No | 117951 | |
著者(漢字) | 宋,勲 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ソウ,フン | |
標題(和) | 火災時における高強度コンクリート部材の耐火性能に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 117951 | |
報告番号 | 甲17951 | |
学位授与日 | 2003.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5409号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 建築学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 建造物の高層化および巨大化などを背景に高強度コンクリートの開発が盛んに行われ,設計基準強度100N/mm2クラスのコンクリートを用いた建築物が現れ始め,高強度コンクリートを用いた建築物は益々増加する傾向である.一方,火災時におけるコンクリート部材は,コンクリートの種類や調合条件,加熱条件,使用骨材などによりことなるが,その影響を受け,浮きや亀裂,ポップアウト,爆裂などの劣化現象が起きる.コンクリートの火災時における劣化現象のメカニズムについては様々な報告があるが,解明すべき点が少なくないのが現状である. 火災によりコンクリート部材は,セメント水和物の脱水や変化およびセメント硬化体および骨材の熱膨張により,表層部から鉄筋に至る大きな亀裂の発生やコンクリート表層部のかぶりを脱落させ,鉄筋の温度上昇を誘発するポップアウトや爆裂が発生し,その耐火性能に大きな影響を及ぼす.特に,高強度および軽量コンクリートは,火災時に爆裂する傾向が強く,爆裂による断面欠損が生じ鉄筋が露出する可能性が高く,特に,構造部材として高強度コンクリートを用いた場合,火災時におけるコンクリートの耐力低下が,より懸念される. これまでの鉄筋コンクリート部材は,所定のかぶり厚さと断面寸法を有していれば耐火構造として認められていた.しかし,高強度コンクリートを用いた鉄筋コンクリート部材は,爆裂により耐力低下が大きくなることが予想されることから,設計基準強度60N/mm2を超えるコンクリートを用いる場合は,火災対策を検討するように指摘されている.また,建築基準法の性能規定化にともなって新しく規定された耐火性能検証法においても,コンクリート部材の設計基準強度の適用範囲は,60N/mm2以下および軽量2種コンクリートは適用範囲外として制限されている. そこで,本研究は,爆裂しやすいとされている高強度および軽量コンクリート部材を用いた耐火試験を実施し,その耐火性能評価するとともに,高温時の熱的性質を考慮した伝熱解析およびその解析結果から得られた解析値と実験値との比較検討を行った.さらに,速成解析方法を用いてコンクリートの表層部の応力集中から生じるポップアウトや爆裂を誘発する要因の検討,耐火性能と爆裂との関係,爆裂とその対策について検討を行ったものであり,その検討結果からコンクリート部材の爆裂防止に効果がある対策,耐火性能と爆裂の関わりや火災安全性に関する対策を示した. 1章では,火災時における高強度コンクリートの耐火性能に関わる研究の背景を整理し,本研究の目的と範囲を明らかにした. 2章では,本研究に関わる既往の研究として,盛期火災とコンクリートについては,火災性状,フラッシュオーバー,盛期火災とコンクリート構造物との関わりを,火災時におけるコンクリート材料の性状については,コンクリート化学的・物理的・力学的性状や力学的性質のモデル化との関わりを,コンクリートの爆裂については,爆裂研究へのアプローチ,熱応力・熱衝撃および水蒸気圧,部材の寸法や形状による影響との関わりを,コンクリート部材の解析的研究については,火災想定のための温度・火災曲線,温度予測,水分移動と圧力形成,非定常熱応力の形成との関わりを整理した. 3章では,高温下におけるコンクリートの力学的特性や空隙構造特性,コンクリートの耐火性能に影響を及ぼす爆裂現象についてISOの標準火災曲線を用いて実験的に検討した. コンクリートの熱的性質は温度に依存し熱的挙動を正確に把握するためには,高温物性値を考慮したモデルが必要であるが,火災によるコンクリートの有効細孔量の減少および細孔空隙量の増加と爆裂の関連性を導くことは困難である.ただし,高強度コンクリートの爆裂は高強度であるほど,含水率が高いほど顕著であり,断面欠損が生じ,コンクリート表層部温度は急上昇する傾向は認められた. 4章では,コンクリートの耐火性能に影響を及ぼす爆裂現象について,軽量1種,2種コンクリート,天然軽量骨材やポリプロピレン繊維入りコンクリート試験体を用いて実験的に検討した. 軽量コンクリートは,高強度や高含水率,低熱拡散率,軽量骨材から加熱初期に爆裂が誘発され,短時間の局部火災でも爆裂による断面欠損の危険性がある.また,爆裂の含水率による影響は高含水率ほど顕著であり,爆裂の早さとの連関性は低い.