No | 117635 | |
著者(漢字) | 朴,宰範 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | パク,ジェボム | |
標題(和) | 電気導電性を利用した炭素繊維複合材料の損傷評価 | |
標題(洋) | Damage Detection of CFRP Composites Using Electrical Conductivity | |
報告番号 | 117635 | |
報告番号 | 甲17635 | |
学位授与日 | 2002.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5352号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 先端学際工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年、航空宇宙構造物の構造材として注目されている炭素繊維強化複合材料(以下CFRP材)は、優れた力学特性と共に導電性を有しており、二つの特性を活かしたスマート材料としての活用が期待されている。しかしながら、今までの研究は実験結果の紹介に限られ、その支配因子、及び理論解析はほぼ行われていない。従って、本論文では、引張荷重下におけるCFRP材の電気抵抗変化挙動に対する実験及び理論考察を行い、その結果に基づいた数値計算、及び解析モデルの提案を主な目的としている。以下に本論文の主な内容を示す。 第1章は、序論として、CFRP材の電気抵抗変化挙動に関して、今まで行われてきた研究結果を紹介する。特に、様々な実験研究が行われている一方で、数値計算及び解析モデルが提案されていない理由を説明する。その主な理由として、実験方法の問題、導電性炭素繊維同士の接触点の存在等が考えられる。さらに、本研究の流れや本研究で用いられる理論の簡略な紹介を行う。 第2章ではCFRP材の電気力学特性に対する実験研究結果について述べる。繊維単体、そして、エポキシ樹脂の中に埋め込んだ東レ(株)製T700S炭素繊維の比抵抗値を測定する。その結果、比抵抗値が1.0×10-2Ωmmであることと、エポキシ樹脂の熱硬化による比抵抗値への影響が1%以下であることが確認された。引張荷重下におけるCFRP材の電気抵抗変化に関しては、炭素繊維の伸び、破断、そして繊維同士の接触という三つの主な現象を検討し、電気抵抗変化に及ぼす影響を調べた。特に、接触点の役割について検討し、電気的無効長さという新しい概念を提案した。電気的無効長さは、繊維破断によって一本の繊維の中で導電パスとしての機能が無くなる長さを意味する。この概念の導入によって、ゲージ長さへの独立性と繊維体積含有率への依存性といったCFRP材の電気抵抗変化における二つの実験事実の説明が可能になり、提案された概念の有用性が確認された。本論文の理論解析研究は第2章の実験結果と電気的無効長さという概念に基礎を置いている。 第3章では、CFRP材の適切な電気抵抗測定方法について検討した。特に、電気ポテンシャル理論から導かれた線形異方性抵抗モデルにより、直流2端子、そして直流4端子等の電極の付け方が電気抵抗の測定値に及ぼす影響を定性的及び定量的に評価した。具体的には、複数の電極位置で測定した電位値と理論式により電位分布マップを作成し、等電位面の変化を検討した。その結果、直流2端子による抵抗測定値は、電極が設置されている試験片表面の荒さに大きく依存することが確認された。そこで、アコーステイックエミッション法と繊維破断に対するワイブルーポアソン関係式を利用し、絶縁体であるエポキシ樹脂を除去する目的で行った表面研磨の影響を、定量的に評価した。その結果、表面研磨した試験片の場合、健全な表面の試験片に比べ、繊維強度に関するワイブル尺度係数が0.77倍であることが示された。本章の結果より、電気異方性を考慮した電気抵抗の適切な測定方法の確立、及び測定値の正しい解析が可能になり、以降の試験研究の基準になる。 第4章ではCFRP材の電気力学モデリング方法を示す。導電性炭素繊維同士の接触に起因するCFRP材内部の導電パスの平均長さを考慮し、電気抵抗線の並列セルが直列に並んでいる電気回路をCFRP材の等価回路として考える。この回路が力学的損傷を受けていることを想定し、抵抗線の伸び及び破断による電気抵抗変化率が数式化される。