学位論文要旨



No 117971
著者(漢字) 中村,亮一
著者(英字)
著者(カナ) ナカムラ,リョウイチ
標題(和) 自動セグメンテーションと3Dオプティカルフローを用いたMR誘導下冷凍治療制御システムに関する研究
標題(洋) Control System for MR-guided Cryotherapy : Short-term Prediction of Therapy Boundary Using Automatic Segmentation & 3D Optical Flow
報告番号 117971
報告番号 甲17971
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5429号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 土肥,健純
 東京大学 教授 高本,眞一
 東京大学 教授 佐久間,一郎
 東京大学 助教授 佐々木,健
 東京大学 講師 波多,伸彦
内容要旨 要旨を表示する

 本学位論文は全6章より構成される。

 第1章(序論)では低侵襲な治療方法として現在普及が進んでいる温度治療、特に冷凍療法(Cryotherapy)について紹介し、現状とその問題点を明らかにすることで本研究を遂行することの意義を解説している。温度治療とは温度プローブ(レーザファイバ・クライオプローブ等)を用いて局在する腫瘍等の病変部に熱エネルギーを与える・奪うことにより細胞組織の熱変性・破壊を引き起こすことで治療を行う方法である。冷凍治療では細胞組織の水分を凍らせることにより細胞組織を破壊し治療を行う。温度治療では細径のプローブを用い、経皮的若しくは組織間の隙間から治療部位に到達できるため非常に低侵襲であるがその低侵襲性ゆえに視覚的情報の取得が困難であった。しかし近年のInterventional MRIの登場により非常に高精細な治療部位の情報の術中取得が可能になった。また温度治療の問題点として生態組織内の熱・温度の伝導・伝達状況が組織の不均一性・血流の影響などにより推測が困難なため治療効果がどのように広がっていくかが予測困難となり、治療の計画・ナビゲーションを正確の行うことは難しく、現在その治療効果の評価は術後の経過から判断せざるを得ない。そこで本研究では術中の治療部位(冷凍されている部位)の定量的同定と将来の治療部位の定量的推測、そしてそれらの情報から術中に治療効果を定量的に評価する新手法を提案・構築し、それらを臨床支援システムとして統合することによりより効果的で安全な冷凍治療を行う手法を開発した。

 第2章(目的)では第1章で述べた問題点とその解決方法から本研究の目的を述べている。本研究ではMR誘導下冷凍治療の新たな制御システムを構築した。その構成要素として1)Iceballの術中自動同定法(オートセグメンテーション法)、2)近未来のIcebll形状の推定法、3)術中リアルタイム治療評価法を新たに提案し開発する。そしてこれらを含めた総合的システムの有用性の評価を行った。

 第3章(方法)では具体的なシステム構築要素の提案・開発手法とそれらを統合したシステムについて解説している。まず第一に冷凍治療制御システムに必要な構成要素と本研究に用いる研究設備(臨床用MRI・冷凍治療装置および制御システム開発環境)について紹介している。次にそれらに基づく具体的な冷凍治療制御システムの構成要素の手法について解説している。主要な構成要素は第1章・第2章で述べた術中の治療部位(Iceball)の定量的同定法、将来の治療部位の定量的推測法、そしてそれらの情報から術中に治療効果を定量的に評価する新手法である。第1の構成要素である術中のIceballの定量的同定には、術中画像と術前画像から構成した差分画像(DiffSI画像)データを基に、リージョンブローイングと複数のノイズリダクション・スムージング手法を組み合わせた新たなリアルタイムオートセグメンテーション法を提案し、体動・血流・血管拍動・RF信号ノイズ等の影響を軽減したロバストで高速な治療部位同定を可能にした。第2の構成要素である将来のIceball推測には、第一の構成要素であるオートセグメンテーション法と3次元オプテイカルフローを用い、過去のIceballの形状変化からその成育状況(氷球領域の成長速度)を画像処理により推測し、その速度情報を用いて未来のIceballの形状を推測する手法を考案した。第3の構成要素である術中の定量的治療効果評価には、1)Iceballとターゲット(腫瘍とその周縁のマージン領域)の相関度(Dice Similarity Coefficient(DSC))・ターゲット内の氷結領域の量(% Target Coverage(%TC))の2つの指標で治療の進捗と正確性を評価する定量評価エンジン、2)第2構成要素から得られた将来のIceball情報から危険部位(冷凍治療から確実に保護すべき正常組織)にIceballが実際に到達するよりも先に警告を発するアラーミングトリガの2つのモジュールを提案し開発した。そしてこれらの情報を2次元・3次元可視化と術中治療評価の提示を行うソフトウェアモジュール、またその他の本システムに必要な構成要素を統合することにより、総合的な冷凍治療制御システムの構築を行った。最後に、これらの新たに提案・開発したオートセグメンテーション法・将来予測法の有用性を評価するための実験について、用いるデータ、評価プロトコルについて解説している。

