学位論文要旨



No 117946
著者(漢字) 高須,直子
著者(英字)
著者(カナ) タカス,ナオコ
標題(和) 住宅における湯使用に関する研究 : 生活行為と湯使用の分析を中心として
標題(洋)
報告番号 117946
報告番号 甲17946
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5404号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 鎌田,元康
 東京大学 教授 坂本,雄三
 東京大学 教授 加藤,信介
 東京大学 助教授 平手,小太郎
 東京大学 助教授 佐久間,哲哉
内容要旨 要旨を表示する

 1960年、住宅の浴室の普及率は人口集中地域で4割以下であった。そして、33年後の1993年には約95%となり、自分の家で入浴ができることは当たり前のことになった。浴室のみならず、セントラル給湯設備の普及に伴い、私たちは、お湯を使いたい時にふんだんに使うことができる生活を過ごせるようになった。

 急速な給湯設備の普及に伴い、給湯機、配管、混合栓も急速に改善され、給湯設備の進化は、さらにその周辺の浴室設備などの進化を促している。また、給湯設備を検討する上では、空気調和・衛生工学会「HASS206給排水設備基準・同解説」の中に、住宅用給水算法は掲載されているが、給湯用の負荷算法の資料は未だ十分とはいえない。

 住宅内における給湯水利用は、台所、洗面所、浴室、トイレ、洗濯機置き場の主に5箇所において行われる。この中で、トイレに関して給湯はほとんどない状態である。住宅内における給湯使用割合は、最近の調査事例によると、台所23%、洗面5%、洗濯9%、浴室62%となっている。これらの各場所における使用量というものは、実際の住宅の実測調査で明らかにされる部分が多く、近年実測調査研究は継続して行われてきている。

 一方、住宅内で居住する居住者の生活は、日々便利なものに囲まれて便利な生活が営めるようになるとと共に、居住者自身による意識や生活スタイルによって湯の使用方法が異なっているのが現状である。それらの使用者意識や生活スタイルを実測調査だけで把握するのは難しく、かつ実測は調査自身に費用がかかり多数の把握を行うことは難しいことも現状である。

 そこで、本研究では、居住者の生活行為や住宅内における湯使用について把握し、給湯負荷算法、給湯用熱源効率試験用の負荷モードを作成する上での基礎的データの構築を目的としている。

 以下に、本論文における各章について、概要を述べる。

第1章序論

 本章では、研究の背景を述べるとともに、既往研究の整理を行い、本研究の位置付けを述べている。

第2章現在の住宅内給湯設備の現状

 急速な給湯設備の普及に伴い、「使いたい時にお湯を使える」生活が当たり前になっている。現代社会において、ライフスタイルは多様化しており、また少子高齢化社会の到来による家族構成の変化など著しく変貌している。また、高齢世帯の増加に伴い、10年ほど前からシニア住宅が登場し、さらに注目されてきている。

 このような社会的背景より、湯の使用方法や設備機器の使い方については、これまで様々に調査されてきたが、給湯設備の発展と家族構成の変化が著しいため、日々使用方法が異なってきており、今後も変化していくと予想される。

 また、既往研究における湯使用に関する調査では、高齢世帯のものは極めて少ないというのが現状である。高齢世帯では、一般世帯と比較して、世帯構成人数はもとより、生活時間、湯使用状況が大きく異なると予想され、高齢世帯での湯使用状況のデータの整備も急がれている。

 本章では、東京、大阪、名古屋の3大都市圏において実施した一般住宅居住者への湯使用状況に関するアンケート調査結果とシニア(専用)住宅の居住者へのアンケート調査結果を述べている。

 一般住宅において、外気温が下がる冬期では湯使用が増えるなど、季節による差は見られるが、給湯機器の貯湯の有無による湯使用の差はほとんど見られない。また、台所、浴室、洗面所においては、給湯できる住戸が多いが、洗濯機置き場については未だ2割程度しか給湯されておらず、今後の普及により給湯使用量はさらに増えると予想される。

 シニア住宅において、大浴場や食堂が付設されている建物の居住者は、食事や入浴行為を自宅(自室)ではほとんど行っておらず、自宅での給湯使用量はほとんど無いと考えてよい。また、大浴場がなく、自宅で入浴行為を行う場合においては、中間期、冬期ではほぼ毎日浴槽につかる入浴を行うものの、浴槽への湯の入れ替えは2日に1回程度となっており、浴室での湯使用量は少ないと予想される。

第3章入浴における湯使用実験

 住宅内での給湯使用箇所は、台所、洗面所、浴室、トイレ、洗濯機置き場(そのうち、トイレは現時点では、ほとんどない)となっているが、使用量割合で見ると、浴室が全体の62%と大半を占めている。

