No | 117716 | |
著者(漢字) | 来田,吉弘 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | クルタ,ヨシヒロ | |
標題(和) | 内軟骨性骨形成機構の解明 : レチノール結合蛋白の同定とその生理的意義 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 117716 | |
報告番号 | 甲17716 | |
学位授与日 | 2003.03.05 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2054号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 外科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 整形外科医が扱う四肢の機能障害の中には、骨関節の成長と形態形成異常が原因となっている疾患群があり、骨形態形成の過程を制御して生理的な形態を有する骨を形成させる技術の開発が強く求められている。その骨の成長と形態形成は成長板軟骨組織で起こるが、その詳細な機構についてはまだまだよくわかっていない。 成長板軟骨組織は、細胞増殖が盛んな増殖層と増殖を止め石灰化に繋がる肥大層とに分けることができ、それぞれが成長板軟骨の2つの性質、成長と骨化(石灰化)、を制御していると考えられている。 成長板軟骨の組織形成と細胞分化の機構については、1980年代後半頃から、多数の成長因子やビタミン、ホルモン類が培養軟骨細胞の形質発現に影響を与えると報告されている。こうした因子の遺伝子変異や遺伝子操作が成長板軟骨と骨格の形成異常を引き起こすことも報告されている。なかでも近年、制御因子としての副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)の役割が注目されている。副甲状腺ホルモン(PTH)と軟骨細胞あるいは軟骨膜細胞が合成するオートクライン/パラクライン因子であるPTHrPはそのアミノ末端側の機能ドメインのアミノ酸配列が類似しており、軟骨細胞膜上に存在するPTH/PTHrP受容体の共通のリガンドとして作用する。PTH/PTHrPとそのセカンドメッセンジャーであるcAMPは、培養成長板軟骨細胞を用いた研究やノックアウトマウス、遺伝子導入マウスなどの解析から、軟骨の増殖と成熟を促進し、骨への移行を抑制する調節因子と考えられている。また、成長板軟骨の増殖層と肥大層の境界の数層(前肥大層)の細胞が、特に強くPTH/PTHrP受容体を発現していて、成長板軟骨の2つの機能(成長と骨化(石灰化))の制御に重要な役割を担っていると考えられるようになってきた。 ところが、PTH/PTHrPによりその受容体が活性化されてcAMPが誘導されることと、結果として起こる軟骨細胞の形質変化とを関連付ける情報は乏しく、PTH/PTHrP-cAMP系による成長板軟骨の分化制御機構の解明は、大きな課題となっている。そこで本研究は、ウサギ培養成長板軟骨細胞を用いて成長板軟骨におけるPTH/PTHrPの作用機序を探索することを通して、成長板軟骨組織の形成と成長の制御機構の解明に至ることを主目的とした。 研究の第1段階において、本研究で用いた培養細胞が、in vivoと同様の分化経過をたどることを蛋白および遺伝子レベルで確認した。PTH/PTHrPによる形質変化もあらためて遺伝子レベルで確認し、さらにPTH/PTHrPが新しい骨化(石灰化)分化マーカーであるインディアンヘッジホッグ(Ihh)とオステオポンチン(OPN)を遺伝子レベルで抑制することを明らかにした。 次いで、成長板軟骨細胞に対するPTH/PTHrP-cAMP系の作用機序を探索することを目的とし、培養上漬中からPTH/PTHrPあるいはcAMPで誘導される分子量約19kDaの蛋白を分離精製した。この精製蛋白のアミノ末端のアミノ酸配列はレチノール結合蛋白(RBP)のものと一致し、精製蛋白がRBPモノクローナル抗体と特異的に交差し、その分子量がRBPと一致することから、この蛋白をRBPと同定した。そして、軟骨組織中には肝臓以外の組織としては最高レベルのRBP mRNAが発現していることと、骨化しない静止軟骨や関節軟骨では成長板軟骨より多くのRBP mRNAが発現していることを明らかにした。