No | 117644 | |
著者(漢字) | 風間,洋一 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | カザマ,ヨウイチ | |
標題(和) | 粒子計測による地球磁気圏構造の遠隔観測 | |
標題(洋) | Remote Sensing of Magnetospheric Structure with Particle Mesurements | |
報告番号 | 117644 | |
報告番号 | 甲17644 | |
学位授与日 | 2002.10.21 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第4257号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 地球惑星科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 地球磁気圏は性質の異なる幾つかの領域に大別されるが、それらは独立ではなく、境界を通したエネルギー・運動量・物質の授受によってダイナミックに変動している。それらは非定常かつ非一様で、局所的かつ短時間に粒子加速が幾つかの領域で発生する。サブストームの際に観られる現象、すなわちオーロラ帯上空における沿磁力線加速、内部磁気圏における粒子インジェクション、尾部における磁気リコネクションは端的にこのことを表している。このような関係をグローバルな視点から捉えることは磁気圏物理学においてたいへん重要な問題であることは論を待たない。本論文は、そのような観点から、 ENA(energetic neutral atom)粒子による遠隔観測のための技術的な研究および磁気圏尾部でのエネルギー分散イオン現象に着目した研究をまとめたものである。 内部磁気圏においては、高エネルギーイオンが周囲の希薄な大気との荷電交換によってENA粒子が生成される。ENAは中性粒子であるため磁場を横切って情報を伝えることができるため、このENAを検出することにより、内部磁気圏を遠隔観測する手法が以前から着目されている。近年POLAR衛星やIMAGE衛星で行われるようになっているが、その観測技術は未だ発展途上の段階にある。我々も以前からその観測技術の基礎開発を行っており、本研究の前半はその成果の報告である。 始めに、ENA検出などプラズマ計測における基本的な要素である薄膜カーボンの粒子透過特性を実験的に計測した。薄膜カーボンの厚みは25Å程度のきわめて薄いものであり、実験の過程でそれらの取り扱い技術を取得したことは、大きな成果である。実験と平行してコンピュータによるシミュレーションも行った。実験により得られたエネルギー損失・角度分散量は、50-100Å厚の薄膜のシミュレーション結果に相当することが分かった。 次に、ENA観測を行うロケット搭載用高エネルギー粒子計測器の設計・開発を行い、観測ロケットSS-520-1に搭載した。この計測器の特徴は、中性であるENAと荷電粒子を同時に計測できることである。これは磁気圏で生成されたENA粒子が地球電離圏の濃密な中性大気とどのような反応をしているかを研究することを目的としている。そのため永久磁石を用いてイオンと中性粒子の弁別を行う(図1を参照)。また、粒子のエネルギー分析を可能とするため、粒子の検出部には半導体検出器を用いた。この観測器を搭載したロケット実験により、開発した観測器の正常な動作を確認したが、ENAによる有意なカウントは検出されなかった。これは磁気圏の活動度が長い期間静穏であり、リングカレントでの高エネルギー粒子が大気との荷電交換反応により消失したためと解釈できる。 これらの実験を通じて得られたカーボン薄膜技術・半導体検出器利用技術・加速器を用いた高エネルギー粒子実験は、現在計画されているSELENE衛星や水星探査衛星に搭載予定の粒子観測装置に生かされている。 本研究の後半は、GEOTAIL衛星でプラズマシート中で観測される磁力線に沿った方向の粒子に着目し、そのエネルギー分散関係から粒子の加速位置や加速時刻を調べた。エネルギー分散を示す粒子は磁気圏の様々な領域において観測され研究も行われているが、磁気圏尾部プラズマシートで観測されるエネルギー分散を伴ったイオンの観測は従来行われていなかったものである。 解析の結果、分散イオンには二つの起源が有ることが分かった。一つは磁気圏尾部の磁気中性面で高速流に伴い加速されたものであり、もう一つはオーロラ帯上空で上向きに加速されたイオンである。これらの発生場所と時刻を詳細に解析した結果、両者がしばしば同時に同一磁力管内に存在し、オーロラ帯に起源を持つ粒子が数分程度遅れて発生することを発見した。これは磁気圏から電離圏へ擾乱が伝搬したという因果関係を示していると考えられ、伝搬速度から、アルベン波が寄与していると思われる(図2を参照)。 (図1)観測ロケットSS-520ロケットに搭載されたENA観測器の断面図 (図2)磁気圏で観測されるエネルギー分散イオン発生の模式図 | |