この時、抵抗線の伸びは歪ゲージ係数の導入によって、そして、抵抗線の破断は炭素繊維の生き残り率、すなわち、ワイブル統計関数を導入することによって、力学損傷を電気抵抗変化率と結びつけることが可能となった。特に、解析モデルによる計算結果と実験結果との比較によって、並列セルの長さが求められ、第2章で提案された電気的無効長さの定量的な評価が可能になる。数値計算モデルの開発においてはエポキシ樹脂の中に埋め込まれた繊維のFragmentation過程と電気的無効長さの概念を用いた。数値計算モデルではランダムな接触点分布が表現でき、より現実的な電気抵抗変化曲線が得られる。そして本章では、提案された二つのモデルの計算結果の比較と共に、繊維強度に対する検討も行われ、既存のワイブル分布の繊維長さ依存性の問題とその解決方法を取上げた。実験及び理論的考察による検討の結果、15mmのゲージ長さを持つ単繊維強度試験の結果に基づいたワイブル分布が適切であることが分かった。 第5章では、CFRP材の繊維間接触現象をより詳細に研究した。絶縁体のマトリックスの中に埋め込まれた導電体同士の接触に起因する複合材の導電性を扱う電気パーコレーション理論に基づき、CFRP材の電気異方性から内部接触状況の推定が行われる。まず、第3章で紹介した線形異方性抵抗モデルによる検討を行い、電気異方性の的確な測定方法、すなわち、電極設置位置が決められる。 次に、測定された電気異方性と、第4章で提案されたモデルによって求めた電気的無効長さとの相関性を検討し、電気異方性の幅方向について良い相関性があることが示された。理論解析に関しては、既存の2次元幾何学パーコレーションモデルに加え、電気回路のキルヒホップ法則を適用した不連続モデルを用いる。このモデルでは、CFRPを導電線と接点で構成されている直流ネットワーク回路として考えた上で、各接点での電位分布をキルヒホップ法則に従って計算する。これらの二つの数値計算方法を用い、接触点分布と電気異方性との関係を調べたところ、CFRP内部に存在する繊維束とマトリックスリッチ領域に起因する接触点の固まり(Cluster)の重要性が確認された。特に本章では、クラック、円孔等の欠陥を有するCFRP材の電位分布を測定し、平滑な試験片の電位分布との比較を行う。その結果、欠陥の有無に従い、電位分布に大きな差があるのが確認され、電位分布マップを利用した損傷診断技術の可能性が示された。 第6章では、負荷-除荷繰り返し荷重下におけるCFRP材の最大歪記憶機能に関して、実験及び理論解析を行った。繊維破断の状況が最大歪に左右されることを考え、第4章で提案された解析モデルの適用性を検討した。特に、低歪領域で観察される破断繊維の導電パス機能の除荷による回復現象に注目し、そのメカニズムの解明と経験式を利用した数式化を試みた。その為、単繊維複合材料試験片の中に電極を埋め込み、エポキシ樹脂の中に埋め込まれた繊維の負荷-除荷繰り返し荷重下における電気抵抗変化を調べた。数式化に関しては、繊維破断部から飛び出した炭素粒子の接触現象を考え、絶縁体中の導電粒子同士の接触と複合材の電気伝導度に関するパーコレーションモデルを用いた。以上の実験及び理論検討結果に基づき、第4章で提案された解析モデルに、破断繊維の低歪領域での導電性回復現象が含まれるように修正した。修正されたモデルによって、負荷-除荷繰り返し荷重下におけるCFRP材の電気抵抗変化挙動、特に、前回受けた最大歪による残留抵抗の増加が精度良く予測された。 第7章は、本研究の主な結果を示した上で、産業界での応用展望に関して述べる。電位分布マップを利用したCFRP材構造物の損傷評価、そして、第6章で示した最大歪記憶機能を活かしたスマートパッチの開発が応用例として挙げられる。 | |
審査要旨 | 工学修士朴宰範提出の論文は、「Damage Detection of CFRP Composites Using Electrical Conductivity(電気導電性を利用した炭素繊維複合材料の損傷評価)」と題し、7章と付録よりなる。 軽量航空宇宙構造材として注目されている炭素繊維強化複合材料(以下、CFRP材)は、優れた力学特性とともに電気導電性をもち、両者の特性を活用した知的材料としての活用が期待されている。しかし、従来の研究は実験結果の定性的な説明に限られ、その支配因子の把握や理論解析はあまり行われていない。本論文では、引張荷重下におけるCFRP材の電気抵抗変化挙動に関する実験および理論的考察を行い、その結果に基づいた数値・理論解析モデルを提案することを主な目的としている。 