学位論文要旨



No 117975
著者(漢字) 関口,美奈子
著者(英字)
著者(カナ) セキグチ,ミナコ
標題(和) 膜・板要素ゆがみ特性の解明
標題(洋) A Study of Element Distortion for Membranes and Plates
報告番号 117975
報告番号 甲17975
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5433号
研究科 工学系研究科
専攻 環境海洋工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 鈴木,克幸
 東京大学 教授 大坪,英臣
 東京大学 教授 都井,裕
 東京大学 教授 久田,俊明
 東京大学 教授 吉村,忍
 東京大学 Dr.Ing Bischoff,Manfred
内容要旨 要旨を表示する

 CAEは一般的な設計ツールとして、製品開発の過程で多く使われるようになっている。その中で、有限要素法が構造解析の手法として1950年代に紹介されて以来、さまざまな要素に関する研究と改良が、研究者やソフト開発者により行われてきた。しかしながら、要素のゆがみによる近似精度の悪化は、未だに解決されていない問題である。実際70〜90年代には要素の基本的な理論や定式化が研究・提案されてきたが、形状のゆがみによる要素特性の具体的な研究は皆無に等しい。これまでに開発されてきた要素は、要素形状が長方形・直方体からゆがまなければ精度の良い近似結果を導くことが出来るが、要素がゆがむと必ず大きな誤差を含んでしまう。更に、ゆがんだ場合の膜要素と板要素の誤差は大幅に異なるため、これらの要素が組み合わされるシェル構造の有限要素解析に基づく設計を行うためには、膜要素と板要素のゆがみによる誤差の値を、定性的のみならず定量的に理解するための理論展開や、ゆがみ特性に焦点をあてた研究は非常に重要である。

 また、近似誤差を定量的に把握することが出来れば、有限要素メッシュに対する指針を具体的に提示することが可能になり、構造物を解析・設計する際に非常に有益となる。例えば、対象となる形状が複雑で要素のゆがみが一様に分布しているモデルは、一見きれいなメッシュでも局所的にゆがんだ要素を含むモデルに比べ、大きな問題にはならない。それは、要素のゆがみが一様に分布していれば誤差分布も一様となるが、局所的なゆがみはモデルの一部だけに精度悪化を招いてしまい、正しく挙動を再現できないなど、ゆがみ分布が解析精度に与える影響が大きいからである。仮にアダプティブ法的な精度改善を図ったとしても、要素形状がゆがめば相対的な誤差は必ず存在してしまう。それでも線形問題であれば誤差の絶対値が小さいが、非線形では誤差が複利的に集積されてしまうので、メッシュのゆがみが招く解析精度の悪化はより重要な問題となる。

 本研究では薄板構造物を前提に、4節点四辺形の膜・板要素に関するゆがみ特性を解明する。アイソパラメトリック要素のゆがみをアスペクト比、斜傾性、台形性で定義し、任意の平板要素のゆがみを形状パラメータで表現する。3次元的な平板を面内の膜と面外の板曲げ成分に分解し、それぞれの要素内でのひずみ成分を形状パラメータで具体的に展開することで、ゆがみにより発生する誤差を定性的に評価する。いわゆるせん断ロッキングを回避するために考案された選択低減積分法や、非適合要素、拡張ひずみ仮定要素、応力仮定要素も、ゆがみによる精度悪化を防ぐことはできない。ここでは、ゆがみ特性に関する更なる研究が必要であることを強調するとともに、ゆがみに関する精度向上を図り、混合法的な変分原理に従った適合応力仮定要素や、1960年のClough要素を基礎にした応力仮定要素を提案する。

 第1章では、有限要素法の発展に関する歴史的な論文を膜と板要素に関してレビューし、この論文の寄与と構成を説明する。第2章-第8章では面内膜要素について、第9章-第12章は面外曲げ板要素について述べている。

 第2章では、後に導く応力仮定要素の定式化のために一般化変分原理に言及している。拘束条件付き全ポテンシャルエネルギーの最小値問題にラグランジュ乗数法を適用し、鞍点問題を解くことでHu-Washizu原理を導く。また、BB条件を満足し、なお且つ面内せん断ロッキングを起こさない膜要素を設計するための変位・歪・応力の適当な有限要素近似空間について議論する。

 第3章では、1960年のCloughの長方形応力仮定要素を任意の四辺形要素へと拡張し、応力仮定から直接要素剛性マトリックスを計算する手法を提案する。四辺形要素内の応力場を5つの応カパラメータを用いて全体座標系で仮定し、構成則を満たすような歪を直接積分することで変位分布を求める。そして節点変位と応力パラメータの関係から、最終的に変位関数を節点変位で表すことができるため、応力仮定から出発しても変位法のような形状関数やBマトリックスが得られる。また、四辺形要素だけでなく、2次の三角形・四辺形要素や、3次元固体要素のTETRAやHEXA要素へもCloughの応力仮定の考え方を拡張している。Cloughの四辺形要素は非適合ではあるが、アスペクト比が大きい場合であったとしても要素のゆがみの影響をほとんど受けないという特徴をもつため、非常に期待できる要素であると言える。