一部の試験体の爆裂は,1種,2種に関係なく加熱を止めるまで爆裂が止まらなく,内部まで進む傾向がある.一方,ポリプロピレン繊維は爆裂の防止に有効であり,急激な温度上昇により生じる熱応力や水蒸気圧の応力集中を繊維が溶けて緩和する.繊維の混入により爆裂を完全に防ぐことは難しいが,爆裂を一定のレベルに抑える効果がある.軽量コンクリートの爆裂の対策は不可欠なものであり,高層建築物に要求される軽量というの条件は満たすが,高い耐火性能を有する高性能軽量材料の開発が必要である. 5章では,コンクリートの火災による被害や耐火性能を把握するために,部材の温度分布を正確に知る必要があることから,高温時の熱物性値の変化を考慮した伝熱解析を行い,その結果から火災初期に生じる応力変化や部材形状による影響を検討した. コンクリート部材モデルを用いた温度分布の計算結果は実験値とほぼ一致しており,次のステップでの解析に影響を満たすほどではないが,より正確な熱的挙動を把握するためコンクリートの熱物性値に関するデータの蓄積や正確な熱物性値の対応などの更なる検討が必要であり,爆裂による断面欠損から温度が急上昇する場合の温度予測や爆裂を誘発するメカニズムの解明も必要である. 高強度モデルの部材温度および熱的性質に依存して生じる熱応力は,コンクリート表層部の爆裂を誘発する可能性があり,加熱後ある一定時間までは急激に増加するが,それ以後は温度の増加に関わらず漸減する傾向がある.また,表層部の劣化により応力が緩和され,ある一定の時間を過ぎると爆発性爆裂は起きないと考えられる.非定常温度分布から生じる急激な応力勾配は,コンクリートの表層部において爆裂の危険性をもたらす可能性があるが,応力勾配だけが爆裂を誘発するとはいい難い点もある. セメント硬化体と骨材境界面では,異なる熱的性質を持つことから応力も相違する.骨材の境界面は,内部温度の上昇により両端が拘束を受けていることから膨張や収縮が拘束され骨材の境界面に応力が集中する.セメント硬化体に対する骨材の拘束効果は,加熱面の膨張を拘束することにより部分的に応力が集中し,ポップアウトの原因となる.特に,高強度で熱膨張係数が低いセメント硬化体はそのような傾向が強く,加熱面と骨材の拘束によるポップアウトから,骨材同士の応力に対する影響により,骨材境界面の近辺には,ポップアウトおよび爆裂が起きる可能性がある.一方,応力分布および熱的挙動は,セメント硬化体や骨材の性質により様々であり,異なる熱的挙動のセメント硬化体や骨材の伸縮によりコンクリートの耐火性能にも影響を及ぼす. 軽量コンクリートの逓増的な爆裂は,加熱面から徐々に応力が集中し,骨材自体が爆裂性を持つことから,骨材自身の爆裂および骨材がセメント硬化体の伸縮を拘束することができなくなり,連続的に加熱面から爆裂する可能性がある.加熱面から骨材までの深さによってもポップアウトや亀裂の様子も異なり,加熱面から近い位置にある骨材は熱膨張やセメント硬化体の膨張の拘束によりポップアウト現象が起きやすいが,遠い位置にある骨材は,セメント硬化体や骨材の伸縮により加熱面から骨材面までの深い亀裂を誘発する. フラッシュオーバーにより火災温度が激しく高くなり,急激に加熱を受けたコンクリート部材温度は形状により差があり,出隅部は約1.5倍,入隅部は約0.7倍の程度である.火災時のコンクリート部材は形状によって温度差が生じ,耐火性能にも影響を及ぼす.急激な上昇により,コンクリート表層部は急激に耐力を失い,火災初期には,耐力低下が表層部に限られるが,熱劣化深さが逓増する.また,かぶり厚さは,コンクリート部材の耐火性能に影響を及ぼすことから火災に備えた適切なかぶり厚さを確保する必要がある. 6章では,性能設計法とコンクリート部材の耐火要求と爆裂の関わりや前章の結果をもとに爆裂を誘発する要因を明らかにした. 爆裂は,熱応力および水蒸気圧の複合作用から生じ,状況によりどちらかが優先的に働くと思われる.また,爆裂を誘発する条件は,コンクリートの調合や種類,加熱条件,部材条件などに分類できる.コンクリートの調合や種類による影響は,高強度や軽量コンクリートに代表され,熱応力と水蒸気圧の複合作用で爆裂が誘発される.加熱条件としては,火災時の急激な温度上昇による影響で,温度に依存する熱応力と関連を持ち温度上昇が早いほど応力勾配が急になり爆裂を誘発する.部材による影響は,部材が薄いほど熱応力や熱膨張に耐え難く爆裂が起こりやすい. また,コンクリートに作用する荷重やプレストレスも爆裂を誘発する. 7章では,コンクリート部材の耐火性能を向上するための提案やコンクリート部材に生じる爆裂現象に関わる対応などをまとめた. 最も基本的な爆裂防止対策として,熱の遮断や部材温度上昇の低減方法などを考慮し,耐火性能を有する耐火物を用いてコンクリート表層部の爆裂を防ぐ方法の検討や耐火物を用いた高耐火性能を有する軽量コンクリートの開発が必要である. 8章では,総括として本研究の結論を述べた. | |
