No | 117600 | |
著者(漢字) | ファン ウォック ハウ ユイ | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ファン ウォック ハウ ユイ | |
標題(和) | 3次元個別要素法による吹付けコンクリートの施工性に関するシミュレーション | |
標題(洋) | 3-D SIMULATION USING DISTINCT ELEMENT METHOD FOR PREDICTION OF SHOTCRETE SHOOTABILITY | |
報告番号 | 117600 | |
報告番号 | 甲17600 | |
学位授与日 | 2002.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5317号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 吹付けコンクリートはモルタルやコンクリートを空気圧で高速度で表面に吹付ける工法で,数10年にわたり施工実績がある.吹付けコンクリートは,様々な構造物,例えば,トンネル,スロープ,プール等の用いられている.吹付けコンクリートは特殊なコンクリートを使用しているのではなく,その施工方法に特徴がある. 吹付けコンクリートには,乾式と湿式2つの方法があるが,近年では90%が湿式で行われており,本研究でも湿式方法を扱っている. 吹付けコンクリートの要求性能は,通常のコンクリートのように硬化後の強度だけではなく,その施工性も重要であり,その経済性,施工期間が長年問題視されている.吹付けコンクリートの施工性はリバウンド率と吹付け厚が重要である. 最終目標はリバウンド率を最小にし,吹付け厚を最大になるような最適な吹付け条件と配合の組合せをみつけることである.色々な吹付け条件,配合で吹付け実験を行うことで,最適な組合せを導くことはできるが,巨額な費用と時間,手間がかかる. コンピューターの発達により,吹付けシミュレーションで,吹付け実験を模擬的に検証することでコストを削減でき,吹付けコンクリートの施工計画の支援が可能となった. 実際に,様々な手法でフレッシュコンクリートの数値解析が研究者達によって行われてきた.その手法は,Viscoplastic Finite Element Method (VFEM), Viscoplastic Suspension Element Method (VSEM), Viscoplastic Divided Space Element Method (VDEM)等である. しかしながら,これらの手法は吹付け時の粒子性状を表現できず,吹付けコンクリートのシミュレーションに適するものではなかった.吹付けコンクリートは粒子同士の付着と塊の落下等が特徴であり,Distinct Element Method (DEM)が最も適した手法である. DEMによるフレッシュコンクリートのシミュレーションが何人かの研究者達に行われており,各々のモデルが提案されている. 1つ目は,Single Phase Modelと呼ばれるモデルで,フレッシュコンクリートの砂利の周囲をモルタルが覆っている状態を仮定し,付着性状に関してはモルタルの性状が用いられている. 2つ目は,Two-Phase Modelと呼ばれるモデルである.このモデルは,砂利の周囲が強度の小さいモルタル層で覆われており,粒子間の付着性状は,モルタル層の特性で支配されている.このモデルは,以前の研究者達(牧剛史氏,U. Puri氏)が吹付けコンクリートのシミュレーションに用いたが,砂利とモルタルが一体化しているため,砂利とモルタルのリバウンド率が同じ値になる.実際には,砂利の方が付着率が低いため,必ずしも実現象を模擬しているものではなかった. 本研究では,Two-Phase Modelを用いたM. A. Noor氏によるモルタルと砂利を別々に考慮した自己充填コンクリートのシミュレーション方法を参考とした.注目すべき点は,砂利とモルタル間の付着要素を導入し,発展させたことである.この点は,以前の研究では考慮されていなかった. DEMの短所の1つとして,計算量が非常に多くなることが挙げられる.本研究では,多くの改良を加えることで計算手法を改善し,計算時間の短縮が可能となった.これにより,コンクリート量が多い場合でも,吹付けコンクリートのリバウンド率を精度よく評価できるようになった. 本研究では配合からニューラルネットワークを用いてモルタルのレオロジー性状を予測している.