No | 117625 | |
著者(漢字) | デルシオグル,アルジャン フェフミ | |
著者(英字) | DERICIOGLU,Arcan Fehmi | |
著者(カナ) | デルシオグル,アルジャン フェフミ | |
標題(和) | 透光性繊維強化セラミックス基複合材料の光・力学特性 | |
標題(洋) | Optical and Mechanical Properties of Fiber-Reinforced Ceramic Matrix Light Transmitting Composites | |
報告番号 | 117625 | |
報告番号 | 甲17625 | |
学位授与日 | 2002.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5342号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 材料学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 第1章 序論 可視から近赤外光を通すことができるセラミックスは、高温での優れた機械特性や高い耐磨耗性、耐熱性、化学的安定性を有している。しかし、透光性セラミックスは破壊靭性が低いため、構造材料として用いるためには脆性的な破壊をすることが大きな問題になっている。第1章ではこの分野に関する従来の研究結果を整理し、解決すべき問題点を明らかにした。その結果から、透光性セラミックスの光透過性を犠牲にせずに破壊抵抗向上の可能性を検討することの必要性を述べている。これらを総括し、光学特性と力学特性を両立させたオプトメカニカル複合材料の必要性とそれを実現するための方法を述べた。 第2章 メッシュ構造強化型ガラス基複合材料の製造と光学特性 Al2O3連続繊維強化ZrO2ミニコンポジット強化ガラスマトリックスモデル複合材料を用いて、メッシュ構造強化オプトメカニカル複合材料を作製し、光学特性および力学特性の評価を行った。メッシュ構造強化を加えることによって、オプトメカニカル複合材料が光ウインドウを通して高い光透過性を持つことが明らかになった。この結果から、光ウインドウによる概念の有効性を示した。 第3章 メッシュ構造強化型ガラス基複合材料の破壊抵抗 第2章で作製した材料の破壊抵抗をDCB型試験片を作製し調べた。実験により、R曲線型の破壊抵抗曲線が得られた。この曲線は、Al2O3繊維強化ZrO2ミニコンポジットによるクラックブリッジング挙動により、定量的に評価することが出来た。 第4章 光透過スピネルセラミックスの作製と光学特性 第3章で検証した結果を実用的な透光性スピネル(MgAl2O4)に応用することを試みた。まず、種々の透光性セラミックスから、スピネル構造による等方的な光学特性を持ち、さらに高温強度に優れていることから、マトリックス素材として透光性スピネルを選択した。ついで、MgAl2O4の製造プロセスを検討し、プロセス条件と光学特性の関連性を評価した。その結果から、高純度MgO粒子とAl2O3粒子を原料粉末として用い、最適な混合比下ではホットプレスとHIPの2段階処理により透明なMgAl2O4セラミックができることを示した。得られた材料の光学特性を調べ、MgAl2O4中に生じたマイクロクラックがMgAl2O4の光透過性に影響することを、粒界に発生したマイクロクラックの量と光透過性の関係から明らかにした。 第5章 セラミック繊維強化スピネルマトリックス複合材料の作製と光学特性および力学特性の評価 光透過性と大きな破壊抵抗を併せ持つメッシュ構造強化オプトメカニカル複合材料の可能性を、MgAl2O4マトリックスにSiC繊維とAl2O3繊維-ZrO2マトリックスマイクロコンポジットによりそれぞれ強化した、二種類の複合材料について調べた。本章では、オプトメカニカル複合材料の作製過程において、強化材を整列したメッシュ構造でマトリックスに複合化する必要があるため、扱いを容易にする目的で市販のSiC繊維とAl2O3繊維織物を強化材として用いた。オプトメカニカル複合材料の作製には、ガラスマトリックスオプトメカニカル複合材料とMgAl2O4セラミックス単体の作製で得られた知見を応用した。得られた複合材料の光学特性と力学特性の評価の結果、メッシュ構造強化MgAl2O4マトリックスオプトメカニカル複合材料は、マトリックスが破壊された後にも強化材料のブリッジング効果により荷重負担能力を持つフェイルセーフ挙動を持ち、かつ、高い透明性を有していることが明らかになった。 第6章 総括 本研究で得られた結果を総括した。 (1)ミニコンポジットガラス複合材料では、メッシュ構造の強化素材を用いることにより、窓の部分で高い光透過性を持つ試料を得ることができる。また、破壊抵抗の向上も可能となることが検証された。 (2)Al2O3繊維織物およびSiC繊維をMgAl2O4マトリックス中に複合化した場合にも光透過性と力学特性を両立した材料が得られることを示した。 | |
