学位論文要旨



No 117954
著者(漢字) 楊,詩弘
著者(英字)
著者(カナ) ヨウ,ウタヒロ
標題(和) 環境性能向上のための浴室ユニット・デザインに関する基礎的研究
標題(洋)
報告番号 117954
報告番号 甲17954
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5412号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 野城,智也
 東京大学 教授 坂本,功
 東京大学 教授 鎌田,元康
 東京大学 助教授 松村,秀一
 東京大学 助教授 野口,貴文
内容要旨 要旨を表示する

 近年来、地球環境問題への対応として、環境的な視点から製品開発プロセスの再検討が必要であると思われ、最近電気製品や自動車分野をはじめ、"環境配慮設計"に関わる研究や活動が進んでいる。一方、建設セクターは建設活動に伴う資源やエネルギーの大量使用、地球温暖化物質の大量放出、固体廃棄物の不法投棄などによって、地球環境問題との関連の深刻さが指摘されている。従って、建築分野も、ものづくりの視点から"Design for E(Environment)"を意識して取り組む必要があると思われる。

 建築構法の視点から見ると、建物はスケルトン(skeleton)と複数のインフィル(infill)との組み合わせである。建築物の設計・施工のような一品生産とは違い、インフィルである建築部品の製造特性は、一般製造業の工業化・大量生産に近いといわれる。従って、建築セクター向けの環境調和向け設計に関する研究は、少なくともそれぞれの生産特徴やライフサイクル条件を考慮し、異なるアプローチが必要と思われる。それゆえに、建築分野での環境配慮設計についての可能性を探るため、今回は生産方式が他産業に類似しているインフィルベースに範囲を設定し、浴室ユニットを対象として環境のための設計考究を行うことにした。

 浴室ユニットメーカーにおける環境保全活動について、いままで重点に置いていたのは主に二つのパフォーマンスである:一つは使用段階向けの省水や省エネルギー設備の開発であり;もう一つは製造段階のリサイクル活動である。全体ライフサイクルの視点から考えると、環境性能に関するアプローチがまだ不足である。また、平成十四年のリサイクル法の改正により、浴室ユニットは"第一種指定製品"(指定再利用促進商品)に指定され、浴室ユニットにおける環境性能を正確に把握することと、環境向上のための設計改善を考究することは現段階として非常に重要だと考えられる。

 以上の説明を踏まえ、本論文の研究目的は以下のように示す:●環境性能評価システムツールの考案:浴室ユニットにおける環境性能を測定するため、最初にその浴室ユニットに適合する評価システムツールを構築する。評価ツールの種類は、ライフサイクルにおけるエネルギー消費と炭素排出を測定するシステムであり、もう一つは、固体副産物の再資源化における資源循環性の度合いを評価するシステムツールである。●評価ツールの適用により、浴室ユニットにおける環境性能の現状と問題点の把握:市場に使われている浴室ユニットを対象に、構築した評価ツールを適用し、現状のバスユニットにおける環境性能を測定し、問題点と要因を導き出す。●浴室ユニット環境性能現状を改善・向上さ世る設計上対策の試み:評価ツールの適用とその評価結果により、浴室ユニット環境性能を阻害する材料上の要因と接合・構成上の要因に対し、設計上の改善方法を図り、製品設計の対策の提案を試みる。本論文は第一章から第五章までで構成されている。

第一章序論

 第一章では、最初に環境配慮活動による産業の動きと相関研究を概観した上で、建築分野における環境配慮設計の可能性と重要性を説明し、そのために必要な研究課題を明らかにすることによって、研究の目的を明確させた。また、研究方針である"環境性能"の定義をこの段階で設定し、その環境性能を測定するための"評価ツール"の基本的な概念と包括範囲を導き出した。

第二章浴室ユニット環境性能の評価方法

1.評価システムの全体像:まず、評価システムの全体構造を展開しつつ、評価手順及び各段階の内容について簡約的に説明する。評価方法について、今回用いられる方法は、浴室ユニットのライフサイクルにおけるエネルギー消費と炭素排出測定のための"ライフサイクル環境負荷評価"と"資源循環性評価"二つに分けて評価することにした。2.ライフサイクル環境負荷評価:浴室ユニットライフサイクル中の製造から施工、運用・改修、解体までの各段階におけるエネルギー使用及び炭素排出について、それぞれの計算方式、算定範囲及び境界条件を設定した。3.資源循環性評価:この評価方法は四つの部分に構成されている。一つは浴室ユニット自体の組み合わせ方式及び部材の形を把握する"構成特性評価"であり、二つ目は浴室ユニットがどのような材料を用いられているかを測定する"材料使用評価"であり、三番目は、浴室ユニット部位・部材同士の接合の度合いを測る"接合性評価"、四番目は、浴室ユニットの分解性について把握する"分解性評価"である。4.測定対象の設定。整理:本章では、現在市場に良く使われている三つの浴室ユニットタイプについて、カタログ整理、実測、インタビューなどの方法を用いてそれらの構成方式を把握し、評価用の基本データを系統的に整理し、説明する:

