学位論文要旨



No 117958
著者(漢字) メンデス マラ レジナ
著者(英字) Mendes Mara Regina
著者(カナ) メンデス マラ レジナ
標題(和) ライフサイクルアセスメントによる都市廃棄物管理オプションの環境影響比較分析
標題(洋) A comparison of the environmental impact of municipal solid waste management options by life cycle assessment
報告番号 117958
報告番号 甲17958
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5416号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 花木,啓祐
 東京大学 助教授 平尾,雅彦
 東京大学 講師 Kraines,Steven Benjamin
 東京大学 教授 古米,弘明
 東京大学 講師 荒巻,俊也
内容要旨 要旨を表示する

 都市廃棄物(MSW)の処理、処分における環境インパクトとして最も大きく寄与するファクターを調べることを目的として、東京(区部)とサンパウロの二都市においての都市廃棄物管理(MSWM)オプションの評価におけるライフサイクルアセスメント(LCA)の適用を行った。環境インパクトに与える地域特性め影響をより深く理解するために、上記二都市の都市廃棄物LCA(MSW-LCA)の結果を比較した。主年目的は次に掲げる通りである。

・廃棄物処理・処分の各オプションによる環境影響を評価するために都市廃棄物LCAを構築する。

・これらのオプションの環境インパクト・ポテンシャルを二都市間で比較する。

・どのファクターが都市廃棄物管理の環境インパクトに最も影響を及ぼすかを調べる。

・政策評価のような他の取り組みに対して都市廃棄物LCA研究の結果を適用し評価する。

 焼却処理、ガス化溶融、バイオガス化(嫌気性消化)、コンポスト、埋立処理についてLCAを行った。これらの処理プロセスは廃棄物処理の12のオプションを組み合わせてあり、ここでは廃棄物処理手段(WTA)と呼ぶことにする。本研究ではシステムの範囲を拡大し、電力利用、補助物質、資源とエネルギーの再利用についても計算している。都市廃棄物の収集、運搬は含まない。大気中に放出される主な汚染物質(CO2、CO、CH4、SO2、NO2、N20、H2S、HC1、HF、NH3、煤塵)と水環境中に放出される汚染物質(COD、T-N、T-P)をすべてのWTAにおいて推定した。これらの物質を地球温暖化係数(GWP)、酸性化係数(AP)、富栄養化係数(NE)の3つの環境インパクト・カテゴリに整理して示した。環境インパクト・ポテンシャルは、実際のインパクトでなく起こりえる最大のインパクトに対応していることに注意する。インパクトは実際には、主に地域の特徴に関連する多くファクターに依存する。この都市廃棄物LCAの結果にどのパラメータがより重要であるかを特定するために、主要なパラメータの値を変えて計算し感度分析を行った。各地域の平均廃棄物組成とあわせ1998年の都市廃棄物1トン当たりの処理を機能単位として選んだ。

 サンパウロ市のケーススタディでは、すべてのインパクト。ポテンシャルが他より小さい値を示すWTAは一つもなく、どのWTAが望ましいかを特定することはできない。最善の処理オプションはなく、政策決定者にはあらゆるWTAの間のトレードオフヘの対処が求められる。ガス化溶融が最も低い酸性係数を示す一方、生物処理を行い埋立を行うものが最も低いGWPを示した。結果的には、いくつかのWTAでサンパウロの現在の処理法である埋立に比べて非常に大きな環境インパクトの削減があった。すべての環境インパクト・カテゴリについて評価した結果、ブラジルの電力は主に水力で賄われているため、発電によるインパクトの削減はそれほど大きくなかった。環境インパクトにおいては小さな削減しか見込めないが、サンパウロでは電力不足であることを考慮すると発電は望ましい。将来は電力需要の増加が火力発電の増加という結果につながるかもしれない。これらのことから、都市廃棄物による発電は魅力的なオプションである。

 東京のケーススタディでは、いくつかのWTAで廃棄物の分別不徹底が原因でGWPやNEが増加していることがわかった。よって都市廃棄物管理を変える代わりに、排出源での分別を徹底することが好ましいと考えられる。エネルギー回収を行うことによってAPはかなり減り、よってガス化溶融は最もエネルギー回収率の高いプロセスであるので最も低いAPを示した。ガス化溶融はまたNEも最も低い結果となった。熱処理における発電は、発電が化石燃料で行われていた場合に排出されていたと考えられる排出量を削減することになる。二都市の都市廃棄物LCAの結果比較から、同じ廃棄物処理を行っても場所が異なると様々な環境インパクトをとりうるということがいえる。その主な原因は、廃棄物組成、排出源での分別、エネルギー源に関連している。熱処理プロセスを盛り込んだ廃棄物管理オプションはかなりエネルギー回収でき、二都市のエネルギー源を考慮すると、東京ではサンパウロよりずっと低い環境インパクトを示す傾向がみられた。発電量1kW当たりの二酸化炭素と大気汚染物質の排出量はブラジルよりも日本の方が大きいので、排出削減効果はサンパウロより東京の方がずっと大きくなる。コンポストによる肥料代替に関しては、窒素濃度が比較的低いので少量の化学肥料の代替に大量のコンポストが必要になるものの、本研究では肥料代替によって環境インパクトが減少した。コンポストは肥料と土壌改良剤の両方の役割を果たすため、コンポストの土壌への適用もまた有用なオプションである。しかし、東京においては需要の減少と農地との距離の速さにより、コンポストの実現可能性は低いと考えられる。

