学位論文要旨



No 117976
著者(漢字) スプラヨギ
著者(英字) SUPRAYOGI
著者(カナ) スプラヨギ
標題(和) 数理モデルを用いた輸送システム設計に関する研究
標題(洋) A Study on the Transportation System Design Based on Mathematical Models
報告番号 117976
報告番号 甲17976
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5434号
研究科 工学系研究科
専攻 環境海洋工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大和,裕幸
 東京大学 教授 家田,仁
 東京大学 助教授 白山,晋
 東京大学 助教授 増田,宏
 東京大学 助教授 松井,知己
 広島大学 教授 小瀬,邦治
内容要旨 要旨を表示する

 輸送は、社会、経済活動における重要な役割を担っている。米国政府のデータによると、輸送は1999年に国内総生産(GDP)の11%を占めて、また全雇用の約12%を占めている。

 更に、輸送そのもののコストは物流全体のコストのもっとも大きな成分であり、製品原価にも重要な影響を与える。輸送コストは、物流全体のコストの約48%を占め、製品販売の3.5-4%を占めている。

 輸送には、経済と社会利益が存在するが、環境上のインパクトも存在する。1999年に米国では、輸送が全エネルギー消費量の26.2%を占めた。また、輸送は汚染の主要な源でもある。例えば、輸送は、一酸化炭素排出の61%を占めている。安全問題では、輸送事故が第7の主要な死因であった。

 輸送は複雑なシステム(それは個々の目的で動く多くの要素を含んでいる)である。輸送は様々な決断、運営方針によって、複雑な相互関係、およびトレードオフを含むことになる。輸送は、さらに、政治的、社会的、および景気の変動により影響される。したがって、交通計画において、きわめて複雑なシステムを考察したり、システムを状況の迅速な変化に対応して変更するような時には、有効かつ効率的なモデル化などの研究手法が必要となる。

 数理モデルは輸送システム設計において広く適用されている。数理モデルは古典的な輸送モデルのアプローチと異なっている意志決定手法を用いることになる。数理モデルによる分析はシステム分析アプローチと呼ばれる。数理モデル化においては、定量化がその本質である。決定問題は選択肢及びシナリオの集合から最適なオプションを選ぶ問題である。それぞれの選択肢及びシナリオのユティリティは定量化されなければならない。また制約条件を定式化する。数理モデルはこれらをうまく取り扱うことができる。一般的に数理モデルによる手法はシミュレーションと最適化計算の二つである。

 本研究の目的は、輸送システム設計に数理モデル化アプローチを使用する。本研究の中で、5つの話題を示す。話題は、以下の通りになる。

1.フェリー輸送シミュレーションモデル(simulation model of ferry transportation system)

2.コンテナ船の船隊シミュレーションモデル(simulation model of container ship fleet)

3.海上輸送ネットワーク設計(marine transportation network design)

4.船舶配送計画問題(ship routing design problem)

5.車両配送計画問題(vehicle routing problem)

 数理モデルによる手法は効率的に輸送設計問題に解を与えることができる。この決定は最適船隊決定問題,ハブ・スポーク設計問題,ネットワーク設計問題,ルーティングとスケジューリング問題(配送計画問題),最適運航時刻表問題である。

 最初の話題は、フェリー輸送シミュレーション関するものである。事例研究は、インドネシアのムラク・バカフニ(Merak-Bakauheni)のフェリールートである。この話題は最適運行と最適船隊の二つの問題からなっている。これをシミュレーションモデルにより計算機上に再現し、最も適切な時刻表,船隊を求めている。ここでは実際のフェリー運行システムに対応したシミュレーションモデルを構築する。構築したシミュレーションモデルは例えば乗客の様々な到着パターンに対応することができるなど、多様性を提供する。

