No | 117851 | |
著者(漢字) | 鈴木,建 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | スズキ,タケル | |
標題(和) | 波による太陽コロナ加熱及び太陽風加速について | |
標題(洋) | On the Heating of the Solar Corona and the Acceleration of the Solar Wind by Waves | |
報告番号 | 117851 | |
報告番号 | 甲17851 | |
学位授与日 | 2003.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第4322号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 天文学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本学位論文において、波の減衰における太陽コロナ加熱、太陽風加速の過程を理論的に探求する。 まず最初に、遅い太陽風が吹き出していると考えられる中低緯度コロナの加熱に焦点を置き、光球付近ではなくコロナ内で励起された音波による太陽コロナ加熱過程を精査する。小さな磁気リコネクション現象のモデルの1つである「彩層磁気リコネクション」が最近Sturrock(1999)により提案されたが、この現象により周期100秒程度の音波がコロナ内で発生する。この有限振幅の音波はやがて衝撃波を形成し、ノコギリ型の波(N波)として伝播するようになる。そして、波のエネルギーの減衰により、周囲のガスを直接加熱する。N波の外方向への伝搬の取り扱いには、弱い衝撃波理論の定式化を用いる。この取り扱いにより、減衰長をその都度仮定することなく、加熱率がコロナプラズマ気体の物理量に基づき首尾一貫した方法で評価することが可能となった。この方法を用いて、音波のエネルギーフラックスFw,‖,0=(1-20)×105erg cm-2 s-1、及び、周期、τ=60-300s、の様々な波を注入した場合の、上部彩層から1AUよりも外側の領域の大変広いコロナの構造を構築した。その結果、N波の減衰による加熱は下部コロナで有効に働くことが判り、周期が60sより長い波はFw,‖,0=2×105erg cm-2 s-1以上のエネルギーフラックスを注入すれば、コロナの最高温度を100万度以上に加熱し得ることが判明した。さらに本モデル計算の結果は、観測されるストリーマー領域の密度分布を再現可能であった。しかしながら、減衰長の短さのため、コロナの最高温度の場所は観測値よりも太陽表面に近くなり、太陽風速度分布も観測される遅い太陽風のものよりも遅くなってしまった。これは、実際の太陽コロナを再現するには、より長い減衰長を持つ加熱、加速源との協力が不可欠であることを示している。 次に、上記のN波過程との協力過程として、直線偏光したアルフベン波の減衰による太陽コロナ加熱、太陽風加速について論じる。直線偏光したアルフベン波は、非線形効果により波頭が突っ立ち、スイッチオン衝撃波を形成しコロナを加熱する。本論文では、この過程による加熱の見積りを、コロナ構造を与えた上で行なった。同じ周期と初期のエネルギーフラックスを持つN波と比較して、直線偏光したアルフベン波はよりゆっくりと減衰し、外部コロナにおいてはこの過程による加熱がN波の減衰によるものを上回った。さらに、直線偏光アルフベン波の減衰は、加熱源のみならず、外部コロナでの太陽風の加速源となることが期待され、下部コロナで有効なN波の減衰メカニズムとの有力な協力過程となり得ることが示唆される。またこの直線偏光アルフベン波に関し、小さな磁気リコネクション等によりコロナ内で励起された波だけでなく、表面対流層の乱流運動により光球付近で発生した波に関しても調査したが、両者は非常に似通った加熱分布を示した。これは、下部コロナにおいて衝撃波の振幅が小さく、衝撃波による波の減衰が無視できるほど小さいためである。 | |
