学位論文要旨



No 117956
著者(漢字) 布浦,鉄兵
著者(英字)
著者(カナ) ヌノウラ,テッペイ
標題(和) 活性炭を反応促進剤として用いたフェノールの超臨界水酸化に関する研究
標題(洋)
報告番号 117956
報告番号 甲17956
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5414号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山本,和夫
 東京大学 教授 花木,啓祐
 東京大学 教授 古米,弘明
 東京大学 助教授 大島,義人
 東京大学 助教授 福士,謙介
 広島大学 助教授 松村,幸彦
内容要旨 要旨を表示する

 超臨界水酸化処理は、有機物質と酸素とを超臨界水中に溶解して有機物質を均一相で酸化分解する方法であり、有機物質含有排水や有害有機物の処理法として位置づけられている。他の排水処理法と比較して反応速度が極めて大きいため装置のコンパクト化が図れる事や、オフガスの処理が容易でかつNOXやSOXの発生がない事が利点として挙げられる。一方、反応条件が通常600℃、25MPa付近と高温高圧であるため、エネルギー消費の点や反応器の腐蝕などが超臨界水酸化処理の普及へ向けての課題である。そこで近年、高い反応速度を維持しながら穏和な条件での処理を実現させるため、様々な金属触媒の適用が検討されているが、金属触媒の場合、反応条件における溶出や酸化態の変化による不活化といった問題が存在する。

 本研究では、金属触媒よりも酸やアルカリへの耐性が強くかつ安価である炭素系物質に着目し、超臨界水酸化反応における挙動について検討を行った。また、処理対象物質としてはフェノールを用いた。フェノールは、超臨界水酸化反応において難分解性を示すことが知られている。また、多くの芳香族化合物の超臨界水酸化反応過程において中間的に生成するため、芳香族化合物の処理の一部はフェノールの処理に帰結すると言える。

 本研究では、フェノールの超臨界水酸化反応における炭素系物質、特に活性炭の添加効果について検討し、炭素添加による反応機構や反応速度について解明することを目的とした。また、炭素系物質を反応促進剤として超臨界水酸化反応に適用する効率的なプロセス形態を提案し実証的に検討することを目的とした。

 流通式管型反応器を使用して反応特性の測定を行った。主な反応条件は400℃、25MPa、フェノール初期濃度2wt%、酸素濃度はフェノールに対して当量とし、反応系に活性炭などの炭素系物質を0.30〜0.90g添加した。反応器内滞留時間は最大で196sとした。

 第4章では、フェノールの超臨界水酸化反応における炭素系物質の添加効果について検討を行った。また、炭素存在下での反応特性を検討する前に、無触媒条作下における高濃度フェノール水溶液の反応特性に関して検討を行った。

 350〜450℃、25MPaの無触媒条件下において、既往の研究よりも比較的高濃度のフェノール水溶液の超臨界水酸化を行った。実験の結果、低濃度条件と比較してCO2の生成速度が小さく、中間生成物としてはフェノールの重合による二量体が多く生成したほか、更に重合が進んだ固体生成物も確認された。二量体物質としては、1,1'-ビフェニル-2,2'-ジオール、1,1'-ビフェニル-4,4'-ジオール、2-及び4-フェノキシフェノール、ジベンゾフラン、ジベンゾ-p-ジオキシンなどが検出された。フェノールから二量体への選択率は、既往の低濃度条件と比較して高い値となった。高濃度条件では、フェノキシラジカル間の重合反応速度が大きくなるため、難分解性を示す重合体が生成する選択率が高くなり、気体生成物の収率が低下したものと推測された。特に重合により生成した固体生成物は難分解性で、本実験条件の範囲内では減少する傾向が見られなかった。

 400℃、25MPaの条件における高濃度フェノールの超臨界水酸化反応について、反応系にヤシ殻製活性炭を添加することによりフェノールの分解率が増加することを確認した。更に、二量体収率は2オーダー低下し気体収率は1オーダー増加した。また、固体物質の生成は見られなかった。反応条件において、活性炭によるフェノールの吸着除去の影響は無視できるほど小さく、また活性炭の燃焼熱による反応温度の上昇の影響も小さいことが確かめられ、活性炭が分解を促進する触媒効果を持つものと推測された。