 台所や洗面などの湯使用は、1回あたりの使用量や、1人あたりの使用量が少ないので、1日の使用湯量に影響を与えることはそう多くはない。しかしながら、浴室における湯使用量は、1人あたりの使用量が大きい上に、どのような行為をどのように行うかによって、1日の湯使用量全体に影響を与える部分が大きく、また入浴したい時に湯が出ないと最も困る場所でもある。

 このように生活スタイルの多様化と同様、入浴行為そのものの多様化も見られている。しかし、これまでは入浴に関しては、実験室実験において適温や適流量を求めたり、実測調査において浴室内で水栓から使用された量を求めたりされており、入浴行為として入浴パターンによる使用量の比較などは行われていない。また、実験を行う上で、水栓から使用する水・湯の量は配管内に流量計を取り付けておけば計測は簡単であるが、入浴時に浴槽に予めためてある湯から、湯を使用する場合の「浴槽からの汲み上げ使用量」というものは測定されできていない。

 本章では、1人が入浴するのに必要な使用量を把握することを目的とした実験について述べた。なお、浴槽内にためる湯量は、浴槽の大きさによって決まるので、今回は浴槽へためた湯量は除いて検討を行った。

 使用量は、男性より女性が多く、年代は上がるほど少なくなる傾向があり、シャワーのみの入浴方法が浴槽につかる入浴よりも多いことを明らかにした。また、使用量は、水湯使用方法によって大きく異なり、水栓の開閉頻度が高いほど、総使用量は減少することが明らかとなった。冬期は、夏期よりも浴槽入浴者が増えたことにより、平均使用量が夏期よりも少ない結果となっていたが、各入浴方法別で見ると季節による差は見られなかった。

第4章給湯使用を含む生活パターン分析

 給水や給湯の負荷算定モデルとして、人数の時間的・空間的変動特性や器具を使用する人の到着率の分布と平均値、または器具の使用頻度、器具使用時間の分布と平均値、水の使用時間の分布と平均値、器具の吐水特性、配管系の圧力および流量の変動特性などの項目によって考えられている。

 しかし、既往研究では、秒、分、時間、日など、それぞれの時間基準における変動状況や平均値、ピーク率、継続時間などの把握をメインにしてきており、1日24時間における給水・給湯使用の時間変化は明らかにされていない。また、家族構成の変化も著しく、今後はますます核家族化に伴い家族人数が変動していくと予想されるため、様々な家族形態での湯使用の時間変化の把握は必要である。

 本章では、住宅内での給湯使用を含む生活行為を、アンケート調査において把握し、住宅内における生活パターンについて述べた。

 行為別では、食器洗いは1日3回の毎食後の使用が多く、特にファミリー世帯やシニア住宅の世帯が多くなっていること、湯張り時間帯は一般世帯では、子供が小さいファミリー世帯が夕方の湯張りを行っており、子供が大きいファミリー世帯や大人だけの世帯では湯張り時間帯も若干遅いこと、また、全体としては夜の20〜22時頃の入浴が多いが、子供の小さいファミリー世帯では、「子供が早めの時間帯に入浴し、夜遅く帰宅した親が遅めの時間帯に入浴する」というような分散型の割合が高くなっていることが確認できた。なお、湯抜き時間帯は、世帯構成には特に関係なく、午前中と夕方に若干のピークが見られている。

 湯使用に関する生活行為全般を見ると、子供が小さいファミリー世帯は比較的規則正しい生活を送っており、夕〜夜の使用時間帯も早めであり、子供が大きいファミリー世帯や大人だけの世帯(夫婦や単身)の場合には、時間帯が不規則となり、夜遅い使用が見られた。

第5章湯使用に着目した生活モードの作成

 第4章で明らかになった各生活行為の組合せを行うことにより、1日24時間のうち、湯使用行為がどのように行われているかの生活モードを作成する。

 現状でのライフスタイルは、単身世帯や夫婦世帯では比較的夜の遅い時間帯での湯使用が見られ、子供の小さいファミリー世帯では、夕方と夜の二極化の世帯と、20〜22時頃の夜の時間帯に集中して湯使用が行われる世帯があることが確認できた。またシニア世帯、特にシニア専用住宅に居住する場合、一般世帯より夜の時間帯の行為は1〜2時間早く行われていることが確認できた。洗濯機への給湯使用は現時点では給湯栓普及率が高くないために行われていないが、今後、洗濯機置き場への給湯が普及した場合、かつ、洗濯に給湯を使うという行為が普及した場合には、洗濯時間帯の午前中の湯使用量は多くなると予想される。

