学位論文要旨



No 117856
著者(漢字) 松田,ニーロ茂彦
著者(英字) Matsuda,Nilo Shiguehiko
著者(カナ) マツダ,ニーロ シゲヒコ
標題(和) ブラジル北部、クラトン内アマゾン堆積盆の下部ペンシルバニア系炭酸塩堆積周期とドロマイトの起源に関する研究
標題(洋) Carbonate Sedimentation cycle and origin of dolomite in the Lower Pensylvanian intracratonic Amazon Basin, Norhtern Brazil
報告番号 117856
報告番号 甲17856
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第4327号
研究科 理学系研究科
専攻 地球惑星科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 棚部,一成
 東京大学 教授 浦辺,徹郎
 東京大学 教授 松本,良
 東京大学 助教授 大路,樹生
 東京大学 教授 多田,隆治
 熊本大学 助教授 松田,博貴
内容要旨 要旨を表示する

目的:

 ドロマイトの起源と環境の解明は依然として炭酸塩堆積学における古くて新しい課題である.本研究の目的は、堆積学と地球化学の手法によって、ドロマイトとドロマイト化作用のタイプを明らかにし、一回の海水準変動に対応して複数の異なるドロマイト化作用が進行するというドロマイト化のモデルを提示することである.本研究では、ドロマイト化に先立ち、砕屑石、炭酸塩岩、蒸発岩などから成る上部ノンテアレグレ層、イタイツーバ層に明瞭な堆積サイクルを記述した.

研究地域と試料:

 本研究で対象とした上部石炭系モロワンセクションはアマゾン堆積盆に位置し、厚さ約80m、炭酸塩岩、砕屑岩、蒸発岩の混合からなる。岩相から下部をモンテ・アレグロ層、上部をイタイツーバ層と呼ぶ。これらのセクションにはドロマイト層が挟在する。全体で厚さ約67mとなる2つの砕石場セクションと二つのボーリングから採取した250個以上のサンプルについて岩石学的、地球化学的検討を行い、これら堆積物の堆積環境と周期性を高い分解能で明らかにし、アマゾン堆積盆周辺における炭酸塩のドロマイト化が海水準変動に支配される堆積周期と密接に関係することを解明した。

生層序と地質年代:

 腕足類、有孔虫、コノドント、コケムシによる化石年代層序の組み立てを試みたが、ドロマイト化により化石の出現が限られるため、化石年代には若干の食い違いが認められた。腕足類によるとチェステリアン〜モロワン階となるが、コノドントではモロワン〜最下部アトカン階、有孔虫からは最上部チステリアン〜アトカンカ階、コケムシからはウエストファリアンB/C(アトカンに対比)となる。本研究では、最上部の砂層のコノドント年代および岩相対比可能なアマゾン堆積盆内の他地域の年代データから、研究セクションは最上部モロワンであると判断し、最下部の砂層から最上部の砂層までのセクションは、モロワン階の最上部に広く認められる3回の堆積周期の最後のサイクルに対比した。

マイクロ相解析:

 採取した試料の岩石組織、構造の観察と組成の分析により、22のマイクロ堆積相を認定した。そのうち17相は炭酸塩、5相は砕屑岩である。石灰岩にはパックストン、ワッケストン、マッドストン、グレインストーンが含まれる。石灰岩の多くは腕足類、ウニ、有孔虫、コケムシ、介形虫、巻貝、二枚貝、三葉虫などの生砕物から成る。ペロイドやオオイドからなるグレインストーンは幾つかの層準では主要である。マイクロ堆積相に基づき、7つの堆積環境を認定した。それらは深海環境から生物生産の活発な堆、外洋から閉ざされた潟、海水循環の制限された浅海の平坦部、潮下帯、潮間帯、および砂堆と含む(あるいは含まない)陸化した地域である。

堆積サイクル:

 厚さ53mの炭酸塩セクションには二つのタイプの堆積サイクルおよび蒸発鉱物とそのモールドの頻度に基づく鹹度サイクルが認められた。高周期SCサイクルは厚さ約3mで、これらが幾つか組み合わさって7つの低周期LTサイクル(7.5m)を構成する。

 LTサイクルは比較的深海の頁岩や生物擾乱の多い潮下層石灰岩などによって特徴づけられる急激な海進によって始まり、海水循環の制限された潮下層や潮間層で終わり、サイクルの最上部には泥に富むドロマイト層が発達する。

 堆積物中には石膏や硬石膏が見られ、それらの出現頻度から堆積盆の塩分濃度の変動が復元できる。鹹度はかなり頻繁に変動するがSCサイクルやLTサイクルと同調しない。しかし非常に塩分濃度が高い硬石膏の密集層は泥質ドロマイトに限られ、LTサイクル最上部で塩分が著しく上がったことが示された。塩分濃度変動は基本的にはアマゾン堆積盆が外洋に対して開いていたか閉じていたかと言うテクトニクスに関係するが、海水準の低下と蒸発促進により極端に塩分が上がってサブカが成立したと説明される。

ドロマイトとドロマイト化作用:

 岩石学的、鉱物学的、地球化学的データに基づき、タイプA,B,Cの3つのタイプのドロマイトを区別した.

