学位論文要旨



No 117807
著者(漢字) 陳,炳宇
著者(英字)
著者(カナ) チン,ヘイウ
標題(和) ウェブグラフィックスのためのQoSを目指したJavaによる多重解像度ストリーミングメッシュ
標題(洋) Java-based Multiresolution Streaming Mesh with QoS-like controlling for Web Graphics
報告番号 117807
報告番号 甲17807
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第4278号
研究科 理学系研究科
専攻 情報科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 池内,克史
 東京大学 教授 萩谷,昌己
 東京大学 教授 今井,浩
 東京大学 講師 五十嵐,健夫
 慶応大学 教授 金井,崇
内容要旨 要旨を表示する

 ウェブグラフィックスのためのQoSを目指したJavaによる多重解像度ストリーミングメッシュ

 近年、ウェブ上での3次元グラフィックスの表示に注目が集まっており、ウェブグラフィックスは重要かつ新しいプラットホームになってきた。ウェブ上で3次元グラフィックスのプログラムの開発するとき、様々なマシンにサーバーからアプリケーションを配布するために、著者はウェブグラフィックスのアプリケーションのベースとしてjGLと呼ばれるJavaによる3次元グラフィックスライブラリを開発した。また、インターネットでの3次元幾何モデルの伝送も重要なので、それに対する多重解像度ストリーミングメッシュの伝送法も提案する。さらに、ウェブ上で利用できるリアルな表示法と3次元モデルを変形する手法も提供する。

 jGLはJavaのために汎用の3次元グラフィックスライブラリである。Java 3Dなどのライブラリと異なり、jGLではJavaのみを用いて開発したので、プラットホームに依存せず、Javaが使用可能などんなマシンの上でも実行さすことができる。このほか、多くのプログラマーはOpenGLに慣れているので、jGLは簡単に習得し利用できる必要があるために、著者はOpenGLの仕様書に従って、jGLのアプリケーションプログラミングインタフェース(API)をOpenGLのAPIと同様に定義する。そうすることで、OpenGLと同じ形式で記述できるので、プログラマーがさらに他のライブラリを学習する必要がなくなり、インターネット上で動作する3次元グラフィクスのアプリケーションを開発することが以前より容易になると思われる。

 ウェブグラフィックスの便利なプログラミング環境を構築するためには、3次元グラフィックスライブラリのみが不足している。ウェブグラフィックスのアプリケーションを開発する際は、3次元モデルを表示する必要がある。そのため、インターネット上で標準的な3次元モデルのファイル形式-VRML(Virtual Reality Modeling Language)の仕様書に従い、jGLの拡張としてjVLと呼ばれるVRMLライブラリを開発した。

 インターネットで効率的にジ3次元幾何モデルを構成するメッシュデータを伝送することがウェブグラフィックスの重要なテーマの1つになっている。しかし、一般に3次元モデルのデータ量は通常大きいので、インターネットから3次元モデルダウンロードには時間がかかる。また、多くの場合、高精度なモデルが必要であるとは限らない。その場合、形状と特徴が認識できる簡単な形状のモデルを提供することが必要である。さらに、インターネットの実質上のネットワークバンド幅は安定ではないので、どの程度のデータ量のモデルを伝送するかが問題である。そこで、インターネット伝送するためのQoS(Quality of Service)を目指した再構成可能な多重解像度ストリーミングメッシュの伝送法を提案する。このシステムでは、最初に実質上のネットワークバンド幅に適した少ないデータ量で、形状と特徴が認識できる粗いメッシュを伝送する。簡単なモデルを使って、高精度なモデルが必要となる場合に、段階的にいくつかの必要な情報を追加伝送して、高精度なモデルを提供できる。また、すべての追加情報を伝送するとオリジナルの3次元モデルを非損失に再構成できる。

 提案する多重解像度ストリーミングメッシュを利用するとき、3次元モデルの提供者はまずストリーミングメッシュの形式を用いて生成されたモデルをサーバー上にアップロードする。そして、ユーザーはウェブページのインラインアプレットを利用してその3次元モデルを使うことができる。ウェブブラウザはまずそのアプレットをダウンロードして、実行する。そのアプレットは最初にサーバーから簡略化されたメッシュをダウンロードして、同時にサーバーとクライアントの間のバンド幅を計算する。その後、計算されたバンド幅に応じてパッチをいくつダウンロードするかを決定する。そして、ダウンロードする命令をサーバー側のサーブレット(サーバー側で動作するJavaのプログラム)に送信すると、そのサーブレットは伝送するパッチをカプセル化して、クライアントヘ伝送する。そして、クライアントはバンド幅に応じて、異なった解像度の3次元モデルを表示できる。また、ユーザーはオリジナルのモデルが必要な場合には、残りのパッチをダウンロードして、オリジナルのモデルを再構成できる。