 第4章は、アイソパラメトリック要素のゆがみ特性を明らかにしている。要素のゆがみを斜傾性と台形性と定義し、要素形状と変位の双一次補間をそれぞれ直交する基本モードと変形モードベクトルで表現する。更に、歪分布をこれらのモードで展開することによって、ゆがみの影響を定量的に調査することができる。実際、要素に斜傾性や台形性が含まれると、要素内の歪エネルギー誤差が大きくなってしまう。また、ヤコビアンから斜傾性や台形性のゆがみを無視しても精度向上は見られないが、変形にふくまれるゆがみの影響を消去することでゆがみによる精度悪化が解消できることから、要素のゆがみの影響は変位の補間に大きく関係していることが分かる。

 第5章では、Wilson-Taylor要素、Pian-Sumihara要素、Simo-Rifai要素を第2章で述べた変分原理に従い、要素のゆがみ特性に視点を置くことで再構築した。これらの要素は基本的に類似する応力・歪仮定要素であり、長方形であれば同じ要素剛性マトリックスが得られる。

 第6章は、5章での展開を踏まえ、新しい応力仮定要素を提案する。Pian-Sumihara要素と似た要素であるが、近似した応力の反共変成分の物理座標への座標変換をすべての積分点で評価することで、比較的ゆがみに強い要素を提案することができる。

 第7章では、膜要素の面内曲げに関する精度向上の可能性として、面内回転自由度について考察する。ここでは、Allman-Cookの三角形・四辺形要素のレビューを基に、新しい回転自由度を持っ膜要素を提案する。回転自由度を足すことでゆがみに強い要素が得られたが、ゼロ変位となるスプリアスモードの発生や回転自由度は節点での回転量とは一致しないなどの問題が含まれている。

 第8章は、StrangとFixのVariational Crimeに従い、非適合要素とパッチテストを再考している。Ironsの提唱する一定歪を再現するようなパッチテストは収束のための十分条件ではあるが、例えばメッシュの細分化の方法によっては、非適合要素でも収束性を保証できることが数学的に証明されている。実際、Clough要素やWilson要素のようにパッチテストを満足しない方がゆがみに強いことから、これまで提唱されてきたパッチテストに疑問を投げかけている。

 第9章では、板曲げ要素定式化のための変分原理の復習として、ミンドリン板の式を混合法的に導き、更にペナルティー法でキルヒホッフの仮定を適用することで導いている。ここでは第4章と同様に、板血げ要素に関しても変位や歪を基本モードと変形モードで展開することで、ゆがみの影響を具体的に展開している。

 第10章は、板曲げ要素の1次元版であるティモシエンコ梁を用いて、第11章の板要素群の特徴を説明している。

 第11章では、Tessle-Hughes要素に始まり、Hughes-Tedzuyar要素、MacNeal要素、MITC4要素のレビューをしているが、膜要素と同様に、基本的にこれらの要素も長方形であれはすべて一致することが分かる。

 第12章では、面外板要素に関しても応力仮定要素を提案している。これも前章でレビューした要素と類似しているため、面外のせん断に関して修正を施さない限り、要素がゆがむと非現実的に硬い結果となってしまう。

 第13章には、この論文の結論と今後の課題について述べられている。

 以上、本論文では現存する四辺形要素ではゆがみに関する精度の保証がされていないため、アイソパラメトリック要素のゆがみの影響を明らかにすると同時に、ゆがみに比較的強い混合法的な応力仮定要素や、ゆがみの影響ほとんど受けないロバストなCloughの応力仮定要素を提案している。

審査要旨 要旨を表示する

 CAlEは一般的な設計ツールとして、製品開発の過程で多く使われるようになっている。その中で、有限要素法が構造解析の手法として1950年代に紹介されて以来、さまざまな要素に関する研究と改良が、研究者やソフト開発者により行われてきた。しかしながら、要素のゆがみによる近似精度の悪化は、未だに解決されていない問題である。実際70〜90年代には要素の基本的な理論や定式化が研究・提案されてきたが、形状のゆがみによる要素特性の具体的な研究は皆無に等しい。これまでに開発されてきた要素は、要素形状が長方形・直方体からゆがまなければ精度の良い近似結果を導くことが出来るが、要素がゆがむと必ず大きな誤差を含んでしまう。更に、ゆがんだ場合の膜要素と板要素の誤差は大幅に異なるため、これらの要素が組み合わされるシェル構造の有限要素解析に基づく設計を行うためには、膜要素と板要素のゆがみによる誤差の値を、定性的のみならず定量的に理解するための理論展開や、ゆがみ特性に焦点をあてた研究は非常に重要である。