 第2の話題はコンテナ船の船隊シミュレーションに関するものである。シミュレーションモデルでは最も適切な船の数と大きさを決定している。2つの港間において閉ループのルートを仮定してものとする。荷物は毎日港に現れるもの仮定し、コンテナ船は、ウイークリサービス(毎週一回は定期的に寄航し、荷物の積み上げを行う)形式をとっているものとする。このシュミレーションモデルは地球上の六箇所のネットワークを含むものとする。港は、大阪・神戸、高雄、シンガポール、ロスアンジェルス、ニューヨーク、ロッテルダムである。コンテナ輸送ではコンテナの管理や配置に問題があり、これをビジュアルに表現でき、様々な考察を加えることができる。

 第3の話題は海上輸送ネットワーク計画である。この話題はハブ・スポーク計画問題,最適船隊問題,ネットワークフロー問題の融合である。計画アプローチは、クラスタリングと数理計画問題を含む2段階である。クラスタリングによって、まずハブ・スポーク構造を作る。最適船隊問題,ネットワークフロー問題を解くためは、数理計画問題を使う。ここではハブ・スポーク構造の海上輸送ネットワーク問題に対する新たな数理計画モデルの定式化を行う。この事例研究はインドネシアの海上輸送ネットワーク計画を基にしている。

 第4の話題は船舶ルーティング計画問題である。この話題には、最適船隊問題と配送計画問題があり、事例研究はインドネシアの油の液体廃棄物を輸送するための問題である。この話題には、多頻度配送計画問題として船舶ルーティング計画問題をモデル化し、問題を解くためは、3ステップの手法を含む解法を提案する。ステップ1については、シングルルートのみを考慮し、ステップ2では、マルチプルルート考慮したものである。ステップ3については集合分割問題を解く。これにより解がほぼ正しく求められる。ここでは船の容量と稼動時間の制約に加え、水深による制限も考慮している。さらに、異なる船速も扱うことができ、この解法を現実の事例に適用している。

 最後の話題は、ルーティングとスケジューリング問題である。この話題には、時間枠付きの多頻度配送計画問題(MTVRPTW)である。MTVRPTWは、拡張した標準的な配送計画問題(VRP)である。VRPの中には単一デポ、顧客の集合がある。多頻度配送計画は、決められた時間内において輸送を行うことを仮定する。時間枠付きの場合は、各顧客に受け入れられる時間枠がある。顧客をサービスする車両は、その時間枠の間にサービスを行わなければならない。VRPは組み合わせの最適化問題である。本研究において、MWRPTW解法にヒューリスティック法を提案する。ベンチマーク問題では良好な成果を得ている。

 本研究では、輸送システム設計について5つの話題によって数理モデル化アプローチの手法とその例を示した。数理モデル化アプローチの核心は意志決走のツールとして定量化されたモデルを使うことにある。数理モデル化においては決定変数、目的関数、制約条件を定式化する。これらの成果によれば、技術、経済、社会的な指標を求めることができ、物流システムの計画や設計が行えることが示された。具体的な問題への適用の仕方、すなわち数理モデル化の実際について検討し、実用に供しうる事を示している。

 本研究では、海上輸送システム計画における数理モデル構築から解法の提案までを対象としている。例えばモデル構築側の貢献としては、本研究で導入するコンテナ移動の基本モデルが、固定ルート配送サービスにおけるキャッシュフロー解析の基盤として利用可能なことが挙げられる。解法側の貢献の一例としては、時間枠付きの多頻度配送計画問題(MTVRPTW)に対する解法の提案が挙げられる。これまでの研究では、MTVRPTWにおいて多頻度配送問題と時間枠付き問題は別々に論じられてきたが、本研究ではこれらの組み合わせ問題を扱う点で新規性が高い。

審査要旨 要旨を表示する

 海上交通システムは国際経済や地理的特性、交通機関の技術的仕様、さらには要求されるサービスなどから、非常に複雑な諸特性をもつ。これを合理的に設計するための数理モデルの構築と、それを実際に利用してシステムの評価や設計を行うための手法について検討し、実証を試みている。

