No | 117746 | |
著者(漢字) | 五十嵐,直子 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イガラシ,ナオコ | |
標題(和) | 有機官能基化したメソポーラスモレキュラシーブに関する研究 | |
標題(洋) | Studies on organically functionalized mesoporous molecular sieves | |
報告番号 | 117746 | |
報告番号 | 甲17746 | |
学位授与日 | 2003.03.12 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5379号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 応用化学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | MCM-41,MCM-48に代表されるメソポーラスモレキュラシーブは、20〜100Aの均一な径を持つメソ細孔、1000m2/g程度の高表面積を有することから、吸着剤や分離膜、あるいは触媒としての利用が期待されている。しかし結晶性アルミノシリケートであるゼオライトと異なり、アモルファスシリカによって形成されているメソポーラスモレキュラシーブは構造欠陥に由来するシラノール基が多く存在するため、表面の親水性が比較的高いことが知られている。この高い表面親水性のためにメソポーラスモレキュラシーブはゼオライトに比べ水熱安定性、機械的強度が低いということがこれまでに見いだされている。またTiやAlを触媒活性点として導入し触媒として用いる場合にも、水が関与する反応においては表面疎水性が低いために触媒活性点が水によって被毒され、触媒活性が低く抑えられるという欠点がある。本研究では、MCM-41を直接法(Scheme1)、およびポストシンセシス法(Scheme2)の2種類の手法で有機官能基化することにより表面疎水性を向上させ、それを通じMCM-41の構造安定性を向上させることに成功した。また、Tiを導入したMCM-41についても同様の有機官能基化を行い、その酸化触媒活性を向上させることに成功した。 まず構造安定性に影響を与える要因を調べるため、様々な条件下でメソポーラスモレキュラシーブを合成し、そのキャラクタリゼーションを行った。構造安定性の評価は、サンプルを塩化アンモニウム飽和水溶液上の水蒸気中、室温で処理した後XRDを測定し、そのピーク強度を比較することによって行った。Si源、型剤となる界面活性剤のアルキル鎖長、合成温度などを変えながら合成したメソポーラスモレキュラシーブの構造安定性を評価した結果、特に表面シラノール基の量がその構造安定性に大きな影響を与え、シラノール基量が少ないほど構造安定性が高いことがわかった。これは表面に親水性の高いシラノール基が多い場合、水が吸着しやすく、そのためにシロキサン結合が加水分解を受け、結果的に構造が壊れやすいためであると考えられる。 そこで有機修飾によりメソポーラスモレキュラシーブの表面疎水性を増加させ、構造安定性の向上を図った。直接法によってメチル基を導入したMCM-41(MCM-41(Me))の表面疎水性を25℃での水吸着測定、及び29Si MAS NMRにより評価した(Figure1)。有機基の導入量に伴いシラノール基一個あたりの水分子の吸着量は減少してゆき、有機基の存在によりシラノール基への水分子の吸着が抑制されることを見出した。これらの物質の水蒸気存在下での構造安定性を評価した(Figure2)。有機官能基化していないMCM-41ではわずか1日の処理でも大きな構造の崩壊が見られたが、メチル基を導入することにより構造崩壊の速度が減少した。構造安定性の向上は、酢酸による母ゲルのpH調整及び水熱合成によりシラノール基の縮合度を増加させたサンプル(MCM-41-AT)でも見ることができたが、これらの処理とメチル基の導入の両方を行うことにより、非常に安定性の高いサンプルを得ることに成功した。またメチル基導入量を35mol%-Siに上げると、他のサンプルに比べ100面ピーク強度は低いながらも、その安定性は非常に高く、20日間水蒸気処理を行った時にも構造の崩壊はほとんど見られなかった。 Ti含有MCM-41を直接法、ポストシンセシス法の2種類の手法で有機官能基化し、その物理的性質を比較した(Table1)。ポストシンセシス法によって有機官能基化した場合、トリメチルシリル基を11mol%-Siまで導入することができ、このとき表面シラノール基の量を修飾前の42mol%-Siから29mol%-Siまで低減させることができた。ポストシンセシス法では有機基を導入すると同時に親水的なシラノール基を低減させることができるため、効果的に疎水性を向上させることができると考えられる。しかしながら、すべてのシラノール基を有機修飾することはできなかった。