 反応系内で活性炭は酸素と反応して燃焼し、その量は経時的に減少した。活性炭量の減少に伴い反応も経時的に変化し、フェノール分解率は経時的に低下した。活性炭を添加したフェノールの超臨界水酸化反応系においては、フェノールの酸化分解と活性炭の燃焼とが競合していることが示された。

 ヤシ殻製活性炭のほか、石炭製活性炭2種類、竹炭、コークス、カーボンファイバー、グラファイトについても、フェノール分解率及び気体収率を高め、二量体収率を低減する効果が確認された。細孔構造を持たない炭素物質についても活性炭と同種の触媒効果が確認されたことから、より安価な炭素やスラリー状の炭素含有物質を反応促進剤としてフェノールの超臨界水酸化処理に適用できる可能性が示された。

 第4章で、炭素系物質の種類によってフェノールの分解特性や炭素自身の燃焼速度が異なることを確認したため、第5章では、炭素による反応機構についての情報を得て高活性炭素触媒を設計するための知見を得ることを目的として、炭素系物質の様々な特性が反応に及ぼす影響について検討した。

 使用した炭素系物質の諸特性値と反応特性との相関を検討した結果、炭素物質の比表面積がフェノールの反応速度と強く相関し、何らかの表面特性がフェノールの酸化反応に寄与していることが示された。そこで、炭素の表面特性として表面官能基組成と含有灰分に着目して検討を行った。

 まず、前処理により官能基組成を調整した活性炭を用いてフェノールの超臨界水酸化反応を行い、官能基が反応に及ぼす影響を検討したが、実験の結果、表面官能基の影響は極めて小さいことが確かめられた。次に、灰分含有率を調整した活性炭を用いて、含有灰分が反応に及ぼす影響を検討した。その結果、含有灰分の影響が極めて小さいことを確認した。以上の検討結果から、炭素を反応促進剤として用いる場合、より高い触媒活性を期待するには、比表面積の大きい活性炭の利用が有効であることが示された。一方、添加炭素物質の燃焼速度については、炭素物質中の水素重量分率との相関が見られた。

 第6章では、まず活性炭粒子内外での物質移動抵抗の影響について検討を行った。この物質移動に関する検討結果をもとに、本反応系のモデル化を行った。

 活性炭粒子外部における物質移動に関しては、Mears' criterionにより、物質移動抵抗の影響は無視できると推定された。更に、反応器内の流速の影響を検討した結果、粒子外部の物質移動抵抗が無視できることを実験的に確認した。粒子内部における物質移動抵抗の影響については、Weisz-Prater criterionからは判断できなかったが、活性炭の粒径を変化させた検討により、細孔内部における拡散抵抗が無視できないことを確認した。

 次に、反応器内におけるフェノール酸化反応と活性炭燃焼反応の競合とその経時変化のモデル化を行った。反応器内で進行する反応としては、均一系フェノール酸化反応、不均一系フェノール酸化反応、活性炭燃焼反応の3種類を考慮した。物質移動に関する検討結果から、活性炭表面における濃度はバルク中の濃度と等しいとし、活性炭粒子内部の物質移動抵抗の影響を表すため触媒有効係数を式中に導入した。実験値とのフィッティングによりパラメータ値を決定した結果、活性炭表面におけるフェノール酸化反応はフェノールに関して0.88次、酸素に関して0.31次と算出され、活性炭の燃焼反応は酸素に関して1次と確認された。。更に、このモデルにより、反応器内部における反応物質濃度、反応速度、活性炭量、触媒有効係数のプロファイルと毛の経時変化を求めた。その結果、粒子内部物質移動抵抗の寄与は反応器内で一様ではなく、反応器内の位置と時間により変化することが示された。