 本研究では薄板構造物を前提に、4節点四辺形の膜・枢要素に関するゆがみ特性を解明する。アイソパラメトリック要素のゆがみをアスペクト比、斜傾性、台形性で定義し、任意の平板要素のゆがみを形状パラメータで表現する。3次元的な平板を面内の膜と面外の板曲げ成分に分解し、それぞれの要素内でのひずみ成分を形状パラメータで具体的に展開することで、ゆがみにより発生する誤差を定性的に評価する。いわゆるせん断ロッキングを回避するために考案された選択低減積分法や、非適合要素、拡張ひずみ仮定要素、応力仮定要素も、ゆがみによる精度悪化を防ぐことはできない。ここでは、ゆがみ特性に関する更なる研究が必要であることを強調するとともに、ゆがみに関する精度向上を図り、混合法的な変分原理に従った適合応力仮定要素や、1960年のClough要素を基礎にした応力仮定要素を提案する。

 第1章では、有限要素法の発展に関する歴史的な論文を膜と板要素に関してレビューし、この論文の寄与と構成を説明する。

 第2章では、後に導く応力仮定要素の定式化のために一般化変分原理に言及している。拘束条件付き全ポテンシャルエネルギーの最小値問題にラグランジュ乗数法を適用し、鞍点問題を解くことでHu-Washizu原理を導く。また、BB条件を満足し、なお且つ面内せん断ロッキングを起こさない膜要素を設計するための変位・歪・応力の適当な有限要素近似空間について議論する。

 第3章では、1960年のCloughの長方形応力仮定要素を任意の四辺形要素へと拡張し、応力仮定から直接要素剛性マトリックスを計算する手法を提案する。また、四辺形要素だけでなく、2次の三角形・四辺形要素や、3次元固体要素のTETRAやHEXA要素へもCloughの応力仮定の考え方を拡張している。Cloughの四辺形要素は非適合ではあるが、アスペクト比が大きい場合であったとしても要素のゆがみの影響をほとんど受けないという特徴をもつため、非常に期待できる要素であると言える。

 第4章は、アイソパラメトリック要素のゆがみ特性を明らかにしている。要素のゆがみを斜傾性と台形性と定義し、要素形状と変位の双一次補間をそれぞれ直交する基本モードと変形モードベクトルで表現する。更に、歪分布をこれらのモードで展開することによって、ゆがみの影響を定量的に調査することができる。実際、要素に斜傾性や台形性が含まれると、要素内の歪エネルギー誤差が大きくなってしまう。また、ヤコビアンから斜傾性や台形性のゆがみを無視しても精度向上は見られないが、変形にふくまれるゆがみの影響を消去することでゆがみによる精度悪化が解消できることから、要素のゆがみの影響は変位の補間に大きく関係していることが分かる。

 第5章では、Wilson-Taylor要素、Pian-Sumihara要素、Simo-Rifai要素を第2章で述べた変分原理に従い、要素のゆがみ特性に視点を置くことで再構築した。これらの要素は基本的に類似する応力・歪仮定要素であり、長方形であれば同じ要素剛性マトリックスが得られる。

 第6章は、5章での展開を踏まえ、新しい応力仮定要素を提案する。Pian-Sumihara要素と似た要素であるが、近似した応力の反共変成分の物理座標への座標変換をすべての積分点で評価することで、比較的ゆがみに強い要素を提案することができる。

 第7章では、膜要素の面内曲げに関する精度向上の可能性として、面内回転自由度について考察する。ここでは、Allman-Cookの三角形・四辺形要素のレビューを基に、ゆがみに強い新しい回転自由度を持つ膜要素を提案する。

 第8章は、StrangとFixのVariational Crimeに従い、非適合要素とパッチテストを再考している。Ironsの提唱する一定歪を再現するようなパッチテストは収束のための十分条件ではあるが、例えばメッシュの細分化の方法によっては、非適合要素でも収束性を保証できることが数学的に証明されている。実際、Clough要素やWilson要素のようにパッチテストを満足しない方がゆがみに強いことから、これまで提唱されてきたパッチテストに疑問を投げかけている。

 第2章-第8章での面内膜要素に関する議論に従い、第9章-第12章では面外曲げ板要素について述べている。

 第13章には、この論文の結論と今後の課題について述べられている。

 以上、本論文では現存する四辺形要素ではゆがみに関する精度の保証がされていないため、アイソパラメトリック要素のゆがみの影響を明らかにすると同時に、ゆがみに比較的強い混合法的な応力仮定要素や、ゆがみの影響をほとんど受けないロバストなCloughの応力仮定要素を提案している。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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