一方、直接法では、表面シラノール基量は比較的多く、有機修飾を施していないサンプルとほぼ同程度の量であるものの、有機基導入量はメチル基では12%-Si、フェニル基では23%-Siと、ポストシンセシス法に比べ高い有機基導入量を得ることができた。このように、ダイレクト法は比較的簡単な合成方法で有効な有機官能基化が可能となるが、合成できるメソポーラス構造は現段階では限られており、一方でポストシンセシス法では二段階の合成が必要となるが、有機官能基化の適用範囲は広いといえる。 このようにして有機官能基化したTi-MCM-41を触媒として用い、過酸化水素によるシクロヘキセンの酸化反応を行った(Table2)。溶媒を用いない基質・水・触媒の三相系の場合、有機官能基化していないサンプルを用いた時、転化率は2%にとどまったのに対し、有機官能基化したものでは、転化率は15-28%と高い値を示した。ポストシンセシス法でシリル化したサンプルでは、シリル化率が6%-Siのサンプルを用いた場合の転化率は20%と、シリル化率が11%-Siのもの(転化率15%)よりも高い触媒活性を示した。シリル化率が高くなることで、基質の活性点へのアクセスが阻害されているのではないかと考えられる。また、直接法で合成したサンプルでは、メチル基を導入することで28%と高い活性が得られたが、フェニル基を導入したものでは、表面疎水性は高いものの転化率は15%にとどまった。これは修飾基であるフェニル基のサイズが大きいことに加え、修飾率がより高いために活性点へのアクセスが阻害されたためであると考えられる。有機官能基化したサンプルでは未修飾のものと比較して、アリル位酸化により生成するアルコール、ケトンの選択率がやや高かった。一方で過酸化水素の非生産的分解が抑制されていることを考慮すると、触媒表面の疎水化により表面付近のシクロヘキセン濃度が高くなり、触媒表面で過酸化水素から生成したOHラジカルが分解よりもアリル位酸化に寄与したためと考えられる。ここから、疎水性の向上だけでなく適度な度合の有機官能基化が反応性の高い触媒につながることが示唆された。 溶媒としてアセトニトリルを用い、溶液・触媒の二相系で50℃から70℃に反応温度を変化させて酸化反応を行った(Figure3)。有機官能基化していないサンプルでは、50℃では約40%の転化率を示したが、反応温度を60℃に上げても、転化率、エポキサイド選択率ともほとんど変化しなかった。一方、ポストシンセシス法で合成したシリル化率6%-SiのTi-MCM-41を用いて、60℃で反応した時、反応温度50℃の場合より転化率が1.5倍に上昇し、エポキサイド選択率も82%に向上した。しかし反応温度を70℃まで上昇させると活性、エポキサイド選択率とも減少し、H2O2の非生産的分解が上昇した。シリル化率が11%-Siのサンプルも同様の結果であったが、全体的にシリル化率が低いサンプルよりも触媒活性が低いことがわかった。直接法でメチル基とフェニル基を導入したものでは、反応温度の上昇とともに、転化率も最大で72%に向上することがわかった。エポキサイド選択率では、フェニル基を導入させたサンプルの方が高く、60℃で反応させた時に最大で91%にも向上させることができた。 炭素数10の不飽和アルコールのα-ターピネオールは分子サイズが大きく、細孔径の小さいゼオライトは触媒として不向きであるため、メソポーラスモレキュラシーブが触媒として有利である。有機官能基化による触媒活性の向上はα-ターピネオールについても見られ、有機官能基化により転化率が2%から7-10%に向上した。しかし、ここでは有機官能基化の手法や有機修飾率による差異を認めることができなかった。これは、分子サイズが大きい基質はもともと活性点へのアクセスに不利であるため、触媒表面の要因が活性にあまり寄与しなくなったためと考えられる。有機官能基化したメソポーラスモレキュラシーブはこのような分子サイズの大きな反応基質に対する有効な触媒であると考えられる。 Scheme1.Direct synthesis of organically functionalized MCM-41type materials(R=methyl or phenyl group). Scheme2.Post-synthesis trimethylsilylation reaction. Figure1.The relationship betwecn the ratio of VH20/SiOH(based on water adsorption and 29si MAS NMR) and the amount of methyl group(R)(based on 29Si MAS NMR)for MCM-41(Me). Figure2.Change of(100)peak intensity during moisture treated samples.AT:sample treated with acetic acid and hydrothermally synthesized,40:RTES mol % to Si in starting