No | 117601 | |
著者(漢字) | カリム,カジ レザウル | |
著者(英字) | Karim,Kazi Rezaul | |
著者(カナ) | カリム,カジ レザウル | |
標題(和) | 数値シミュレーションに基づく地震動指標と構造パラメータを用いた高速道路橋被害関数の構築 | |
標題(洋) | Development of fragility functions for highway bridges using strong motion indices and structural parameters based on numerical simulation | |
報告番号 | 117601 | |
報告番号 | 甲17601 | |
学位授与日 | 2002.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5318号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年の地震によるライフライン構造物の被害、とりわけ高速道路橋、ガス供給管の被害によって、地震時のモニタリングと早期被害判定のためのシステムの開発をより推進する必要があることが明らかとなった。これらのシステムでは、地震動を観測して構造物の被害を推定し、被災地を特定することで緊急対応を支援する、地震動モニタリングネットワークが中心的な役割を果たしている。これらのシステムで広く用いられている地震動のパラメータとしては、気象庁の計測震度、地表面最大加速度(PGA)、地表面最大速度(PGV)、スペクトル強度(SI)といったものがある。本研究ではこれらの地震動パラメータを用い、地震被害評価に関わる知見について考察を行う。また本研究では、強震動パラメータについて、気象庁計測震度と相関の高いパラメータを最も適切なパラメータとして決定し、数値解析的な方法により高速道路橋のフラジリティ曲線(被害関数)を構築し、数値シミュレーションに基づいて被害関数を求める簡易手法を提案することに焦点をあてた。第1章では、研究の目的、背景と関連文献のレビューを述べている。 日本ではこれまで、構造物被害の予測、被災地の同定と地震災害への対応に、気象庁震度が最も重要な指標として用いられてきた。また、その他のPGA,PGVやSIといった強震動パラメータは、地震動の強さを記述するのに用いられている。したがって、気象庁震度とその他の強震動パラメータの関係を明らかにする必要がある。第2章では、非液状化地盤の地震観測記録、液状化地盤の地震観測記録、気象庁観測記録の合計3つのデータセットから、気象庁震度とその他の強震動パラメータの関係を2段階線形回帰分析により明らかにした。解析結果によれば、気象庁震度はPGAやPGVよりもSIと高い相関があり、PGAとSIの組み合わせ、あるいはPGAとSIの積に最も高い相関があることが明らかとなった。第2章で得られた結果は、日本における災害対応や、PGAとSIを同時にモニタリングする新しいSIセンサの開発に役立つものと思われる。 高速道路橋の被害予測においては、フラジリティ曲線が便利なツールの一つとして考えられる。フラジリティ曲線は構造物の被害確率を強震動パラメータの関数として定義したものである。この曲線を構築するには(1)経験的手法、(2)実験的手法、(3)解析的手法の3つの方法がある。経験的手法は実際の被害に基づくものであり、説得力がある。しかし、構造種別、耐震性能、入力地震動のばらつきといったものを特定しない。また、被害を受けた構造物の近傍で地震動が観測されたケースはまれである。次に、実験的手法では、フラジリティ曲線の評価は非常に多くのデータが必要になるため、実際の構造物に近いモデルを多く作ることが難しいこと、そして、構造物のパラメータや地盤条件、地震動入力の多様性を実験モデルで全て考慮することは容易ではないことから、その評価は実際には困難であると考えられる。一方、数値モデルを用いれば広くばらつきを持ったデータを用意することは非常に簡単である。しかし、モデルは実際の観測に基づくものではないので、数値モデルと入力地震動の選定には十分注意を払う必要がある。第3章では、数値解析的なアプローチによって、高速道路橋の橋脚のブラジリティ曲線を構築した。その結果、経験的なフラジリティ曲線は数値解析的な曲線と異なっており、フラジリティ曲線の評価には地震動入力の違いが大きく影響力することが明らかとなった。第3章で提案する手法は、高速道路橋のフラジリティ曲線の構築に有用であると思われる。 フラジリティ曲線の強震動パラメータを選択する際には、構造物被害に最も相関の高いものを選ぶことが重要であるが、実際には容易ではない。第3章では、フラジリティ曲線の構築に、地震動の強さを示す指標として一般的に用いられているPGAとPGVのみしか考慮しなかった。