 第7章では、炭素物質を反応促進剤として超臨界水酸化処理に適用するための適切なプロセス形態について検討を行った。活性炭を反応促進剤として用いた超臨界水酸化プロセスにおいては、炭素量の減少と余分な酸素消費とを抑えるという観点から、できるだけ添加炭素の燃焼速度が小さいプロセスが望ましい。そこで第6章で得られた反応次数に関する知見をもとに、活性炭の接触酸素濃度を極力小さく保ち、活性炭の燃焼とそれに伴う酸素消費を抑えたプロセス形態を二つ提案し、その処理特性を検討した。

 まず、活性炭槽の前段に無触媒槽を設けたプロセスについて検討した。無触媒槽単独での処理に比べ、後段に活性炭槽を設けることによりフェノール分解率及び気体収率が増加し、二量体収率は大きく減少した。しかし、無触媒槽で生成したフェノール重合生成物がフェノールより難分解性であるため、後段の活性炭槽での分解では活性炭の燃焼に消費される酸素の割合が増加した。従って、無触媒槽の後段に活性炭槽を設置するプロセスでは、活性炭の燃焼を低減する効果はあまり得られなかった。

 次に、活性炭槽に段階的に酸素を注入し、槽内の酸素濃度を常に低く保つプロセスについて検討を行った。反応器入口に酸素を一度に注入する一段階注入に比べ、反応器入口と中間の2カ所に分けて注入する二段階注入の方がフェノール分解率が高く、活性炭燃焼量を低減できることを確認した。第6章のモデル式を用いて、酸素の注入段階数が反応特性に及ぼす影響を検討した結果、段階数を増やすことによりフェノール分解率が高まり、活性炭燃焼が減少することが示された。また、酸素を段階的に注入することにより、フェノールの完全分解に必要な酸素量を低減できると予測された。従って、反応系における活性炭の燃焼を抑えて余分な酸素消費を低減するプロセスとして、酸素を反応器に段階的に注入する方法が有効であることが示された。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、「活性炭を反応促進剤として用いたフェノールの超臨界水酸化に関する研究」と題し、フェノールの超臨界水酸化反応における炭素系物質、特に活性炭の添加効果について検討を行い、活性炭添加による反応特性の解明やモデル化、さらに炭素系物質を反応促進剤として超臨界水酸化反応に適用する際の効率的なプロセス形態を提示した研究である。

 第1章は「緒論」である。研究の背景と目的を述べた後、本論文の構成を示している。

 第2章は「既往の研究」である。フェノール類の超臨界水酸化に関する研究や炭素系物質に関する既往の知見等を整理してまとめている。

 第3章は「実験装置及び実験方法」である。使用した流通式管型反応器の特性を記述し、また実験方法の詳細を記述している。

 第4章「フェノールの超臨界水酸化反応における炭素系物質の添加効果」では、ヤシ殻製活性炭のほか、石炭製活性炭2種類、竹炭、コークス、カーボンファイバー、グラファイトについて、それらを添加した場合と無添加の場合との比較検討を行っている。反応系にヤシ殻製活性炭を添加することにより、400℃、25MPaの条件における高濃度フェノールの超臨界水酸化反応について、無添加の場合と比べて、フェノールの分解率が増加することを確認した。更に、二量体収率は2オーダー低下し気体収率は1オーダー増加した。また、無添加の場合に認められた固体物質の生成は見られなかった。本研究の反応条件において、活性炭によるフェノールの吸着除去の影響は無視できるほど小さく、また活性炭の燃焼熱による反応温度の上昇の影響も小さいことが確かめられ、活性炭触媒として分解を促進する効果があることが本研究により定量的に示された。

 ヤシ殻製活性炭のほか、石炭製活性炭2種類、竹炭、コークス、カーボンファイバー、グラファイトについても、フェノール分解率及び気体収率を高め、二量体収率を低減する効果が確認された。細孔構造を持たない炭素物質についても活性炭と同種の触媒効果が確認されたことから、より安価な炭素やスラリー状の炭素含有物質を反応促進剤としてフェノールの超臨界水酸化処理に適用できる可能性が示された。