gel. Table1.Physical properties of organically functionalized Ti-MCM-41 samples Table2.0xidation of cyclohexene with H2O2 over organically functionalized Ti-MCM-41 in tri-phase system Figure3.0xidation of cyclohexene with H2O2 over organically functionalized Ti-MCM-41 with acetonitrile as co-solvent.Cat.100mg,substrate 5 mmol,H2O2 1mmol,CH3CN10ml,323-343 K,3h. | |
審査要旨 | 本論文「Studies on organically functionalized mesoporous molecular sieves(和訳有機官能基化したメソポーラスモレキュラシーブに関する研究)」は、メソポーラスモレキュラシーブを様々な方法で合成、有機官能基化し、得られた物質のキャラクタリゼーションを通じ、メソポーラスモレキュラシーブの表面疎水性、構造安定性、及び触媒活性に影響を与える因子について検討し、それらの物性に対する有機官能基化の影響について論じている。 メソポーラスモレキュラシーブは、ゼオライトが持ち得ない20〜100Aの均一なメソ細孔を持っていることから、比較的大きな分子に対する吸着剤、触媒、あるいは分離膜としての利用が期待されている。しかしその一方で、この物質は構造安定性が低く、触媒活性もゼオライトに比較して高くないことがわかっており、工業的に利用されるまでには至っていない。本論文では、これらの物性の向上、及びメソポーラスモレキュラシーブの新規応用分野の開拓を目的とし、様々な手法を用いてメソポーラスモレキュラシーブを有機官能基化し、これらの物性の評価を行っている。このように有機官能基化による構造安定性、触媒活性の向上の研究は新規なものであり、非常に意義深いものと考えられる。 第1章では、緒言として、メソポーラスモレキュラシーブについてその歴史的背景とともに、その特徴的な構造や物性、及び有機官能基化の手法について詳細に述べている。 第2章では、様々な出発物質から異なる手法によりメソポーラスモレキュラシーブを合成し、様々な角度からそのキャラクタリゼーションを行っている。その結果からメソポーラスモレキュラシーブの構造安定性に影響を与える因子を明らかにし、構造安定性の高い物質を得るための合成条件を求めることに成功している。合成条件と構造安定性の関係を明らかにしただけでなく、安定で構造規則性の高いメソポーラスモレキュラシーブを合成する条件を得る基礎データとしても有効である。 第3章では、メソポーラスモレキュラシーブを直接法により有機官能基化することにより、高い疎水性を賦与し、水、あるいは力に対する構造安定性を向上させることに成功している。二段階の処理が必要で比較的複雑なポストシンセシス法による有機官能基化で構造安定性が向上することがこれまでに報告されているが、比較的簡単に有機官能基化が行える直接法により得られた物質に対する詳細な研究は、工業的な利用を視野に入れた場合意義が深い。また、固体NMRを用いることによりメソポーラスモレキュラシーブの表面シラノール基量を定量的に評価し、構造安定性が表面シラノール基量と密接な関係があることを見いだしている。 第4章では、Ti含有メソポーラスモレキュラシーブを直接法、あるいはポストシンセシス法により有機官能基化し、その表面疎水性の向上を通じ、過酸化水素水を酸化剤に用いた酸化反応に対する触媒活性を向上させることに成功している。Ti含有メソポーラスモレキュラシーブは、TS-1などのTi含有ゼオライトよりも触媒活性が低いことが知られているが、このような有機官能基化により、オレフィンや不飽和アルコールの過酸化水素酸化に対し、高い活性を示す触媒の開発に成功している。またマイクロ孔しか持たないゼオライトでは触媒活性を示さない大きな分子径を持つ反応物に対しても高い触媒活性を示すことも見いだしている。有機官能基化については、モレキュラシーブ表面を二次的に有機修飾するポストシンセシス法と、有機シランをSi源に用いてモレキュラシーブを合成する直接的手法が用いられており、それぞれの手法の特徴についても比較、言及されている。 以上のように本論文は、メソポーラスモレキュラシーブの有機官能基化を様々な方法で行い、適切なキャラクタリゼーション方法を用いて、得られた物質の特徴的な性状と触媒としての応用の可能性を明らかにしている。またそれらの物質について今後考えられる応用や、用いた手法の今後の展開についても的確な言及がなされている。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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