学位論文要旨



No 117634
著者(漢字) アンドリヤン バユ スクスモノ
著者(英字) Andriyan Bayu Suksmono
著者(カナ) アンドリヤン バユ スクスモノ
標題(和) 干渉レーダ画像の適応処理
標題(洋) Adaptive Processing of Interferometric Radar Images
報告番号 117634
報告番号 甲17634
学位授与日 2002.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(学術)
学位記番号 博工第5351号
研究科 工学系研究科
専攻 先端学際工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 廣瀬,明
 東京大学 教授 岡部,洋一
 東京大学 教授 高野,忠
 東京大学 教授 保立,和夫
 東京大学 教授 相澤,清晴
内容要旨 要旨を表示する

 本論文は「Adaptive Processing of interferometric Radar Images」と題し、干渉型合成開開口レーダ(InSAR)に代表される干渉型レーダのデータ画像の新しい適応的信号処理方式を実現するために、複素ランダム・マルコフ・フィールドモデルと用途に見合ったいくつかの複素統計特徴量の提案を行い、新たなシステムを考案して実際に適応テクスチャ分類、雑音低減、歪み低減を実現し、また位相アンラッピングを高性能に行えることが可能であることを実証するものである。全8章よりなる。

 第1章は「Introduction」であり、干渉型レーダ装置および信号処理方式について概観して背景を述べるとともに、従来方式の問題点および実現困難な処理について述べている。また本論文の位置付けと構成を述べる。

 第2章は「The MRF and CMRF model for image restoration」と題し、複素離散画像を特徴付ける統計的モデルとして、マルコフ・ランダム・フィールド(MRF)を複素情報空間に拡張した複素MRF(CMRF)を提案する。その性質について解析を行った結果を報告するとともに、特徴量の抽出とデータの推定のための利用方法について述べる。

 第3章は「An adaptive texture classifier for InSAR images based on causal CMRF」と題し、CMRFに基く適応テクスチャ分類システムを提案する。システムは、複素特徴抽出部および複素自己組織化特徴マップ(SOFM)により構成される。複素データ量を分類用途に応じて加工して複素特徴ベクトルとする。これをもとに、複素SOFMが適応的テクスチャ分類を行う。従来型SOFMでは、たとえば電磁波反射率の低下が吸収率の増大によって生じるのか地表の凹凸によって小実の格別できなかったが、本方式によればこれらを区別しながらの適応区分が可能となる。実際の適用結果により、より有用な地表分類を実現していることが示される。

 第4章は「A CMRF-based adaptive noise reduction of InSAR images using steepest descent method」と題し、CMRFモデルおよびそれによるエネルギーを用いた最急降下法によって、干渉レーダ画像の雑音低減が可能であることを示す。システムは、複素セルラー・ニューラルネットワーク構造を持ち、ローカルな結合のみで実現される。実際の適用結果では、特に位相特異点の低減に注目し、それが従来優れているとされているいくつかの適応フィルタ方式と比較して、極めて大きな特異点低減効果をもつことが示される。さらに、その結果を位相アンラッピングしてディジタル・エレベーション・マップ(DEM)を作成すると、忠実度の高いDEMが得られることが確認される。

 第5章は「A CMRF-based adaptive noise reduction of InSAR images using Monte-Carlo Metropolis method」と題し、CMRFによって定義されるエネルギーを利用して、確率的遷移を行ってより最適値への収束確率を高めた雑音低減方法を提案する。まず、エネルギー定義について考察を行い、また物理スピンモデルとの対応について述べる。システム構成は、構造的には第4章と同じ構造を持ち、ダイナミクスとしてMonte-Carlo Metropolis方式を拡張して用いる。確率的手法により速く安定した収束が実現され、高い雑音除去効果が得られることが確認される。本結果も位相アンラッピング問題に適用し、その従来方式に対する高い優位性が示される。

 第6章は「Two-dimensional phase unwrapping of InSAR images by using recursive global method and post processing local method」と題し、グローバル方式を繰返し用いてDEMの精度を高める新しい位相アンラッピング方式を提案する。まず位相アンラッピング問題一般を概観する。特にグローバル手法とローカル手法の特徴について考察し、グローバル手法を繰り返すことによって正則部分の傾斜が抽出されてゆき、残渣画像には位相特異点近傍が残ってローカル手法がより有効に働くことが示される。そこで、繰返しグローバル手法+ローカル手法による位相アンラッピング方式を提案する。まず人工合成データによって、SN比の高いDEMが得られることが確認される。次に実際にIsSARデータに適用し、忠実度の高いDEMが得られることが示される。

 第7章は「Phase-unwrapping-distortion reduction by fractal dimension estimation」と題し、フラクタル次元情報を特徴量として利用することにより位相アンラッピングに伴う歪を低減し、匪Mの精度を挙げる方法を提案する。まずその基礎となる2次元フラクタル・ブラウン運動モデルを述べ、フーリエ合成によるその一般化を行う。次に、位相アンラッピングに伴い歪が生じ、その影響はフラクタル次元にも現れていることを述べて現象を解析する。そして逆にフラクタル次元を利用することによって位相アンラッピング歪を低減するシステムを提案する。提案方式を合成データおよびInSARデータに適用し、実際に歪が低減されSN比が大きく向上することを示す。

