学位論文要旨



No 117926
著者(漢字) 呉,博凱
著者(英字)
著者(カナ) ゴ,ハクガイ
標題(和) 一面せん断試験における土と補強材の相互作用に及ぼす粒径の影響
標題(洋) Particle Size Effects oh Soil-Reinforcement Interaction in Direct Shear Tests
報告番号 117926
報告番号 甲17926
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5384号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 助教授 古関,潤一
 東京大学 助教授 ロランド,P・オレンセ
 東京大学 助教授 岸,利治
内容要旨 要旨を表示する

 補強土の強度変形特性を解明することは、補強土構造物の設計の基礎となる。そのためには補強材と土の相互作用による補強メカニズムを十分把握する必要がある。一般に、粒状地盤材料(締固めた砂礫)は、粒子径が大きいほど、ピークから残留へ強度が低下するまでに必要なすべり層のせん断変位量が大きくなり土構造物の安定性が高くなる。これは粒子径が大きいほど一般に土構造物は安定性が高いという経験則に合致する。補強土の強度変形特性についても、盛土材の粒子径の効果が現れるはずである。しかし、現行の補強土構造物設計法では、この効果は基本的に反映されていない。また、粒子径の関数としての補強土構造物のすべり層変形特性と土と補強材の相互作用についての知見も十分ではない。そのため、本研究では粒径の違いに着目し平均粒径が異なる豊浦標準砂(平均粒径D50=0.2mm)と礫質土(平均粒径D50=1.92mm)を用いて一面せん断を行い、土と補強材の相互作用に及ぼす粒径の影響を調べた。

 一面せん断試験における供試体の理想的な変形モードは単純せん断変形である。その単純せん断変形モードを供試体に実現させるための試験装置に要求される条件は以下であろう。(1)鉛直力を作用させる載荷板がせん断中に回転しないこと。(2)せん断面に作用する鉛直応力を精度良く測定・制御できること。(3)上下せん断箱の間隔を制御できること。上記の条件(2)を満足させるために、従来の小型一面せん断試験を改良し、せん断面に作用する全ての鉛直荷重を測定できる外部ロードセルを装備した。また、中型一面せん断試験機にも等体積試験時に高い応力レベルが載荷できるように改良した。小型の供試体の寸法は長さ40mm、幅40mm、深さ20mmであり、中型は長さ300mm、幅300mm、探さ300mmである。

 まず、土と補強材との摩擦特性を解明するために、礫質土の場合では、上記の中型一面せん断の下箱を補強材を添付した鉄板に替えて直接せん断試験を行った。また、豊浦砂では、小型一面せん断機を用いた。試験に用いた補強材はリン青銅板で、表面は無処理で滑らかなものとSLB砂を接着して粗面にしたものの二種類である。滑らかな補強材と粗い補強材の正規化表面粗さは、礫質土に対して、2.6*10-3と352*10-3であり、豊浦砂に対しては、25*10-3と3400*10-3である。ほとんどすべての試験は、鉛直圧力を50kPaと一定のせん断速度で行われた。それらの結果、豊浦砂と滑らかな補強材の間の摩擦係数が0.4-0.5となり、せん断中にダイレタンシー挙動は観測されなかった。また豊浦砂と粗面の補強材の実験結果では、ピーク摩擦係数は豊浦砂のピーク摩擦係数よりわずかに小さくなった。礫質土と粗面の補強材の実験結果から、ピーク強度及び明確な応力と変位特性の関係は結論づけられないが、すべての実験結果の残留摩擦係数は0.7に等しくなった。この摩擦係数は礫質土のものよりわずかに小さい。また、滑らかな面の補強材の場合では、せん断中の摩擦係数は一定の0.4となってダイレタンシー挙動は見られなかった。

 補強材と粒状地盤材料との相互作用における粒子径効果を検討するため、上載荷重を50kPaと一定にした小型および中型一面せん断試験を実施した。粒状体は礫質土および豊浦砂であり、補強材はリン青銅製のものとジオグリットを用いた。さらに、青銅製の補強材表面の摩擦性と表面積を変化させ、さらにリブの有効性についても中型一面せん断試験により検討した。

