No | 117739 | |
著者(漢字) | ラーヌワッ,ブーンチャイ | |
著者(英字) | LERTNUWAT,BOONCHAI | |
著者(カナ) | ラーヌワッ,ブーンチャイ | |
標題(和) | キャビテーション流れの数値解析 | |
標題(洋) | Numerical Simulation of Cavitating Flows | |
報告番号 | 117739 | |
報告番号 | 甲17739 | |
学位授与日 | 2003.03.12 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5372号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 機械工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年,工業排水による環境汚染が深刻な問題となっており,汚染物質の除去策として多くの方法が挙げられるが,そのうちの一つに化学反応を利用した汚染物質を減少させる方法がある.この化学反応を応用した閉空間における工業用水や下水の浄水システムとしては,例えば生物処理,オゾン処理及びUV処理などが主流であるが,これらは処理剤の環境への負荷や,処理剤添加のための特別なシステムを考慮する必要がある.一般に,化学反応にはこれを誘起するための活性化エネルギーが必要となる.本研究では活性化エネルギーをベンチュリ管におけるキャビテーション現象を応用して流体力学的に供給することにより,環境への負荷の低減と簡便な装置において水質浄化を実現するシステムを考える.すなわち,キャビテーション気泡の崩壊時に得られる気泡内の高温・高圧によって化学反応を引き起こす方法が考えられる.しかしながら,キャビテーション現象においては,様々なフロー・パラメータが気泡挙動と気泡内の化学反応速度に影響を及ぼすため,化学反応速度をコントロールするには各パラメータの影響について詳細な知見を得ることが必要となる.従って,本研究の目的はベンチュリ管内における化学反応を伴うキャビテーション流れに対する数値解析手法を構築し,化学反応速度に対するフロー・パラメータの影響を調べることである. 図1にベンチュリ管における化学反応を伴うキャビテーション流れの概略図を示す.まず,ベンチュリ管入口より流入した気泡は喉部に生成される低圧力部において膨張し,喉部後方のデフューザ部において圧力回復により急激に収縮,崩壊に至る.その際,気泡内部において急激な温度上昇が生じるために,化学反応が誘起される.本研究では,このような現象をモデリングする際に,単一気泡力学,化学反応動力学および気泡流の3つのパートからなっていると考えた.まず,第1に単一気泡力学として,気泡の体積運動,気泡界面における伝熱および輸送現象をモデル化し,検証として単一気泡の崩壊現象について直接数値計算の結果との比較検討を行った(図2参照).また,従来の他のモデルについても同様に比較を行ったところ,図2より本研究で開発された方法により良好な結果が得られることを示した.第2に化学反応動力学については,気泡内部での化学反応として酸水素反応を取り上げ,8つの物質からなる20の反応式により表現するモデルを採用した.第3に気泡流については,気泡と液相からなる二相流として取り扱い,運動方程式においては液相に及ぼす気泡の運動量を気泡と液相の密度比が大きいために無視できるとし,気泡が流れに与える影響は質量保存式を介してその体積運動のみであると考えた.ただし,気泡の並進運動については,気液間のスリップ速度を考慮した. 以上のようにして,本研究で開発された数値解析手法をベンチュリ管における化学反応を伴うキャビテーション流れに適用し,様々なフロー・パラメータによる気泡内化学反応の影響を調べた.そのうちの一つとして,ベンチュリ管出口の静圧(Pb)の影響について調べた結果を図3に示す.図3dより,静圧を小さくするにつれて気泡内水素が減少し,酸水素反応が増加していることがわかる.これは,出口静圧が小さくなるにつれて流速が増し,喉部において気泡が大きく成長する(図3a)ために崩壊に伴う気泡内温度の上昇が大きくなる(図3c)ことと,気泡の振動領域が長くなるために高温である状態が持続されるためである. ベンチュリ管内の化学反応を伴うキャビテーション流れに対して,本研究において新たに開発された数値解析手法により,ベンチュリ管出口静圧だけでなく様々なフロー・パラメータが気泡内化学反応に及ぼす影響について詳細に調べた.その結果,いくつかのフロー・パラメータは化学反応速度をコントロールするのに有効であるが,他のパラメータは使用することができないことがわかった.従って,本研究で得られた知見により,キャビテーションによる化学反応を利用した汚染物質除去を行う排水処理システムを設計する際に必要となる有益な情報が得られた. 図1:ベンチュリ管内の化学反応を伴う気泡流の概略図 図2a-e:気泡半径の時間変化について各モデルとDNSとの比較 図3a-d:ベンチュリ管出口の静圧(Pb)の変化に対する分布「(a)気泡半径(b)流れの静圧(C)気泡内温度(d)気泡内水素のモル数」. | |
