No | 117826 | |
著者(漢字) | 糟谷,直宏 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | カスヤ,ナオヒロ | |
標題(和) | トカマクプラズマにおける外部印加ポテンシャルによる径電場構造分岐 | |
標題(洋) | Bifurcation of the Radial Electric Field Structure Induced by an Externally Imposed Potential in Tokamak Plasmas | |
報告番号 | 117826 | |
報告番号 | 甲17826 | |
学位授与日 | 2003.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第4297号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 物理学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | トカマクプラズマは非線形応答を有し、Hモード[1]に代表される改善閉じ込めなどの様々な分岐現象を示す[2]。改善閉じ込めにおいて径電場の急峻な構造形成が重要な役割を果たしていることは広く知られており、その構造形成機構の理解は重要な課題である。トカマクにおいて、電極を用いてプラズマ周辺部に電圧を印加すること(電極バイアス)により、自発的Hモード遷移と同様に改善閉じ込めが得られる。これは制御可能な改善閉じ込め達成方法として広く用いられている。本研究はこの電極バイアスという外部駆動力が存在する場合の径電場構造形成機構の理解を目的とする。トカマク型実験装置TEXTORのバイアス実験では、遷移前後で空間的に一様な径電場分布から局所的なピークを有する分布への急激な変化、電極の電圧電流特性における正負バイアス非対称性、径電場ピーク位置の外側への片寄り等の観測がなされている[3]。この特徴的な実験結果を説明するためにモデルを構成し、プラズマの非線形応答がもたらす構造形成とその構造間遷移機構、そして自発遷移と電極バイアスによる遷移の関係を明らかにした。 径電場を決定するモデルは、電荷保存則から導かれる径方向電流の釣り合いが基本となる。径方向電流成分としてはシア粘性による電流Jvisc、局所電流Jr、軌道損失電流Jorbit、電極から流れ込む電流Jextを考える。シア粘性による電流は異常輸送の寄与として径電場の二階微分に比例する形で取り入れる。局所電流はトカマク磁場構造中の新古典輸送過程から生じる径方向電流により与えられる。軌道損失電流は荷電粒子が有限軌道幅を持つことによる外部への直接損失から生じる。局所電流と軌道損失電流は径電場に関して非線形な依存性を持つ。ここでは両者をあわせて非線形応答関数と呼ぶ。この非線形な応答が径電場構造分岐に重要な役割を果たす。 局所電流Jrの非線形性に注目して径電場構造を解析する。定常状態において方程式を解くと、同一の境界条件から、空間的に一様な径電場分布とともに、局所的なピークを持つ孤立波解が複数個得られる(図1)。複数解はここではじめて見つけられた。解の個数は電極間の距離によって定まる。径電場を積分することにより電極間の電圧Vと電極電流Iの関係が求められる。実際に取られるV、Iの値は電極が構成する外部回路の方程式も満たす必要がある。定常解には安定な領域と不安定な領域があり、その境界点が1つの状態から他の状態へ遷移する臨界点を与える(図2)。臨界点でのモードの安定性解析とそのモードの時間発展解析から遷移時にどの解が選択的に形成されるか(遷移選択則)がわかる。空間的に一様な解からひとつのピークを持つ解もしくは別の空間的に一様な解への遷移が起こることが示された。また、印加電圧増加時と減少時のヒステリシスが電圧電流特性から予想される。 実験結果をより正確に説明するためにさらに研究を展開した。径電場構造形成に寄与する要素はいくつも存在し、それら相互の関係を探ることで、径電場構造分岐の特性を捉えることができる。