 また、3次元モデルをよりリアルに表現するために、プロシージャソリッドテクスチャリングは有用なレンダリングの手法の1つである。しかし、この手法を用いてレンダリングの方法は時間が掛かるので、ウェブグラフィックスのアプリケーションでは利用できなくなる。そのため、著者はウェブ上で利用できるアダプティブなプロシージャソリッドテクスチャリングの方法を提案する。

 本論文では、ウェブグラフィックスのためのプログラムに対する便利なプログラミング環境を構築する。基礎的な3次元グラフィックスライブラリから、3次元幾何モデルの効率的な伝送、リアルな表示法、自由曲面変形などの技術も提案する。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、"Java-based Multiresolution Streaming Mesh with QoS-like Controlling for Web Graphics"(ウェブグラフィックスのためのQoSを目指したJavaによる多重解像度ストリーミングメッシュ)と題し、5章と3付録よりなっている。

 第1章は、"Introduction"と題され、序論であり、研究の動機となったウェブ上での3次元グラフィックスの表示の必要性、問題点、解決方法の提案などについて論じている。多様なマシンヘのアプリケーションの配布を可能とするJavaベースの3次元グラフィックスライブラリの提案、インターネットでの3次元幾何モデルの効率的な伝送のための多重解像度ストリーミングメッシュ伝送法の提案、ウェブ上で利用可能な高速でリアルな3次元モデル表現・表示法の提案などを主題としている。この主題の設定は、学位論文の主題として十分、かつ妥当であると認められる。

 第2章は、"jGL-a 3D Graphics Library for Jave"と題し、システムの基本となるjGLと呼ばれるJavaのための汎用3次元グラフィックスライブラリを提案している。このライブラリは、Java 3Dなどの既存のライブラリと異なり、Javaのみを用いて開発しているので、プラットホームに依存せず、Javaが使用可能な全てのマシンの上で実行することができる。さらに、現在広く使用されているOpenGLの仕様書に従って、アプリケーションプログラミングインタフェース(API)を定義している。これによりプログラマーの負担を軽減できるとしている。本章では、これらのライブラリの性能評価も行っている。

 第3章は、"Streaming Mesh with Shape Preserving"と題し、インターネット上で効率的に3次元幾何モデルを構成するメッシュデータを伝送するための、再構成可能な多重解像度ストリーミングメッシュの伝送法を提案している。この手法は、ベースエッジとシャープエッジと呼ばれる特徴を使用し、モデルを階層的に表現する。この階層表現を使用すれば、高速に転送できる粗いメッシュでも元の形状が既存手法によるものよりも容易に認識できることを示している。転送する際には、ネットワークバンド幅に適した少ないデータ量で、まず粗いメッシュを伝送する。さらに、段階的にいくつかの必要な情報を追加伝送して、高精度なモデルを提供できるシステムを提案している。全ての追加情報を伝送するとオリジナルの3次元モデルを非損失に再構成できることも示されている。これら提案法を実装し、実際に既存の手法と比較し、これらより性能が高いことを実証している。

 第4章は、"VRML and Solid Texturing Supports"と題し、ウェブグラフィックスシステムの性能を向上させるVRMLとSolid Texturingサポートと呼ばれる機能を提案している。前者は、ウエブグラフィクス上で3次元モデルを表示するため、VRML(Virtual Reality Modeling Language)の仕様に基づくjGL上で動作可能なライブラリの提案である。後者は、3次元モデルのリアルな表現のための効率的なプロシージャソリッドテクスチャリング手法の提案である。両提案とも実装され、システム評価がなされている。

 第5章は、"Conclusions and Future Work"と題され、提案手法のまとめと評価、今後の方向性に関して記述がなされている。

 以上これを要するに、本論文は、ウェブグラフィックスのための便利なプログラミング環境を提案し、基礎的な3次元グラフィックスライブラリを開発し、これを用いた3次元幾何モデルの効率的な伝送、リアルな表示法、自由曲面変形を提案、実装しており、極めて有意義な成果を得ている。この点で本論文は高く評価でき、審査委員全員で、博士(理学)の学位を授与するにふさわしいと判断した。

 なお、本論文の内容の一部は、共著論文として印刷公表済みであるが、論文提出者が主体となって研究および開発を行ったもので、論文提出者の寄与は十分であると判断する。

UTokyo Repositoryリンク