学位論文要旨



No 117639
著者(漢字) アティプー,ヌンタプラサート
著者(英字) Athipoo,Nuntaprasert
著者(カナ) アティプー,ヌンタプラサート
標題(和) ブタインターロイキン-4と6に関する研究
標題(洋) Studies on swine interleukin-4 and swine interleukin-6
報告番号 117639
報告番号 甲17639
学位授与日 2002.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(獣医学)
学位記番号 博農第2476号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 獣医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 甲斐,知恵子
 東京大学 教授 明石,博臣
 東京大学 教授 小野寺,節
 東京大学 教授 熊谷,進
 東京大学 教授 辻本,元
内容要旨 要旨を表示する

 IL-4とIL-6は免疫反応の重要な調節因子であり、ブタにおいても重要と考えられる。本研究の目的は、ブタIL-4/IL-6の蛋白を発現し、それらの解析法を確立し、実際に生体に用いた際の効果を検索することによってそれらのブタでの免疫調節機能の基礎的研究への道を開くことである。本研究では組換えブタIL-4/IL-6の発現系の確立、抗ブタIL-4/IL-6抗体の作製とその性状解析、サンドイッチELISAならびにELISPOTシステム確立と試験管内でのブタ由来細胞に対する両組換えサイトカインの生物活性の研究への応用を行った。さらに生体内で、正常状態、あるいはLPS、細菌感染といったブタの免疫システム刺激因子の前処理における組換えブタIL-4/L-6の効果について解析を行った。

第一章:組換えブタIL-4の発現ならびに精製とサンドイッチELISA、ELISPOTシステムの確立

 ブタIL-4レベル測定のためのサンドイッチELISA、ELISPOTシステムを確立するためにブタIL-4cDNAをクローニングし、大腸菌、バキュロウイルス、ほ乳類細胞発現系を用いてそれぞれの組換え蛋白を発現させた。これは大腸菌、昆虫細胞またはCOS-7細胞の3種類の発現系により発現させたブタIL4(rSwIL-4)の分子量を比較した最初の報告であり、分子量は大腸菌発現で16kDa、昆虫細胞発現で15、18kDa、ほ乳類細胞で15、20kDaであった。ツニカマイシン処理の結果、ブタIL-4は18kDaの分子では少なくとも1ヶ所に糖鎖が付加されており、15kDaの分子は糖鎖修飾がされていないことが判明した。従って昆虫細胞とほ乳動物細胞における分子量の違いは発現細胞による糖鎖付加の相違によるものと考えられた。また、バキュロウイルス発現rSwIL-4が試験管内、細胞内の研究において有用性が高いことも示した。さらに、ブタIL-4に対する2種類のポリクローナル抗体と4種類のモノクローナル抗体(mAb)を作製し、ブタIL-4の検出と精製に利用した。抗ブタIL-4mAbを用いた免疫アフィニティクロマトグラフィにより、組換えバキュロウイルス感染Tn5細胞培養上清から、生物活性のあるrSwIL-4を容易に得ることができた。この発現蛋白は、ブタの宿主防御機構や感染症発症におけるブタIL4の役割の研究に有用と考えられる。さらに、ここで作製した抗ブタIL-4抗体はサンドイッチELISAやELISPOTシステムヘ応用でき、ブタの免疫反応や感染症におけるブタIL-4機能解析に非常に有用な手段を与えたと考える。著者は実際にこの解析系を用いて、実験的にM.hyopneumoniaeを感染させたブタのBALF(肺胞還流液)サンプルでブタIL-4レベルを測定し、細菌感染群でサイトカインレベルが高い傾向であることを示した。また、この成果がバキュロウイルスが生物活性をもつサイトカインの発現に非常に有用なベクターであり、発現させたrSwIL-4が感染症の臨床研究に応用可能であることが示された。