 まず、補強土の変形強度特性における粒子径効果と寸法効果について、得られた知見を以下に列挙する。(1)無補強の豊浦砂で実施した小型および中型一面せん断試験結果から、ピーク強度と体積ひずみは寸法効果の影響を強く受けることが示された。供試体寸法が大きくなるほど、せん断領域で局所的な破壊が生じるため、ピーク強度と体積ひずみが小さくなる。(2)補強土構造物の粒子径効果は強いダイレタンシー効果で、ピーク状態が持続ける礫質土の方が砂質土の方より強い。

 また、補強土の変形強度特性に与える補強材形状・表面摩擦性の変化の影響について以下の知見を得た。(1)補強材表面の摩擦性は、補強土構造物の強度特性において極めて重要な要因となる。補強材表面の摩擦性が小さい場合、せん断応力-ダイレタンシー関係の傾きは無補強土の傾きにほぼ等しい。一方、補強材表面の摩擦性が期待できる場合では、せん断応力-ダイレタンシー関係の傾きと異なる。これは補強材表面の摩擦性が大きくなると、より強いダイレタンシー特性が発揮されること、補強材表面のせん断領域が増加されることによる。(2)せん断変位が大きくなると、リブによるロッキング効果が発揮される。即ち、現行設計概念ではリブのロッキング効果は考慮されていないものの、せん断変形の増加に従ってリブと粒状体とのロッキング効果が期待できることになる。(3)局所的な補強材張力を計測した結果、最大補強材張力は補強材中心部あるいは、せん断領域で発揮される。この傾向はリブが存在している方が強い。

 写真による画像解析法により、せん断領域の形状を供試体内に設置した半田又は角砂層での変形から判断した。全ての写真は無補強土で残留状態に達したせん断変形45mmで行った。以下にその特徴を示す。(1)無補強豊浦砂の中型一面せん断試験では、複数のすべり面を含んだせん断領域が供試体の中央部に観察された。これに対し、小型の一面せん断試験では単一のせん断層が生じた。これらの結果により、無補強の豊浦砂のせん断変形は供試体の大きさによっても影響されることが分かった。また、無補強礫の中型一面せん断試験では、せん断領域の境界ははっきり確認でき、その内部ではほぼ一様なせん断変形を生じていた。(2)ジオグリッドや粗なリン青銅補強材で補強された土では、無補強の場合よりさらに大きなせん断領域が観察された。写真の画像解析から得られたせん断領域の形とひずみ分布からは、補強材が周囲のプリズム上の領域に対して影響を及ぼしていることが分かった。この領域の外側は、無補強の場合と同じ変形をしていた。

 初期応力状態20または50kPaの定体積一面せん断試験を実施し、補強土供試体のダイレタンシーによる拘束効果について検討した。以下に得られた知見を列挙する。(1)補強土供試体の鉛直応力とせん断応力の比は、無補強土の定体積一面せん断試験の場合と比べて、それほど大きくはなかった。これは、体積膨張が拘束されていることにより、補強材の引張りひずみがあまり大きくなれないためだろう。(2)完全な定体積条件でなく、いくらかのダイレタンシー膨張を許す試験を行うと、せん断強度は定体積試験より小さくなるが、応力比は定体積試験より大きくなった。

 定圧一面せん断試験の結果を説明する数値解析モデルを提案した。このモデルでは、供試体内に1個のひずみ領域が生じ、その内部ではひずみは一様であると仮定した。また、土は弾塑性を示し、非完全流れ則によるひずみ軟化、ひずみ硬化を示すと仮定した。豊浦砂の供試体での解析では、補強材張力として試験で実測された値が与えられれば、十分な精度が得られた。一方、レキの供試体の試験では、実際の強度より低い結果が得られた。