 タイプAは、サブカと呼ばれている塩分濃度の高い潮間帯〜潮下帯のドロマイト化に由来するものである.泥に富むドロミクライトとして五つの層準で認められる.しばしば、蒸発鉱物や蒸発鉱物の溶けた孔を伴う.生砕物は非常に少ないかあるいは全く存在しない.結晶は自形または半自形で、最大径は15μ.酸素同位体組成が正で+0.55〜+5.56パーミルの範囲を示すことが、タイプAのもっとも顕著な特徴である.ストロンチウムとナトリウムの含有量も高く、それぞれ最大値は602ppm,2390ppmである.炭酸カルシウム量は46.9〜55.2モル%、炭酸マグネシウム量は50.7〜42.3モル%.鉄とマンガンの合計は最大で6モル%に達する.

 タイプBドロマイトは4つの層準に出現、多くは孔隙を埋めたり生砕物を交代して産する.主にパックストンやワッケストン中に産するが、マッドストンや生粋物からなるグレインストーン中に出る事もある.ドロマイト結晶は多くは非自形ないし半自形であるが、セメント鉱物をして産するドロマイクロスパーのみ自形である.いずれも含有物をふくまない清澄な結晶であるが、結晶の大きさは最大50μのバイモーダルとなる.酸素同位体は負で、-0.37〜-5.34パーミル.炭酸カルシウム量は比較的多く50.8〜59.2モル%.マグネシウムは40.5〜48.0モル%.ストロンチウムとナトリウムはいずれもタイプAより少なく、それぞれ78ppm,1480ppmである.これらの証拠から、タイプBドロマイトは海水、淡水、高塩分水が混合した水から沈澱したと考えられる.混合率は岩相、陸と海の分布、地域的な気候が関係している.

 タイプCドロマイトは4つの層準の強くドロマイト化を受けた層準に出現する.もともとの岩相や組織は強いドロマイト化によって消されてしまっている.従って生砕物は認められないが、蒸発鉱物の溶けた孔はカルサイトが充填している.結晶は自形〜半自形、粒径は最大30μ、多くのものは15μ程度である.結晶の中央に孔の空いたホロードロマイトも稀ではない.酸素同位体値は-3.0〜+1.2パーミルでタイプA,Bに一部重なる範囲を示す.ストロンチウム、ナトリウムはそれぞれ108PPM、1299PPMと、いずれも少ない.一方、鉄をマンガンは顕著に多く、それぞれ24112PPM、52502PPMである.マグネシウムは狭い範囲に集中し、44.0〜55.0モル%、鉄とマンガンの合計量の最大値は約5.2モル%である.タイプCは直接石灰岩を交代したのではなく、タイプA、Bのドロマイト岩が再結晶した二次的なものである.

複合ドロマイト化作用:

 タイプA、BはつねにAが上位、Bが下位でカップリングして出現し、下位の酸素同位体組成がAからBへ向かって徐々に変わることから、サブカ型のタイプAと混合水型のタイプBが上下の関係でほぼ同時に生成したと考えられる。この事は、潮間帯〜超潮間帯の地表では蒸発により塩分濃度の高い水が発達し蒸発鉱物やドロマイトが沈澱していたが、堆積物中には陸水に由来する混合水帯が発達し、透水性の高いパックストーンやグレインストーン中に浸透、これらがドロマイト化作用を受けていたというモデルが想定される。

結論:

 石炭紀後期のアマゾン堆積盆では、35万年程度の周期の海水準変動に対応した堆積サイクルが認められた.サイクル最上部のサブカ環境において、表層(実際は水-堆積物のインターフェース)ではサブカ・ドロマイトが生成する.一方、サブカ環境直下には、高塩分水+淡水+海水の混合帯が発達する.混合水は、潮下帯で堆積した生砕物に富む堆積相を満たし、ドロマイト化を促進する.このように、異なる2つのタイプのドロマイト化作用が一回の海退に対応して起きた事を明らかにした.従来、サブカ型ドロマイトが生成する環境では深部まで高塩分水が侵入、一方、混合水帯が成立するような湿潤環境では海岸付近にサブカは成立しないと考えられていた。しかし、今回の研究により、

1、堆積盆の塩分濃度が全般的に高い事。

2、海水準の低下期のサブカ期においても蒸発作用は強くはない事。

3、堆積盆周辺が湿潤で天水の侵入移動により海岸付近には淡水レンズが発達する事。

 の、3つの条件がみたされれば、二つの異なるタイプのドロマイトが同時に生成する可能性があることが明らかとなった。このモデルは従来のドロマイト化モデルに革新をもたらすものである。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は堆積岩中のドロマイトの起源について論じたもので、3部10章からなる。本研究の目的は、堆積学と地球化学の手法によって、石炭系ドロマイトとドロマイト化作用のタイプを明らかにし、一回の海水準変動に対応して複数の異なるタイプのドロマイト化作用が進行するというドロマイト化の新しいモデルを提示することである.