第6章総括

 第3章では、住宅内で最も負荷の大きい「浴室」における湯使用を把握し、第4章と第5章では、世帯構成別に生活パターンを把握することができ、使用量や生活パターンを総合して考えることにより、生活モードを作成した。今後は、本研究の成果を、実測調査などのデータと総合し、住宅用給湯設備の負荷算法の確立、給湯用熱源機器の実使用時の効率を試験するための負荷モードに使用することができると考えている。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、「住宅における湯使用に関する研究-生活行為と湯使用の分析を中心として-」と題し、急速に普及した住宅用給湯設備に関し、居住者の生活行為と湯使用の関係を中心に、アンケート調査および被験者実験の結果から検討したものである。住宅用給湯設備に関する研究は近年多くなっているものの、給湯システムを構成する給湯用熱源、配管および混合栓などの改善が極めて急激になされたこと、また、使用者の意識および生活スタイルも急変していることから、給湯負荷算法、給湯用熱源効率試験用の負荷モードを作成する上でのデータが極めて乏しい状況にあるとの認識の上で、近年増えてきている高齢世帯を含めた生活行為と湯使用の関係に関する検討、また、湯使用割合の中で最も大きな割合を示す入浴時の湯使用に関する詳細な被験者実験からの湯使用原単位の提案なども含め、住宅における湯使用に関し検討したものであり、以下の6章より構成されている。

 第1章では、研究の背景を述べるとともに、詳細な既往研究調査に基づいた各種関連データの整理結果を示し、本研究の位置づけを明確にしている。

 第2章では、東京・大阪・名古屋において実施した一般住宅居住者およびシニア専用住宅居住者に対する湯使用に関するアンケート調査結果を述べている。一般住宅居住者に対するアンケート調査では、ガス瞬間式給湯機および深夜電力利用温水器利用者の両者に対するサンプル数の大きなアンケート調査を行っていること、高齢化社会の到来から増えると予想されながら、そこでの湯使用実態が明らかにされていないシニア住宅居住者に対するアンケート調査を行っているところに、本調査の特徴がある。その結果として、ガス瞬間式給湯機使用者と深夜電力利用温水器使用者で、湯使用の差はほとんどないこと、シニア住宅で大浴場や食堂が付設されている場合には、各住戸での湯使用量は極めて小さいものになることなどを明らかにするとともに、現在の給湯設備の問題点、給湯負荷算定で考慮すべき点などに関して、極めて貴重な資料を提供している。

 第3章では、入浴における湯使用に関する被験者実験の結果を述べている。入浴行為に関しては、シャワーでの適温・適流量に関する実験、入浴時の湯温に関する実験が行われてきたが、種々の入浴パターンでの浴槽からの湯使用を含めた湯の使用総量に関する実験は皆無であった点に配慮し、被験者各自が自宅で行っているのと同じ入浴パターンで入浴してもらった上での湯使用総量を求めている。また、体を洗う、洗髪をするなどの行為別の湯使用量原単位を示し、入浴パターンごとの湯使用総量を求める手法を提示するとともに、湯使用量は男性より女性が多く、年代が上がるほど少なくなる傾向にあること、30代以上では、夏期シャワーのみの入浴であった被験者の多くが冬期は浴槽に入浴すること、浴槽へ入浴する者の方が、シャワーのみですませる人よりも混合栓の開閉頻度が多く、かつ、湯使用量が少ないことなどを明らかにしている。

 第4章では、第2章でのアンケート調査と同時に行った、湯使用行為を含む生活行為を時間ごとに記入願うことによって得られたデータを解析した結果を述べており、湯使用行為全般をみると、子供が小さいファミリー世帯では比較的規則正しい生活を送っているのに対し、子供が大きいファミリー世帯や大人だけの夫婦および単身世帯の場合、使用時間帯が不規則で、夜遅い使用がみられることなどを明らかにしている。さらに、世帯構成別に、各用途での湯使用がどのような時間パターンで出現するかの解析結果を示している。

 第5章では、湯使用の観点からみた、世帯構成別の標準的な生活時間の提案を試み、湯張りおよび入浴行為を中心に解析を行っている。

 第6章では、以上を総括するとともに、今後の課題を述べている。

 以上を要約するに、サンプル数の多いアンケート調査結果を基に、まず、現状での住宅用給湯設備の問題点、負荷算法で考慮すべき点を明らかにし、さらに、二世帯住宅、若年および高齢者のみの夫婦世帯・単身世帯、未就学、小学生および中・高校生の子供のいる夫婦世帯などの世帯構成別の生活行為と湯使用の詳細な分析から、世帯構成別の各用途での湯使用の時間帯別発生状況を提示し、湯使用の観点からの標準的な生活時間の提案を行うとともに、住宅での湯使用で最も割合の高い入浴時の湯使用に関し、入浴パターンごとの湯使用総量を求める手法を提案をしたものである。

 住宅用給湯設備の負荷算法の確立、給湯用熱源機器の実使用時の効率を試験するための負荷モード作成には、世帯構成別の湯使用実態を反映すべきといわれてから久しいが、従来の研究が子供2人に夫婦という、いわゆる標準家族のデータを中心に解析されてきたことから、極めてデータが不足していた分野において、貴重なデータを提供するとともに、住宅での湯使用量に占める割合の大きい入浴時の湯使用総量を、入浴パターン別に求める手法を提案した本論文の内容は、建築給排水衛生設備分野の発展に寄与するところが極めて大である。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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