 第8章は「Conclusion」であり、総括と今後の展望を行う。

 以上、本論文は干渉型レーダのデータ画像の新しい適応的信号処理方式を実現するために、CMRFモデルと複素統計特徴量を導入し、新たな4つの適応的処理手法を提案するものである。そして実際に適応テクスチャ分類、雑音低減、歪み低減を実現し、また位相アンラッピングを高性能に行えることが可能であることを実証するものである。そして、複素統計量と複素適応処理が、干渉レーダ画像に新しい価値を付加することを具体的に示すものである。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「Adaptive Processing of lnterferometric Radar Images(干渉レーダ画像の適応処理)」と題し、干渉型合成開口レーダ(InSAR)に代表される干渉型レーダのデータ画像の新しい適応的信号処理方式を実現するために、複素ランダム・マルコフ・フィールドモデルと用途に見合ったいくつかの複素統計特徴量の提案を行い、新たなシステムを考案して実際に適応テクスチャ分類、雑音低減、歪み低減を実現し、また位相アンラッピングを高性能に行えることを実証したものである。英文で全8章よりなる。

 第1章は「Introduction」であり、干渉型レーダ装置および信号処理方式について概観して背景を述べるとともに、従来方式の問題点および実現困難な処理について述べている。また本論文の位置付けと構成を述べている。

 第2章は「The MRF and CMRF model fbr image restoration」と題し、複素離散画像を特徴付ける統計的モデルとして、マルコフ・ランダム・フィールド(MRF)を複素情報空間に拡張した複素MRF(CMRF)を提案している。その性質について解析を行った結果を報告するとともに、特徴量の抽出とデータの推定のための利用方法について述べている。

 第3章は「An adaptive texture classifier for InSAR images based on causal CMRF」と題し、CMRFに基く適応テクスチャ分類システムを提案する。システムは、複素特徴抽出部および複素自己組織化特徴マップ(SOFM)により構成される。複素データ量を分類用途に応じて加工して複素特徴ベクトルとする。これをもとに、複素SOFMが適応的テクスチャ分類を行う。従来型SOFMでは、たとえば電磁波反射率の低下が吸収率の増大によって生じるのか地表の凹凸によって生じるのか区別できなかったが、本方式によればこれらを区別しながらの適応区分が可能となる。実際の適用結果により、より有用な地表分類を実現していることが示されている。

 第4章は「A CMRF-based adaptive noise reduction of InSAR images using steepest descent method」と題し、CMRFモデルおよびそれによるエネルギーを用いた最急降下法によって、干渉レーダ画像の雑音低減が可能であることを示す。システムは、複素セルラー・ニューラルネットワーク構造を持ち、ローカルな結合のみで実現される。実際の適用結果では、特に位相特異点の低減に注目し、それが従来優れているとされているいくつかの適応フィルタ方式と比較して、極めて大きな特異点低減効果をもつことが示されている。さらに、その結果を位相アンラッピングしてディジタル・エレベーション・マップ(DEM)を作成すると、忠実度の高いDEMが得られることが確認される。

 第5章は「A CMRF-based adaptive noise reduction of InSAR images using Monte-Carlo Metropolis method」と題し、CMRFによって定義されるエネルギーを利用して、確率的遷移を行ってより最適値への収束確率を高めた雑音低減方法を提案する。まず、エネルギー定義について考察を行い、また物理スピンモデルとの対応について述べる。システム構成は、構造的には第4章と同じ構造を持ち、ダイナミクスとしてMonte-Carlo Metropolis方式を拡張して用いる。確率的手法により速く安定した収束が実現され、高い雑音除去効果が得られることが確認される。本結果も位相アンラッピング問題に適用し、その従来方式に対する高い優位性が示されている。

 第6章は「Two-dimensional phase unwrapping of InSAR images by usin recursive global method and post processing local method」と題し、グローバル方式を繰返し用いてDEMの精度を高める新しい位相アンラッピング方式を提案する。まず位相アンラッピング問題一般を概観する。特にグローバル手法とローカル手法の特徴について考察し、グローバル手法を繰り返すことによって正則部分の傾斜が抽出されてゆき、残渣画像には位相特異点近傍が残ってローカル手法がより有効に働くことが示される。そこで、繰返しグローバル手法+ローカル手法による位相アンラッピング方式を提案する。まず人工合成データによって、SN比の高いDEMが得られることが確認される。次に実際にIsSARデータに適用し、忠実度の高いDEMが得られることが示されている。

 第7章は「Phase-unwrapping-distortion reduction by fractal dimension estimation」と題し、フラクタル次元情報を特徴量として利用することにより位相アンラッピングに伴う歪を低減し、DEMの精度を挙げる方法を提案する。まずその基礎となる2次元フラクタル・ブラウン運動モデルを述べ、フーリエ合成によるその一般化を行う。次に、位相アンラッピングに伴い歪が生じ、その影響はフラクタル次元にも現れていることを述べて現象を解析する。そして逆にフラクタル次元を利用することによって位相アンラッピング歪を低減するシステムを提案する。提案方式を合成データおよびInSARデータに適用し、実際に歪が低減されSN比が大きく向上することを示している。

 第8章は「Conclusionjであり、総括と今後の展望を行っている。

 以上、本論文は干渉型レーダのデータ画像の新しい適応的信号処理方式を実現するためにCMRFモデルと複素統計特徴量を導入し、新たな4つの適応的処理手法を提案したものであり、実際に適応テクスチャ分類、雑音低減、歪み低減を実現し、また位相アンラッピングを高性能に行えることを実証したものである。そして、複素統計量と複素適応処理が、干渉レーダ画像に新しい価値を付加することを具体的に示すものであり、電子工学に貢献するところが少なくない。

 よって、本論文は博士(学術)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク