学位論文要旨



No 117714
著者(漢字) 河崎,伸
著者(英字)
著者(カナ) カワサキ,シン
標題(和) Type 2 helper Tリンパ球遊走活性のあるケモカイン thymus and activation-regulated chemokine(TARC、CCL17)の喘息モデルマウスにおける役割の検討
標題(洋)
報告番号 117714
報告番号 甲17714
学位授与日 2003.03.05
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2052号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高津,聖志
 東京大学 教授 中原,一彦
 東京大学 助教授 高木,智
 東京大学 助教授 土屋,尚之
 東京大学 講師 石井,彰
内容要旨 要旨を表示する

 最近、我が国において気管支喘息、スギ花粉症、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患の罹患頻度が急速に増加してきている。こうした疾患の中でも気管支喘息は特に人命に関わりその病態の解明は重要であるが、その病態生理の全貌は未だ明らかにされていない。

 CD4陽性T細胞は、それらの産生するサイトカインの違いによりType 1 helper Tリンパ球(Th1細胞)とType 2 helper Tリンパ球(Th2細胞)に分類される。そして気管支喘息の気道局所ではTh2細胞の役割が重要であることが示唆されている。しかし気道局所に浸潤したTh2細胞がどのようなメカニズムで好酸球浸潤や気道過敏性をもたらすかは不明な部分が多いが、実際にT細胞に作用するサイトカインについてはほとんどわかっていない。

 一方、ケモカインは特定の白血球サブセットの遊走作用・活性化を支配する一連のサイトカインとして発見されたものである。近年、リンパ球に直接作用するケモカインが発見され、こうしたケモカインの中でthymus and activation-regulated chemokine(TARC、CCL17)が選択的にT細胞に作用する事が最初に報告された。そしてCCR4のリガンドであるTARCとmacrophage-derived chemokine(MDC、CCL22)がTh2細胞に選択的に遊走活性を示すことも分かった。

 そこで我は気管支喘息のようなアレルギー性気道炎症性疾患においてTh2細胞に遊走活性をもつTARCが関与しているか調べる目的で、卵白アルブミン(OVA)を吸入させて喘息モデルマウスを作製し、好酸球浸潤や気道過敏性に対するTARCの働きを検討した。

 各臓器間における比較では肺、胸腺でTARCのmRNAの発現が強いことが報告されている。実際に我々の実験でもマウスの肺組織においてTARCのmRNAは無刺激状態においても構成的に発現していた。さらに喘息モデルマウスにおいて検討してみるとOVA吸入後3〜6時間後に有意にTARCのmRNAの発現は増強され、しかも24時間後までその増強効果は持続することがわかった。さらにタンパクレベルで実際にどの細胞から主に産生されているのかをTARCの免疫染色法を用いて検討した。TARCタンパクは恒常的に肺に発現しており、OVAのチャレンジにより増強され、しかも細胞浸潤が強い気道上皮細胞、血管内皮細胞において主に認められることが確認された。そこで実際にTARCがアレルギー性炎症において重要かどうかを調べるためにこのケモカインに特異的な中和抗体を用いた実験を行った。

 肺胞洗浄液(BALF)により肺胞への好酸球を中心とした細胞浸潤が喘息において特異的である。OVA投与により総細胞数は有意に増加した。細胞分画については以前から報告があるように好酸球の増加が著明であった。マクロファージ、リンパ球も有意に増加していた。しかし抗TARC抗体を前投与した時にBAL液中の総細胞数は有意に減少し、細胞分画においても好酸球とリンパ球が有意に減少していた。実際の組織中の変化をライト・ギムザ染色により検討した。BAL液中の変化と同様にOVAの吸入・投与により気管周囲への著明な好酸球を中心とした細胞浸潤が認められたのみならず、喘息発作時の変化と同様な気道上皮の肥厚・剥離、杯細胞の増加などを認めた。そして抗TARC抗体の前投与により好酸球を中心とした気道上皮への細胞浸潤が明らかに抑制され、気道上皮の変化もほとんど認めなくなった。このことからTARCが喘息状態にみられる病理組織学的変化に重要な役割を果たしていることが示唆された。

 次に好酸球浸潤とならぶ喘息における特異的な所見である気道過敏性に対する影響を検討した。抗TARC抗体を前投与する事によりコントロール抗体を投与した場合と比較して有意にOVAで感作・吸入で誘導されたメサコリンに対する気道過敏性が抑制された。

 またTARCはTh2細胞に対する直接的作用があるのでOVAの吸入感作で誘導されたCD4陽性細胞浸潤は抗TARC抗体を前投与する事により著明に減少した。

 一方、こうしたCD4陽性細胞により産生されるIL-4、IL-13のようなTh2タイプサイトカインが肺組織への好酸球浸潤や気道過敏性の誘発に重要な役割をはたしている。そこで我々は、この喘息モデルマウスにおいてBAL液中の濃度を測定する事により比較検討した。OVA吸入によりIL-4、IL-13の濃度は有意に上昇していた。しかし一方、抗TARC抗体投与することによってOVA投与により誘導されたIL-4,IL-13の濃度上昇は著明に抑制された。抗TARC抗体を投与することによりTh2タイプのサイトカインの遊離産生が抑制されることが好酸球浸潤や気道過敏性の抑制に関与している可能性が推定された。

 さらに好酸球やリンパ球に対して遊走活性を示すケモカインとしてeotaxin、 RANTES、MDCの肺における発現量を検討してみた。肺におけるeotaxinの発現は無刺激の時にも認められ、OVA吸入後6〜24時間にかけて有意に増加し、しかも抗TARC抗体によって抑制された。一方肺におけるRANIES、MDCの場合は無刺激の時に発現を認めたが、OVA吸入、抗TARC抗体投与によって有意の変化を認めなかった。

 上記のようにTARCは恒常的に肺に発現しており、喘息モデルマウスにおいてはTARCの発現が増強した。TARCに対して特異的な中和抗体を用いることによりOVAにより誘発された気道への好酸球浸潤、気道過敏性を抑制し、ほぼ正常の反応性に戻すことが可能なこと、気道へのCD4陽性T細胞の浸潤、肺におけるTh2タイプのサイトカインの遊離産生や好酸球に遊走活性のあるケモカインの発現を抑制することが示された。こうして気管支喘息の最も重要な特徴と考えられる気道組織への好酸球浸潤と気道過敏性に対してTh2タイプのサイトカインや好酸球に遊走活性のあるケモカインに影響を及ぼすことでTARCは重要な役割を果たしていると考えられた。

 以上のことから我々は気管支喘息モデルマウスにおいてCCケモカインであるTARCがCD4陽性Th2細胞のリクルートメントを制御することにより気道過敏性や好酸球の気道への浸潤に重要な役割をはたしていると考えられた。そのために気管支喘息の治療において今後TARCやそのレセプターであるCCR4を制御することが重要になると考えられた。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は代表的なアレルギー疾患である気管支喘息の病態において重要な役割を演じていると考えられるType 2 helper Tリンパ球(Th2細胞)に対して特異的に発現しているケモカインレセプターCCR4のリガンドであるthymus and activation-regulated chemokine(TARC、CCL17)が気管支喘息の発症や病態維持に対してどのような働きをしているかを検討する目的で喘息モデルマウスを作製し、下記の結果を得ている。

1.卵白アルブミン(OVA)による感作・吸入により喘息モデルマウスを作成し、炎症局所よりmRNAを抽出して定量的PCR法によってその発現量を測定した。マウスの肺組織ではTARCのmRNAは無刺激状態においても構成的に発現しており、OVAの吸入により有意にTARCのmRNAの発現は増強されることが示された。タンパクレベルでもTARCの免疫染色法を用いて検討したところ、無処置マウスにおいても気道上皮を中心に茶色に染まり、TARCタンパクが構成的に存在し、OVAで喘息状態を誘発する事により増強された。さらに免疫蛍光染色を行うことにより細胞浸潤が強い気道上皮細胞、血管内皮細胞において主に認められることが示された。

2.喘息モデルマウスにOVA感作・吸入させることにより気管支肺胞洗浄液(BALF)中の総細胞数は有意に増加し,細胞分画では好酸球、マクロファージ、リンパ球の有意な増加を認めた。しかし抗TARC抗体を前投与により総細胞数は有意に減少し、細胞分画においても好酸球とリンパ球が有意に減少した。

3.喘息モデルマウスにOVAの吸入・投与することにより気管周囲への著明な好酸球を中心とした細胞浸潤が認められたのみならず、喘息患者の喘息発作時の変化と同様な気道上皮の肥厚・剥離、杯細胞の増加などを認めた。そして抗TARC抗体の前投与により好酸球を中心とした気道上皮への細胞浸潤が明らかに抑制され、気道上皮の変化もほとんど認めなくなった。

4.OVAで感作・吸入を行ったマウスにおいてはメサコリンの静脈投与により気道抵抗が有意に上昇し、気道過敏性を認めた。さらに抗TARC抗体を前投与する事により有意にメサコリンに対する気道抵抗の上昇すなわち気道過敏性が抑制された。

5.TARCが遊走活性を持つCD4陽性T細胞がどれくらい肺組織に浸潤していかを免疫染色法によりCD4陽性細胞を染色することにより検討した。CD4陽性細胞数はOVAの吸入感作を行ったときには58.5±6.19(±SEM)/mm2であった。しかし抗TARC抗体で処理したときには26.5±3.00(±SEM)/mm2と肺組織へのCD4陽性Tリンパ球の浸潤数が著明に減少した。

6.喘息モデルマウスではBALF中のIL-4、IL-13濃度をELISA法で測定したところOVA吸入により有意に上昇していたが、IFN-γの濃度には有意な変化は認めなかった。しかし一方、抗TARC抗体投与することによってOVA投与により誘導されたIL-4、IL-13の濃度上昇は著明に抑制されたが、IFN-γの濃度は有意な変化は認めなかった。

7.喘息モデルマウスにおいてケモカインの発現量を定量的PCR法で比較検討した。肺におけるeotaxinの発現は無刺激の時にも認められ、OVA吸入後有意に増加し、しかも抗TARC抗体によって抑制された。一方肺におけるRANTES、MDCも無刺激の時に発現を認めたが、OVA吸入、抗TARC抗体投与によって有意の変化を認めなかった。

 以上、本論分は気管支喘息モデルマウスにおいてCCケモカインであるTARCがTh2細胞のリクルートメントを制御し、Th2タイプサイトカインと好酸球遊走性ケモカインの産生に作用することで気道過敏性や好酸球の気道への浸潤に重要な役割をはたしていることを明らかにした。本研究はこれまで検討されていなかった気管支喘息におけるTh2細胞の制御の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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