審査要旨 | 本論文は,建築基準法の改正に伴う耐火性能検証法においてもコンクリート部材の設計基準強度の適用範囲は,60N/mm2以下および軽量2種コンクリートは適用範囲外として制限されているように、爆裂しやすいとされている高強度および軽量コンクリート部材を用いた耐火試験を実施し耐火性能を評価すると共に,高温時の熱的性質を考慮した伝熱解析を行い両者を比較検討し、さらに,熱応力連成解析方法を用いてコンクリートの表層部の応力集中による爆裂誘発要因の検討,耐火性能と爆裂との関係,爆裂発生とその対策について研究したものである。 第1章では,火災時における高強度コンクリートの耐火性能に関わる研究の背景を整理し,本研究の目的と範囲を明らかにしている。 第2章では,本研究に関わる既往の研究として,盛期火災とコンクリート部材については,火災性状,フラッシュオーバー,盛期火災との関わりを,火災時におけるコンクリート材料の特性については,コンクリートの化学的・物理的・力学的性状と解析モデル化との関わりを,コンクリートの爆裂現象については,熱応力、熱衝撃、水蒸気圧および部材の寸法や形状による影響を,コンクリート部材の熱応力解析については,火災温度・時間曲線,伝熱による温度上昇予測,水分移動による内圧力の形成,非定常熱応力の発生について整理している。 第3章では,高温下におけるコンクリートの力学的特性や空隙の構造特性,コンクリートの耐火性能に影響を及ぼす爆裂現象について、ISOの標準火災温度曲線を用いて実験的に検討し、高強度コンクリートの爆裂は、強度、含水率が高いほど顕著であるが、空隙発生のメカニズム解明は困難であることを明確にしている。 第4章では,コンクリートの耐火性能に影響を及ぼす爆裂現象について,軽量1種,2種コンクリート,天然軽量骨材およびポリプロピレン繊維入りコンクリート試験体を用いて実験的に検討し、高強度、高含水率,低熱拡散率,軽量骨材使用の場合は加熱初期に爆裂が誘発され,短時間の局部火災でも爆裂による断面欠損の危険性があること、一部の試験体では,1種,2種に関係なく加熱を止めるまで爆裂が内部へ進行すること、ポリプロピレン繊維は溶けることで温度上昇による熱応力や水蒸気圧の上昇を緩和するため爆裂の防止に有効であることを確認し、高耐火性軽量材料の開発が必要であることを提示している。 第5章では,部材の温度分布を正確に知るため高温時の熱物性値の変化を考慮した伝熱解析を行い,計算結果は実験値とほぼ一致しており,今後さらにコンクリートの熱物性値に関する詳細なデータの蓄積を続けると共に爆裂による断面欠損に伴う温度の急上昇を爆裂の発生とリンクさせることの必要性を明らかにし、熱応力は加熱後ある一定時間までは急激に増加するが,それ以後は温度の増加に関わらず漸減する傾向があるため爆発性爆裂は起きなくなるが,応力勾配だけが爆裂を誘発する原因とはいい難いことも指摘している。また、セメント硬化体と骨材境界面では,異なる熱的性質を持つことから応力も相違すること、骨材の境界面は内部温度の上昇により両端が拘束を受けているため膨張や収縮が拘束され応力が集中すること、セメント硬化体に対する骨材の拘束効果は加熱面の膨張を拘束することにより部分的に応力が集中するためポップアウトの原因となること、高強度で熱膨張係数が低いセメント硬化体は特にその傾向が強く骨材同士の応力の関係から骨材境界面の近辺にはポップアウト爆裂が起きる可能性があることを明らかにしている。さらに、軽量コンクリートの逓増的な爆裂は,加熱面から徐々に応力が集中し、かつ骨材自体が爆裂性を持つことにより骨材自身の爆裂および骨材がセメント硬化体の伸縮を拘束することができなくなることが原因であるとしている。 第6章では,性能設計法とコンクリート部材の耐火性能要求、およびそれらと爆裂の関わりを検討し、爆裂は熱応力および水蒸気圧の複合作用から生じるが状況によりどちらかが優先的に働くこと、爆裂誘発の条件は,コンクリートの調合や種類,加熱条件,部材条件などに分類でき、特に高強度や軽量コンクリートは,材質的に熱応力と水蒸気圧の複合作用で爆裂が誘発されることを示している。 第7章では,コンクリート部材の耐火性能を向上させるための提案やコンクリート部材に生じる爆裂現象への対応などをまとめ、最も基本的な爆裂防止対策として熱の遮断や部材温度上昇の低減方法などを考慮して,耐火性能を有する耐火物を用いることによるコンクリート表層部の爆裂を防ぐ方法の検討や耐火物を用いた高耐火性軽量コンクリートの開発の必要性を提言している。 第8章では,総括として本研究の結論を記している。 以上要するに、本研究は、従来著しく不足していた高強度コンクリート部材の火災時における爆裂現象の推移に関する諸問題を実験と解析を通して究明し、特に火熱によるコンクリート内部のセメント硬化体の構造変化およびそれらと骨材の境界面における熱応力変化との関連から爆裂発生の原因について詳細な解析を行ったもので高強度コンクリート部材の耐火性能確保に寄与するところが極めて大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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