No | 117779 | |
著者(漢字) | 種子島,幸祐 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | タネガシマ,コウスケ | |
標題(和) | アフリカツメガエル胚の初期発生におけるアクチビン応答性遺伝子Xantivinの分子生物学的解析 | |
標題(洋) | Molecular Analysis of Xantivin, an Activin Responsive Gene, in Xenopus Early Development | |
報告番号 | 117779 | |
報告番号 | 甲17779 | |
学位授与日 | 2003.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(学術) | |
学位記番号 | 博総合第415号 | |
研究科 | 総合文化研究科 | |
専攻 | 広域科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 一つの細胞である卵から、多様な組織を持つ成体ができあがる発生の過程において、中内胚葉誘導は最初に起こる誘導現象である。この誘導にはアクチビンシグナルが関わっていることが知られており、このシグナルを活性化するリガンドであるTGF-βスーパーファミリーに属する分泌性蛋白質アクチビンは、脊索、筋肉などの背側中胚葉性組織や内胚葉性組織を誘導する強い活性があることが知られている。また、多くの中内胚葉誘導において重要な役割を果たしている遺伝子がアクチビンによって誘導されることがわかっており、中でもアクチビンによる誘導の直接の応答遺伝子は、中内胚葉誘導において早い時期に働く鍵となる遺伝子であると考えられる。そこで本研究では、アクチビンによる誘導の直接の標的となり、中内胚葉誘導を制御する遺伝子を探索した。 ツメガエル予定外胚葉片を蛋白質合成阻害剤であるシクロヘキシミド(CHX)とアクチビンで共処理すると、アクチビンシグナルにより直接転写が誘導される標的遺伝子のmRNAのみが蓄積する。そこで、このような処理をした予定外胚葉片からcDNAライブラリーを作製した。さらに、このcDNAライブラリーから母性由来の遺伝子を除くため、サブトラクティブハイブリダイゼイションを行い、残ったクローンから150個ずつの遺伝子のプールを作製した。プールから作られたmRNAをツメガエル胚に過剰発現させたところ、あるプールで発生異常を引き起こすものがあり、そのプールから原因となる1つのクローンを単離した。 このクローンの塩基配列の解析により、TGF-βスーパーファミリーに属する分子であるleftyやantivinといった遺伝子と非常に高い相同性を持つ遺伝子であることが明らかとなった。そこで、この遺伝子をツメガエルのleftylantivin関連遺伝子Xantivinと命名した。TGF-□スーパーファミリーに属する遺伝子がコードするタンパク質は分泌因子として働くことが知られているが、ツメガエル卵母細胞発現系を用いた実験により、Xantivinタンパク質も分泌因子であり、また、このタンパク質は広い範囲に拡散して働くことが明らかとなった。leftyはこれまでlefty-1の変異マウスを用いた研究で左右軸の確立に必須であることがわかっていたが、最近、lefty-2の変異マウスやゼブラフィシュのantivinを用いた研究で中胚葉誘導においても重要な役割を果たしていることが示唆されていた。Xantivin mRNAも過剰発現により発生異常を引き起こすことから、初期発生において重要な役割を果たしていることが示唆された。そこでまず、Xantivin転写産物が胚内ではどのような局在を示しているのかをwhole-mount in situ hybridizationによって解析した。Xantivin mRNAは後期胞胚の背側中内胚葉領域で発現がはじまり、初期原腸胚までには帯域全体で発現するようになる。その後は、原腸陥入の進行とともに次第に背側の中軸に発現が限局されていき、後期原腸胚では中軸の発現のみになる。この発現は後期神経胚までに後方に移動しながら消失するが、尾芽胚期には左側の側板中胚葉付近に発現が見られた。また、ツメガエル予定外胚葉片をアクチビン処理する実験により、Xantivinは当初の目的どおりアクチビン処理に対して早期に応答することが確認された。さらに、胚内での発現を制御している遺伝子を解析したところ、初期中内胚葉形成に必須でありアクチビンシグナルを活性化できるnodal関連遺伝子(nodal-related gene)によって制御されていることが示唆された。Xantivin mRNAを過剰発現した胚は、原腸胚期に原腸陥入の阻害が起こり、尾芽胚期には本来からだ全体を覆うべき黒い動物半球側の細胞が移動せず腹側が黒く染まった胚になり、体軸は短くなった。