また、RBP mRNAは軟骨から骨への移行に重要な成長板の前肥大期で強く発現しており、培養軟骨細胞に対しては、軟骨形質を誘導することなく骨化(石灰化)関連遺伝子であるインディアンヘッジホッグとオステオポンチンの発現を抑制することを明らかにした。これらのことからPTH/PTHrP-cAMP系の作用の少なくとも一部分はRBPを介したものであると考えられた。 ところで、RBPは、ビタミンA(レチノイド)特異的結合蛋白であり、肝臓から局所組織へのレチノールの輸送蛋白である。ビタミンAは、広く細胞の増殖分化に影響を与え、組織形成の制御に重要な役割を果たしている。食物から吸収されたビタミンAは、レチノールの形でRBPとともに肝細胞から分泌され、血中を標的組織まで輸送される。標的細胞に取り込まれたレチノールは、レチナールを経てレチノイン酸に代謝され、各種遺伝子の発現を調節し、レチノイン酸自身が誘導する特異的分解酵素であるレチノイン酸水酸化酵素により分解される。肝臓以外でも腎臓や目などビタミンAの標的組織の中には、RBPを少量ながら合成分泌しているものがあり、そうしたRBPは肝由来のレチノイドの作用を修飾すると報告されている。 本研究では成長板軟骨細胞がRBPを合成分泌していることを明らかにしたが、成長板軟骨もビタミンAの標的組織の一つである。ビタミンAは、軟骨形質を抑制して肥大化(石灰化)を誘導するとされているが、RBPにはレチノイン酸水酸化酵素を誘導する作用があった。そして、RBPはレチノイン酸との共存下で見かけ上レチノイン酸の作用を抑制するようであった。 以上のように、本研究ではPTH/PTHrPがcAMPとともにRBPを合成分泌することを明らかにし、RBPはレチノイン酸の作用を抑制する可能性が示唆された。しかし、文献的考察により、PTH/PTHrPが生理的条件下でもRBPの合成分泌を介して成長板軟骨の分化制御に関与していると考えるには疑問が残された。 | |
審査要旨 | 本研究は成長板軟骨の分化制御機構を明らかにするため、ウサギ肋軟骨成長板細胞を用いて、培養上清から軟骨では新規の蛋白を誘導する試みを行い、下記の結果を得ている。 1.ウサギ肋軟骨成長板細胞を培養して、培養日数を変えてDNA含有量、ウロン酸含有量、アルカリホスファターゼ活性、カルシウム含有量を定量した。また、副甲状腺ホルモン/副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTH/PTHrP)受容体、X型コラーゲン、オステオポンチンの各遺伝子発現の変化を計測した。これらの結果から、この培養細胞は経時的にin vivoとよく似た分化をすると考えられた。 2.ジブチリルサイクリックAMP(dbcAMP)をこの細胞に作用させ、培養上清中に分泌される19kDaの蛋白を、ゲルろ過等の方法を用いて培養上清より精製した。この蛋白の分子量およびN末端のアミノ酸配列(14アミノ酸)がウサギのレチノール結合蛋白と一致し、抗ヒトレチノール結合蛋白モノクローナル抗体と交差したことから、この蛋白がウサギレチノール結合蛋白であることが示された。軟骨でレチノール結合蛋白が合成されていることは新しい発見であった。また、dbcAMPはレチノール結合蛋白を遺伝子レベルで強力に誘導することが示された。 3.研究の課程で、この蛋白はPTH/PTHrPによっても遺伝子レベルで誘導されることが示されたが、生理的にPTH/PTHrPがレチノール結合蛋白の誘導を介して軟骨の分化制御に関与している可能性は、文献的考察より否定的であった。 4.レチノール結合蛋白は、レチノイン酸の特異的分解酵素であるレチノイン酸水酸化酵素を遺伝子レベルで誘導することが示された。レチノイン酸は成長板軟骨を肥大化石灰化に導く作用を有しているが、レチノイン酸とレチノール結合蛋白との共存下では見かけ上レチノイン酸の作用は抑制されていたことから、レチノール結合蛋白はレチノイン酸の作用を抑制する可能性があると考えられた。 以上、本論文ではウサギ肋軟骨成長板細胞の培養上清から、軟骨では新規のレチノール結合蛋白を単離精製した。レチノール結合蛋白には見かけ上レチノイン酸を抑制する作用があることを明らかにした。本研究は、軟骨分化に重要な役割を果たすと考えられるレチノイン酸の作用を調節する因子として、新たにレチノール結合蛋白を発見し、今後の成長板軟骨分化制御機構の解明に貢献すると考えられ、学位の授与に値するものと考える。 | |
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