,砂面に代表される固定境界の影響を,不動領域を相関解析から排除することで考慮し,底面近傍でも精度の高い流速・濃度推定手法を開発することに成功した.PIV手法の妥当性は,砂漣上の振動流境界層内の流速場を計測し,これをレーザ・ドップラ流速計による計測結果と比較することにより検証した.さらに,シートフロー条件でもPIV手法を適用し,他の手法による計測結果と比較することにより,同手法の適用性を確認した.

 これらの比較に基づき,静水中における砂粒子の沈降現象への適用を経て,シートフロー移動砂層内の濃度と流速の計測が実施された.実験は,任意波形振動流装置を用いて,高速ビデオカメラにより行った.実験では,移動砂層内の流速や移動砂層厚さの変化との位相関係などが詳細に計測された.移動砂層厚さは振動流の水粒子振幅と底質粒径およびシールズ数と相関があることが見出された.計測された流速と濃度を掛け合わせて浮遊砂フラックスを推定することにより,非対称振動流シートフローにおける正味の砂移動量を評価した.濃度は,輝度から換算する関係式を導いて推定した.1周期にわたる浮遊砂フラックスを積分することにより,正味の砂移動量を評価し,これを別途装置内の砂の質量変化から評価した輸送量と評価することにより,PIV手法による漂砂量計測の妥当性を検討した.その結果,改良PIV手法により推定した砂移動量は,直接計測による漂砂量と良好に一致し,改良PIV手法の漂砂量計測への適用性が証明された.

 第2編ではまず,第8章で振動流シートフローの発生条件について,混合粒径底質条件のデータを整理し,シートフロー発生限界式が提案されている.限界式のための代表パラメタを感度分析により決定した後で,既存のものを含むさまざまな限界式の適用性を検討した.そして,第9章では2粒径および3粒径底質を用いた移動床実験について詳述され,正味の漂砂量の計測について述べられている.実験データを既存の漂砂量モデルと比較した結果,特に沖向き漂砂量の予測において,既存モデルはいずれも誤差が大きくなることが見出された.沖向き漂砂量の評価は,海岸侵食の評価にもつながるため,その評価が特に重要である.そこで,新しい漂砂量モデルを開発し,同モデルによる漂砂量の評価が十分な精度を持つものであることを確認し,さらに,混合粒径底質に対して漂砂量を評価するための代表粒径の選択法を検討し,総漂砂量の評価に提案したモデルが利用できることを示した.粒径別漂砂量についても,既存の2つのモデルと新しいモデルについて本研究の実験データを用いてその適用性を検討し,PIV計測に基づいてモデル化した粒子の遮蔽と露出の効果を含む新モデルの適用性が高いことを確かめられている.

 このように本研究では,計測が困難な混合粒径底質のシートフロー漂砂現象について,画像解析に基づく独創的な非接触の計測手法を開発し,これと異粒径底質の漂砂量測定実験とを組み合わせることにより,シートフローの発生,混合粒径底質の総輸送量,粒径別漂砂量,のそれぞれに対して精度の高いモデルを提案することに成功した.これらのモデルは現地海岸条件でも適用可能なものであり,広い適用範囲を持つものであるため,実用性が高い.

 第11章,第12章では.以上の成果を要約するとともに,今後の課題について述べている.以上,要するに,本研究は計測が困難な混合粒径底質のシートフロー漂砂現象について,画像解析に基づく独創的な非接触の計測手法を開発し,これと異粒径底質の漂砂量測定実験とを組み合わせることにより,シートフローの発生,混合粒径底質の総輸送量,粒径別漂砂量,のそれぞれに対して精度の高いモデルを提案することに成功した.これらのモデルは現地海岸条件でも適用可能なものであり,広い適用範囲を持つものであるため,実用性が高い.よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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