切片の観察によると中胚葉形成が阻害されており、このことは筋肉のマーカー遺伝子の発現抑制によっても確認された。また、Xantivin mRNAを微量注入した胚では、初期の中胚葉及び内胚葉のマーカー遺伝子の発現が抑制されており、このことからも中胚葉誘導の阻害が示唆された。ツメガエル胚のnodal関連遺伝子Xenopus nodal-related gene 1(Xnr1)および2の発現はアクチビンシグナルで制御されており、その活性と転写の間でポジティブフィードバックループを形成していることが知られているが、Xantivin mRNAを微量注入した胚では、これらの遺伝子の発現も低下しており、アクチビンシグナルがXantivin mRNAの過剰発現によって抑制的に制御されていることが示唆された。このことを確かめるため、Xantivin mRNAをactivin mRNAやXnr1 mRNAといったアクチビンシグナルを活性化できる遺伝子と共発現させた。Xantivin mRNAやXnr1 mRNAは腹側帯域での過剰発現により、二次体軸を誘導する。それに対して、Xantivin mRNAを共発現させた胚では、二次軸誘導する活性が阻害されたことから、Xantivinはアクチビンシグナルを阻害することが示唆された。 ツメガエル胚では最近、遺伝子の機能欠損の方法として生体内でも安定なモルフォリノオリゴヌクレオチドの微量注入が使われている。このオリゴヌクレオチドを翻訳開始点より上流の5'UTR領域または翻訳開始点を含む領域に設計すると、遺伝子特異的な翻訳阻害が可能である。そこでXantivinの胚内での機能を解析するため、ツメガエル胚で単離されている4つのleftylantivin関連遺伝子の共通配列に対するモルフォリノオリゴヌクレオチドを作製した(XatvMO)。このオリゴヌクレオチドを微量注入して胚内のXantivin転写産物の翻訳を阻害した胚は、正常胚と比較して胴体部分が長く、頭部が小さいといった特徴的な表現型を示した。頭部の欠損は前方神経特異的マーカーの発現の減少によっても確認された。組織切片の観察によると、これらの胚は脊索や筋肉といった中胚葉性の組織が肥大しており、脊索は胚の前端まで拡張していた。さらにXatvMOを微量注入した胚を初期中胚葉および内胚葉マーカー遺伝子のwhole-mount in situ hybridizartionで解析したところ、中胚葉マーカー遺伝子の発現が上昇しており、特に初期の中胚葉領域すべてに発現するXbraは、本来、帯域全体に限局する発現が動物極側まで広がっており、中胚葉領域が拡大していることが示唆された。過剰発現の結果からXantivinはアクチビンシグナルを阻害することが示唆されたため、この中胚葉領域の拡大は、XatvMOを微量注入した胚で、アクチビンシグナルが過剰に活性化されていることにより説明できると考えられた。このことをアクチビンシグナルの標的遺伝子であるXantivinの転写産物の変化によって確認したところ、予想通りXantivin mRNAの発現が上昇しており、アクチビンシグナルが過剰に活性化されていることがわかった。これらのことから、Xantivinの翻訳を阻害した胚ではアクチビンシグナルが過剰に活性化した結果、後方神経領域を誘導する中胚葉領域が過剰に形成されたことにより、後方化が起こったものと考えられる。しかし、XatvMOを微量注入した胚では、アクチビンシグナルが過剰に活性化したときの典型的な表現型である二次体軸の誘導や、中胚葉マーカー遺伝子と同様にアクチビンシグナルの制御を受けている前方内胚葉マーカー遺伝子の発現の上昇が見られず、単純なアクチビンシグナルの活性化だけでは説明できない現象も見られた。 Xantivinは後期胞胚期からアクチビンシグナルに応答して発現することから、XatvMOを微量注入した胚では、主に初期原腸胚期からアクチビンシグナルが過剰に活性化されることが予想できる。XatvMOを微量注入した胚ではこのような遅い時期でのアクチビンシグナルの過剰な活性化が起こっているものと考え、遺伝子を初期原腸胚期以降に発現させることの出来るpCS2+DNA-vectorを用いて実験を行った。pCS2+Xnr1DNAを用いて過剰発現させた胚では、XatvMOを微量注入した胚同様の表現型が観察され、また、中胚葉性の遺伝子の発現の上昇は見られるものの前方内胚葉マーカー遺伝子の発現の上昇が見られなかった。ツメガエル胚のnodal関連遺伝子Xnr1および2の発現はアクチビンシグナルで制御されており、原腸胚期にはポジティブフィードバックループによって発現が維持されている。これらのことから、原腸胚期のXnr1の発現の維持は主に中胚葉の形成に必要であり、Xantivinはそれが過剰に起こらないように働いている事が示唆された。 これらのことから、Xantivinは中胚葉誘導の際にアクチビンシグナルによって誘導され、そのシグナルを阻害するフィードバックインヒビターであり、胚内で過剰に中胚葉領域が形成されるのを抑えている事が示唆された。 | |
