学位論文要旨



No 117933
著者(漢字) 野村,謙二
著者(英字)
著者(カナ) ノムラ,ケンジ
標題(和) 道路橋のコンクリート床版防水工法に関する研究
標題(洋) Study on Water-proofing Method for Concrete Slabs in Road Bridges
報告番号 117933
報告番号 甲17933
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5391号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 魚本,健人
 東京大学 教授 小長井,一男
 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 助教授 古関,潤一
 東京大学 助教授 岸,利治
 北海道大学 教授 森吉,昭博
内容要旨 要旨を表示する

1.背 景

 コスト縮減策の一つとしてのひびわれを許容するPRC構造の合成桁の採用,コンクリート床版への凍結防止剤の散布頻度の増加など,道路橋コンクリート床版は厳しい負荷環境に置かれている。また,雨天時の走行環境を改善する目的で排水性舗装が多く採用されるようになった。これにより,コンクリート床版への水の供給が容易になることが想定され,コンクリート床版への劣化因子の進入が懸念される。これらの対策として床版防水層の敷設があるが,その問題点に関する研究が非常に少ない。そこで,本研究では床版防水層を敷設した場合の問題点を明らかにし,その対策方法および検証方法について検討した。

2.床版防水層の問題点

 本研究の結果,明らかになった事項はアスファルト舗装に対して次のような問題点が生じる可能性が高いことである。

 (1)供用時に生じる問題点

 (1)床版防水層上に舗設されるアスファルト舗装の流動性を増し,わだち掘れ限界25mmに早く達しやすくなるため耐久性が低下する。

 (2)アスファルト混合物の転圧回数は土工部で決定されたものであり,床版防水層を敷設した場合,同一転圧回数とするとアスファルト混合物の密度が不足する傾向にある。また,転圧回数を増すとアスファルト分がアスファルト混合物の表面に浮き出てくる傾向があり,アスファルト混合物の流動性が増加する。

 (3)凍結融解作用下では,床版防水層を敷設するとアスファルト混合物の表面にひびわれが生じ易くなる。また,シート系防水層は防水層とコンクリート版との界面,吹付けポリウレタン塗膜系防水層は防水層とアスファルト混合物との界面に付着切れを生じ易くなる。

 (4)床版防水層を敷設するとアスファルト混合物の吸水性が増加し,アスファルト混合物が水を含むことによるバインダの剥離が生じ易くなることが懸念され,耐久性低下の可能性がある。

 (5)床版防水層を施しても完全に遮水することは困難である。床版防水層の端部処理についても更に検討する必要がある。

 (6)シート系防水層を敷設した場合,舗装まで持ち上げるブリスタリングが発生する可能性がある。

 (2)施工時に生じる問題点

 (1)シート系防水層はブリスタリングが発生する可能性が高い。

 (2)吹付け塗膜系防水層はピンホールやふくれを生じる可能性がある。

 (3)床版防水層材料の室内試験の問題点

 (1)室内で作製した供試体と現場からコア採取してきたサンプルとでは引張接着強度およびせん断強度が異なり,現場からのサンプルの方がバラツキが大きくなる。このことから,引張接着強度およびせん断強度は環境条件に大きく依存すると言える。

 (2)シート系防水層および吹付けポリウレタン塗膜系防水層を敷設した場合,アスファルト混合物,床版防水層,コンクリート版のいずれかの境界面における付着の凍結融解抵抗性が低下することから,この項目についても試験を実施して確認する必要がある。

3.現行の橋面排水の問題点

 本研究の結果,橋面排水の問題点として明らかになった事項は次のとおりである。

 (1)コンクリート縁石とアスファルト混合物の境界面は完全に防水することは困難である。このため,路面水はこの境界面に進入し排水され難くなることが懸念される。

 (2)アスファルト混合物舗設後,ある程度の時間経過後の隣接するアスファルト混合物舗設による施工ジョイント部分は,一般部より透水しやすい。このため,アスファルト混合物中への水の進入が容易となり,進入した水は排水され難くなることが懸念される。