第二章:ブタ免疫細胞およびブタでのLPS誘導による炎症後サイトカイン産生への組換えブタIL-4の影響

 試験管内におけるPBMCや単球、マクロファージなど、ブタ免疫細胞へのrSwIL-4の影響と、ブタの生体内での効果について解析を行なった。第一章で示したようにrSwIL-4はヒト由来細胞に対し生物活性を持つ。マイトジェン刺激したブタPBMCを用いた解析でrSwIL4はCD4陽性T細胞を誘導し、さらに、バキュロウイルス発現rSwIL-4とブタGM-CSFを組み合わせて単球から樹状細胞(Mo-DC)を分化させることに成功した。このrSwIL-4での処理により未熟Mo-DCからのIL-6産生が抑制された。以上のように、rSwIL-4を用いてブタMo-DCを分離増殖させることができ、将来的に感染症やワクチンの研究への有用性を示した。また、LPS刺激後の肺胞マクロファージからの炎症性サイトカイン産生に対する影響をin vitroで検討した結果、rSwIL-4をLPSと同時に添加することにより培養ブタ肺胞マクロファージからのTNF-α、IL-1β、IL-6、IL-8、IL-18の分泌が抑制された。一方、LPS刺激1時間前のrSwIL-4処理ではTNF-αとIL-18の分泌は増加しなかった。さらに、育成豚にLPS(E.coli055B5;100μg/ml)処理1時間前にバキュロウイルス発現rSwIL-4(20μg/ml)を投与すると、炎症性サイトカイン、とくにTNF-αとIL-18が増加し、エンドトキシンショック時の呼吸不全感受性が高くなった。以上より、炎症性サイトカイン産生へのブタIL-4の影響は投与のタイミングによると考えられた。試験管内、生体内のどの例においても、バキュロウイルス発現rSwIL-4は生物活性を示した。

第三章:組換えIL-6発現と精製によるサンドイッチELISA法の確立

 ブタのIL-6レベルの測定法としてのサンドイッチELISA法確立のために、大腸菌、バキュロウイルス、ほ乳類細胞による組換えブタIL-6(rSwIL-6)発現を行った。大腸菌発現rSwIL-6は分子量26kDaであり、昆虫細胞培養上清中(バキュロウイルス発現)rSwIL-6は25、26、30kDa、COS-7細胞培養上清中(ほ乳類細胞発現)rSwIL-6は26、30kDaであった。昆虫細胞とCOS-7細胞培養上清中のrSwIL-6は異なった糖鎖修飾を受けたと考えられた。マウス由来IL-6感受性細胞に対する大腸菌発現rSwIL-6の活性は昆虫細胞培養上清中rSwIL-6の10分の1であり、糖鎖付加がブタIL-6の活性に影響すると考えられた。また、his-tagアフィニティカラムを用いた大腸菌発現rSwIL-6精製法と、QセファロースあるいはmAbアフィニティカラムを用いた昆虫細胞培養上清中のrSwIL-6精製法を確立した。精製rSwIL-6を用いてポリクロナール抗体も作製した。さらにこれら抗体を用いてrSwIL-6を測定するためにサンドイッチELISA法を確立した。このELISA法を用いて、マイトジェンやA.Pleuropneumoniae、M.hyopneumoniaeを実験的に感染させたブタの血漿あるいはBALFサンプルで刺激した単球の培養上清中の可溶性ブタIL-6を測定したところ、細菌感染させたブタのサンプル中にはIL-6が産生されていることが示された。この研究により、バキュロウイルス発現系は生物活性を持ったサイトカインの発現に有用であることが示され、また今回得られた生物活性をもつrSwIL-6は感染症の臨床研究に応用できると考えられる。

第四章:ブタにおける急性期蛋白産生とStreptococcus suis抵抗性に対する組換えブタIL-6の影響

 ブタの肝臓由来急性期蛋白反応に対する組換えrSwIL-6の役割を解析する目的で、ブタ初代培養肝細胞、および成長期豚への効果を解析した。さらに、Streptococcus suis(S.suis)serotype2攻撃に対するブタの抵抗性に対する影響も検討した。rSwIL-6は初代培養したブタ肝細胞での急性期蛋白(C-reactive protein、haptoglobin)の合成を促し、容量依存的にアルブミン分泌を抑制した。さらに、バキュロウイルス発現rSwIL-6を成豚に10μg/kg/dayで3日間皮下投与したところ、試験管内で観察されたような急性期蛋白の産生が血漿中に検出され、皮下投与がこれからの臨床実験で有用であることがわかった。また、成長期豚にS.suis serotype2(NIAH-11433,9x109CFU)攻撃を行なった。3日間10μg/kg/dayバキュロウイルス発現rSwIL-6を前投与したところ、血漿中ハプトグロビンとC-reactive proteinレベルが上昇し持続した。これらのブタは対照群と比較して高い抗S.suis抗体(IgM)反応と、低いTNF-α、IL-18の産生、球菌に対する抵抗性を示した。この研究により、バキュロウイルス発現rSwIL-6は試験管内、生体内両方で活性があり、S.suis serotype2などのブタの細菌感染に対して、rSwIL-6を投与することで免疫機能と抵抗性を増加させる可能性が示された。このrSwIL-6は副作用のない強力な免疫調整機能を示し、有用と考えられる。

 本研究で得られたrSwIL-4/IL-6とその生物活性とブタヘの応用についての情報は、ブタの免疫学的基礎研究やブタの感染症に対する免疫療法・ワクチンの開発に貢献すると考えられる。また、ブタの疾病発症におけるIL-4/IL-6の果たす役割は未だ詳細な研究がなく、本研究で確立した発現サイトカインや測定技術は、このような研究に解析手段を与えるものと考える。