両極性径電場はバイアスをかけないときに自発的に生じる径電場で、圧力勾配に依存することよりプラズマ自体の持つ駆動力を表す制御パラメータとして扱うことができる。この両極性径電場を考慮することで正負バイアス非対称性が説明される。また、軌道損失もプラズマ端部での輸送に寄与する。軌道損失を含めた解析はHモードヘの自発的遷移を研究するという点で重要である。新古典輸送(Jr)と軌道損失(Jorbit)というふたつの機構の競合から、圧力勾配をパラメータとした自発遷移への電極バイアスの効果がわかる。正バイアス時には新古典輸送項がもたらす特徴が強く現れ、多くの孤立波解が存在し得る。それに対して、負バイアス時には電場に関する径電流の複雑な非線形応答の影響が現れる。また、圧力勾配が大きくなると負バイアス時には遷移が起こらない。この特徴は両極性径電場(自発)とバイアス電圧(外部)という2つの駆動源をパラメータとした相図に表れる(図3)。複数要素の競合からもたらされる複雑な非線形応答は、さらに多くの解への分岐をもたらす。 径電場構造の空間非対称性についても考察を行った。ここで、空間非対称性を与える要因として、プラズマパラメータの空間分布と軌道損失項の空間変化を考慮する。両者の空間非一様性が非線形応答関数を通じて同様な寄与をする。径電場構造は対称性を破る項に敏感に反応し、プラズマパラメータの空間分布を考慮した場合、ピーク位置は正(負)バイアス時では勾配の強い(弱い)領域に引き寄せられる(図4)。ピークの移動量はパラメータの曲率に対数的な依存性を示す。そして、ひとつ山構造のピーク位置が、空間非対称項により多数山構造のピーク位置に現れる。そのため径電場空間構造の測定から粘性係数に関する重要な情報が得られる。 遷移の選択則から径電場にはひとつ山構造が選択的に形成されるが、複数の電極を用い、かつ印加電圧を遷移点近傍で増加させることにより複数山構造を形成できることがわかった。これはより幅の広い、径電場勾配が大きい領域を達成できることを意味し、閉じ込めの更なる改善に応用できる。 解析は実験結果をよく再現しており、さらに実験で未確認な特性についても言及した。改善閉じ込め状態における径電場構造形成機構の理解に確かな進展を与えたといえる。 図1:電極-リミタ間の径電場(X)空間分布。 X1,X2が空間的に一様な解、a,b,cがそれぞれピーク個数が1〜3の孤立波解。χ=±18がそれぞれ電極、リミタ位置に対応。 図2:電極印加電圧Vextと電極電流1の関係。 点Bにおいて空間一様解(T2)から1つ山の孤立波解(S1)へ遷移する。 図3:両極性径電場Xaとバイアス電圧Vextを、パラメータとした相図。 S、Tはそれぞれ孤立波解、空間一様解が存在する領域を表す。斜線部は両解が存在可能な領域で、ヒステリシスに対応。 図4:非一様密度(n)分布(破線)を考慮した場合の径電場(X)空間分布。 ひとつ山構造(a)のピークが3山構造(c)のピーク位置にシフトしている。χ=±20がそれぞれ電極、リミタ位置に対応。 | |
審査要旨 | 核融合のためには高温プラズマを十分な時間閉じ込めることが必要であるが、これを行うための有望な手段の一つに、磁気閉じ込めにもとづくトカマクがある。トカマクにおける高温プラズマの閉じ込めを飛躍的に向上させ、核融合研究にブレイクスルーをもたらした方式として、ASDEXにおけるHモード(high-confinement modesの略)がある。プラズマが高温状態で閉じ込められると、プラズマ中心部から周辺部にかけて温度、粒子(イオン、電子)密度の急峻な勾配が発生する。通常の状態では温度、粒子がそれらの負勾配方向に輸送される勾配拡散が生じ、閉じ込めが阻害される。とくに、プラズマが乱れた状態にあるときは負勾配方向への輸送が増幅される、いわゆる乱流ないし異常輸送が発生する。 Hモードではプラズマ端において温度、粒子輸送が押さえられ、それらの急峻な勾配が持続する。この勾配をもつ領域はプラズマ端輸送障壁と呼ばれるが、径電場と密接するとする理論的予想が伊藤らによってなされ、観測的にも確認されている。