 対象とした上部石炭系モロワン階(厚さ約67m)は炭酸塩岩一蒸発岩一砕屑岩から成る混合相セクションである。アマゾン流域の中部、アマゾン堆積盆の南縁に位置しすぐ南には先カンブリアの基盤が露出する。採取した多数の試料の観察と組成の分析から、17の炭酸塩微岩相、5つの砕屑岩相を認定した。石灰岩の多くは腕足類、ウニ、有孔虫、コケムシ、介形虫、巻貝、二枚貝、三葉虫などの生砕物、ペロイドやオオイドから成る。頁岩、生砕物マウンド、微生物葉理、サブカ型泥質ドロマイトの出現から、調査セクションが炭酸塩プラットフォームに堆積したものであることが分かる。環境が一義的に決められない堆積相については、これら特徴的な相との組み合わせによって、沖合い斜面環境か、マウンドとサブカの間の潟(ラグーン)か識別した。これらの考察に基づき、1、沖合い斜面、2、生物生産の活発な堆、3、外洋から閉ざされた潟、4、微生物葉理の発達する平坦部、5、炭酸塩サブカ、6、砕屑堆積物の卓越するサブカ、7、隆起した陸域の7つの堆積環境を認定した。

 認定した堆積相の重なり具合から二つのオーダーの周期性を見い出した。一つは上方へ向かって浅くなる約3mの周期(SCサイクル)もう一つは厚さ約7.5mでやはり上方浅海化の周期(LTサイクル)である。LTサイクルは複数のSCサイクルを含みながら全体として浅海化へ向かう。最上部に泥質ドロマイトが発達し露頭でも明瞭に認識できる。堆積物中には石膏や硬石膏が見られ、それらの出現頻度から堆積盆の塩分濃度の変動が復元できる。鹹度はかなり頻繁に変動するがSCサイクルやLTサイクルと同調しない。しかし非常に塩分濃度が高い硬石膏の密集層は泥質ドロマイトに限られ、LTサイクル最上部で塩分が著しく上がったことが示された。塩分濃度変動は基本的にはアマゾン堆積盆が外洋に対して開いていたか閉じていたかと言うテクトニクスに関係するが、海水準の低下と蒸発促進により極端に塩分が上がってサブカが成立したと説明される。

 岩石学的、鉱物学的、地球化学的データに基づき、タイプA,B,Cの3タイプのドロマイトを区別した.自形で細粒のタイプAドロマイトは、酸素同位体組成が+0.55〜+5.56パーミルの範囲を示し、ストロンチウムとナトリウムの含有量も高く、サブカと呼ばれている塩分濃度の高い潮間帯〜潮下帯のドロマイトの特徴を良く示す。細粒〜中粒のタイプBドロマイトは孔隙を埋めたり生砕物を交代して産する.酸素同位体組成は-0.37〜-5.34パーミル.これらの証拠から、海水、淡水、高塩分水が混合した水から沈澱したと考えられる.中粒のタイプCドロマイトは強いドロマイト化によってもとの組織が消されてしまった岩相中に出現する。結晶の中央に孔の空いたホロードロマイトも稀ではない.酸素同位体組成は-3.0〜+1.2パーミルでタイプA,Bに一部重なる範囲を示す.鉄とマンガンの含有量は顕著に高い。続成過程で生成した二次的なものと考えられる。

 タイプA、BはつねにAが上位、Bが下位でカップリングして出現し、下位の酸素同位体組成がAからBへ向かって徐々に変わることから、サブカ型のタイプAと混合水型のタイプBが上下の関係でほぼ同時に生成したと考えられる。この事は、潮間帯〜超潮間帯の地表では蒸発により塩分濃度の高い水が発達し蒸発鉱物やドロマイトが沈澱していたが、堆積物中には陸水に由来する混合水帯が発達し、透水性の高いバックストーンやグレインストーン中に浸透、これらがドロマイト化作用を受けていたというモデルが想定される。

 このような複合的ドロマイト化作用が進行したのは、つぎの理由による。

1、堆積盆の塩分濃度が全般的に高かったため、中緯度のアマゾン堆積盆縁辺部でもサブカが発達した。塩分変動はアマゾン堆積盆の東西に発達するアーチの消長と関係する可能性が高い。

2、海水準の低下期のサブカ期においても蒸発作用は強くはなく、超高塩分水の影響は地表から数10cm程度に限られた。一方、堆積盆周辺は湿潤で天水の侵入移動により海岸付近には淡水レンズが発達、この淡水がサブカから流下浸透してくる塩水と混合したため、ドロマイト化作用が促進された。

 従来、サブカ型ドロマイトが生成する環境では深部まで高塩分水が侵入、一方、混合水帯が成立するような湿潤環境では海岸付近にサブカは成立しないと考えられていた。しかし、今回の研究により、上記1、2のような条件が揃えば、二つの異なるタイプのドロマイトが同時に生成する可能性があることが明らかとなった。このモデルは従来のドロマイト化モデルに革新をもたらすもので、炭酸塩堆積学の発展への寄与は顕著である。従って、審査委員会としては、ニーロ・茂彦・松田氏に博士(理学)の学位を授与できると認める。

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