学位論文要旨



No 117606
著者(漢字) カーン,モヒウディン モハルド タイムール
著者(英字) Khan,Mohiuddin Md. Taimur
著者(カナ) カーン,モヒウディン モハルド タイムール
標題(和) 膜分離型高濃度粉末活性炭システムによる水処理法の開発
標題(洋) DEVELOPMENT OF POWDERED ACTIVATED CARBON-MICROFILTRATION(PAC-MF) MEMBRANE SYSTEM FOR WATER TREATMENT
報告番号 117606
報告番号 甲17606
学位授与日 2002.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5323号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大垣,眞一郎
 東京大学 教授 中尾,真一
 東京大学 教授 山本,和夫
 東京大学 教授 国包,章一
 東京大学 講師 片山,浩之
内容要旨 要旨を表示する

 近年、浄水および下水処理において膜処理が導入されるようになってきている。その理由としては、(1)水質基準が強化されることに備えること、(2)原水水質の悪化に対する策、(3)水の再利用の促進、(4)省スペース、(5)膜分離技術の進展による維持管理コストの低減、などが挙げられる。膜処理による水質は概して良く、化学薬品をあまり使わない、エネルギー消費が少ないなどのメリットもある。ただし、これまでは高圧を要するナノろ過膜(NF)や逆浸透膜(RO)を用いない限り、フミン質や臭気物質などの溶存性物質は除去できないと考えられてきた。このような溶存性有機物なども除去できる粉末活性炭(PAC)と精密ろ過膜(MF)を組み合わせた高度浄水処理システムの開発が、本論文の課題である。

 多摩川(東京)の水を原水とし、前処理としてポリプロピレン担体を用いた生物処理を行ない、粉末活性炭膜分離水処理装置(PAC-MFシステム)を用いた実験を行なった。前処理をしていない原水も比較のために実験に用いた。PAC-MFシステムには40g/LのPACを公称孔径0.1μmの親水性ポリエチレン中空糸膜に組み合わせたものである。高濃度のPACを入れることによって、除去対象物質の除去効率が高くなると同時に膜分離の運転可能時間が長くなるという効果がある。

 この実験は、2回に分けて行なわれた。一回目は、並列して3個の装置を運転し、水理学的滞留時間(HRT)をすべて4.8時間とした。PACなしの対照装置、生物ろ過水を原水とするものおよび河川水を原水としてそれぞれPAC 40g/Lを入れた装置の3条件を同時に運転して比較した。2回目は、HRTを2.4時間および1.2時間とし、PACなしの対照装置と、生物ろ過の有無の条件とHRTの2条件を組み合わせて、合計5個の装置を並列して運転したものである。

 1回目の実験では、197日の運転期間の間に、河川水を原水としているPACなしのコントロールはファウリングが6回生じたが、同じ原水でもPACがある装置ではファウリングが3回しか生じなかった。また、生物ろ過の前処理を行なった水を原水として用いている装置では、2回しかファウリングが生じなかった。2回目の実験では、HRT2.4時間のPACなしのコントロールは4回、HRT2.4時間で河川水もしくは生物ろ過をしたものを原水とした装置はそれぞれ3回および2回のファウリングが生じた。さらに、HRT1.2時間の系列では、生物ろ過の有無に関わらず4回のファウリングが生じた。HRT一定の条件ではPACがある方が運転可能時間が長く、またHRTを長くすることによって運転可能時間を長くすることができた。また、以上の運転期間において、前処理としての生物ろ過によるSSの平均除去率は70%以上であり、PAC-MFの処理水についても生物ろ過したものを原水とした場合によりよい水質が得られた。

 河川水を原水としたPACなしの装置においては、SSの蓄積がもっとも大きかった。PACのある装置においては、槽内のSSの蓄積面相対的に小さかった。TOCの除去率についても、2回目の実験において70%が除去されたが、PACなしの装置では約30%しか除去されていなかった。PAC表面において、有機物の吸着と同時に分解も生じていることがわかった。MFのみによっては除去されないTOCが、PACによって吸着され、そして分解され、結果としてTOC濃度の非常に低い処理水が得られたものと考えられる。

 粒子によるファウリングは一つの課題であるが、PACの粒径は、長時間の連続曝気によって相対的に小さくなった。装置内のPACのサイズは1-10μmの径をもつものが多くなっていくことが観察された。サイズの変化は曝気および粒子同士の相互作用によると考えられる。粒子径が小さくなることにより、ケーキ層が圧縮されやすくなってケーキ層抵抗が上昇したと考えられる。

 総細菌数は、PACを組み込んだ装置の方がPACなしの対照装置より常に多かった。PACの表面が微生物の生育場所として好適であったと考えられる。槽内に蓄積された糖結合性タンパクであるレクチンを調べた結果、同じ原水でもPACがある場合とない場合では、異なるタイプのレクチンが検出された。生物ろ過の有無によっても検出されるレクチンは大きく異なることがわかった。タンパク質は多糖よりも高濃度で存在するので、ファウリングに大きな影響を与えている可能性がある。また、HRTが長い場合は、層内および膜においてタンパク質の濃度が比較的高くなることがわかった。