審査要旨 要旨を表示する

 近年、擁壁や橋台等の盛土を支える抗土圧構造物として、ジオテキスタイル等の引張り材で補強した盛土を鉛直に近い面を持ち背面では補強材と結合されている鉄筋コンクリート構造物の壁面工で支持する補強土擁壁が広く建設されるようになってきた。また、盛土を安定化した上で法面を急勾配化する工法の施工例も多くなってきた。補強土構造物の設計では、想定荷重による破壊に対して極限安定釣り合い法によって求めた安全率が所定の値以上にあり、常時における使用機能を満足させる変形性能があることを確認する。この際必要な情報として最も不明なのが、盛土材の変形強度特性と盛土材と補強材の相互作用の影響である。現在、盛土材としては細砂から礫質土まで非常に広範囲な粒径を持つ土質材料が用いられているが、室内のせん断試験の結果によると、粒径が大きくなっても均等係数が大きくならない限りせん断強度は増大しない。その一方で、実大補強土構造物の挙動と模型実験による経験では、盛土材の粒径が大きいほど補強土構造物はより安定する傾向にある。しかし、現在の補強土構造物の設計においては、構造物の安定性に対する盛土材の粒径の影響は全く考慮されていない。本研究はこのような背景で行われたものであり、盛土材の材料としてのせん断強度が仮に同一でも、補強土構造物の安定性が補強材との相互作用を通じて盛土の粒径の影響を受けるかどうかについて、補強メカニズムの基本に立ち返って研究したものである。

 第1章では、上記の盛土材の粒径が補強土構造物の安定性に及ぼす影響を定量的に研究する工学的必要性をまず説明している。また、盛土材のせん断破壊現象に対する粒径の影響に関する従来の研究の結果をまとめて、盛土材がせん断破壊する際に生じるせん断層の厚さは粒径にほぼ比例することから、補強された盛土内に生じるせん断層と補強材の間の力学的・幾何学的相互作用は粒径の影響を受ける可能性があることを述べている。

 第2章では,本研究で用いた小型一面せん断装置(供試体高さ2cm,断面直径6cm)及び中型一面せん断装置(供試体寸法は高さ30cm,断面30cmx30cm)の説明をしている。中型一面せん断装置では水平せん断荷重の載荷点をせん断面近くに移動させ鉛直荷重容量を増加させたこと、小型一面せん断装置ではせん断面に作用する鉛直荷重を正確に測定できるように改善したことを報告している。その結果、豊浦砂のような細砂のせん断層の純粋な変形強度特性は、角形の供試体を用いた小型一面せん断試験によって正確に測定できるが、小型であっても円形の供試体では供試体内に破壊が進行的に生じて上記の測定は出来ないこと、中型一面せん断装置でも供試体内にせん断層が複数発生して厚いせん断域が形成されまた破壊が進行的になるために上記の測定ができないことを明らかにしている。更に、各種の形状と材質を持つ補強材と盛土材の間の境界面におけるせん断特性を求めるために行った一面せん断試験装置の改良を説明している。

 第3章では、第2章で説明した一面せん断装置を用いて行った実験の方法を説明している。盛土材としては、平均粒径が0.2mmの豊浦砂と平均粒径が1.93mmである礫を用いたこと、補強材としては燐青銅の帯状の補強材、それを格子状に組み合わせた補強材、高分子ジオテキスタイルのグリッド状補強材を用いたこと、一層の補強材をせん断面に鉛直に配置したこと等を説明している。更に、試験後供試体を解体する時に供試体の変形状態を正確に観察するための新しい工夫として、供試体内に細い棒状の彩色した砂と非常に軟質な金属の細い棒をグリースを介してメンブレンで包むことにより補強効果を無くしたものを多数鉛直に配置したことを説明している。

 第4章では、根幹の補強メカニズムの一つである補強材層・盛土材間の境界面におけるせん断特性を測定した結果を説明している。境界面の粗さが盛土材の粒径より大きい場合は、境界面に沿って盛土材内部にせん断層が形成され、その厚さは盛土材内部で自由に形成されるせん断層の厚さの約1/2であること、表面粗さが盛土材料の粒径よりも小さい場合は不完全なせん断層が形成されて不規則なせん断特性が発揮されるか全くせん断層が形成されず境界面に沿って滑動が生じることを明らかにしている。