 本論文は、英文で書かれ、8章からなっている。

 第1章では、この研究の背景と、目的が述べられている。その中で、シミュレーションと数理計画法が中核的な数学的手法であり、問題に応じて手法を使い分けていくことが必要であるとしている。ネットワーク計算にはさまざまな数理計画法を、ダイヤグラムなどの動的な側面を取り扱うにはシミュレーションを使うことなどが記述されている。

 第2章では、数理計画法とシミュレーション技法、さらに対象となる問題についての整理を行った後、数理計画法について手短にまとめ、交通問題への手法を整理している。とくに後半では、ビークルのルーチングや、それに加えてマルチ・トリップを許す場合やカスタマー側に時間指定のある場合などへの高度な応用手法がまとめられている。これらはベンチマークテストもなく、解法がいまだ確定しない高度な問題である。

 第3章以降、具体的な問題に対して数理的な手法を当てはめていき、手法の開拓とデータの利用法を示し、所論を展開している。

 まず第3章では、フェリー輸送システムの設計として、実際のフェリー航路を対象に旅客と貨物データを用いて最適な船の運航方法を設計する手法を示している。理論的に難しいところはなく、シミュレーションプログラムを作成し、調査データに基づき多くのシミュレーションを試行し、統計データをにらみながら最適解を得ようとするものである。サービス水準を維持し、かつ経済性も良好にしたいというような相矛盾するようなクライテリアを両立させるには適している。

 第4章では、コンテナ船の最適化問題をシミュレーションを用いて解いている。アジア-米国航路を取っているが、各港の深度や船のコストを正確には把握して最適な船型と運航ルートを決定する問題である。現状ではこのような設計手法がなく、経験で船舶を建造しており、この結果は実用上きわめて有用であるといえる。

 第5章では、テーマを変えてネットワーク最適化問題を取り扱っている。これは各港間のOD表が与えられたとして、そこに投入すべき複数の船舶の大きさと隻数、その航路をネットワーク最適化手法により求めている。制約条件として、港の深さなどを入れている。問題を数段階に分割する手法を提案している。まず自然の距離からクラスターを形成し、幹線航路を設定する。この設定の段階ではいくつのハブを取るかなどの任意性が入る。次に幹線航路をネットワーク最適化手法により設定し、さらに、地域内のローカル輸送について最適船型と航路を求めている。具体的な問題としては、インドネシア国内の25拠点港間についての計算を行っている。計算結果は得られているが、インドネシア国のODデータに多くの欠落があり、現実的な結果が得られているとは言いがたい。これは手法の問題でなく、データの問題である。今後、これらのデータを取得することでインドネシア国海の海運システムの提案に理論的根拠を与え得る。従来にない結果であり、きわめて意義は大きい。

 第6章では、港湾を巡回して油性のごみを回収して回る船舶とその運航ルート設計問題を、マルチ・トリップ問題として定式化して解いている。大きな船舶で一巡して回収するのでなく、小さな船舶が貨物が一杯になったところで一旦拠点港にもどり、貨物を下ろしてから残りを回るというものである。Fagerholtの手法を基礎に、制約を追加することで最適解を見出している。実際に解いてみると、小さな問題では有効であるが、問題が大きくなると求解が困難になることも示している。これも現実の交通問題では応用範囲が広く、有効な手法といえる。

 第7章ではマルチ・トリップ問題にさらにカスタマーサイドの時間指定を入れた問題を解いている。現在ORの分野でもっとも注目されている問題のひとつである。時間指定をひとまず満たす解を求めてから、順路を変更するアルゴリズムを用いている。ここでは遺伝的アルゴリズムと似た部分巡回路の入れ替えを行い、ヒューリスティックな手法を提案している。著者のオリジナルな手法であるが、他の方法との比較によって、十分な精度と計算時間内で解を得ることが可能であることを示した。数理的な独創にとんだ部分である。

 第8章では、以上の結果をまとめて、様々な問題についての数理モデルの応用手法を提案したとしている。

 以上、本論文は交通システム設計への数理モデルの応用手法を整理、さらにオリジナルなアルゴリズムを加え、具体的な問題に適応しうることを示した。数理工学的にもまた実用上も重要な知見が多く得られている。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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