学位論文要旨



No 117713
著者(漢字) 米山,隆一
著者(英字)
著者(カナ) ヨネヤマ,リュウイチ
標題(和) Radial Samplingを用いた高速MRI撮像法の開発
標題(洋)
報告番号 117713
報告番号 甲17713
学位授与日 2003.03.05
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2051号
研究科 医学系研究科
専攻 機能生物学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 上野,照剛
 東京大学 教授 井原,康夫
 東京大学 教授 井街,宏
 東京大学 助教授 高山,吉弘
 東京大学 助教授 伊良皆,啓治
内容要旨 要旨を表示する

 核磁気共鳴現象を利用して生体断面の撮像を行うMRIは、現在までに多大な成功を収めてきた。しかし、装置の機械的性能が向上した現在でも、標準的な撮像法で一箇所当たり3-5分程度の撮像時間を要し、その高速化は大きな課題となっている。

 このMRI撮像の高速化に付いては現在迄にEcho Planer Imaging (EPI)、Spiral EPI等のシーケンス、half Fourier法等の画像再構成法、Sensitivity Encoding(SENSE)等のデータ収集法といった諸法が考案されている。これらの撮像法は総て、シグナル/ノイズ比(S/N)の低下、アーチファクトの出現、解像度の低下といった何らかの代償を伴って、目的とする撮像時間の短縮を実現しているが、これはNyquistの定理が存在する以上避け難いことである。

 本論分では、新たな高速撮像法として、従来高速撮像法に用いられてきたRadialサンプリングをベースとして、Radial Echo Planer Imaging with Central High Resolution Area(REPI[7] with CHRA)[8]を初めて考案した。Radialサンプリングは、従来高速撮像法に用いられてきたが、k-spaceの中心部でオーバーサンプリング(Nyquistの定理で要請される密度を超えてサンプリングすること)が生じる為に、k-spaceの辺縁部でアンダーサンプリング(Nyquistの定理の要請する密度以下でサンプリングすること)によるアーチファクトの発生を防ぐ為には、標準的なCartesianサンプリングに比べて、π/2倍のscanが必要になると言う欠点があった。今回考案されたREPI with CHRAは、再構成後の画像においてFOVの辺縁部での解像度を犠牲にすることで、上記のRadialサンプリングの欠点を補って撮像時間を短縮しつつ、FOVの中心部での高い解像度を維持することで、画像の診断能力を保つものである。

 上記のREPI with CHRAを解説するに先立ち、筆者は、REPI with CHRAのベースとなるRadialサンプリングについて、サンプリング方式に固有のアーチファクトの性質及び動きによるアーチファクトの性質を、解析的手法及びコンピューターシミュレーションを用いて、Cartesianサンプリングの場合と比較しつつ示した。これにより、Radialサンプリングの動きによるアーチファクトに対する頑健性が示された。

 その後筆者は、REPI with CHRAのscan法、再構成法について詳述した。REPI with CHRAは、Fig.1で示される通り、multi-shot EPIによるRadialサンプリングをベースに、各々のscanの最初のview(以下long view)を他のn-1個のview(以下、short view)のn倍の範囲でサンプリングするものである。これによってScanするviewの長さが短縮されることで、1回の励起でscan出来るviewの数はn倍となり、撮像時間を1/nに短縮する事が出来る。しかし、この状態では、long viewのサンプリング密度はNyquistの定理の要請する密度の1/nであり、そのまま再構成すると、アンダーサンプリングによる強いstreakingアーチファクトを生じる。REPI with CHRAは、これを防ぐ為に、筆者の考案した再構成法(以下、CHRA再構成法)を適用することで、FOVの中心部で高解像度を保ちつつ辺縁部は低解像度だがアーチファクトが少ない画像を得るものである。尚、REPI with CHRAはRadialサンプリングをベースとして考案されたが、Cartesianサンプリングにも適用可能であり、この場合はEPI with CHRAとなることも同時に示した。