審査要旨 | 本論文で、論文提出者は、太陽物理学における主要な問題の1つである静穏太陽コロナの加熱とそれと密接な関係にある遅い太陽風の加速を統一的に説明する新しい理論的提案を行っている。 論文は4部よりなり、第1部は、静穏コロナ加熱機構を波の散逸による加熱と微小フレア(ナノフレア)による直接加熱に分類し、波による加熱の観測的優位性を述べている。また、コロナ加熱と太陽風の加速を同時に解明していくという論文全体の方針が述べられている。この導入部に続き、第2部では、音波(磁場にそった遅いMHD波)によるコロナ加熱の理論が展開されている。光球の乱流による音波はコロナまで伝播しないため、著者は、音波の励起源を彩層やコロナでの磁気リコネクションによる小さい爆発現象に求めた。爆発現象により周期100秒程度の音波が発生すると、音波はコロナ中をノコギリ型の衝撃波面を持つ波として伝播する。波のエネルギーは伝播につれて減衰し、周囲のガスを加熱する。加熱率は、境界条件とコロナの物理量を与えると、弱い衝撃波理論を用いて求めることができる。著者は、音波のエネルギーフラックスとしてコロナの加熱に必要な量である(1-20)×105erg cm-2 s-1、周期〜60-300sの波を注入し、上部彩層から1AUよりも外側の領域の広いコロナの構造の決定に成功した。その結果、音波による加熱は下部コロナで有効に働くことが判り、周期が60sより長い波は、2×105erg cm-2 s-1以上のエネルギーフラックスを注入すれば、コロナを100万度以上に加熱し得ることが明らかとなった。これは、長い間捨て去られていた音波によるコロナの加熱の可能性を、音波の励起源を彩層より上空に置くことにより復活させたものであり、高く評価できる。 一方、音波の減衰が早いため、コロナの最高温度の場所は、観測よりも太陽表面に近くなり、太陽風速度分布も観測される速度より遅くなった。これは、実際の太陽コロナおよび太陽風を再現するには、音波の他により長い減衰長を持つ加熱・加速源が必要であることを示唆している。 このような考察から、著者は、論文第3部において、アルペン波の減衰しにくい性質に着目し、直線偏光したアルペン波の散逸による外部太陽コロナの加熱・太陽風加速の理論を展開している。線形アルペン波はコロナではほとんど減衰しないが、非線形効果を考慮すれば波頭が突っ立ち、スイッチオン衝撃波を形成する。著者は、この過程による加熱量の見積もりを、コロナの構造を与えた上で行うことに成功している。その結果、同じ周期と初期のエネルギーフラックスを持つ音波と比較して、直線偏光したアルフベン波はよりゆっくりと減衰し、外部コロナにおいてはこの過程による加熱が音波の散逸による過熱を上回り、音波の補完加熱源となることが明らかとなった。 アルペン波の起源について、小さな磁気リコネクション等により彩層やコロナ内で励起されたアルペン波と、表面対流層の乱流運動により光球付近で発生したアルペン波が、非常に似通った加熱分布を与えることが示されている。これは、アルペン波加熱においては、音波の場合ように励起源として彩層やコロナでの磁気リコネクションによる小さい爆発現象を仮定しなくても、光球で発生しているアルペン波がそのままエネルギー源となることを示している。コロナ加熱と太陽風の加速において、アルペン波の重要性を示した点は高く評価できる。 第4部では、論文のサマリーが述べられている。 以上概観したように、著者は、従来やや分離して論じられて来たきらいのある「コロナ加熱問題」と「遅い太陽風の加速問題」を統一的に説明する新しい理論的提案を行った。さらに、観測データによる理論の定量的検証を行い、その際静穏コロナと遅い太陽風の観測データの両方を駆使して、理論の妥当性の検証を行っている。彩層より上空でリコネクションにより音波が発生していることが観測的に証明できれば、低空静穏コロナの加熱は音波によることになり、今後の観測的研究の方向に大きな刺激を与える内容である。また、光球から発生するアルペン波が外部コロナの加熱を担っているとの指摘も極めて重要である。 論文提出者は、本論文において、音波とアルペン波が補完的に働いて、静穏太陽コロナの加熱と太陽風の加速を行っているという新しい理論的提案を行った。本論文は、コロナの加熱と太陽風の加速問題に基本的かつ重要な貢献をするものであり、審査委員一同高く評価した。したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。 | |
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