 第4章(結果)では第3章で開発した新手法・新システムの有用性を示す評価の結果についてまとめている。まず、システムの精度の点からの評価にあたり、医師によるIceballのハンドセグメンテーションデータ(真のIceball形状と推測されるもの)と、本システムで生成されるオートセグメンテーションによるIceballデータと将来予測法により推定されたIceballデータをDSCを用いて比較した。その結果、いずれの実験プロトコルにおいてもDSCが0.9程度と精度的にも高いバフォーマンスを有していることが明らかとなり、臨床に応用するに足る精度を有していることが示された。次に臨床データを試験的に用いこのシステムが臨床で使用可能であるかについて速度パフォーマンスの点から評価した。その結果、MRIの画像撮像時間(約1分)に対しそのデータを用いての本システムでの治療支援情報のアップデート時間が約2.5秒程度と臨床においてまったく問題の無い十分な計算・更新速度を有していることが示された。

 第5章(考察)では本研究の手法・結果に基づく問題点の抽出と考察を行っている。本研究の新手法・システムは実験により臨床に応用可能な高いパフォーマンスを有していることが確認された。しかし一方でより高い性能を求める上で考慮すべき点・開発すべき点が存在する。まず第一日本研究でのシステム評価には医師のハンドセグメンテーションデータを真のIceball領域データとして用いたが、その信頼性については考慮しておらずすなわち真の値である保障が存在しない。しかしIceballの真の形状を完全に把握するのは困難であるため、ハンドセグメンテーションデータを多く取得し、それらのデータ群から期待値最大化法(Expectation-Maximized Algorithm)などを用いて真の値により近いセグメンテーションデータを得ることが必要である。またオートセグメンテーション・将来推測ともに治療の初期段階ではパフォーマンスが低い。これはIceballが小さいことと成長速度が速いこと・速度が大きく変化することが関係していると考えられる。実際の冷凍治療では他の温度治療と比較して大きな病変に対して用いられるため発生したIceballが小さい段階では治療評価のパフォーマンスが低くとも影響は少ないと考えられるが、本システムの他の温度治療への応用、より(治療領域サイズ・精度的に)細かな治療を行ううえでこの点でのパフォーマンス向上は不可欠と考えられる。その他に臨床応用に向けてさらに考察すべき点として、血管・胃でのノイズの問題、MR誘導下冷凍治療データにより特化した手法の提案などを打っている。

 第6章(結論)では本研究の結論を述べている。本研究ではMR誘導下冷凍治療制御システムとして、以下の点をまとめている。

1)MR差分画像を基にしリージョングローイングと平滑化フィルタを用いた水球の術中オートセグメンテーション法を新たに提案、開発した。

2)時系列的なMRI像情報から3次元オプテイカルフロー空間情報を計算し、水球の成長速度の定量的・定性的提示、そして将来の氷球形状の高速な予測を可能とする手法を提案、開発した。

3)1)2)の技術開発により可能となったDSCと%TC、アラーミングトリガを用いた術中治療効果の定量的提示法を提案し、これらを含めたMR誘導下冷凍治療制御システムを構築した。