ニューラルネットワークは,レオロジー性状からDEMの各種パラメータを決定するプロセスにおいても使用している. セメントの水和による材料性状の時系列変化,吹付けによる水分のロス,吹付け圧力によって粒子の付着時に空気が押出される現象が,レオロジー性状を調整することにより考慮されている. 始めに,急結剤の影響を実験結果から,定量的に評価し,DEMのパラメータを決定した. このモデルは,2つの相(モルタル,砂利)が別々に考慮されており,特に吹付け初期の砂利のリバウンド率が高い現象を再現している.これにより,実際に付着したコンクリート粒子の分布が容易に推定可能となった. シミュレーション結果から,コンクリートのスランプは吹付け厚とは直接関係はなく,モルタルの引張強度に依存することが確認された.吹付けコンクリートの施工性を評価するには,モルタルのレオロジー性状の基礎研究が重要である. シミュレーションを行うことで,吹付けコンクリートは,壁に水平よりも若干下方に吹いた方がリバウンド率が低いことが確認された. 最終的には,吹付け角度,吹付け速度,コンクリートのレオロジー性状等の吹付けコンクリート施工に有用な情報を提供することができた. 更に吹付けコンクリートの速度,急結剤の影響,鋼繊維の混入等の影響を定量的に評価することが今後必要であるが,DEMはフレッシュコンクリートと吹付けコンクリートのシミュレーションのツールとしての活用が大いに期待できる. | |
審査要旨 | 吹付けコンクリートは,トンネルや地下構造物の支保部材やライニング材として広く利用されているが,現状行われている施工では,材料や配合による施工時の吹付け条件が品質や施工性に与える影響について,明確にされているとは言い難い。そのため,経験側に立脚した配合・施工方法によって吹付け施工を行っているのが実状である。また,実験的に吹付けコンクリートのメカニズムを解明するためには,大規模な施設と多大な費用・労力が必要となり,材料や施工等の複雑に絡み合う要因を体系化することは極めて困難な状態にある。これに対して,近年のコンピュータ技術(ハード,ソフトの両面)の飛躍的な革新により,シミュレーションを用いた吹付けコンクリートのメカニズム解明へのアプローチが可能となりつつある。本研究は,3次元個別要素法を用いて吹付けコンクリートの施工性をシミュレートすることにより,吹付けメカニズムの解明を行ったものである。 第1章は序論であり,本研究の目的及び本論文の構成について記述している。 第2章は,個別要素法の基本原理の解説をしている。 第3章は,本研究で対象とする吹付けコンクリートに関する既往の研究成果を取りまとめ,対象とする材料および施工要因等を明確にしている。 第4章では,コンクリートのフレッシュ性状を定量的に評価する方法として,レオロジー特性に着目し,吹付けコンクリートをシミュレートする上で重要となる要因との関連を明らかにしている。さらに,ニューラルネットワークを用いて材料条件からレオロジー定数を予測する手法を提案している。 第5章は,本研究で提案する個別要素法を用いた吹付けコンクリートのシミュレーション方法を,既往の技術の利点・欠点を整理しつつ説明している。従来,各要素を円,球等で表現してきたため,要素では表現できない要素間の空間が存在しており,現実の現象を再現していなかったのに対して,要素間の空間部分も要素として考慮する方法を提案している。 第6章は,個別要素法で用いるパラメータをレオロジー定数から予測するために,フレッシュ試験結果を用いてパラメトリックスタディーにより求める方法と,4章で用いたニューラルネットワークによる予測法方法の提案を行っており,特にニューラルネットワークを用いた場合には精度良く予測できることを示している。 第7章は,これまでに算出してきたパラメータを用いて,実際の吹付けコンクリートをシミュレートし,吹付け距離や吹付け圧力の違いがリバウンド率に与える影響等に関して実験結果とほぼ同様な結果を得ることが可能であることを確認している。また,個別要素法の最大の問題点である,解析時間に関しても計算時間を大幅に低減する方法を提案している。 第8章は結論であり,本研究の成果をとりまとめている。 以上を要約すると,3次元個別要素法により実際の吹付けコンクリートの施工性能を評価するシステムを構築した研究であり,従来,経験則に基づいてきた吹付けコンクリートの吹付けメカニズムを明らかにしたものである。本研究の成果は,吹付けコンクリートの今後の材料・施工設計に資するものであり,コンクリート工学の発展に寄与するところ大である。よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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