 REPI with CHRAについて詳述した後筆者は、EPI with CHRA/REPI with CHRAの理論的実現可能性を示す為に、レゾリューションファントムをEPI with CHRA/REPI with CHRAで撮像し、コンピューターによって、T2-decayの影響を排除した上で、再構成を行い、この画像を、スタンダードなEPI/REPIによって得られた高解像度画像(FOV=24cm Matrix=256x256)及び低解像度画像(FOV=24cm Matrix=64x64)と比較した。比較の結果、EPI with CHRA/REPI with CHRAの何れに於いても、画像の中心部において、スタンダードなEPI/REPIによって得られた高解像度画像と同様の鋭い変化を示し、辺縁部に於いては、スタンダードなEPI/REPIによって得られた高解像度画像で認められたアーチファクトが減少する事が示された。又、スタンダードなEPIによって得られた(a)高解像度画像、(b)低解像度画像、(c)EPI with CHRAによって得られた画像のそれぞれについてpoint spread functionのfirst zero crossing pointを求めた結果、(a)0.94mm(1 pixel)、(b)3.8mm(4 pixel)、(c)0.94mm(1 pixel)となり、EPI with CHRAによってFOVの中心部で高解像度が達成されている事が、定量的に示された。スタンダードなREPIによって得られた(a)高解像度画像、(b)低解像度画像、(c)REPI with CHRAによって得られた画像のそれぞれについても同様にpoint spread functionのfirst zero crossing pointを求めた結果、(a)1.4mm(1.5 pixel)、(b)4.2mm(45 pixel)、(c)1.4mm(1.5 pixel)となり、REPI with CHRAによってもFOVの中心部で高解像度が達成されている事が、同様に定量的に示された。尚、スタンダードなREPI、REPI with CHRAで得られた画象は、スタンダードなEPI、EPI with CHRAで得られた画象と比較して信号強度の均一性が悪かった。これは、Radialサンプリングが磁場の不均一性に弱いことによるものであるが、ここで認められた濃度の不均一は他の文献で認められたものより強く、筆者のソフトウェア技術の問題であると考えられる。

 この様にしてEPI with CHRA/REPI with CHRAの理論的実現可能性が示された後、筆者は、FOV中心部で振動する円盤の像をREPI with CHRAで撮像した像を、コンピューターシミュレーションを用いて示した。シミュレーションの結果、辺縁部にstreakingアーチファクトは出現したが、対象そのものの位置は正確に認識され、Radialサンプリングの動きによるアーチファクトに対する頑健性が、REPI with CHRAに於いても保たれている事が示された。

 その後筆者は、T2の影響を排除することなく、REPI with CHRAを用いてレゾリューションファントムを撮像し、スタンダードなREPIによって得られた高解像度画像(FOV=27cm Matrix=256x256)及び低解像度画像(FOV=24cm Matrix=64x64)と比較した。比較の結果、T2-decayの影響下でもREPI with CHRAによって、FOVの中心部で高解像度を保ちつつ辺縁部は低解像度だがアーチファクトが少ない画像を得られる事が示されたが、一方で、REPI with CHRAに於いては、FOV中心部と辺縁部の信号強度の差が強く出る事が明らかとなった。これはFOV中心部の再構成は各励起の1番目のviewのみが用いられるのに対して、他の部分の再構成に用いられる2番目以降のviewからの信号は、時を追うにつれてT2-decayによって減衰する為である。この補正は今後の検討課題である。

 最後に筆者は、REPI with CHRAを用いてボランティアの頭部及び骨盤を撮像し、スタンダードなREPIによって得られた高解像度画像(FOV=27cm Matrix=256x256)と比較した。この結果生体撮像に於いても中心部で高解像度を保ちつつ辺縁部は低解像度だがアーチファクトが少ない画像を撮像できることが示されたが、一方でレゾリューションファントムの撮像時に認められたFOV中心部と辺縁部の信号強度の差は、生体撮像に於いても認められた。又、REPI with CHRAにより得られた画象では、スタンダードなREPIによって得られた画像で認められたsusceptibilityアーチファクトが少ない事が示された。