審査要旨 要旨を表示する

 IL-4とIL-6免疫反応の重要な調節因子であり、ブタにおいても重要と考えられる。本研究の目的は、ブタIL-4/IL-6の蛋白を発現し、それらの解析法を確立し、実際に生体に用いた際の効果を検索することによってそれらのブタでの免疫調節機能の基礎的研究への道を開くことである。本研究では組換えブタIL-4/IL-6の発現系の確立、抗ブタIL-4/IL-6抗体の作製とその性状解析、サンドイッチELISAならびにELISPOTシステム確立と試験管内でのブタ由来細胞に対する両組換えサイトカインの生物活性の研究への応用を行った。さらに生体内で、正常状態、あるいはLPS、細菌感染といったブタの免疫システム刺激因子の前処理における組換えブタIL4/IL-6の効果について解析を行った。

 第一章では、組換えブタIL-4の発現ならびに精製とサンドイッチELISA、ELISPOTシステムを確立した。ブタIL-4cDNAをクローニングし、大腸菌、バキュロウイルス、ほ乳類細胞発現系を用いてそれぞれの組換え蛋白を発現させた。さらに、ブタIL-4に対する2種類のポリクローナル抗体と4種類のモノクローナル抗体(mAb)を作製し、ブタIL-4の検出と精製に利用した。ここで作製した抗ブタIL-4抗体はサンドイッチELISAやELISPOTシステムヘ応用できた。これらの系で、M.Pleumopneumoniaeを感染させたブタのBALF(肺胞還流液)サンプルでブタIL-4レベルを測定し、細菌感染群でサイトカインレベルが高い傾向であることを示した。これらの成果はバキュロウイルスが生物活性をもつサイトカインの発現に非常に有用なベクターであり、臨床研究に応用可能であることも示した。

 第二章では、ブタ免疫細胞およびLPS誘導による炎症後サイトカイン産生へのrSwIL-4の影響を解析した。rSwIL-4での処理によりCD4陽性T細胞やブタ樹上細胞(Mo-DC)を誘導し、未熟MoDCからのIL-6産生が抑制された。また、rSwIL-4をLPSと同時に添加するとLPS刺激後の肺胞マクロファージからTNF-α、IL-1β、IL-6、IL-8、IL-18の分泌が抑制された。一方、LPS刺激1時間前にrSwIL-4処理するとTNF-αとIL-18の分泌が増加した。さらに、育成豚にLPS処理1時間前にバキュロウイルス発現rSwIL-4を投与すると、炎症性サイトカイン、とくにTNF-αとIL-18が増加し、エンドトキシンショック時の呼吸不全感受性が高くなった。以上より、炎症性サイトカイン産生へのブタIL-4の影響は投与のタイミングによる事が明らかとなった。

 第三章では、組換えIL-6発現と精製によるサンドイッチELISA法の確立を行なった。大腸菌、バキュロウイルス、ほ乳類細胞による組換えブタIL-6(rSwIL-6)発現を行い、糖鎖付加がブタIL-6の活性に影響すると考えられた。また、各系で発現したrSwIL-6の精製法を確立した。精製rSwIL-6を用いてポリクロナール抗体も作製し、これを用いてSwIL-6を測定するサンドイッチELISA法を確立した。このELISA法で、マイトジェンやA.pleuroneumoniae、M.pleuroneumoniaeを実験的に感染させたブタの血漿あるいはBALFサンプルで刺激した単球の培養上清中の可溶性ブタIL-6を測定したところ、細菌感染させたブタのサンプル中にはIL-6が産生されていることが示された。このように、SwIL-6精製法と検出系の確立に成功した。

 第四章では、ブタにおける急性期蛋白産生とStreptococcus suis抵抗性に対する組換えブタIL-6の影響を解析した。バキュロウイルス発現rSwIL-6は試験管内、生体内両方で急性期蛋白合成誘導能があり、S.suis serotype2などのブタの細菌感染に対して、rSwIL-6を投与することで免疫機能と抵抗性を増加させる可能性が示された。このrSwIL-6は副作用のない強力な免疫調整機能を示し、有用と考えられる。

 本研究で得られたrSwIL-4/IL-6とその生物活性とブタヘの応用についての情報は、ブタの免疫学的基礎研究やブタの感染症に対する免疫療法・ワクチンの開発に貢献すると考えられる。また、ブタの疾病発症におけるIL-4/IL-6の果たす役割は未だ詳細な研究がなく、本研究で確立した発現サイトカインや測定技術は、このような研究に解析手段を与えるものと考える。よって、審査員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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