 二都市においてすべてのWTAの中で、分別収集した生物分解性廃棄物をバイオガス化とコンポストにし、農業への処理排水の再利用とあわせて他の廃棄物をガス化するという組み合わせ(WTA4c)が、APとNEを回避してより低いインパクト。ポテンシャルを示した。非常に魅力的ではあるが、現状ではこのオプションの実現可能性は低いと思われる。バイオガス化もMSWのガス化もまだ完全に確立されていないからである。さらに、農業への処理排水の再利用は比較的良質の原料の使用と特別な輸送形態、そして言うまでもなく市場が必要となる。そうは言うものの、WTA4cは近未来のよい最適化の例である。一方、埋立は最も高いインパクト・ポテンシャルを示した。安価なオプションではあるが、埋立は本研究で評価した環境インパクトの全カテゴリーに大きく寄与することがわかった。埋立の環境インパクトは過小評価してはならない。計算過程で用いたパラメータは二都市で同じだが、エネルギー源、廃棄物組成、廃棄物の分別での捨て間違いによって、ライフサイクル・インベントリとライフサイクル・インパクト評価の結果に違いが現れた。廃棄物組成と発電の燃料源の将来変化の影響も評価した。廃棄物量の削減と電源構成の変化による影響はサンパウロと東京で異なり、この種の評価はサイト別に行わなければならない。しかしながら、変動幅を広くして評価してもWTAの順位は変わらなかった。この結果からWTAの選定が、例えば廃棄物量の減少といったことよりも、もっと大きく影響しているということが言える。

 本研究において構築したMSW-LCAのフレームワークを、中国で急速に発展している都市である広州にあてはめてケーススタディを行った。広州の都市廃棄物は生物分解性分が高い割合を占めているので、通常コンポストが最も適当な処理手段であると考えられている。しかしこのMSN-LCAを適用すると、エネルギー回収を含む熱処理が、各環境インパクト・カテゴリに対して最も低いインパクトを示した。これは中国全体と同じく広州地域の電力が基本的に石炭によって供給されているためである。中国の石炭火力発電プラントによって、地球温暖化や酸性化に寄与するCO2やSO2、NO2の排出が上昇している。そのため、最先端の焼却炉やガス化炉が都市廃棄物に用いられた場合はよりクリーンな電源となるであろう。本研究から以下の結論が得られた。

・廃棄物処理・処分について同じ技術を用いた場合でも、都市によって多様な環境インパクトを与えうる。類似した廃棄物管理モデルを当てはめた場合でも、インパクト・ポテンシャルはかなり異なった。廃棄物組成や排出源での分別のほか、エネルギー源がケーススタディの結果に大きな影響を与える重要なファクターであった。

・基本的に廃棄物処理技術あるいは廃棄物管理オプションはどれも、全面的に最も小さい環境インパクトとなるものはない。どのケーススタディにおいても管理オプションの間にトレードオフの関係が見られた。これは、その地域においてどの環境インパクトがより望ましくないかということを考慮して選択しなければならないことを示している。

・単一の処理技術の評価も重要であるが、その技術を広い視野で捉え、周辺のシステムと合わせて組み込むことが持続可能性を決定するのに重要である。都市の観点から見た場合、単一技術を評価するのでなく、上流。下流でのシステムを含め複数の技術を組み合わせたシステムの評価を行う方が適切である。

・排出源での分別において、分別不徹底は環境インパクト・ポテンシャルに大きく影響し、LCAによる検討が必要である。

・都市廃棄物管理の評価にLCAを適用することで、分別と管理の変化による効果を評価することができた。最後に、特定の地域で実行する廃棄物処理の種類を決定する際には、ライフサイクルでの考え方とより広いシステム境界が重要であることが示された。