 3次元蛍光スペクトル解析を行ない、フミン酸とフルボ酸のピークが見られた。分子量の分析による結果から、槽内には低分子のものが多いが、PACなしの対照装置の膜抽出物質からは30000Da以上の高分子が見られた。これらの高分子物質がファウリングに影響している可能性がある。PACのある装置では、2000Da以下のものが多く、高分子の物質はPACに良く吸着していることがわかった。長期運転後にジオスミンを投入した実験では、PAC-MFシステムによって99%以上の除去が達成できることがわかり、PACのジオスミン吸着能が長く継続することが確かめられた。

 実験期間において頻繁に見られた活性炭同士の付着による膜のケーキ層抵抗の上昇の原因を調べるため、次亜塩素酸ナトリウム、オゾンおよび水酸化ナトリウムなどによる抽出により、活性炭に付着している物質の確認、ならびに、金属元素についても分析した。また、模本体の形状について調べた結果、ほぼ200日間にわたる運転によっても膜の孔径にほとんど変化がなく、引張り強度も劣化していないことを確認した。

 以上の結果および既存の知見から、PAC-MFシステムについて以下の結論を導くことができる。

 PACの存在により、膜のファウリングが生じにくくなり、より長時間の連続運転を可能とする。PACとの接触時間に相当する水理学的滞留時間(HRT)が連続運転可能期間を支配する一つの因子であり、適度に十分なHRTを与える必要がある。PACの存在によって膜分離槽内でのSSの蓄積が緩和され、TOCの除去率が向上する。前処理である生物ろ過によってSSをある程度除去することが可能であり、また生物ろ過前処理の導入はPAC-MFシステムの運転可能時間の長期化につながることが明らかとなった。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、DEVELOPMENT OF POWDERED ACTIVTED CARBON-MICROFILTRATION (PAC-MF) MEMBRANE SYSTEM FOR WATER TREATMENT (膜分離型高濃度粉末活性炭システムによる水処理法の開発)と題し、活性炭と膜分離技術を組み合わせた浄水処理法について研究したものである。8章で構成されている。

 第1章では、粉末活性炭を用いた浄水処理法、および精密ろ過膜を用いた浄水処理法についての知見から、この両者を組み合わせた処理法が有力な処理法になりうることを説明している。これまでに、粉末活性炭を原水に投入して循環型膜処理法によって固液分離する方法や、粉末活性炭を40g/Lの高濃度で含む槽内に浸漬型精密ろ過膜による固液分離する方式が実験室レベルでは運転可能であることが示されている。そこで、本研究では、ケーキ層による膜間差圧の上昇について調べること、その抑制方法に関する知見を得ること、膜の洗浄法に関する知見、および運転方式について知見を得ることを目的としている。

 第2章では、活性炭と膜分離を用いた浄水処理について、限外ろ過膜、ナノろ過膜や逆浸透膜との比較を行なっている。ケーキ層の形成メカニズムに関する既存の研究についてまとめ、流束の低下の原因についてこれまでに得られている知見をまとめている。

 第3章では、本研究で用いている実験装置および実験方法について詳細に説明している。東京都の多摩川の水を原水として、東京都水道局の玉川浄水場に設置した実験装置を用い、各種の運転条件設定の下、複数の装置を197日間および45日間にわたる2回の同時並列運転を行なっている。多摩川の水質、運転に関する粉末活性炭の投入量、流束、膜面積、逆洗浄の方式など、設定した様々なパラメータについて説明している。

 第4章では、多摩川河川水を原水として用いた長期運転実験の結果を述べている。運転条件の異なる実験装置における膜間差圧の上昇の違いについて、活性炭の役割、ポリプロピレン担体をもちいた生物ろ過による前処理の効果、および水理学的滞留時間の影響をしらべ、ファウリングに関する考察を行っている。膜の洗浄方法についても膜間差圧上昇の抑制の観点から検討している。

 第5章では、膜ファウリングの原因のひとつとして活性炭の粒径分布を取り上げ、運転期間中に活性炭粒子サイズが小さくなっていることを定量的に示している。また、水中浮遊物質の挙動について調べ、粉末活性炭が高濃度に存在する装置においては槽内にあまり蓄積しない傾向にあることを示し、微生物による分解が生じている可能性を示している。

 第6章では、膜ファウリングの原因のひとつとしてさまざまな有機物を取り上げ、3次元蛍光スペクトル解析、糖タンパクの一種であるレクチンの分析、分子量に着目した解析などさまざまな先端的な分析手法を用いて槽内および膜付着性の有機物を調べ、膜ファウリングの原因物質について考察している。化学洗浄によって膜が効果的に回復し、膜の目詰まりの原因物質を除去できることを走査型顕微鏡により観察している。

 第7章では、実験の期間において頻繁に見られた活性炭同士の付着による膜のケーキ層抵抗の上昇の原因を調べるため、次亜塩素酸ナトリウム、オゾンおよび水酸化ナトリウムなどによる抽出により、活性炭に付着している物質について調べている。また、膜の形状について調べた結果、ほぼ200日間にわたる運転によっても膜の孔径にほとんど変化がなく、引張り強度も劣化していないことを確認している。また、膜に付着している金属元素についても分析している。

 第8章は総括であり、本論文の成果を取りまとめて示してある。

 以上のように本論文は、高度浄水処理法のひとつである高濃度活性炭と精密ろ過膜を用いた浄水処理法の実用可能性および運転管理における課題を明らかにしたものであり、都市環境工学の学術分野に大いに貢献する成果である。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク