No | 117621 | |
著者(漢字) | 劉,峭 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | リュウ,チョウ | |
標題(和) | プロセスシステムのインタフェース設計のための機能可視化に関する研究 | |
標題(洋) | Study on Visualization of Functional Information for Interface Design of Process Systems | |
報告番号 | 117621 | |
報告番号 | 甲17621 | |
学位授与日 | 2002.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5338号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | システム量子工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | プロセスシステムのインターフェースに情報を表示する方法として、従来ではP&ID図が用いられてきた。この種のインターフェースはシングルセンサー・シングルインディケーターの設計概念に基づいているので、各情報インディケーターは一回一つの測定値しか表示しないことを意味する。工業プロセスの一層の複雑化、特に制御システムの広範囲な実用化の影響で、P&ID図は現代のプロセスシステムには不十分なものになくなってきた。従来のインターフェース設計の問題点は以下の様に挙げられる:(1)表示すべき画面内容は明示的に考えられやすくない。情報は物理的トポロジーに基づいて表示されるので、システムの目標と機能に最適化されていない。(2)運転員は全体の状態を把握するために、個別なインディケーターから情報を収集して、それらをメモリに蓄え、知的な分析をしなければならない。これは運転員の認知負荷を増やすことになる。(3)画面の表示形式は往々として人間認知能力と制限を考慮に入れてない設計になっている。P&ID図のこれらの問題点を克服するため、インターフェース設計のための系統的設計方法が必要になってくる。このアプローチでは、次の二つの課題に答える必要がある。一つ目は如何にプロセスシステムの表示すべき情報を、認知学的に決定するかである。二つ目は如何にこれらの情報を、効率的に運転員に視覚的に表示するかである。 この研究では、プロセスシステムの機能モデルに基づいたインターフェース設計のための包括的なアプローチ手法を提案する。 一番目の目標は、人間の問題解決方法に沿って、プロセスシステムの機能情報を決定することである。まず、プロセスシステムの機能モデルの基本となる機能素(Functional Primitive)の集合が提案され、機能素の数理的定義がなされる。次に、機能モデルの中で、機能素を用いて関数を表現する汎用的な手法が説明される。さらに、手段目標関係階層を採択することによって、プロセスシステムの機能モデルが構築できることが示され、また機能モデルを元にインターフェースの視覚化すべき機能情報が抽出できることが示される。 二番目の目標は、インターフェースの機能情報の視覚化、すなわち機能モデルのディスプレーへのマッピングの問題を解決することである。機能モデルの各関数は機能素によって表現され、また、機能素は数学的にその振る舞いが定義されるため、数式中の変数の関係が対応する幾何学的表現として反映できるとき、機能に関する情報は視覚化できるのである。従って、これらの関数を視覚化するための基本的な考え方は、機能素のための適切な幾何学的表現ライブラリを開発することである。この研究ではこの機能素のための幾何学的表現ライブラリが構築された。情報表示の複雑性と運転員の認知負荷を軽減するために、お互いに近い関係にある関数同士はグループ化され、またグループ化された関数の幾何学的表現が定義され、"Functional Macro(機能マクロ)"という概念が提案された。さらに、機能モデルを如何にしてインターフェースディスプレーにマッピングするかを説明する数種類の手順が提案された。 この研究では、集中暖房システム(CHS)と原子力発電所の電気油圧式制御装置(EHC)を例として、機能モデルを使ったインターフェース設計のアプローチが示された。まず両システムの機能モデルが提案された機能素を用いて構築された。次にCHSとEHCシステムの機能モデルの中から幾つかの機能マクロが抽出され、それらに対応した幾何学的表現が開発された。最後に、提案されたマッピング原理を採用することで、CHSとEHCのインターフェースディスプレーが開発された。 機能素と幾何学的表現ライブラリ、そして機能マクロが再利用可能であることは、提案された設計方法が他の様々なプロセスシステムのインターフェース設計に適用できることを示唆している。 | |
審査要旨 | 本論文は、プロセスシステムの機能情報を情報提示画面上に可視化することにより人の認知特性に整合したインタフェース設計を行う方法について提案したもので、7章で構成される。 第1章では、プロセスシステムのインタフェース画面に関する従来の設計概念を概観し、その問題点を論じている。従来の情報提示画面は、主にセンサと1対1に対応したプロセス量をシステムのミミック線図上に提示する設計概念に基づいているが、この設計法では高度に複雑化した最新のプロセスシステムには十分対応しきれなくなってきている。すなわち、(1)運転員に期待されるタスクにとって意味のある抽象情報が明示的に提示されていないこと、(2)システム状態を同定するためには運転員が多数の提示情報を頭の中で統合しなければならず、心的負荷が高いこと、(3)情報の提示形態が必ずしも人の認知特性に配慮して設計されていないことなどを問題点として指摘している。このような問題を克服するために、多くの研究者からエコロジカルインタフェースなど一連の先進的インタフェース概念が提案されてきた。これらは、いずれもシステム機能などの抽象情報を明示的に提示することによって、従来型インタフェース設計の欠点を克服しようとするものであるが、設計のための具体的で包括的な方法論が確立していないこと、主に物理プロセスのインタフェースを対象としており現代のプロセスシステムで重要な役割を担っている自動制御系を考慮していないこと、単一画面への集約表示を目指していて大規模複雑システムで不可欠な複数画面構成について配慮していないことなどが問題であるとしている。そして、本研究の目的を、これらの問題点に応えるような先進的インタフェース設計の方法論を提案し、その有効性を確認することであるとしている。 第2章では、本論文で提案するインタフェース設計手法の基礎となる、プロセスシステムの機能モデリングの方法が述べられている。まず、機能モデリングの基礎となる、目標、機能、振舞い、構造の概念を定義し、これらを手段目標階層に位置付けた構造としたシステムの機能モデル表現を提案している。機能モデリングは工学的専門知識を要する作業であるが、この作業を形式的に一貫性をもって行うために機能の基本単位を表す機能素の概念を導入し、つぎにプロセスシステムの機能モデリングにとって必要十分な機能素集合を定義した。まず、過去の機能モデリングに関する研究を比較検討し、その不足を補完する形で物理プロセスに対する機能素集合を、さらに制御理論や産業現場で用いられている制御システムを参考に、制御システムに対する機能素集合を提案している。最後に、提案した機能素集合を用いてシステム機能を表現するための構文を提案している。 第3章では機能モデル中の各機能を、インタフェース画面上の表現にマッピングして可視化する手法について説明している。機能はある物理的制約に対応しており数理的制約式に表現可能であり、これを幾何学的な制約に対応させれば画面上で視認可能な表現として提示できるとしている。また、機能モデル中で頻繁に現れ、かつ運転員にとって認知的にまとまって認識される機能素の組合せパターンを表現するものとして、機能マクロの概念を導入し、画面の節約と認知性の向上を図っている。最後に、機能素の情報提示形式のライブラリをデザインする際のガイドラインと、機能モデルから画面構成を決定するための変換アルゴリズムを示している。 第4章では、物理プロセスと制御システムに対する機能素集合の各機能に対して設計した情報提示形式について、数理的制約式と対比させながら解説している。 第5章では、提案したインタフェース設計法を2つのシステムに適応することを試みている。物理プロセスへの適用例としては、燃焼ボイラとラジエータによる集中暖房システムが取上げられており、「室温を設定温度に保つ」という頂上目標をトップダウンに分解することによって当該システムの機能モデリングを行い、さらに画面構成の決定を行っている。制御システムへの適用例としては原子力発電所のタービン制御系を取上げ、対象の機能モデリングと画面構成の決定を行っている。このシステムは、実際の原子力発電所で使われているプロセス制御系の中で、最も複雑な機能を持つものの一つである。さらに、タービン系、タービン制御系の簡易シミュレータとそれに対するインタフェース画面を実際に作成し、複雑な現実的システムに対して機能を可視化した階層型複数画面によるインタフェースが実現可能であることを確認している。 第6章では考察であり、本研究で提案された設計手法の利点を整理するとともに、機能モデリングの難しさ、機能素集合の不完全性、複数画面のナビゲーションなどが未解決の研究課題であることを論じている。 第7章は結論であり、プロセスシステムの機能情報を可視化して運転員に提示するインタフェースの具体的かつ包括的な設計方法論を提案し、その有効性を実システムへの適用によって確認したと結論づけている。 以上のように、本論文は機能モデリングに基く認知的インタフェース設計の新しい方法論を提案しており、認知システム工学の発展に寄与するものであり、よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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