審査要旨 要旨を表示する

 都市の廃棄物管理は先進国、発展途上国の両者において重要な課題となっている。従来はこのような廃棄物管理の問題はひとえに地域の問題ととらえられてきたが、埋め立て地から発生するメタンガスが地球温暖化の原因になるなど、廃棄物の管理は地球環境へも影響を与える問題であることが近年認識されてきた。一方、廃棄物管理にはさまざまなオプションが提案されている。これらのオプションはそれぞれ長所と短所を有している。これらの技術の適用に当たっては多くの環境側面を地域規模および地球規模で同時に評価することが必要とされ、特にライフサイクルアセスメント(LCA)の手法は有効である。しかしながら、この手法を用いて様々な廃棄物管理のオプションを評価した研究は未だ十分には行われていない。本論文はこのような背景の元に行われたもので、「A comparison of the environmental impact of muunicipal solid waste management options by life cycle assessment(ライフサイクルアセスメントによる都市廃棄物管理オプションの環境影響比較分析)」と題し、11章からなる。

 第1章は序論であり、研究の背景を示した上で、LCAによる廃棄物管理の評価の必要性を示すと共に、研究の焦点を示している。

 第2章は既往の研究についてのレビューである。この章では、LCAについての基本的事項、廃棄物管理へ適用する際の問題、不確実性など、本研究で取り上げる項目に絞って既往の研究成果をレビューしている。

 第3章は研究の方法に関する章である。本研究で用いるLCAのシステム境界の設定の仕方、またインベントリー解析の方法などについて述べている。

 第4章は廃棄物処理の代替案についてである。本章では、本研究において検討の対象とする廃棄物処理のそれぞれの方法について述べている。すなわち、焼却、コンポスト化、メタン発酵、埋め立て、ガス化溶融、溶融、れんが製造、浸出水処理などであり、このそれぞれのプロセスについての本章での詳細の検討が次章以下のLCAの信頼性の基礎となっている。

 第5章はサンパウロについてのケーススタディである。サンパウロのごみの組成、電力の電源構成など、重要な地域特性を組み込んだ上でLCAを行っている。この章では、合計で11種類の技術オプションのそれぞれについて、地球温暖化、酸性化物質、栄養塩の各インパクトカテゴリー毎に環境負荷を算出している。サンパウロを対象にしてこのように廃棄物処理のオプション毎に環境負荷をLCAとして算出した本研究の結果はきわめて貴重なものである。

 第6章は東京についてのケーススタディである。サンパウロの場合と同様の方法を用いつつ、ごみの組成や電源構成については東京のデータを用いている。ここで得られる結果から、現状の廃棄物管理の改善の可能性についても言及している。

 第7章は前記2都市のケーススタディの比較であり、両都市の間で違いが生じる要因について解析を行っている。その要因の一つは廃棄物の組成であり、分別の有無によって焼却時のプラスチック由来の二酸化炭素の発生量が異なる。もう一つの大きな相違は電源構成の違いである。サンパウロでは水力発電が主力となっているため、発電に伴う二酸化炭素の発生はきわめて低い。一方東京においては、その炭素強度はさほど高くないものの、二酸化炭素の発生を伴う。この相違が、廃棄物の焼却発電による電力の代替効果に影響を与える。すなわち、東京の方が廃棄物発電による二酸化炭素排出削減効果が大きいのである。これらの比較は、同一の技術であってもそれが適用される都市によって環境負荷が異なること、従って望ましい技術の選択に当たっては都市ごとの解析が必要であることを、実際の解析結果を元に示すものである。

 第8章は不確実性の解析である。LCAにおける大きな問題はその計算値の不確実性である。また、本研究の場合には様々なプロセスを組み合わせた代替案を想定しており、各技術の効率などを仮定している。本章では、これらの様々な仮定や不確かさが最終的なLCAにどの程度の影響を与えるか、という点を評価している。

 第9章は将来の変化による影響である。この章では、将来電源構成や廃棄物の量、組成が変化した際に、それぞれの廃棄物管理オプションの環境負荷がどのように変化するかをシナリオ的に比較したものである。このような比較を行うことにより、それぞれの地域の条件によってLCAの結果がどの程度影響されるかという点、またそのような変化を意図的に政策として導入した際の効果を評価することができる。このようなLCAの使い方は新たなものであり、LCAをより積極的に用いる方向として評価されるべきものであろう。

 第10章は他の都市への応用であり、中国広州市へ比較的簡易な形でこの方法を適用した例を述べている。この市の電源構成では石炭の比率が高いため、ごみ発電の利点が大きく出るなど、前述のサンパウロ、東京都とは異なる状況になっている。

 第11章は結論である。

 本研究は廃棄物管理という複雑なシステムに対してLCAの手法を適用したものである。本研究の独創的な点は、廃棄物管理によって生じる環境影響がそれぞれの都市がおかれた状況や廃棄物組成などによって異なることを定量的に示した点、またLCAによって得られる環境影響の値の不確実性についても検討を加えている点、さらに将来の状況変化によってどの程度環境影響が異なるかを示している点、であるといえよう。

 以上、廃棄物管理をLCAによって評価することに焦点を当てた本研究において得られた成果には大きなものがある。本論文は環境工学の発展に大きく寄与するものであり、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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