審査要旨 | 高温下で用いることのできる透光性セラミックスは脆いために信頼性に欠け、高温窓用材料として必要性は認識されているものの、信頼性確保の方法がないことが問題になっている。本論文は「Optical and Mechanical Properties of Fiber-Reinforced Ceramic Matrix Light Transmitting Composites」(日本語訳:透光性繊維強化セラミックス基複合材料の光・力学特性)と題し、高温で用いることのできる、光透過性を持ち、かつ、大きな破壊抵抗を兼ね備えたオプティカル複合材料を得るための方法を示したものであり、全6章よりなる。 第1章は序論であり、可視から近赤外光を通すことができるセラミックスは、高温での優れた機械特性や高い耐磨耗性、耐熱性、化学的安定性を有している利点を用い、応用分野が広がっている背景を述べた。しかし、実際に透光性セラミックスを構造材料として用いるためには、その破壊靭性が低いため脆性的な破壊をするという信頼性に欠ける点が大きな問題になっていることを指摘した。さらに、透光性セラミックスの従来の研究結果を整理し解決すべき問題点を明らかにし、その結果から、透光性セラミックスの光透過性を犠牲にせずに破壊抵抗向上の特性をもつオプトメカニカル複合材料作製の必要性と可能性を述べ、本論文の目的を明確にした。 第2章では、強化相をメッシュ構造としたガラス基複合材料を製造し、その光透過性の測定を可視光〜近赤外光領域で行った。材料系としては、将来の汎用性を考慮し、Al2O3連続繊維強化ZrO2ミニコンポジット強化ガラスマトリックスをモデル複合材料とし、ミニコンポジットをメッシュ構造にした複合材料を作製した。このメッシュ構造複合材料では、メッシュ空隙部分で十分な光透過性が得られ、その間隔が3mmでは光透過率が75%、1mmでも50%という値が得られることを証明した。この結果から、強化素材として直径が通常のセラミックス繊維よりも大きなミニコンポジットを用いても光透過性が得られるという結論を得た。複合材料の曲げ試験を行い、マトリックス破壊後にも荷重負担能力を持っており、ミニコンポジットによるフェイルセーフ機構が従来から報告されている連続繊維によるものと同様に働くことを示した。これらの結果から、メッシュ構造ミニコンポジットを用いた複合材料の光ウインドウとしての有効性を示した。 第3章では、第2章で作製したメッシュ構造強化型ガラス基複合材料の破壊抵抗について詳しく調べた。複合材料をDCB型試験片とし、ミニコンポジットの繊維軸に垂直にマトリックスクラックが進む場合のR曲線を測定した。マトリックス単体の破壊靭性値は1MPa〓であるのに対し、ミニコンポジット間隔が1mmの場合には見掛けの破壊靭性値は最大で16MPa〓が得られることを示した。また、R曲線挙動がAl2O3繊維強化ZrO2ミニコンポジットによるマトリックスクラックブリッジング機構により働くことを証明した。さらに、試験時に顕微レーザー蛍光装置を用いてAl2O3繊維中に極微量含まれるCr3+からの蛍光スペクトルのシフトを測定する装置を新たに作製し、クラックブリッジング中にミニコンポジットに働くブリッジング応力をその場測定した。この結果をもとに、定量的解析を行い、ミニコンポジットによるブリッジング機構の特徴を明らかにした。 第4章では、実用的に重要な材料として透光性スピネルセラミックス(MgAl2O4)を選び、その製造条件と光学特性の関係を、微細組織との関連性で調べた。まず、高純度MgO粒子とAl2O3粒子を原料粉末として用い、最適な混合比下ではホットプレスとHIPの2段階処理により透明なMgAl2O4が得られることを明らかにした。また、ホットプレスおよびHIPの温度や圧力などの最適条件を詳しく調べた。作製した材料の光学特性を調べた結果、最適な条件下で作製した場合には200〜1100nmの波長領域で最大70%の光透過率、2.5〜10μmの波長領域でも最大70%の光透過率が得られた。作製した材料のMgAl2O4中に生じたマイクロクラックの大きさとマイクロクラック密度がMgAl2O4の光透過性に影響することを、粒界に発生したマイクロクラックの量と光透過性の関係を実験的に求めることにより明らかにした。さらに、これらの結果を総合的に判断し、以後の複合材料に用いる最適な光学特性を得るための混合比、ホットプレス、HIPの条件を決定した。 第5章では、第4章で得られた透光性セラミックスをマトリックスとして用い、SiC繊維およびAl2O3繊維強化ZrO2マトリックスミニコンポジットを強化材とした複合材料を作製し、光学特性と力学特性の両立性を調べた。前章までに得られた光ウインドウの考え方を導入し、第4章の成果をもとに複合化条件を決定し複合材料を作製した。得られた複合材料の光透過性、破壊挙動、マトリックスクラックと界面の相互作用を調べた。SiC繊維を繊維間隔を4mmで用いた場合には50〜80%の光透過率、メッシュ構造のミニコンポジットを用いた場合でも10〜20%の光透過率が得られることを示した。これらの結果から、光ウインドウの考え方はMgAl2O4マトリックス複合材料でも有効であり、さらに、マトリックスが破壊した後にも繊維によるフェイルセーフ機構が働くことも可能であることを示した。 第6章は総括であり、本研究で得られた結果を総括した。 以上のように、本論文は高温下で用いることができるオプトメカニカル複合材料に対する可能性を検証したものであり、複合材料学に対する寄与が大であり、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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