4)動物実験を通じ、本システムが氷球生成精度(DSC>0.9)、リアルタイム性(2.5sec)共に臨床に応用するに足る高いパフォーマンスを有していることを示した。この結果より、本システムの臨床治療への貢献可能性を確認した。

審査要旨 要旨を表示する

 本学位論文の第1章では、冷凍療法を紹介している。この冷凍治療は、体内で氷球を生成することで細胞組織を破壊し治療を行うが、問題点として生体組織内の熱・温度の伝導・伝達状況が組織の不均一性・血流の影響などにより推測が困難なため治療効果がどのように広がっていくかが予測困難で、治療計画・ナビゲーションを困難にしている。これらの問題解決に向けた、術中情報の定量的モニタリング、予測、および評価を行う手法の必要性、そしてそれらをもとにした臨床支援システムの提案を行っている。

 第2章では、本研究の目的を述べている。MR誘導下冷凍治療の新たな制御システムの構築を目的に、構成要素として1)氷球の術中自動同定法、2)近未来の氷球形状の推定法、3)術中リアルタイム治療評価法を提案している。そしてこれらを含めた総合的システムの有用性の評価を行うこととしている。

 第3章では、具体的なシステム構築要素の提案・開発手法とそれらを統合したシステムについて解説している。第1の構成要素として、術中の氷球の定量的同定には、術中画像と術前画像の差分画像を基に、新たな自動セグメンテーション法を提案し、ノイズ等の影響を軽減したロバストで高速な治療部位同定を可能にした。第2の構成要素として、将来の氷球推測には、第1の構成要素と3次元オプティカルフローを用い、過去の氷球の形状変化からその成育状況を画像処理により推測し、その速度情報を用いて未来の氷球の形状を推測する手法を考案した。第3の構成要素である術中の定量的治療効果評価には、1)氷球とターゲットの相関度・ターゲット内の氷結領域の量の2つの指標で治療の進捗と正確性を評価する定量評価エンジン、2)将来の氷球情報から危険部位に氷球が実際に到達するよりも先に警告を発するアラーミングトリガの2つのモジュールを提案し開発した。そしてこれらの情報を2次元・3次元可視化と術中治療評価の提示を行うソフトウェアモジュール、および総合的な冷凍治療制御システムの構築を行った。最後に、この新システムの臨床における有用性を評価するための実験プロトコルについて解説している。

 第4章では、第3章で開発した新手法・新システムの有用性を示す評価の結果を述べている。まず、システムの精度の点からの評価にあたり、医師による氷球のハンドセグメンテーションデータと、本システムで生成される氷球データを比較し、その一致度を調査した結果・高い相関度(DSC>0.9)が確認された。また臨床データを試験的に用い計算・更新速度を評価した結果、MRIの画像撮像時間(約1分)に対しそのデータを用いての本システムでの治療支援情報のアップデート時間が約2.5秒程度と臨床において全く問題の無い十分な計算・更新速度を有している.ことが示された。

 第5章では、本研究の手法・結果に基づく問題点の抽出と考察を行っている。臨床応用に向けてさらに考察すべき点として、評価に用いる正確な氷球データの推定、血管・胃でのノイズの問題、MR誘導下冷凍治療データにより特化した手法の提案などを行っている。

 第6章では、本研究の結論を述べている。本研究ではMR誘導下冷凍治療の制御システムとして、氷球の術中オートセグメンテーション法、3次元オプティカルフローを用いた未来の氷球領域の推定法、そして術中リアルタイム治療評価法を提案・開発しこれらを統合したソフトウェアシステムの開発を行った。そして動物実験を通じて本システムが臨床に十分応用可能なパフォーマンスを有していることを示した。これにより本研究はより効果的で安全なMR誘導下冷凍治療の実現に貢献することを示した。

 以上のように、本論文で開発した冷凍療法の臨床支援シシテムは、従来の問題点を解決するために術中情報の定量的モニタリング、予測、および評価を行うことが可能で、その有用性を示した。今後低侵襲治療の冷凍療法においてその役割が大いに期待される。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格であると認められる。

以上

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