学位論文要旨



No 117597
著者(漢字) 金,亨穆
著者(英字)
著者(カナ) キム,ヒョンモク
標題(和) 空洞掘削による亀裂の変形に起因した亀裂性岩盤内水理特性の変化に関する研究
標題(洋) EVALUATION OF THE HYDRAULIC CHARACTERISTICS OF JOINTED ROCK MASS BASED ON EXCAVATION-INDUCED PERMEABILITY OF SINGLE ROCK JOINT
報告番号 117597
報告番号 甲17597
学位授与日 2002.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5314号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 堀井,秀之
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 小池,俊雄
 東京大学 教授 堀,宗郎
 東京大学 講師 井上,純哉
内容要旨 要旨を表示する

 高レベル放射性廃棄物の永久処分法として地層処分法が考えられている。ところが、処分後、地下水に溶解された核種はわれわれの生態圏にまで運搬される可能性が存在し、岩盤内の水理問題は、処分場の安全性を評価する上で重要な問題になっている。岩盤内には沢山の亀裂が含まれ、地下水はこの亀裂中を流れることになる。したがって、亀裂性岩盤内の水理特性は亀裂の水理特性に大きく左右される。

 亀裂の透水特性は亀裂の開口幅分布に大きく依存する。また、亀裂に作用する応力状態によって開口幅分布は大きく変化することがありうる。そこで、本研究ではまず、亀裂の表面形状を考慮した変形解析および水理解析を行い、単一亀裂の透水特性を調べた。変形解析にあたっては、特別な垂直方向の応力-変位関係を持ついわゆる亀裂要素を用いて、亀裂の開口幅分布をさまざまな応力状態において求めた。得られた開口幅分布を用いて、レイノルズ方程式を数値的に解くことにより、単一亀裂の透水特性を調べることができた。その結果、透水性には異方性があり、せん断変形に伴うダイレイションによって亀裂の透水性が増大するとともに、異方性も顕著になることが示された。

 一方、亀裂性岩盤内に掘削を行うと応力が開放され、特に空洞周辺の掘削影響領域には亀裂変形に伴う透水性の大きな変化が予想される。そこで、岩盤掘削による亀裂性岩盤内の水理特性の変化を予測する方法を構築することを本研究の目的とする。その手法は単一亀裂の変形-水理解析、亀裂性岩盤内掘削に伴う応力変化-水理解析の四つの有限要素計算で構成される。本研究の最も大きな特徴は、亀裂性岩盤内水理解析を行う際、掘削影響を考慮した亀裂透水量係数の修正することにある。透水量係数の修正は単一亀裂を用いた変形-水理解析の繰り返し計算に基づいて行った。また、掘削解析にはマイクルメカニクスに基づいた連続体(Micromechanics-Based Continuum)モデルを、水理解析では亀裂ネットワークモデルによるFracMan/Maficプログラムを用ちい、その二つのプログラムは独立なモジュルによって連結された。

 提案された手法を用いて解析を行い、掘削に伴う岩盤透水性および物質移動時間の変化を調べた。その結果、掘削によって透水性は流れの方向により増加あるいは減少することと、その変化は空洞周辺の位置によって異なることがわかった。そして、亀裂の方向および初期地圧の分布による影響をモンテカルロシミュレーションを用いて評価した。特に、トンネル軸に平行に並んだ亀裂が卓越する岩盤の場合は、掘削トンネルに平行な流れに間する透水係数の増加および移動時間の変化が著しかった。また、異方性を考慮することにより、いっそう変化が顕著になることが示された。

 本研究は岩盤掘削による掘削影響領域での水理特性変化の予測に有効であることが期待される。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は,亀裂性岩盤中の空洞周辺に生じる掘削影響領域における岩盤の水理特性を解明する手法を提案するものである.