 第5章「炭素触媒の諸特性がフェノールの超臨界水酸化反応に及ぼす影響」では、炭素による反応機構についての情報を得て高活性炭素触媒を設計するための知見を得ることを目的として、炭素系物質の様々な特性が反応に及ぼす影響について検討した。使用した炭素系物質の諸特性値と反応特性との相関を検討した結果、炭素物質の地表面積がフェノールの反応速度と強く相関し、何らかの表面特性がフェノールの酸化反応に寄与していることが示された。そこで、炭素の表面特性として表面官能基組成と含有灰分に着目して検討を行った。

 まず、前処理により官能基組成を調整した活性炭を用いてフェノールの超臨界水酸化反応を行い、官能基が反応に及ぼす影響を検討したが、実験の結果、表面官能基の影響は極めて小さいことが確かめられた。次に、灰分含有率を調整した活性炭を用いて、含有灰分が反応に及ぼす影響を検討した。その結果、含有灰分の影響が極めて小さいことを確認した。以上の検討結果から、炭素を反応促進剤として用いる場合、より高い触媒活性を期待するには、比表面積の大きい活性炭の利用が有効であることが示された。

 第6章「活性炭触媒によるフェノールの超臨界水酸化反応における物質移動の検討及び反応の数理モデル化」では、まず活性炭粒子内外での物質移動抵抗の影響について検討を行い、得られた物質移動に関する検討結果をもとに、本反応系のモデル化を次のように行っている。反応器内で進行する反応としては、均一系フェノール酸化反応、不均一系フェノール酸化反応、活性炭燃焼反応の3種類を考慮し、物質移動に関する検討結果から、活性炭表面における濃度はバルク中の濃度と等しいとし、活性炭粒子内部の物質移動抵抗の影響を表すため触媒有効係数を式中に導入した。実験値とのフィッティングによりパラメータ値を決定した結果、活性炭表面におけるフェノール酸化反応はフェノールに関して0.88次、酸素に関して0.31次と算出され、活性炭の燃焼反応は酸素に関して1次と確認された。更に、このモデルにより、反応器内部における反応物質濃度、反応速度、活性炭量、触媒有効係数のプロファイルとその経時変化を求めた。その結果、粒子内部物質移動抵抗の寄与は反応器内で一様ではなく、反応器内の位置と時間により変化することが示された。

 第7章「活性炭を反応促進剤として適用した超臨界水酸化プロセスの検討」では、活性炭を超臨界水酸化処理に適用するための適切なプロセス形態について実験的検討を行っている。まず活性炭槽の前段に無触媒槽を設けたプロセスについては、無触媒槽単独での処理に比べ、後段に活性炭槽を設けることによりフェノール分解率及び気体収率が増加し、二量体収率は大きく減少した。しかし、無触媒槽で生成したフェノール重合生成物がフェノールより難分解性であるため、後段の活性炭槽での分解では活性炭の燃焼に消費される酸素の割合が増加した。次に、活性炭槽に段階的に酸素を注入し、槽内の酸素濃度を常に低く保つプロセスについては、反応器入口に酸素を一度に注入する一段階注入に比べ、反応器入口と中間の2カ所に分けて注入する二段階注入の方がフェノール分解率が高く、活性炭燃焼量を低減できることを確認した。第6章のモデル式を用いて、酸素の注入段階数が反応特性に及ぼす影響を検討した結果、段階数を増やすことによりフェノール分解率が高まり、活性炭燃焼が減少することが示された。また、酸素を段階的に注入することにより、フェノールの完全分解に必要な酸素量を低減できると予測された。従って、反応系における潜性炭の燃焼を抑えて余分な酸素消費を低減するプロセスとして、酸素を反応器に段階的に注入する方法が有効であることが示された。

 第8章は、「結論及び今後の展望」である。

 以上要するに、活性炭を反応促進剤とした新たな超臨界水酸化処理の可能性を開拓した独創的研究として高く評価でき、本論文により得られた知見は、都市環境工学の学術の進展に大きく貢献するものである。

 よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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