 第5章では、無補強の供試体と補強供試体の一連の実験から得られたせん断応力・体積膨張〜せん断変位関係と動員された内部摩擦係数〜ダイレイタンシー係数関係等を纏めている。補強材の表面が粗いほど、補強材の剛性が高いほどピーク強度に対する補強効果が大きいことを示している。しかし、ピーク以降の残留状態での強度は、補強材の剛性よりも盛土材と補強材層の間の噛み合わせ効果の方が重要であり、剛性が比較的低い高分子ジオテキスタイルのグリッド補強材が優れた補強効果を発揮することを明らかにしている。更に、同一の補強材でも盛土材の粒径が大きい方が補強によるせん断強度の増加量だけでなく増加率も大きく、粒径効果が見られることを明らかにしている。また、燐青銅製の補強材にストレインゲイジを張り付けて測定した補強材の引張り力はせん断域で最も大きく、この測定結果は上記の補強効果を裏付けていることを示している。また、盛土材自身の動員された摩擦角を測定されたダイレイタンシー角から推定する方法を提案している。

 第6章は、無補強供試体と補強供試体の内部に発生するせん断層とせん断域を観察・測定した結果を纏めている。せん断域の厚さは、試験後に供試体を解体して直接測定した他、ピーク以降の供試体平均せん断応力〜せん断変位関係の勾配と残留状態での究極的なダイレイタンシー量から推定している。その結果、一つの純粋なせん断層の厚さは一面せん断装置の大きさ等の境界条件と補強の有無に依存しないで粒径等の粒子特性によって決まることを明らかにしている。また、中型一面せん断試験では細砂である豊浦砂の無補強供試体の内部には三つのせん断層を含む厚いせん断層が現われるが、礫の無補強供試体の場合はせん断領域は一つの純粋なせん断層そのものであることを示している。更に、補強効果が発揮されるほどせん断域の平均厚さが増加するが、その増加量は盛土材の粒径が大きなほど大きいことを実証している。

 第7章は、補強盛土材の体積膨張特性は無補強の場合よりも著しく大きくなることから、体積膨張が拘束された状況では拘束圧が増大してより補強効果が大きくなることを示している。上記の効果は、せん断変位量が大きくなるほど著しくなり、有効に補強された盛土材の残留強度は著しく大きくなること、その一方でピーク強度の増加率はあまり大きくないことを示している。

 第8章では、以上示した実験結果を力学的に説明するために開発した数学モデルを説明している。まず、盛土材のせん断層のせん断応力〜せん断変形〜体積変化特性は境界条件と補強の有無に作用されないが、境界条件と補強効果の大小によりせん断域の厚さが大きくなることが基本であり、測定された供試体のせん断変位量と体積変化量はせん断域の厚さで除して正規化すれば境界条件と補強効果に大小に依存しなくなることを明らかにしている。更に、せん断域の中央高さにおける盛土材に作用する直応力とせん断応力とせん断により傾斜した補強材に作用する引張り力の釣合を測定された補強材引張り力を用いて検討した所、この方法では補強された供試体の平均せん断応力とせん断強度を過大評価することを明らかにした。即ち、本方法は多くの研究者によって提案されているが正しくないことを実証している。一方、せん断域の境界面における盛土材に作用する応力と傾斜していない補強材に作用する引張り力の釣合を測定された補強材引張り力を用いて検討した結果、この方法は補強供試体の平均せん断応力〜せん断変位関係とせん断強度を正しく予測できることを示している。さらに、このように検討された数学モデルにより、盛土材の粒径が補強効果に与える影響を定量的に示せることを示している。

 第9章では,以上の成果を要約するとともに,補強材引張り力の推定法等今後の課題について述べている。

 以上要するに,本研究は盛土材の粒径の大きさにより補強メカニズムと補強効果が変化することとその原因はせん断域の厚さが盛土材の粒径の大きさにより変化するためであることを小型及び中型一面せん断試験を用いた一連の室内実験と理論的考察によって原理的に解明したものである。本研究によって、補強土構造物の設計法が合理化できることが示され、地盤工学の今後の発展に貢献している。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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