第1章は「序論」であり、CFRP材の電気抵抗変化挙動に関する現状と問題点をまとめた上で、本研究の目的と意義を述べている。 第2章は「CFRP材の電気・力学特性」であり、CFRP材の電気・力学特性の実験結果を述べている。炭素繊維単体、および、樹脂中に埋め込まれた炭素繊維の比抵抗値の測定をもとに、引張荷重下におけるCFRP材の電気抵抗変化に関して、炭素繊維の伸び、破断、さらに繊維の接触という三つの現象を検討し、電気抵抗変化に及ぼす影響を調べている。とくに、接触点の役割について検討し、繊維破断により一本の繊維の中で導電パスとしての機能が無くなる長さを意味する電気的無効長さという新しい概念を提案している。この概念の導入によって、ゲージ長さ不依存性と繊維体積含有率への依存性といったCFRP材の電気抵抗変化における二つの実験事実の説明が初めて可能になり、提案された概念の有用性が確認されている。 第3章は「CFRP材の電気抵抗変化の測定方法」であり、CFRP材の適切な電気抵抗測定方法について検討している。電気ポテンシャル理論から導かれた線形異方性抵抗モデルにより、直流2端子、直流4端子などの電極の付け方が電気抵抗の測定値に及ぼす影響を定量的に評価している。本章の結果より、電気異方性を考慮した電気抵抗の適切な測定方法の確立、および測定値の正しい解析が可能となった。 第4章は「引張荷重下におけるCFRP材の電気・力学モデル」であり、炭素繊維の接触に起因する導電パスの平均長さを考慮し、電気抵抗線の並列セルが直列に並んでいる電気回路をCFRP材の等価回路として考え、この回路が力学的損傷を受けることをモデル化し、電気抵抗変化率を定式化している。抵抗線の伸びは歪ゲージ係数の導入により、また、抵抗線の破断は炭素繊維の生き残り率、すなわち、ワイブル統計関数を導入することにより、力学損傷を電気抵抗変化率と結びつけることを可能としている。また、解析モデルによる計算結果と実験結果との比較により、並列セルの長さが求められ、第2章で提案された電気的無効長さの定量的な評価が可能となっている。 第5章は「パーコレーション構造としてのCFRP材」であり、絶縁体のマトリックスの中に埋め込まれた導電体相互の接触に起因する複合材の導電性を扱う電気パーコレーション理論に基づき、CFRP材の電気異方性から内部接触状況の推定を行う方法を提案している。理論解析では、既存の2次元幾何学パーコレーションモデルに加え、電気回路のキルヒホッフ法則を適用した不連続モデルを用いている。接触点分布と電気異方性との関係を調べることにより、CFRP内部に存在する繊維束とマトリックスリッチ領域に起因する接触点の固まり(Cluster)の重要性を確認している。また、クラック、円孔などの欠陥を有するCFRP材の電位分布を測定し、平滑な試験片の電位分布との大きな差があることを確認し、電位分布マップを利用した損傷診断技術の可能性を示している。 第6章は「CFRP材の荷重履歴評価」であり、負荷-除荷繰返し荷重下におけるCFRP材の最大歪記憶機能に関して、実験および理論解析を行っている。繊維破断が最大歪に依存することを考慮するとともに、低歪領域で観察される破断繊維の導電パス機能の除荷による回復現象に注目し、そのメカニズムの解明と経験式を利用した定式化を行った。第4章で提案された解析モデルを、破断繊維の低歪領域での導電性回復現象が含まれるように修正することによって、負荷-除荷繰返し荷重下におけるCFRP材の電気抵抗変化挙動、とくに、前回受けた最大歪による残留抵抗の増加を精度良く予測することに成功している。 第7章は「結論」であり、本研究で得られた結論を述べ、今後の課題について検討している。 以上要するに、本論文は、引張荷重下におけるCFRP材の電気抵抗変化挙動に関する実験および理論的考察を行い、その結果に基づいた数値・理論解析モデルを提案し、実験結果を定量的に説明することに成功している。これにより、優れた力学特性と電気導電性の両者の特性を活用した知的材料としてのCFRP材の今後の活用を支援する強力なツールを提供しており、その工学的意義は大きいものと考える。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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