審査要旨 | 地球磁気圏は性質の異なる幾つかの領域に大別されるが、それらは独立ではなく、境界を通したエネルギー・運動量・物質の授受によってダイナミックに変動している。それらは非定常かつ非一様で、局所的かつ短時間に粒子加速が幾つかの領域で発生する。特に磁気圏サブストームの際にみられる諸現象、オーロラ帯上空における沿磁力線加速、内部磁気圏における粒子インジェクション、尾部における磁気リコネクションは端的にこのことを表している。これら諸過程の相互関係をグローバルな視点から捉えることは現象の解明に不可欠であり、近年の観測技術の高度化に伴って可能になってきた。本論文は、そのような研究の一環として、ENA(energetic neutral atom)粒子による遠隔観測のための実験的研究、およびGEOTAIL衛星観測に基づく磁気圏尾部でのエネルギー分散イオンに関する研究の成果をまとめたものである。 本論文は7章からなり、第1章は本論文の意義、すなわち非定常かつ非一様である磁気圏を理解するための大局的観点の重要性について概説している。 第2章は薄膜カーボンの粒子透過特性について述べている。薄膜カーボンはENA検出など宇宙空間でのプラズマ計測における基本的な技術要素であり、それらの粒子に対する特性を取得することは、プラズマ計測技術の発展に寄与するものである。薄膜カーボンの厚みは25Å程度のきわめて薄いものであり、実験の過程でそれらの取り扱い枝術を確立した。実験と平行してコンピュータによるシミュレーションも行った。実験により得られたエネルギー損失・角度分散は、50・100Å厚の薄膜のシミュレーション結果に相当する。この厚みの不一致は薄膜表面に不純物等が付着しているためであると結論され、計測器開発の際には実際の薄膜厚を考慮しなければいけないことを明らかにした。 第3章は半導体検出器の利用技術開発について述べている。半導体検出器は高エネルギー粒子の検出に有用であり、それらの利用技術の開発は第4章で述べている高エネルギー粒子計測器のみならず、今後の粒子観測装置に生かされる。実験の中で理論的極限までのSSD回路のノイズの低減に成功した。また、検出器表面の不感層厚を計測した結果、3800Å程度の厚みを持つことを示した。そして、この結果に基づき、磁気圏観測で必要な数十keVのイオン検出器に対する不感層厚の制限を求めた。 第4章は高エネルギー粒子計測器の設計・開発について述べている。ENA観測を行うロケット搭載用高エネルギー粒子計測器の設計・開発を行い、観測ロケットSS-520-1に搭載した。この計測器は、磁気圏で生成されたENA粒子と地球大気圏の濃密な中性大気との反応の研究のため、中性であるENAと荷電粒子を同時に計測できるように設計された。この同時計測のため永久磁石を用いてイオンと中性粒子の弁別を可能としている。また、粒子のエネルギー分析を行うため、粒子の検出部には半導体検出器を用いている。打ち上げられた観測ロケットは正常に飛行し、開発した観測器の正常な動作を確認したが、ENAによる有意なカウントは検出されなかった。この観測結果からENAの上限値を得ている。さらに、この上限より、中性粒子の源であるリングカレントの粒子密度が従来のモデル計算で示唆される量よりも2桁程度以上減少していなければならないことを結論している。この結果は、この観測時期のような磁気圏の活動度の長い静穏期間に適用するにはモデルの改訂が必要であることを示している。 第5章は夜側磁気圏で観られるエネルギー分散イオンの一般的な性質について述べている。エネルギー分散を示す粒子は磁気圏の様々な領域において観測され研究も行われているが、磁気圏尾部プラズマシートで観測されるエネルギー分散を伴ったイオンの観測は従来行われていなかった事例である。研究により、夜側磁気圏で観られるエネルギー分散イオンは4つのタイプ、すなわち広いピッチ角をもつ高エネルギー分散イオン、広いピッチ角をもち繰り返し発生する分散イオン、狭いピッチ角の低エネルギー分散イオン、2成分プラズマ中に観測される分散イオン、に分類できることを示した。これらはイオンの起源や生成機構に依存していると考えられるが、うち三種の起源は、夜側磁気圏に起源を持つもの、磁気圏境界面近傍で観測され太陽風進入の過程で発生するもの、地球電離圏に起源を持つもの、であるとの結論を得た。 第6章は上記のエネルギー分散イオンのうち、磁気圏イオンと電離圏イオンが共存している事例について述べている。特に、事例中に発見された電離圏起源イオンと磁気圏起源イオンが同時に存在している例につき解析した結果、両者がしばしば同時に同一磁力管内に存在し、オーロラ帯に起源を持つ粒子が数分程度遅れて発生することを明らかにした。これは磁気圏から電離圏へ擾乱が伝搬したという因果関係を示している。その伝搬速度から、電離層イオンの磁気圏への注入にアルペン波の寄与があることを結論した。 第7章は本論文全体の統括を行っている。論文前半部の高エネルギー中性粒子観測装置の開発、試験観測への応用とその結果、ならびに後半部のGEOTAIL衛星によるエネルギー分散イオンのデータ解析とその結果は、いずれも磁気圏をグローバルな視点から捉える研究手段として極めて有効であると結論している。これらの結果は有意義なものであり、磁気圏研究の発展に寄与するものと認められる。 なお、本論文第2章は浅村和史氏、斎藤義文氏、向井利典氏との共同研究であるが、論文提出者が主体となって実験および解析を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 以上の結果に基づき博士(理学)の学位を授与できると認める。 | |
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