No | 117614 | |
著者(漢字) | 劉,江桁 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | リュウ,コウコウ | |
標題(和) | 柔軟な輸送システムのためのセミゼロパワー磁気浮上とリニアモータとの協調制御 | |
標題(洋) | Semi-Zero-Power Maglev Control and its Coordination with Linear Motor for Flexible Conveyanee System | |
報告番号 | 117614 | |
報告番号 | 甲17614 | |
学位授与日 | 2002.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5331号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 電気工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 磁気浮上技術は、物体を磁気力により非接触で支持することで従来の機械的支持機構における摩擦・摩耗、振動・騒音、潤滑油による使用環境の制限、メンテナンス、高速回転の限界などの諸問題を解決し、今後の産業界における新しい搬送システムを構築するための鍵となる技術として期待されている。 磁気浮上を実現する方式にはさまざまなものがあるが、電磁石と強磁性体間の吸引力を利用する吸引制御式(Electromagnetic suspension、 EMS)は、小さな漏れ磁束、小型、超電導等の特殊な材料・装置が不要、静止浮上が可能等、さまざまな実用上の利点から磁気軸受、搬送システムの支持を中心として現在最も広く実用化されている。しかし、EMSシステムでは、浮上系が本来不安定である事から複数の磁石についてフィードバック制御による安定化が必要となる。 そこで、本研究では、柔軟な磁気浮上搬送システムを構築するため、単独磁石で安定支持のできる新しいタイプの電磁石を提案し、その磁石の浮上制御および磁石とリニアモータとの協調制御を検討した。 本論文の内容および構成は、以下のようになっている。 第1章では、磁気浮上研究の背景をまとめ、本研究の位置付けを行った。従来のEMSシステムにおいては、吸引力発生源の電磁石として、いわゆるU字型またはE字型電磁石が通常用いられてきた。これらの電磁石は単独では1自由度しか制御できず浮上システムを構成できない。よって、多数の電磁石を平面状に配置してそれらを協調的に制御する事で浮上システムを構築している。本研究では、従来用いられてきたU字型電磁石に代わって、二次元リニア駆動にも適した4極ヨーク結合型電磁石を提案し、その浮上と推進の協調制御を行う。 第2章では、4極ヨーク結合型ハイブリッド電磁石を提案した。提案した4極電磁石は以下の ◆単独で浮上システムを構築できる; ◆ゼロパワー浮上を可能とする; ◆浮上姿勢を傾ける事によりアクティブに不平衡吸引力を発生できる という3つの特徴を持っている。 まずは、4極電磁石の基本構造とその3自由度の制御方法を解析し、その4極電磁石とリニアモータの組合せ方式の検討を行った。4極電磁石には永久磁石が含まれているので、リニアモータの構成は、永久磁石リニア同期モータになり、比較的小さな電機子電流で大推進力を得られる。また、一次元のリニアモータを主として推進のために用いる一方、二次元のリニアモータは分岐装置とする。その二次元リニアモータの駆動原理を定性的に記述した。 次に、軽量化、小型化、簡単化の浮上搬送システムを実現するため、提案する4極型電磁石のハードウエア最適設計を行った。ここでは、電磁石製作の容易さを念頭に置きながら、構造が簡単、制御しやすい、電源容量が小さいなどの項目を指針に設計を行った。また、浮上系のロバスト性を損なわず、リニアモータ組合せ時の推力を大きくとれ、駆動時推力脈動の原因となるdetent力をできるだけ削減するという視点から磁石の断面積とポールピッチを選択した。 第3章では、制御系を組むため、浮上系と推進系のプラントモデルをそれぞれ導出した。まずは、EMS浮上系は非線形かつ不安定なので、アクティブな制御による安定化が必要となる。浮上系の厳密プラントモデルと線形化近似モデルの解析を行い、提案した4極の電磁石単独で3自由度の姿勢制御を行って安定浮上できることを明らかにした。厳密モデルの解析結果によって、4極のばらつきが大きくない時、3自由度間の相互干渉は実用上問題ない程度に抑制できることが明らかになった。線形近似モデルに基づいて、その各自由度に対し、制御系をそれぞれ独立に設計できることも明示した。次に、電気機器の理論により、電磁石・リニアモータ組合せ時の推進近似線形モデル、および組合せ時の浮上系制御パラメータ変動を調べた。