審査要旨 | 近年,工業排水による環境汚染が深刻な問題となっており,汚染物質の除去策として多くの方法が挙げられるが,そのうちの一つに化学反応を利用した汚染物質を減少させる方法がある.この化学反応を応用した閉空間における工業用水や下水の浄水システムとしては,例えば生物処理,オゾン処理及びUV処理などが主流であるが,これらは処理剤の環境への負荷や,処理剤添加のための特別なシステムを考慮する必要がある.一般に,化学反応にはこれを誘起するための活性化エネルギーが必要となる.本研究では活性化エネルギーをベンチュリ管におけるキャビテーション現象を応用して流体力学的に供給することにより,環境への負荷の低減と簡便な装置において水質浄化を実現するシステムを考える.すなわち,キャビテーション気泡の崩壊時に得られる気泡内の高温・高圧によって化学反応を引き起こす方法が考えられる.しかしながら,キャビテーション現象においては,様々なフロー・パラメータが気泡挙動と気泡内の化学反応速度に影響を及ぼすため,化学反応速度をコントロールするには各パラメータの影響について詳細な知見を得ることが必要となる.従って,本研究の目的はベンチュリ管内における化学反応を伴うキャビテーション流れに対する数値解析手法を構築し,化学反応速度に対するフロー・パラメータの影響を調べることである. 本論文の内容は全7章から構成される。 第1章「序論」では,研究の工学的な背景と目的,そして従来までの研究について述べられている. 第2章「単一気泡力学」では,まず,気泡の体積運動,気泡界面における熱伝導および物質の輸送現象に関する数学モデルについて示されている.気泡の体積運動にはRayleigh-Plessetの式が用いられ,界面における熱伝導は気泡内圧力が時間のみの関数で気泡界面近傍の温度勾配が直線的であるという仮定の下で導出されている.また,物質の輸送現象は遷移状態理論から導かれている.以上に示された数学モデルにより単一気泡の崩壊現象に関する数値計算を行い,直接数値計算の結果と比較し,その有効性が確認されている.また,従来のモデルとの比較検討も行われており,本研究で用いる計算条件においては,よりよい結果が得られている. 第3章「化学反応を伴う単一気泡力学」では,まず,反応速度論の背景,主に気泡内のサンプル反応として酸水素の化学反応について詳細に述べられている.次に,気泡力学の支配方程式系に化学反応モデルを導入し,その数値解析手法が示されている.最後に,任意の反応物質の比率(化学量論の比率および化学量論でない比率)における化学反応の計算が行われ,良好な結果が得られている. 第4章「1次元気泡流」では,ベンチュリ管における気泡流の数値解析について述べられており,用いられた仮定,支配方程式系および数値計算法が示されている.従来の研究で取り上げられたいくつかの問題と同条件での計算が行われ,従来の研究による結果との比較を行ったところ,良い一致が得られている. 第5章「化学反応を伴う気泡流」では,前述の2-4章で示されたすべてのモデルを用いて,化学反応を伴う気泡流の数値解析を行うための支配方程式系および計算手法が詳細に示されている. 第6章「結果と考察」では,前章で開発された化学反応を伴う気泡流の数値解析手法により,様々なフロー・パラメータ(ベンチュリ管出口静圧,ベンチュリ管入口全圧および初期気泡半径など)が気泡内の化学反応速度にどのような影響があるか調査されている.例えば,ベンチュリ管出口の静圧が低い場合には,気泡が大変大きく成長し崩壊するために気泡内温度が非常に高くなり,気泡内で化学反応が生じるという結果が得られており,その傾向は出口静圧が低いほど反応が促進されるということが示されている. 第7章「結論」では,本研究の結論が述べられている.ベンリュリ管内の化学反応を伴う気泡流において,様々なフロー・パラメータに対する気泡内の化学反応速度の影響を数値解析によって詳細に調べた結果,いくつかのフロー・パラメータは化学反応速度をコントロールするのに有効であるが,他のパラメータは使用することができないことが示されている.よって,本研究で得られたこれらの結果により,キャビテーションによる化学反応を利用した汚染物質除去を行う排水処理システムを設計する際に必要となる有益な情報が得られている. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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