 以上により、ファントムによる実験、シミュレーションによる実験、及びin vivoでのボランティアによる実験を通じて、REPI with CHRAによって中心部で高解像度を保ちつつ辺縁部は低解像度だがアーチファクトが少ない画像を撮像できることが示された

 尚、REPI with CHRAは、TrueFISP、3D Radialサンプリング、SENSE、partial Fourier法やといった他の高速撮像法との組み合わせが可能であり、これらの実現は今後の課題である。又、MRI angiography、MRI fluoroscopy、高速 functional MRIと言った高速撮像の実際の応用についても、今後の検討が望まれる。又、臨床応用の場においては、頭部等の動かない対象については、一端低解像度の画像を取ってモニタリングした後、必要な部位を追加的に高解像度で撮像するといった応用法が可能であり、今後の検討が望まれる。

Fig.8(a)REPI with CHRAのシーケンス

(b)REPI with CHRAのtrajectory

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は、生体の断層撮影に於いて重要な役割を果たしているMagnetic Resonance Imaging(MRI)に於いて新たな高速撮像法を開発する為に、従来より高速MRI撮像に用いられてきたRadialサンプリングに改良を加えて、Radial Echo Planer Imaging with Central High Resolution Area(REPI with CHRA)を新たに開発し、これにより得られた画像の性質の解明を試みたものであり、以下の結果を得ている。

1.レゾリューションファントムをREPI with CHRAで撮像し、コンピューターによって、T2-decayの影響を排除した上で、再構成を行い、この画像を、スタンダードなREPIによって得られた高解像度画像(FOV=24cm Matrix=256x256)及び低解像度画像(FOV=24cm Matrix=64x64)と比較した結果、REPI with CHRAによって得られた画象では、FOVの中心部に於いてはスタンダードなREPIによって得られた高解像度画像と同様の鋭い信号変化を示し、辺縁部に於いてはスタンダードなREPIによって得られた高解像度画像で認められたアーチファクトが減少する事が示された。これによって、REPI with CHRAによってFOV中心部で高解像度を保ちつつ辺縁部は低解像度だがアーチファクトが少ない画像を撮像できることが示された。

2.FOV中心部で振動する円盤の像をREPI with CHRAで撮像した像を、コンピューターシミュレーションを用いて示した結果、辺縁部にstreakingアーチファクトは出現したが、対象そのものの位置は正確に認識され、RadiaIサンプリングの動きによるアーチファクトに対する頑健性が、REPI with CHRAに於いても保たれている事が示された。

3.T2-decayの影響を排除することなく、REPI with CHRAを用いてレゾリューションファントムを撮像し、スタンダードなREPIによって得られた高解像度画像(FOV=27cm Matrix=256x256)及び低解像度画像(FOV=24cm Matrix=64x64)と比較した結果、T2-decayの影響下でもREPI with CHRAによって得られた画象では、FOVの中心部に於いてはスタンダードなREPIによって得られた高解像度画像と同様の鋭い信号変化を示し、辺縁部に於いてはスタンダードなREPIによって得られた高解像度画像で認められたアーチファクトが減少する事が示された。これによって、T2-decayの影響下でもREPI with CHRAによってFOV中心部で高解像度を保ちつつ辺縁部は低解像度だがアーチファクトが少ない画像を撮像できることが示された。

4.REPI with CHRAを用いてボランティアの頭部及び骨盤を撮像し、スタンダードなREPIによって得られた高解像度画像(FOV=27cm Matrix=256x256)と比較した。この結果生体撮像に於いてもREPI with CHRによって中心部で高解像度を保ちつつ辺縁部は低解像度だがアーチファクトが少ない画像を撮像できることが示された

 以上本論分は、生体の断層撮影に於いて重要な役割を果たしているMagnetic Resonance Imaging(MRI)に新たな高速撮像法を加え、これにより得られた画像の性質を解明すると言う重要な貢献をなすものと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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