リニアモータの電機子では、電機子の歯とスロットが存在するため、浮上体は一様な鉄レールの下にあるときとリニアモータの下ある時では浮上のための磁気回路の特性が変わる。しかし、ここでは二次元の有限要素法を用いてこの磁気回路のモデルパラメータの変動が制御上重大な悪影響を及ぼすほどには大きくないことを確認した。最後に浮上系と推進系のパラメータの同定を実験で行った。 第4章では、浮上制御系の設計と実験を行った。まず、第3章に導出した浮上系の線形近似モデルに基づいて、古典制御理論-PID制御手法で3自由度の浮上制御系を設計した。PID制御手法では、因果律のため純粋微分が実現できないため、擬似微分を行う。しかし、この擬似微分の時定数は純粋微分を前提として設計した制御系の中ではシステムの安定性に悪影響を及ぼすので、ここでは、真鍋の係数図法に基づいてシステムの安定性を解析した。 さらに、浮上系の性能を向上する目的として、状態フィードバック制御系による3自由度浮上システムを導入し、実験により安定浮上を実証した。浮上系は巻線電圧を入力としたとき可制御なので、浮上制御系のフィードバック系の極は理論上任意に配置できる。しかし、本研究におけるセンサとしてはギャップセンサのみを考えているため、他の状態変数を推定するために状態オブザーバを導入した。オブザーバはLPFの機能を持っているので、センサノイズに強い。特に、外乱オブザーバを導入すれば本来の状態方程式にある状態変数に加え、外乱力も推定できる。さらに、この外乱力の中に、線形化に伴うプラントモデルの誤差も一緒に入れてしまうことで外乱力にもモデル化誤差にも強い制御系の設計が可能となることを計算で示した。さらに、その推定した外乱項をfeedforwardすることで、浮上系の支持鋼性やロバスト性が向上できることを実験的にも示すことができた。 磁気浮上システムの特長は非接触で支持することだが、この非接触時の給電は本質的問題となる。その問題を解決するため、本研究では永久磁石を生かして浮上に必要な電力を低減するゼロパワー浮上を導入した。ゼロパワー浮上制御は、定常状態では永久磁石の吸引力のみで浮上体の重量を支持し、負荷変動時には磁石ギャップを自動的に調整して、定常時の電磁石コイルの制御電流をゼロに収束させる制御法である。しかし、外乱力があるとき、浮上体は積極的に浮上ギャップを変動させ、コイル電流をゼロに収束させようとするので、周期的外乱が入れば、浮上体が上下に振動し続けて、コイル電流もゼロに収束させることは結果的にできなくなる。その振動自身も搬送システムとしては望ましくないので、周期外乱時のギャップ変動はなるべく抑制する必要がある。この観点から、本研究ではセミゼロパワー制御法を提案し、実験を行った。セミゼロパワー制御法はゼロパワー制御法とギャップ長制御法の中間的な周波数特性が得られ、振動抑制と省エネルギーの両立がねらえる制御方式である。同じ目的で、遅いゼロパワー制御法も実験し両者を比較検討した。この方法はゼロパワー制御系を設計するとき、制御系を浮上安定化とゼロパワーの2つの部分に分け、外側にある電圧(あるいは電流)の制御ループのみを遅くするようコントロールゲインを低く設定する制御法である。さらに第4章の最後に桁振動抑制の問題を簡単に記述した。 第5章では、推進制御系の設計を行った。ここでは、1次元のリニアモータとの組合せ時の推進制御を中心に検討した。リニア駆動の近似線形モデルは浮上系と似ているが、浮上系は本来不安定なので、原則的に制御系は遠ければ速い程いいが、推進系は本来安定系である一方、位置の高速かつ精度良い検知は必ずしも容易でないので、速い制御系を設計することが必ずも良いとはいえない要素を持つ。よって、近似線形モデルの極を解析し、システムの機械的動特性に影響がない左半面に遠い極を無視することでプラントモデルの低次元化を図る。その上での制御系設計を浮上系と同じ考え方で行った。 また、2次元リアモータと組合せ時の駆動を検討し、位置・速度のセンシング技術を中心に検討を行った。2次元駆動するときは2次元の位置情報のセンシングは難しい。ここでは、ロボット工学でよく使っているロボットビジョンを導入し、二つの監視カメラで移動体の位置を検出することも視野に入れた。さらに、瞬時速度オブザーバを導入し、センサのサンプルレートが低くても検出の精度を落とさない方法も考察した。 第6章では、本論文のまとめとして、提案した4極電磁石3自由度浮上制御およびその磁石とリニアモータの協調制御の設計法と実システム構成上の問題点を要約した。本研究が磁気浮上技術とリニアドライブ技術の更なる発展と普及に貢献できることを期待する。 | |