しかし、大きなPGAでも、とりわけ長周期の構造物では深刻な被害が生じないこと、同様に、PGVが大きくても、特に断層運動の永久変位成分が含まれるときには、大被害とは必ずしも対応しないことが一般に広く知られている。また、他の地表面最大変位(PGD)やSI、地震動継続時間といった地震動指標や、スペクトル特性も被害推定に考慮することが可能である。したがって、これらの指標と構造物被害との関係を明らかにする必要があるといえる。第4章では、非線形時刻歴応答解析により構造物の被害を求めた。ここで、変位と、塑性変形による履歴吸収エネルギーの関数で与えられる損傷指標DIにより被害を定量化した。そして、DIと地震動パラメータの関係を非線形回帰分析により求めた。その結果、気象庁震度の場合と同様に、DIはPGAとSIの組み合わせと最も高い相関があることが明らかとなった。以上の結果をもとに、PGA,PGVとSIを地震動パラメータとして用い、高速道路橋のフラジリティ曲線の構築を行った。 4章の後半では、まず数値解析的な手法により構造物パラメータのばらつきを考慮し、数値シミュレーションにより高速道路橋のフラジリティ曲線を構築した。その結果、構造物のパラメータはフラジリティ曲線の構築に大きな影響を与えることが明らかとなった。フラジリティ曲線のパラメータと構造物のパラメータ、特に降伏比との関係を線形回帰分析により求めたところ、フラジリティ曲線のパラメータは降伏比と強い相関があることが明らかとなった。これより、非免震構造の高速道路橋のフラジリティ曲線を構築する際に、簡便に用いることができる、簡易手法の提案を行った。 最後に第5章では、前章で提案した簡易手法を、免震構造の高速道路橘に適用し、フラジリティ曲線の構築を行った。免震、非免震構造の高速道路橋を比較すると、被害確率の程度は、橋脚長さが比較的短いときは免震構造のほうが小被害で、橋脚長さが長くなるにつれて免震構造の被害率が増加する傾向が見られた。言い換えると、橋脚長さが長いときには免震構造は効果を発揮しにくくなるといえる。これは橋脚長さが長くなると固有周期が長くなり、変形量が増大することで、免震装置の性能に影響を与えるためであると考えられる。免震構造は剛性が高く短周期の構造物には有効であるが、柔らかく、長周期の構造物には効果的ではない。本研究で提案する簡易手法は、免震、非免震構造の両方の高速道路橋について、簡便にフラジリティ曲線を構築することができるため、日本の地震防災に役立つものと思われる。 以上、本研究の成果は次のように要約できる。1)気象庁震度との相関を調べることにより、防災情報システムに活用できる、適切な地震動パラメータを決定した。2)高速道路橋のフラジリティ曲線を構築するための数値解析的手法を提案した。3)構造物被害と強震動パラメータの相関を求め、高速道路橋のフラジリティ曲線に最も適した強震動パラメータを決定した。4)免震・非免震構造の高速道路橋について、単純な表現のフラジリティ曲線の式を提案した。この式は日本における地震災害時の高速道路橋の被害評価で有用であり、地震防災に役立つものであると思われる。 | |
審査要旨 | 最近の都市型地震の経験より,都市ライフライン施設の被害,とりわけ高速道路橋や地中埋設管の被害を早期に把握し緊急対応を行うには,地震動モニタリングに基づく早期被害推定システムが重要であることが指摘されている.これらのシステムで広く用いられている地震動パラメータとしては,計測震度,地表面最大加速度(PGA),地表面最大速度(PGV),スペクトル強度(SI)といったものがあるが,本研究では,これらの地震動パラメータを用いて地震被害を評価する方法について考察するとともに,数値解析的な方法により高速道路橋の地震被害関数を構築し,数値シミュレーションに基づいて被害関数を求める簡易手法を提案することを目的としている. まず,第1章では,研究の目的および背景を述べるとともに,関連文献のレビューを行い,研究の位置づけを明確にしている. 第2章では,計測震度に注目し,PGA,PGVやSIといった強震動パラメータと計測震度との関係について検討した.日本ではこれまで,構造物被害の予測,被災地の同定と災害対応に,計測震度が最も重要な指標として用いられてきた.最近の膨大な実地震記録のデータセットの中から,本研究では,非液状化地盤の地震観測記録,液状化地盤の地震観測記録,気象庁観測記録の合計3つのデータセットから,計測震度とその他の強震動パラメータの関係を2段階線形回帰分析により明らかにした.解析結果によれば,計測震度はPGAやPGVよりもSIと高い相関があり,PGAとSIの組み合わせ,あるいはPGAとSIの積に最も高い相関があることが明らかとなった.第2章で得られた結果は,日本における地震災害への緊急対応や被害推定,PGAとSIを同時にモニタリングする新しいSIセンサの開発に役立つものと思われる. 