 先進各国において高レベル放射性廃棄物の処分方法が議論される中,現在永久処分法として地層処分が最も現実的な方法と考えられている.このような地層処分では放射性廃棄物を格納する金属性容器は地下水による侵食により処分後数千年後にはバリアとしての機能を失うと考えられ,廃棄物格納容器から漏洩した放射性核種は緩衝材中を拡散し処分場周辺の地下水へ漏出すると考えられている.このように地下水に溶解された放射性核種は,最終的には地下水の流れとともに生態圏に運搬されてしまう可能性を有しているため,地層処分という処分形態自体の安全性を評価する上では,地下水の移行による放射性核種の移行を正しく評価し,放射性核種が生態圏に及ぼしうる影響を知ることが非常に重要な問題となっている.中でも亀裂性岩盤においては,地下水の主な流出経路と考えられている個々の亀裂の透水特性は亀裂開口幅分布に大きく依存することが知られており,更にはそのような亀裂の開口分布は亀裂に作用する応力状態が変化することにより大きく変化する事が知られている.そのため,空洞掘削による影響が著しい処分坑道周辺の掘削影響領域では,亀裂のせん断変形により亀裂開口幅が大きく変化し,時には「みずみち」と呼ばれる多くの水を流す経路を形成する可能性があると考えられている.しかし,現時点ではその様な掘削影響領域における岩盤の水理特性の変化を明確に表現できる手法は確立されていないのが実情である.そこで本論文では、まず個々の亀裂の幾何学的特性から応力変化に伴う個々の亀裂の透水特性の変化を明らかにし,次いで空洞掘削に伴う個々の亀裂の応力変化を予測することで,掘削影響領域における岩盤の透水特性を予測する手法を構築することを目的としている.

 第1章においては本論文の背景及び目的が示されている.

 第2章では,個々の亀裂の透水特性に関する既往研究と,亀裂性岩盤の透水特性に関する既往研究が示されている.

 第3章では,有限要素解析を用い様々な形状の亀裂の力学特性を詳細に調べることで,応力状態の変化に伴う開口分布の変化と亀裂の表面形状における様々な統計モーメントとの相関関係を定性的に明らかにしている.

 第4章では,第3章で得られた様々な開口幅分布を用いてレイノルズ方程式を数値的に解くことにより,単一亀裂の透水特性の変化が調べられている.その結果,開口幅分布の様々な統計的モーメントと亀裂の透水性に存在する相関関係が明らかにしている.

 第5章では,以上の結果を踏まえ,亀裂形状の統計モーメントと亀裂開口幅分布の変化及び亀裂の透水特性の変化における相関関係を解析的に明らかにする試みを行い,亀裂の表面形状の2次までの統計モーメントを用いることで,様々な応力変化に伴う単一亀裂の透水特性の変化を予測する算定式の提案を行っている.提案された算定式は,数値解析結果との良好な一致が示されている.

 第6章では,更にマイクロメカニクスに基づく亀裂性岩盤内の個々の亀裂における直応力及びせん断変形を予測する手法と,第5章で得られた単一亀裂の透水特性に関する算定式を用いることで亀裂性岩盤の透水特性を算出する手法の提案を行っている.亀裂性岩盤の透水特性の算出には亀裂ネットワークモデルを用いている.

 第7章では,第6章で提案された手法を用い,円形断面トンネルに対する掘削解析を行い,掘削に伴う周辺岩盤の透水性の変化及び物質移動時間の変化を詳細に調べている.その結果,現位置試験で見られる水理現象が周辺岩盤内の亀裂密度・初期地圧に大きく依存している様子が明確に示されている.更には,空洞周辺の岩盤内では坑道に平行な方向の透水特性と垂直な方向の透水特性には大きな異方性が存在しうる可能性を明らかにしている.

 以上のように本論文は,個々の亀裂における力学的及び水理学的挙動を詳細に調べることにより,経験論的な枠組みを廃し微細な物理現象に着眼した理論的な枠組みによりモデルが構築されていることに最大の特徴があり,学術的にも類稀な優れたアプローチであると考えられる.提案された手法の完成度は高く,今後予定されている現位置試験との連携により,掘削影響領域における透水特性の解明に大きな役割を果たすと考えられる.また将来的には本格的な地層処分候補地の選定段階における亀裂性岩盤水理解析において重要な役割を担っていく手法であると考えられ,社会的な貢献度も高いと考えられる.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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