第三章浴室ユニット環境性能評価方法の適用

 ここでは本研究が提案した環境性能方法とその様々な指標を用いて、実際市場にある浴室ユニット製品を評価することにした。その結果により、浴室ユニットおける環境性能の向上について、以下のような現状と問題点得られた:1.ライフサイクル環境負荷評価結果により明らかになったのは:

 全体ライフサイクルにおける環境負荷量の割合については、施工・使用・解体段階における運輸距離が遠すぎない限り、製造エネルギーと炭素の他の段階と比べて遥かに多い。従って、浴室ユニットにおける材料使用について、製造原単位が高いものが多く使う場合、浴室ユニット自体の環境負荷量も大幅に増えてしまうことがここで算出された。また、浴室ユニットの使用材料の中に、エネルギー消費や炭素排出が高いのはFRPとアルミである。このような材料使用は、浴室ユニット全体環境負荷量上昇の原因の一つであることが、計算結果により判明した。2.資源循環性の評価結果により明らかになったのは:A.浴室ユニットの構成特性:

 複合構成の部材は普遍的に浴室ユニットの中に使われていて、特に天井、壁など重量・体積が大きいパネルに用いられている。浴室ユニット部材の汎用性については、他用途に使える部材数は種類数が多い代わりに、重量の絶対量が少ない、一方、汎用性が低いものは、全体重量の約75%以上を占めている。また、浴室ユニットの使用部材の形状と大きさの分布ついて、数量的に最も多いのは体積60cm3未満の微小部材であり、測定対象使用部材数の40%を占めている。上述の評価結果により浴室ユニットの構成特性が複雑なことを評価結果から導き出した。このような特性により、部材の再利用・再資源化にマイナスな方向に行くと考えられる。B.浴室ユニットの材料使用:

 浴室ユニットにおける材料使用状態については、今回の評価結果により、樹脂系の材料使用種類が全体の使用種類の50%以上を占めていることが分かった。測定対象タイプの相違に関わらず、樹脂類の材料使用種類はいずれも十種類以上を越えていることも評価の結果で判明した。以上の状況を踏まえ、樹脂系材料の多種類使用については、材料自体の判別が難しく、再利用・再資源化のための分別に困難度を加える。C.部位・部材の接合性:

 浴室ユニットの接合度は、部位別によると、床パンと壁板の接合度が高く示されている。前者は床パン本体と複数のボルトが相互に繋ぎ合っていて、また、部位の下部と建築躯体の間に接着剤が使われているため、部位自体の接合度総和が高いのである。壁板は、周りのインターフェースが多く、壁同士や目地材のほか、床板、天井、建具に面して様々な形で接し合っていて、照明、浴槽、混合水栓、収納など構成器具も壁表面と接し合っているため、接合度が強く示している。このような結果は、資源再利用のための"分解しやすさ"に影響を与えることが、この"接合度評価"と次の"分解性評価"の結果で明らかになっだ。D.現場での分解性:

 最も動作数が多いのは、床からの部位分解であり、吹いて壁と建具も多くの分解動作が必要であることが測定の結果で分かった。特に床の分解は周辺環境からの影響が大きく、一部の解体については、周りの解体作業が先行しない限り床の分解ができなくなる。壁板の分解も、一部の構成方式により、施工段階で一度モックアップされた後、浴室室内からの分解は不可能な構成になっており、壁を壊すか或いは外部の間仕切や躯体の解体が先行しない限り壁の分解ができない。以上の評価結果により、浴室ユニット製品の分離は、動作数のほか、自体の構成及び周りの環境に深く影響されていることが分かった。E.材料レベルまでの再分解性:

 浴室ユニット部材レベルから材料レベルまでの分解について、複合構成材が使われているパネルを単一材料まで再分解する作業により、再分解の複雑度が遥かに高くなることが今回の評価結果で明らかになった。また、シリコン、シールテープが表面に付着されている場合、その解除作業について、面積が広ければ広くほど再分解の複雑度が増えることもこの段階で分かった。