第3章では,数値解析的なアプローチによって,高速道路橋の橋脚の地震被害関数を構築した.高速道路橋の被害予測においては,被害関数が便利なツールの一つとして考えられる.被害関数は構造物の被害確率を強震動パラメータの関数として定義したものである.この関数を構築するには経験的方法,実験的方法,解析的方法の3つの方法が考えられる.経験的方法は実際の被害に基づくものであり説得力があるが,被害を受けた構造物の近傍で地震動が観測されたケースはまれであり,構造種別,耐震性能,入力地震動のばらつきといったものを詳細に取り入れることは困難である.次に実験的手法は,実験モデルを多く作ることが難しい,構造物のパラメータや地盤条件,地震動入力の多様性を実験モデルで全て考慮することは容易ではないことなどから,その評価は実際には困難であると考えられる.一方,数値モデルを用いれば広くばらつきを持ったデータを用意することは容易であるが,実際の観測に基づくものではないので,数値モデルと入力地震動の選定には十分注意を払う必要がある.様々な地震記録を入力とした数値解析を実施した結果,数値解析的な関数は,地震動特性によって経験的被害関数と差異が生じており,被害関数の評価には地震動入力の違いが大きく影響力することが明らかとなった.ここで提案する数値解析に基づく方法は,より一般的な高速道路橋の被害関数の構築に有用であると思われる. 第4章では,第3章の検討結果をさらに発展させて,非線形時刻歴応答解析により,さまざまな構造パラメータを考慮したより一般的な高速道路橋の被害関数の構築を行った.被害関数の強震動パラメータを選択する際には,構造物被害に最も相関の高いものを選ぶことが重要であるが,実際には容易ではない.第3章では被害関数の構築に,地震動指標としてPGAとPGVのみしか考慮しなかったが,大きなPGAでも,とりわけ長周期の構造物では深刻な被害が生じないこと,同様に,PGVが大きくても,断層運動の永久変位成分が含まれるときには,大被害とは必ずしも対応しないことが知られている。また,地動最大変位(PGD)やSI,地震動継続時間といった地震動指標や,スペクトル特性も被害推定に考慮することが可能である.したがって,これらの指標と構造物被害との関係を明らかにする必要がある.ここでは,応答変位と,塑性変形による履歴吸収エネルギーの関数で与えられる損傷指標により被害の定量化を行い,損傷指標と地震動パラメータの関係を非線形回帰分析により求めた.その結果,計測震度の推定の場合と同様に,損傷指標はPGAとSIの組み合わせと最も高い相関があることが明らかとなった.以上の結果をもとに,PGA,PGVとSIを地震動パラメータとして用いて,高速道路橋の被害関数の構築を行った. 第4章の後半では,数値解析的な手法により構造物パラメータのばらつきを考慮し,数値シミュレーションにより高速道路橋の被害関数を構築した.その結果,構造物パラメータは被害関数の構築に大きな影響を与えることが明らかとなった.被害関数のパラメータと構造物パラメータ,とくに降伏比との関係を線形回帰分析により求め,被害関数のパラメータは降伏比と強い相関があることが示された.これより,通常の非免震構造の高速道路橋の被害関数を構築する際に,簡便に用いることができる簡易手法の提案を行った. 第5章では,第4章で提案した簡易手法を,免震構造の高速道路橋に拡張して適用することを試みた.免震,非免震構造の高速道路橋を比較すると,被害確率の程度は,橋脚高が比較的小さいときは免震構造のほうが小被害で,橋脚高が大きくなるにつれて免震構造の被害率が増加する傾向が見られた.言い換えると,橋脚高が大きいときには免震構造は効果を発揮しにくくなるといえる.これは橋脚高が大きくなると固有周期が長くなり,変形量が増大することで,免震装置の性能に影響を与えるためであると考えられる.免震構造は剛性が高く短周期の構造物には有効であるが,柔らかく,長周期の構造物には効果的ではない.本研究で提案する簡易手法は,免震,非免震構造の両方の高速道路橋について,簡便に被害関数を構築することができるため,地震防災に役立つものと思われる. 以上,本研究の成果は,計測震度との相関を調べることにより防災情報システムに活用できる適切な地震動パラメータを決定した,高速道路橋の被害関数を構築するための数値解析的手法を提案した,高速道路橋の被害関数に最も適した強震動パラメータを決定した,日本の免震・非免震構造の高速道路橋について単純な表現の被害関数の式を提案した.このように本研究の結果は,今日の都市ライフライン施設の地震時安全性確保に関して,きわめて有用かつ実用的な情報を与えている. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
UTokyo Repositoryリンク |