審査要旨 | 種子島幸祐氏は「アフリカツメガエル胚の初期発生におけるアクチビン応答性遺伝子Xantivinの分子生物学的解析」においていくつかの優れた結果を得ている。 中胚葉誘導はアクチビンシグナルによって制御されており、アクチビンシグナルによって転写が誘導される遺伝子は中胚葉誘導において、重要な役割を担っていると考えられる。しかし、この研究が始まる前の段階では、アクチビンシグナルで誘導される遺伝子で中胚葉誘導において働いている遺伝子はいくつか知られているものの、中胚葉誘導における複雑な遺伝子発現を説明するには不十分であった。 種子島氏の成果は第一に、アクチビンシグナルによって、直接転写が誘導される遺伝子と探索する目的でスクリーニングを行い、実際に中胚葉誘導のパターニングに関与して、アクチビンシグナルに応答して発現する遺伝子であるXantivinをツメガエル胚で、始めてクローニングしたことにある。このスクリーニングでは、ツメガエル予定外胚葉片を蛋白質合成阻害剤であるシクロヘキシミド(CHX)とアクチビンで共処理するという独自の系を用いて、cDNAライブラリーを作製し、クローニングをした。この遺伝子は目的通り、中胚葉誘導の起こる時期と場所に一致して発現がみられた。また、ツメガエル予定外胚葉片をアクチビン処理する実験により、Xantivinは当初の目的どおりアクチビン処理に対して早期に応答することが確認された。さらに、胚内での発現を制御している遺伝子を解析したところ、初期中内胚葉形成に必須でありアクチビンシグナルを活性化できるnodal関連遺伝子(nodal-related gene)によって制御されていることが示唆された。Xantivinはマウス左右軸形成に関与しているleftyに高い相同性を持つ遺伝子であるが、種子島氏の実験から、この遺伝子ファミリーが中胚葉誘導の際にも働いていることが明らかとなった。 また、第二の成果は、この遺伝子を過剰発現系および機能欠失系によってその胚内における機能について詳細に調べ、Xantivinが胚内でアクチビンシグナルを担っている因子であるノーダル関連遺伝子の制御に関与して、中胚葉のパターニングに関与していることを明らかにしたことにある。Xantivin mRNAを過剰発現した胚は、中胚葉形成が阻害されており、Xantivin mRNAをactivin mRNAやXnr1 mRNAといったアクチビンシグナルを活性化できる遺伝子と共発現させるとactivin mRNAやXnr1の過剰発現による二次体軸の誘導を阻害した。このことからXantivinはアクチビンシグナルで誘導されるにもかかわらず、アクチビンシグナルを阻害するフィードバックインヒビターであることが示唆された。ツメガエル胚では最近、遺伝子の機能欠損の方法として生体内でも安定なモルフォリノオリゴヌクレオチドの微量注入が使われるようになったが、種子島氏はこのオリゴヌクレオチドを用いた実験を取り入れ、Xantivin特異的な翻訳阻害による機能欠損実験を行った。すると、Xantivinに対するモルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチド(XatvMO)を微量注入した胚では中胚葉性の組織が肥大しており、たとえば、脊索は胚の前端まで拡張していた。さらにXatvMOを微量注入した胚を初期中胚葉および内胚葉マーカー遺伝子のwhole-mount in situ hybridizartionで解析したところ、中胚葉マーカー遺伝子の発現が上昇しており、特に初期の中胚葉領域すべてに発現するXbraは、本来、帯域全体に限局する発現が動物極側まで広がっており、中胚葉領域が拡大していることが示唆された。また、XatvMO微量注入胚でのアクチビンシグナルの過剰な活性化が確認されたことから、胚内でXantivinはアクチビンシグナルの過剰な活性化をおさえて、中胚葉が正しい領域に限局して形成されるのに必要な因子であることが明らかになった。このようなフィードバック制御による領域の制御が、中胚葉誘導に必要であることは、このような種子島氏の実験により、明確になった。 このように種子島氏の行った研究は、アクチビンという強い中胚葉誘導能をもつ遺伝子によって直接誘導される遺伝子がむしろそのシグナルを抑制的に制御することにより正確なパターニングに関与していることを示した研究であり、このような系の分子メカニズムを明らかにしたことは学問上大きな価値がある。したがって、本審査委員会は博士(学術)の学位を授与するにふさわしいものと認定する | |
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