 (3)床版防水層を敷設した場合,アスファルト混合物の吸水率が高くなるため,供給された水は排水され難くなる。

 (4)空港において,地面からの水分の蒸発によりアスファルト舗装のブリスタリングが顕在化している。アスファルト舗装を持ち上げるブリスタリングを生じる限界の透水係数が存在することが想定された。道路橋においてもコンクリート床版からの水分の蒸発があり,また,橋面上のアスファルト舗装体に進入した水を排水するためにもアスファルト混合物の通気性が求められるものと思われる。

4.床版防水層を敷設した場合の問題点の重要度

 道路橋上部工は,桁,コンクリート床版,アスファルト舗装から構成される。輪荷重が直接載荷される部材ということからコンクリート床版とアスファルト舗装を考えることとした。現行の道路橋示方書で設計されるコンクリート床版厚さでは、現行の荷重が増加しないと仮定して鉄筋コンクリート床版疲労予測式により計算すると,コンクリート床版表面が湿潤・乾燥状態にかかわらず,天文学的な疲労寿命となる。道路橋のライフサイクルスパンを100年とすることは,置かれた環境条件も関係してくると思われるが,コンクリート床版を補修をしながら維持管理することが十分可能と考えられる。一方,アスファルト舗装では,全面打換えや車線規制による部分補修の回数がコンクリー卜床版に比べて多くなることから,アスファルト舗装の耐久性がライフサイクルコストに大きく影響することになる。床版防水層を敷設するとアスファルト舗装に悪影響を及ぼすこと,コンクリート床版を有する道路橋全体で見たアスファルト混合物の耐久性のライフサイクルコストに及ぼす影響が大きいことなどから,床版防水層の敷設を極力抑える必要があると考えられる。

5.問題点の克服策

 橋面排水の円滑化に着目した導水帯を有する橋面排水構造を提案し,コンクリート床版とアスファルト舗装の両者の耐久性確保を図る。その特徴は次のとおりである。

 (1)橋面舗装に悪影響を及ぼす床版防水層は,輪荷重載荷位置には設置しない

 (2)基層と縁石は直接接触させず,導水帯を設置する

 (3)導水帯にのみ床版防水層を敷設し,導水パイプを設置する

 (4)排水性舗装により輪荷重接地圧の減少が期待できる

 (5)通気性の観点から基層に密粒度アスファルト混合物を適用する

 (6)基層厚さを6cmとすることにより,基層のひびわれ抵抗性を確保する

 (7)塩化物の進入を防ぐためにコンクリート床版上にコンパウンド材を適量塗布する

6.克服策の効果の検証

 提案する橋面排水構造について,その排水状況の有効性を確認するために橋面の赤外線撮影を行った。その結果,提案する橋面排水構造では比較的水の動きが早いことが観察され,その有効性を検証した。また,赤外線撮影による橋面排水の動きを追跡できる可能性が示された。

7.結論

 床版防水層の敷設が近年叫ばれるようになったが,床版防水層を敷設すると,道路橋全体のライフサイクルコストに直結するアスファルト舗装の寿命に悪影響を及ぼすことから,床版防水層の使用を極力抑え,橋面排水に着目した橋面舗装構造を提案した。また,排水状況の確認手法として赤外線法を用いて橋面の撮影を行い,その有効性を示した。

 これからの社会資本整備は,維持管理を含むライフサイクルを考慮する必要があり,建設段階の初期特性値を抑えておくことが重要な意味を持つと考えられる。コンクリート床版の耐久性と橋面排水状況は密接な関係があることは今までの経験から明らかであり,排水能力を排水率(=排水管から収集した水量/供給された水量)のように数値化して残しておくことが排水機能の低下具合を把握するのに有効である。道路橋のコンクリート床版(アスファルト舗装を含む)の耐久性を確保するためには,床版防水層材料に過度に期待するのではなく,コンクリート床版上から早急に水を抜くことが一番効果的と考えられるため,橋面排水について一層の研究を進めていく必要がある。