電場と温度および粒子フラックスとの直接的関係については現在もなお活発に研究されているが、次の物理的過程が有力と考えられている: (1)イオンの軌道損失、電子の乱流駆動損失等による電流がプラズマ端において発生し、これが径電場を誘起する。 (2)径電場はE×B効果によって局所的なポロイダル流れを発生させ、この流れのもつ急峻な空間勾配によって輸送を引き起こす乱れの切断が行われ、温度や粒子の異常輸送が抑制される。 Hモードは、入力パワーの増加によって輸送障壁のないLモード(low-confinement modesの略)から自発的に遷移させることによって当初実現された。その後、プラズマ中に挿入された電極とリミッター間に電圧を外的に印加し、径電場を誘起させることによっても、Hモードが実現できることが確認された(バイアス遷移という)。バイアス遷移は、外的に制御可能な、有望なHモード実現方式と言える。 論文提出者は、プラズマ端での輸送障壁と電場との関係を明確にし、Hモードの外的制御法を探査する目的のもとに、以下の方針で電場発生機構を研究した: (1)バイアス実験における径電場発生機構を考察するための数学モデルを構成する。 (2)同数学モデルを用いて径電場構造を解析する。 (3)解析結果を用いて重要なバイアス実験結果を説明し、今後のバイアス実験に対する提案を行う。 論文提出者は径電場を発生させる電流効果として、シア粘性電流、新古典輸送効果による局所電流、軌道損失電流、電極バイアスによる流入電流を取り入れたモデル方程式を採用した。はじめに、局所電流の非線形性、シア粘性電流、流入電流に注目して同モデル方程式の定常解を吟味し、同一境界条件のもとで空間的に一様な径電場状態と複数の局所的ピークをもつ径電場状態が存在することを示した。この複数の径電場状態の理論的予測は、本研究において初めて得られた成果である。論文提出者はさらに軌道損失電流効果を加えたモデル方程式の数値解析を行い、上に得られた解析計算結果の妥当性を確認した。 論文提出者は次に電極間電圧と電極電流の関係を求め、これらの定常状態を安定状態と不安定状態に分類し、バイアス実験によるL-H遷移を径電場の構造分岐と関連づけ、臨界点近傍での安定性解析とモードの時間進展解析より定常状態間の遷移選択則を求めた。また、自発的に発生する両極性径電場は圧力勾配に依存することから、これを制御パラメータとして扱うことによって、バイアス実験における正負バイアスの非対称性を説明できることを示した。とくに、正バイアスにおいては新古典輸送効果による局所電流の効果が顕著となり、多くの孤立解が存在し得ること、また負バイアスにおいては径電流の複雑な非線形応答が生じ、圧力勾配が増加するにつれて遷移は発生しないことが示された。この理論的結果は、TEXTORトカマクにおける正負バイアスの非対称性を説明するものであり、本研究の重要な知見と言える。 径電場はE×B効果によって局所的に大きなシェアを有するポロイダル流れを発生させ、これが輸送を担う乱れを破壊し、輸送障壁を発生させるとする概念が広く受け入れられている。この概念のもとに、論文提出者は輸送障壁効果を上げるためには複数個の電極をプラズマ中に挿入し、径電場の複数山構造を形成することを提案した。 以上に見るように、論文提出者は径電場の定常状態間の遷移機構を考察し、径電場の構造分岐の視点よりトカマクプラズマにおける輸送障壁の発生過程に関して興味深い知見を得た。径電場構造と熱および粒子フラックスとの直接的関連は本研究の対象外となっており、今後の研究の進展に託されているが、輸送障壁発生における径電場の重要性は確立したものであり、径電場構造自体を研究した本学位請求論文は輸送障壁の研究において十分価値のあるものと言える。なお、本論文は高瀬雄一、伊藤公孝との共同研究であるが、論文提出者がモデル方程式の解析、遷移機構の考察を主に行っており、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 よって、博士(理学)の学位を授与できると認める。 | |
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