 また、再分解後の材料状態については、本研究はそれぞれ還元された材料を"判別性"、"表面状態"の度合いについて再資源化の可能性について評価した。評価の結果は、複合構成部材が多く使われている場合、その表面状態が接着剤を付着されているものが多く、再利用としては不可能であり;全体に通して、浴室ユニット再分解後表面状態に不純物なしのものは数限られており、ボリュームも少なく、リサイクルのインセンティブに繋がらない。また、前で述べたように、多種類の樹脂系材料が出てきて、それぞれを判別するのは難しい、以上の状態がこの段階の評価・分析により明らかになった。

第四章環境性能向上のための製品設計対策

 本論文の第四章では、第三章で得られた評価結果を基に、環境性能向上のための浴室ユニット製品設計について考察し具体的な対策を提案した。対策の始めに、対策を作るための主要な前提条件(階層構造の明確化)を設定した。

 本研究が考案した対策方針は、今回の評価結果で環境性能向上について問題及び障害要因になった内容により、"省エネルギー・炭素排出削減方針"、"固体廃棄物排出削減"、"有害物質使用回避"、三つの方針を設定し具体的な設計上の改善方法を提案した。

第五章まとめと今後の課題

 第五章は、本論文のまとめであり、研究の成果を示し、今後の課題や他住宅部品やスケルトンを含む建築物全体の環境調和型設計の進み方がどのようにあるべきかについて考察する。

審査要旨 要旨を表示する

 工場生産された住宅部品は建築の品質や性能を向上させてきた。しかしながら、それらの住宅部品の設計は初期性能のみに関心がおかれ、その部品を廃棄する際にはどのように処理をするのかについて必ずしも高い関心が払われてこなかった。結果として、住宅部品には多種多様な異種材料が複雑に組み合わされて使われている。特に、浴室ユニットは住宅部品のなかでも異種材料の錯綜度の高い部品である。本論文はこのような現状を踏まえて、資源生産性という観点から住宅部品の環境性能評価システムツールを考案するとともに、そのシステムツールを用いて評価を行ったうえで、浴室ユニットの環境性能を改善・向上させる設計上の対策を考案し、さらにそれに評価を加えた上で、より資源生産性の高い浴室ユニットの生産設計のあり方を示すことを試みている。本論文の第二章では、浴室ユニット環境性能の評価方法を考案している。特にいわゆる従来のLCA的な評価方法に加えて、資源循環性を評価するインジケーターを開発している。浴室ユニット自体の組み合わせ方式及び部材の形を把握する"構成特性評価"、浴室ユニットがどのような材料を用いられているかを測定する"材料使用評価"、浴室ユニット部位・部材同士の接合の度合いを測る"接合性評価"、浴室ユニットの分解性について把握する"分解性評価"など、開発されたインジケーターは他の住宅部品においても適用できる汎用性をもっており、業績として高く評価できる。第三章では、二章で考案された評価方法を用いて浴室ユニットの環境性能を評価している。これは、詳細なインベントリー分析に基づくもので、その労の多い分析作業を成し遂げたことは、賞賛に値する。また評価分析の結果得られた、浴室ユニットの構成特性や、部位・部材の接合性、及び現場での分解性、材料レベルまでの再分解性にかかわる以下のような問題点を明らかにしたことは貴重である。1)浴室ユニットの構成材料うち、汎用性が低い材料が、全体重量の約75%以上を占めている。2)浴室ユニットの使用部材の形状と大きさの分布ついて、数量的に最も多いのは体積60cm3未満の微小部材であり、測定対象使用部材数の40%を占めている。3)10種類以上の樹脂類が使われ、材料自体の判別が難しく、分別に困難度を加える。4)各構成材料の部位自体の接合度総和が高い第四章では、第三章で得られた評価結果を某に、環境性能向上のための浴室ユニット製品設計について考察し具体的な対策を前提条件を階層構造として明確化しつつ整理している。そのうえで、"省エネルギー・炭素排出削減方針"、"固体廃棄物排出削減"、"有害物質使用回避"、など三つの重要度づけのことなる設計対策を設定し、これを評価したうえで、さらに改善された対策を生み出すというヒューリスティックな方法で設計改善策を練り上げようと試みている。本論文は以上のように、社会的な意義が高いにもかかわらず、いままで研究的な関心が払われなかった分野を切り開こうとする萌芽的性格をもっている。特に資源循環性は国際的に見ても合意されたインジケーターがないため、混乱が生じている。本論文の成果は国際的な注目を浴びる可能性大であり、工場生産された建築部材・部品の資源生産性を向上させていくことに寄与する社会的・実務的意義をもっている。よって、その学術的意義の高さと、社会的意義に鑑みて、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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