審査要旨 要旨を表示する

 わが国では昭和45年頃より道路橋のRC床版の劣化・損傷が道路管理上の問題となってきている。この原因として車両の大型化も挙げられるが,橋面排水処理が不十分なことによる床版内への水の進入が大きな原因であることが明らかとなってきた。近年では,排水性舗装の増加,凍結防止剤の使用量が増加傾向にあること,コスト縮減のためのひびわれを許容するPC構造(PRC構造)の採用などから,道路橋コンクリート床版の耐久性確保のための対処方策が必要不可欠となっている。わが国においては,先進欧米諸国の対策を参考にして床版防水層の敷設で対応している。しかし,現行の床版防水層が本当に機能を満足しているのか,床版防水層を敷設することで問題は生じないのかについては,排水性舗装やPRC構造などの採用前に確認しておかなくてはならない事項であるが,十分な確認ができていないのが実状である。そこで,本論文では現行の床版防水層の問題点を把握するとともに,問題点を克服する対策を提案している。

 第1章序論においては,道路橋におけるRC床版の劣化・損傷の顕在化,排水性舗装の採用,凍結防止剤として塩化ナトリウムの使用の増加,コスト縮減という施策によるひびわれを許容するPRC構造の採用など,床版防水工法が注目されるようになった背景と本研究の目的について概説し,本論文の構成について述べている。

 第2章既往の研究においては,既往の研究をRC床版の劣化・損傷に関する研究,RC床版の耐久性向上に関する研究,RC床版上のアスファルト舗装に関する研究の3つに分け取りまとめている。

 第3章現行の床版防水工法においては,現行の床版防水層材料について,瀝青シート系防水層,塗膜系防水層,舗装系防水層に大別して紹介している。また,橋面排水処理の現状および問題点,さらに床版防水層を施した場合の不具合が生じた事例を紹介している。

 第4章床版防水層材料を使用した場合の問題点において,床版防水層材料を使用した時の問題点として,アスファルト混合物の締固め時の問題点,供用時を想定した輪荷重載荷時の問題点,凍結融解による環境条件が変化した場合の問題点を把握するために実験的検討を行っている。これらの実験結果より,床版防水層を敷設すると,その上に舗設されるアスファルト混合物の密度が小さくなること,わだち掘れ量が大きくなること,凍結融解抵抗性が低下することを明らかにしている。

 第5章大型擬似RC床版を用いた床版防水層の実験においては,高速道路建設現場に鉄筋コンクリート製の擬似床版を作製し,この上に土運搬車両を1年間通行させ,コンクリート中に埋めこんだ水分計等により水分の進入の有無等を計測し,各種床版防水層を敷設した場合の効果を観察している。また,擬似床版を現場撤去時に切り出して供試体を作製し,移動輪荷重走行実験を行い,擬似床版のたわみ,鉄筋のひずみ,擬似床版中への水の進入状況等を観察している。これらの実験結果より,床版防水層を敷設すると,床版のたわみおよび床版の鉄筋ひずみの増加速度が小さくなり,床版保護に有効であることを明らかにしている。しかし,床版防水層を敷設しても漏水が観察され,滞水履歴の長い擬似RC床版では接着強度が極端に低下を確認したことから,橋面排水が重要であることを述べている。

 第6章橋面排水に関するアスファルト舗装の問題点において,コンクリートとアスファルト舗装の界面,アスファルト舗装の施工ジョイントなどの橋面排水上問題となりそうな箇所を取り上げ,その性状を把握するために実験的検討を行っている。

 第7章コンクリート床版上での橋面排水構造の提案において,第4章〜第6章までで明らかにした問題点を克服するコンクリート床版上の橋面排水構造を提案している。

 第8章橋面排水構造の性能照査手法の検討では,第7章で提案した橋面排水構造を実橋梁で施工し,散水車で水を撒き,赤外線法による橋面の撮影および排水管端末で排水量の実測を行い,従来の舗装構造と比較している。これらの結果から,提案する橋面排水構造が従来の舗装構造に比較して良好な排水性状を示すことを確認している。

 第9章結論においては,本論文の成果を取りまとめている。

 以上を要約すると,現行の床版防水層を敷設した場合のコンクリート床版とアスファルト舗装の両材料にまたがる問題点を明確にするとともに,その問題点を克服する橋面排水構造を提案し,その妥当性を実橋梁において検証したものであり,コンクリート工学および道路工学の発展に寄与するところが大である。よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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