審査要旨 | 本論文は、「Semi-Zero-Power Maglev Control and its Coordination with Linear Motor for Flexible Conveyance System」と題し、小容量の搬送体を高頻度運転し、二次元リニアモータによる分岐や任意の曲線駆動を積極的に用いた搬送物流制御を可能とする柔軟な輸送システムを想定し、その重要な構成要素として4極3自由度電磁石を提案している。そして、省エネルギーかつ高品質な輸送のための浮上および駆動制御を包括的に検討すると共に、実験を通じてその基本的性能を実証したもので、全体で6章からなる。 第1章では、磁気浮上研究の背景をまとめ、本論文の位置付けを行っている。従来の電磁吸引浮上システムでは、吸引力発生源の電磁石としていわゆるU字形またはE字形電磁石が通常用いられてきた。これらの電磁石は1自由度しか制御できず、単独で浮上システムを構成できない。よって、複数磁石を平面状に配置してそれらを協調的に制御し浮上システムを構築してきた。本論文では、このU字型電磁石等に代わって、単独独立浮上が可能で二次元リニア駆動にも適した4極ヨーク結合型電磁石を提案し、その浮上と推進の協調制御を意図している。 第2章では、この4極ヨーク結合型ハイブリッド電磁石を説明している。まずは、4極電磁石の基本構造とその3自由度の制御方法を解析し、4極電磁石とリニアモータの組合せ方式の検討を行っている。4極電磁石には永久磁石が含まれているので、リニアモータの構成は、永久磁石リニア同期モータになり、比較的小さな電機子電流で大推力を得られる。また、一次元リニアモータを主として推進のために用いる一方、二次元リニアモータは分岐装置とする。その二次元リニアモータの駆動原理を定性的に記述している。そして、軽量化、小型化、簡単化の浮上搬送システムを実現するため、提案する4極型電磁石のハードウエア最適設計を行っている。 第3章では、制御系を組むため、浮上系と推進系のプラントモデルをそれぞれ導出している。浮上系の厳密プラントモデルと線形化近似モデルの解析を行い、提案した4極の電磁石単独で3自由度の姿勢制御を行って安定浮上できることを明らかにしている。厳密モデルの解析結果によって、4極のばらつきが大きくない時、3自由度間の相互干渉は実用上問題ない程度に抑制できる。次に、電磁石・リニアモータ組合せ時の推進近似線形モデル、および組合せ時の浮上系制御パラメータ変動を調べている。最後に浮上系と推進系のパラメータの同定を実験で行っている。 第4章では、浮上制御系の設計と実験を行っている。まず、第3章で導出した浮上系の線形近似モデルに基づいて、古典制御理論-PID制御手法で3自由度の浮上制御系を設計した。次に、浮上系の性能を向上するため、状態フィードバック制御系による3自由度浮上システムを導入し、実験により安定浮上を実証している。ここで、外乱オブザーバを導入すれば本来の状態方程式にある状態変数に加え、外乱力も推定できる。さらに、この外乱力の中に、線形化に伴うプラントモデルの誤差も一緒に入ることで、外乱力にもモデル化誤差にも強い制御系の設計が可能となることが示されている。磁気浮上システムの特長は非接触で支持することだが、この非接触時の給電は本質的問題となる。この問題を解決するためには、永久磁石を生かして浮上に必要な電力を低減するゼロパワー浮上が有力であるが、周期的外乱が入れば、浮上体が上下に振動し続けて、コイル電流をゼロに収束させることは結果的に難しい。そこで、このゼロパワー制御法とギャップ長制御法の中間的周波数特性が得られ、振動抑制と省エネルギーの両立が狙えるセミゼロパワー制御方式を提案し、その有効性をこの章で詳細に実証している。 第5章では、推進制御系の設計を扱っている。まず、1次元のリニアモータとの組合せ時の推進制御を中心に検討している。近似線形モデルの極を解析し、システムの機械的動特性に影響がない左半面に遠い極を無視することでプラントモデルの低次元化を図り、制御系設計を浮上系と同じ考え方で実施している。次に、2次元リニアモータと組み合わせた駆動を検討し、オープンループで任意軌跡を描ける駆動試験を成功させた。2次元駆動における位置情報のセンシングは難しい。そこで、2つの監視カメラでステレオ視することで、移動体の位置を検出することも視野に入れ、位置センシングの理論的考察を行っている。 第6章は、「まとめ」であり、本論文で得られた成果をまとめると共に、将来の展望について述べている。提案した4極電磁石3自由度浮上制御、およびその磁石とリニアモータの協調制御の設計法と、実システム構成上の問題点を要約している。 以上を要するに、本論文は、柔軟な輸送システムを構築するための技術要素として、単独で安定浮上可能な電磁吸引制御形浮上の4極3自由度電磁石を考案し、その電力消費の低減を目指したセミゼロパワー磁気浮上制御と、一次元・二次元のリニアモータと組み合わせた駆動を行う場合の固定子・可動子の設計、駆動制御法をまとめ、実験を通じ性能の実証を行ったもので、今後の電気工学の進展に寄与するところが少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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